ビオトープ造成事業後の環境評価に関する研究 ~地表性昆虫の多様性を用いて~ 21418540 塚田隆明
目次 背景 目的 方法 結果 まとめと考察 結論
背景 背景 2010年10月 生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)開催 生物多様性の保全と自然環境の持続可能な利用を推進し, 自然との共生に向けた地域づくりを促進する. 全国的に多自然川づくりとビオトープづくりが進められている. その環境への影響の評価は ・魚類 ・鳥類 ・水生昆虫,節足動物 で行われてきた.
背景 背景 森林や里山の環境評価に用いられている, 地表性昆虫を用いることはできないだろうか? しかし,鳥類・魚類・昆虫類(トンボ・チョウ・水生昆虫)を環境指標に用いるにあたって ・移動性が大 ・定量的データが取りにくい ・調査者の技量に依存する ・トラップが大掛かりで高額 森林や里山の環境評価に用いられている, 地表性昆虫を用いることはできないだろうか?
地表性昆虫とは 地表性昆虫・・・オサムシ類,ゴミムシ類,シデムシ類等の地表を生活の場としている昆虫類 地表性昆虫・・・オサムシ類,ゴミムシ類,シデムシ類等の地表を生活の場としている昆虫類 ・陸域のあらゆる環境に進出 ・移動分散能力は低く、 環境の変化に敏感に反応する ・簡易なトラップで調査者の技量に依存しない定量データ ・生態に関する豊富な知見が集積されている ヨーロッパを中心に環境指標生物として注目
目的 目的 ・ビオトープの地表性昆虫の群集構造とは? ・地表性昆虫の群集構造はビオトープの環境を反映したものか?(環境評価指標となりうるか) ・今後のビオトープ造り・管理に提案できることは? 地表性昆虫の環境選好性から,植生との関連付け,固有種の観点からビオトープの健全度を測れるか?
目的 目的 草原性スペシャリストは少なく、開けた場所に生息する種や生息地ジェネラリストが多い 調査にあたり以下の3つの予想を立てた 草原性スペシャリストは少なく、開けた場所に生息する種や生息地ジェネラリストが多い 2. 生息地の質によって観察される種やその数に違いが見られる 3. 周囲の生息地からの移入種がいくつか見られる
方法(野外調査) 方法(野外調査) 2m 採集方法:ピットフォールトラップ,ベイトなし・保存液なし 各調査地点に20個,計100個設置. 各調査地点に20個,計100個設置. 調査期間:7月-11月,96時間ごとに回収.計23回. 確実に同定できるものは放し,それ以外は標本にした.
方法(調査地) 調査地 河畔林(矢田川ビオトープ) ヤナギ,ニセアカシア,イバラ,ササ,イヌタデ,クサヨシ
方法(調査地) 調査地 草地(矢田川ビオトープ) 施工後3年 エノコログサ,シバ,ヤナギハナガサ,クズ,セイバンモロコシ
方法(調査地) 調査地 河畔林(庄内川ビオトープ) シュロ,ニレ,エノキ,モミ,オニクルミ,ケヤキ,クスノキ クロガネモチ,ビワ,ヤマグワ,アカメガシワ, サザンカ,シキミ,サンゴジュ,ツバキ,イチジク カキドオシ,カナムグラ,ジャノヒゲ,ナンテン,アカジソなど
方法(調査地) 調査地 草地(庄内川ビオトープ) 施工後1年 エノコログサ,シバ,ヤナギハナガサ,ヨモギ,セイバンモロコシ,シロツメクサ
方法(調査地) 調査地 湿地(庄内川ビオトープ) ホソイ,オオカワヂシャ,ギシギシ,アゼナ,イヌビエ,カヤツリグサ
評価方法 指数 内容 Simpsonの多様度指数 同時に取った2種が同種である確率 McIntoshの多様度指数 個体間距離に基づく指数 Shannonの多様度指数 情報量を種数に置き換えて定義 Brilloulinの多様度指数 情報理論に基づく指数 Margalefの多様度指数 種数を個体数(対数)で除した指数 Pielouの均衡度指数 個体数×多様度指数 木元の類似度指数 Hurbeltの期待種数 サンプリング中に含まれる種数の期待値 Chaoの期待種数 石谷の撹乱度指数 ゴミムシのニッチ幅による指数 クラスター分析,除歪対応分析(DCA)
方法(多様度指数) 方法(解析) McIntoshの多様度指数 Simpsonの多様度指数λ Margalefの多様度指数 Brillouinの多様度指数 Shannon-Wienerの多様度指数H’ Pielouの均衡度指数 N:総個体数,ni:i番目の種の個体数,S:総種数
方法(解析) 方法(類似度) 木元の群集の類似度指数CΠ Nj:群集jの総個体数 nji:群集jにおける種iの個体数 S:全種数
方法(期待種数) 方法(解析) Hurlbeltの期待種数E(Sn) パラメトリック Chaoの期待種数ES ノンパラメトリック S:調査で確認したゴミムシの全種数,N:総個体数,Ni:i番目の種の個体数, n:ランダムに抽出するサンプル数, a:1個体のみ採集された種の数,b :2個体採集された種の数
(方法)撹乱度 方法(解析) 石谷の撹乱度指数ID 群集のi番目の種の環境指標価をIi,i番目の種の,j番目の調査地における個体数をNijとする.
結果 結果 25科82種3707個体 の昆虫類が採集された. 地表性昆虫は、 46種2038個体が採集された.
各地点の採集個体数・種数・多様度指数
各地点の採集個体数・種数・多様度指数 矢田川、庄内川-草地 個体数は多いが 多様度は他地点と比べて変化が少なく、 均衡度はやや低い 種数 期待種数 矢 田 川 庄 内 川 矢田川、庄内川-草地 個体数は多いが 多様度は他地点と比べて変化が少なく、 均衡度はやや低い Simpsonの多様度,Pielouの均衡度,Hulbeltの期待種数(左軸),Chaoの期待種数(右軸),エラーバー:SD
各地点の撹乱度指数 矢田-林 庄内-林 庄内-湿 庄内-草 矢田-草 ゴミムシ類の種構成から測った撹乱度は、その地域に見合う分類になった.
注目種 ミツノエンマコガネ (庄内川-林・湿地) 草原性種.愛知県、九州に多いが他県では少ない.RDBにて1Aに指定の県もある. ミカワオサムシ (庄内川-林,矢田川-草地・林) 生息地ジェネラリスト.中部固有種 ヒメタイコウチ (矢田川-林)(移入種) 湿地性種.愛知県、四国に多いが他県では少ない.RDBにて2Bに指定の県多数. スジアオゴミムシ (庄内川-林) 森林性種. ヒメマイマイカブリ (矢田川-草地・林) 生息地ジェネラリスト.中部固有種 ルリエンマムシ (庄内川-湿地)(移入種) 草原性種.ハエの幼虫食.
各地点でのみ採集された種 森林性種 草原性種 飛翔能力あり マイマイカブリは撹乱回避型であるので退避場所の存在を示唆. 矢田川-林,庄内川-林では定着しているユニーク種が確認された. 庄内川-草地,湿地のユニーク種は周囲の生息地から飛来したと考えられる.
各地点の上位5種 各調査地点の上位種には共通しているもの,ユニーク種があらわれた. 複数地点で優先種となったものについて個体数の比較を行った.
地点間の個体数の比較 * N.S. 種によって、調査地点ごとの母集団はそれぞれ異なる. 矢田-草地 庄内-草地 矢田-草地 矢田-林 庄内-林 Mann-Whitney test,Steel-Dwass testを使用した.N.S.:P>0.05,*:P<0.05 種によって、調査地点ごとの母集団はそれぞれ異なる.
類似度によるクラスター分析 草地 地点間を越えて 同じ環境(草地・林) 林 でクラスターに分けられる傾向 草地 林 草地 草地 林 Y-草:矢田川-草地 Y-林:矢田川-林 S-草:庄内川-草地 S-湿:庄内川-湿地 S-林:庄内川-林 林
DCA(除歪対応分析) 第2軸 第1軸
DCA(除歪対応分析) 第2軸 第1軸
DCA(除歪対応分析) 第1軸 第2軸 Openland General Woodland 第1軸は撹乱頻度(昆虫の環境選好性)を示す
管理方法 林床 林床の完全刈取,刈り取り後の清掃 ・林床の草上に生息する種は定着しにくい. 林床 林床の完全刈取,刈り取り後の清掃 ・林床の草上に生息する種は定着しにくい. ・安定した林床に生息する森林性スペシャリストは定着しない.
管理方法 草原 完全刈取,刈り取り後の清掃 ・草上に生息する種は定着しにくい. ・安定した草原に生息する草原性スペシャリストは定着しない.
~名工大との比較~ 単純に表面だけ緑化をしても,地表性昆虫類は定着しない. 周辺環境との連携性や,生物多様性を考慮した植生での緑化が必要 対照実験として,名工大の緑化地域でも同様にPT法で採集を行った. ゴミ捨て場裏 古墳上 クロコガネ×1 ヒメゴミムシダマシ×100 本部前緑化駐車場 テニス場裏 ウスアカクロゴモク×1 ヒメゴミムシダマシ×30 裏門裏 コブマルエンマコガネ×1 単純に表面だけ緑化をしても,地表性昆虫類は定着しない. 周辺環境との連携性や,生物多様性を考慮した植生での緑化が必要 周辺環境に恵まれる河川敷のビオトープは成功しやすい
0 Kimoto’s similarity index 1 ~名工大との比較~ 矢田川-草地 名工大 庄内川-河畔林 庄内川-草地 庄内川-湿地 矢田川-河畔林 0 Kimoto’s similarity index 1
まとめと考察 地表性昆虫の群集 ・一般的な河川敷における群集構造と類似 ・一般的な河川敷における群集構造と類似 ・現時点で(1年,3年目)ビオトープ由来の環境・植生に起因する種は確認されなかった ・河畔林から草地への移入種が確認された. 草地・湿地・河畔林の比較 ・各調査地点において、それぞれユニーク種が確認された. ・クラスター分析の結果、2つの環境(河畔林・草原)に分けられた. ・種によって異なる母集団の分布をしている. ・多様度に大きな差は見られなかった. ・DCA(除歪対応分析)の結果,森林性種は第1軸正方向に,草原性種は第1軸負方向にプロットされた.
まとめと考察 3つの予想 草原性スペシャリストは確認されなかった. 草原性スペシャリストは少なく、開けた場所に生息する種や生息地ジェネラリスト(どこにでもいる種)が多い 2. 生息地の質によって観察される種やその数に違いが見られる 3. 周囲の生息地からの移入種がいくつか見られる 草原性スペシャリストは確認されなかった. 庄内川ビオトープ(施工後1年):パイオニア種・有飛能種(エゾカタビロオサムシ・ゴモクムシ類) 矢田川ビオトープ(施工後3年):ヒメマイマイ・ミカワオサ 植生の質による違いは確認されなかった. 河畔林では特有の種が生息していた. 周辺生息地からの移入と考えられる種が確認された.
まとめと考察 ・ビオトープ造り・管理の提案 林床の刈り取りを行わない保護地域の設定 刈り取る時期をずらす トラ刈り アシ・ヤナギなどの水際の河畔林植生の育成
結論 地表性昆虫の安定した環境、成熟した植生に起因する種を指標種とすることでビオトープの成熟度・周辺環境への適合度を測れる. 今後のビオトープ造り・管理に提案できること 地表性昆虫の安定した環境、成熟した植生に起因する種を指標種とすることでビオトープの成熟度・周辺環境への適合度を測れる. 地表性昆虫を用いることによって、調査者の技量にかかわらず容易にビオトープの環境評価ができる.
ご清聴ありがとうございました.
残された課題 施工前データがないので比較ができない 今年半年しかやってない 春期〜夏期のデータ収集 植生との関連付け 各種パラメータを導入して,重回帰分析,CCA
トラップされる昆虫の種組成と数に影響を与える要因 カテゴリ 要因 気象条件 気温、湿度、降雨、照度 周辺環境 土壌タイプ、粒径、土湿、植被タイプ、リター厚さ、脱出経路となる落枝、落葉の有無 トラップの特性 材質、落下穴の周囲長、形状、屋根の有無、保存液の有無、ベイトの有無、漏斗の有無 トラップの設置 設置のための土壌掘り起こし、トラップ間距離、トラップの空間配置、埋め込み不足、野生生物による掘り起こし 昆虫の生理状態、行動特性 性別、飢餓状態、移動分散能力、採餌戦略、体サイズ、フ節粘着毛の有無、飛翔能力
生物群集の分類 p.43~ 栄養段階での分類 一次生産者 二次消費者 一次消費者 植物 肉食動物 草食動物 分解者 腐生生物
原生生物・菌類・藻類・ウイルス・バクテリア等 地球上の生物多様性の分布 地球上にはどのくらいの種がいるか 原生生物・菌類・藻類・ウイルス・バクテリア等 248500種以上 751000種以上 未発見のものを含めると150万種 281000種以上
洞窟 ゴミムシ・オサムシ類の分布域マトリクス 森林 草原 高地 低地 高原 スキー場 里山 社叢林 都市河川敷 湿地・湿原 河畔林 海浜 里山 社叢林 都市河川敷 湿地・湿原 河畔林 海浜 日本は幕末~現在まで、森林の面積は変わらない 草原の面積は激減(もともと少なかった) 草原性種のデータが少ないのが現状
各地点でのみ採集された種
まとめと考察 ・ビオトープの地表性昆虫の群集構造とは? ・地表性昆虫の群集構造はビオトープの環境を反映したものか?(環境評価指標となりうるか) 一般的な河川敷における群集構造と類似
季節消長
季節消長のメカニズム 対象となる昆虫のライフサイクルに起因する 年変動の原因として、環境要因(温度・湿度・降雨量)、人的要因(生息地破壊)が挙げられる Field activity pattern of C. dufouri in the study area (1996/97). Life cycle of Carabus dufouri 日本のセアカオサムシ の仲間 ANAM CARDENAS [2000]Seasonal activity and reproductive biology of the ground beetle Carabus dufouri
回帰式による種数の推定値 使用した回帰式