麻酔薬の作用機序を考えよう -論理で納得するアプローチ- 諏訪邦夫 帝京大学 2004年6月成育医療センター
第一の可能性:受容体をふさぐ 細胞一個に薬分子は少数個?
第二の可能性:細胞全体にじわりと? 細胞一個に薬分子多数個?
吸入麻酔薬の体内濃度は? MAC=1% で、血液/ガス 分配係数1 とする 吸入麻酔薬の脳濃度:”≒1mM/L”と判明 イソフルランが、この条件に近い 22.4 mL が1mM だから 1% =10mL/L は、≒0.5mM/L 吸入麻酔薬の脳濃度:”≒1mM/L”と判明 吸入麻酔薬のすべてに略々あてはまる
吸入麻酔薬は「大量に必要」 MAC1% で、血液/ガス 分配係数1の薬物 1 MAC=1% で、血液/ガス分配係数1の薬物 ”1mM/L”は? フッ素系吸入麻酔薬の分子量は200弱 1mM =0.2 g 体液10Lとして2g “グラム単位で必要な薬”:例が少ない! 薬特に身体に作用する薬はmg ないしそれ未満
麻酔薬の量と有効血中濃度 分子量 有効血中濃度 ng/ml nM/L イソフルラン 184 100000 540,000 分子量 有効血中濃度 ng/ml nM/L イソフルラン 184 100000 540,000 サイオペンタル 264 20000 75,000 プロポフォル 178 5000 28,000 ディアゼパム 284 300 1,000 ケタミン 238 100 420 モルフィン 375 65 150 フェンタニル 528 1 2
静脈麻酔薬も量が多い サイオペンタル 250mg プロポフォル 100mg 100 mg も200mg も使う薬もめずらしい 抗生物質には例があるが。 「身体に作用する薬」では?
筋弛緩薬は全部同じ 分子量 有効血中濃度 パンクロニウム 732 250 342 ベクロニウム 637 370 545 分子量 有効血中濃度 ng/ml nM/L パンクロニウム 732 250 342 ベクロニウム 637 370 545 トボクラリン 771 600 778 全身麻酔薬に当てはめると、ケタミンのレベル
効く薬と効かない薬:ここの定義 「力価が低い」⇔「効かない」薬 「力価が高い」⇔「効く」薬 フェンタニルは「非常によく効く」薬 麻薬は受容体が判明している ケタミンとジアゼパムも一応判明 局所麻酔薬も 局所麻酔薬はイオンチャネルへの作用と判明?
吸入麻酔薬は「効かない薬」の代表 作用は「強い」が「力価は低い」(大量に必要!) メカニズム不明 静脈麻酔薬も、吸入麻酔薬に似るものも? 神経伝達の遮断? 間接的、結果的 静脈麻酔薬も、吸入麻酔薬に似るものも? サイオペンタル・プロポフォルは? 作用点が明確ではない “GABA受容体”云々は間接的「説明」 「作用する」≠「直接結合する」
一番「効かない」薬:アルコール 「酩酊」に20~50g 注:吸収速度と”first pass 効果” C2H5OH 質量数46:46g ⇔1Mol(ウィスキー100ml) 分布容量を10Lとして、濃度は0.1M/L =100mM/L 吸入麻酔薬の10~100倍 注:吸収速度と”first pass 効果” (注射では、やや少量で有効)
アルコールの性質 受容体不明 エーテルを飲んで酔う話 各種アルコールに類似作用 使わない⇔毒性が強い 実用はエチルアルコールだけ エーテルと酒が似ている証拠?
エーテルを飲んで楽しむ話 19世紀後半 主にアイルランド(英領) 宗教の制約がない 何度も酔える!(醒める!) ロンドンでも記録はある 宗教の制約がない 聖書が「酒」は禁止 何度も酔える!(醒める!) 麻酔薬としてエーテル普及→入手容易に 「鼻をつまんで なるべく咽喉の奥へ直接」
一つだけ要注意の点 吸入麻酔薬は脂質「だけ」と結合ではない Overton=Meyer の「脂質説」は修飾が必要 細胞膜の脂質部分(尻尾)でなくて 細胞膜のリン酸部分(頭)のほう
細胞膜への吸入麻酔薬の入り方
麻酔薬の作用:一応の結論 現時点で吸入麻酔薬と一部の静脈麻酔薬は「作用点が明確でない」 作用は非特異的 受容体は多分存在しない どれも基本の作用は似ている? 違うのは「副作用」か
おわりです
麻酔と睡眠の差:昏睡評価とMAC ED50:脳で達成する分圧を大気圧の濃度で表現 指標:「強い痛み刺激に体動で反応しない」
溶けにくい薬が速く効く! 吸入麻酔薬の不思議な事実 「血液に溶けにくい薬」:速いが弱い 「血液に溶けやすい薬」:遅いが強い 制約因子は換気量 実際のやり方:静脈麻酔→吸入麻酔に
「麻酔状態」と「臨床麻酔」の差 1×MACはすでに一番深い意識障害 3ー3ー9度の300:深い「昏睡」 睡眠は30~100 臨床では1.3~2×MACを使用 3ー3ー9度の300:深い「昏睡」 睡眠は30~100
「全身麻酔」と「区域麻酔」 局所麻酔薬はメカニズム判明 神経伝達の遮断:イオンの遮断 区域麻酔の例:脊椎麻酔,硬膜外麻酔
生体管理としての麻酔臨床 呼吸のとまる多彩なメカニズム 気道閉塞:普遍的 胸郭 :開胸手術 横隔膜 :筋弛緩薬 横隔神経:高位脊椎麻酔 胸郭 :開胸手術 横隔膜 :筋弛緩薬 横隔神経:高位脊椎麻酔 呼吸中枢:全身麻酔薬 対応:気管内挿管と人工呼吸
不思議な吸入麻酔薬 キセノン(ゼノン):不活性気体 クリプトン:これも不活性気体 窒素:30気圧で1×MAC 優秀な吸入麻酔薬,高価で臨床使用できず クリプトン:これも不活性気体 臨床使用は少し弱い.ゼノンより安価 窒素:30気圧で1×MAC われわれも少し麻酔状態(0.8/30×MAC)?
なぜ吸入麻酔か 「作用が切れる」必要 吸入麻酔はコントロール可能 吸入麻酔のファーマコキネティクス 「切れる」ことの重要な薬は希れ 研究の進んだ理由