第9章:中層大気の不安定擾乱について -不安な雲のうかび出て ふたたび明るく晴れるのは- 東西平均の流れとの相互作用から擾乱が生成するのであろう 東向き擾乱 波数1、4日波 65km PV、2日波、西向き 順圧不安定 傾圧不安定- 慣性不安定- Kelvin-Helmholz不安定 これは対流圏の例であるが、重力波生成にKH不安定が関係しているらしい 慣性不安定のシグナルか、1-6の温度アノマリー
9ー1:中層大気中の傾圧不安定で起こっているらしい例 1月 (東西波数3の)2日波、南半球の夏の中間圏界面付近の擾乱か、Plumb(1983, J. A. S.), Plumb et al. (1987, JAS) 振動数 20S 1月 高度 西向き伝播 波数 アデレード(35S, 138E)でのレーダー観測(1点観測)で、東方向、北方向の風の成分 Wu et al., 1996, J. Atmos. Sci. による、MLS温度衛星データからの、s=3, 2-day wave、これは西方伝播である。
温度振幅の緯度-高度断面図、DAY 502は1月終わり 2.15mb 温度 緯度 時間 0.046mb 緯度高度の広がり 2日波シグナルの各高度での時間-緯度断面図 Wu et al., 1996, J. Atmos. Sci. 92年12月-93年3月(南半球夏)、構造が夏半球で赤道域まで広がっている 温度振幅の緯度-高度断面図、DAY 502は1月終わり
Plumb(1983) はこの擾乱を傾圧不安定で説明: 境界条件: 南北には壁をおく事にする。剛体壁で南北風がないとすれば擾乱について、 大気擾乱の生成メカニズムの1つの傾圧不安定を線形不安定論で考える。 - 大気にとってはかき混ぜ過程みたいなものか?- 方程式は準地衡風方程式を用い、基本の場(高さと緯度の関数)が擾乱を成長させるか?を議論してみる。 ここで 鉛直方向は、地表ではw=0にしよう。ただしPVの式はwを含んでいないので、熱力学の式を変形する。 前に熱力学の式は の式をもちいる。ここで、 であった。これの線形での流線関数表現では、 これまでたびたびおこなってきたように、東西平均量(基本の場)とそれからのずれを考える。 擾乱についての線形の方程式は以下のようになる。 この式でw=0とおいて、 どう理解するか ここで、 である。 無限遠では が有限というような境界条件をおこう。 Ψ’を上の境界条件のもとに解くこと(例えば固有値問題にする)になる。 5章の初めの議論では、下端での強制問題であった。
ここで地球流体力学の見直し:準地衡風系における傾圧、順圧不安定問題の必要条件を示しておく。 線形的な波動擾乱について の形を仮定すれば、準地衡風方程式は ただし である。下端の境界条件は地面があると、 で、一方、上端の無限遠では が有限の境界条件である。 南北には、壁的なものがあるとして、 がゼロとする。 上式に をかける(擾乱の2次の量をつくる) 部分積分をして変形すると
鉛直と南北に積分し( 式でdydzを省いてある )、境界条件を使うと 下部境界条件 を代入して となる。不安定の必要条件として(不安定なら c が復素になるから、そのときみたすべき式は)、 左辺は実だから上式の虚部は これが不安定の必要条件である。不安定のとき はnot zero だから[ ]内がゼロにならないといけない。 z=0での境界条件が関係しないとき(内部jetの不安定と呼ばれる、中層大気の不安定)、基本場のPVの南北微分が符号を変えることが、不安定の必要条件になっている。 気象学で学んだEadyの傾圧不安定の問題では、上端に壁があり、上端と地面が関与して不安定となっている(流体中では不安定の必要条件をみたしていない)。
東西風の鉛直分布と を示す。Potential Vorticity 勾配が符号を変える(不安定の必要条件はみたしている)。 Plumb(1983)による固有値問題での説明 その時の固有関数として、下図のような構造の波が不安定になっている。波長9400km(波数3程度)、南北には5000kmのsinモードを仮定してある。Geopotential振幅は80kmあたりが最大になっている。熱フラックスの大きいところは、PVの南北微分が符号を変えているところに対応している(c図)。 東西風の鉛直分布と を示す。Potential Vorticity 勾配が符号を変える(不安定の必要条件はみたしている)。 位相 Height場 温度 実際に解いてみると 夏半球の中層大気の風分布とPV勾配
観測の別例: Harris and Vincent, 1993, JGRでは赤道域 2N,157W, Chrismas島で2日波を解析している。かれらによると、このシグナルは東西波数 s=3のRossby-重力波と言っている。MFレーダーによる観測 時間 2日 南北風の2日あたりにシグナル
GCMの中の2日波 温度 南北風 波数3の擾乱の緯度-高度断面図、RG波のように、赤道で南北風が大きい(b)、夏半球で振幅が大きい UGAMP GCM (T21) の7月1日の東西平均風、Norton and Thuburn, 1996, G. R. L. 約65km(3000K), 85km(7000K)で、波数3の構造が見える 北半球 2日波の赤道v振幅の時間変化、実線が波数3でdottedが4
最近の衛星観測から: Garcia et al., 2005, JAS 2002, 1-2月, 40Sで夏、k=3, 2日のところに(西向きに対応)温度シグナル、赤線はc=70m/s 最近の実際の状況は? 北半球(40N)夏6-7月、2002年のスペクトル 鉛直緯度の温度構造、夏6-7月、2002
補足:2日波と慣性不安定との関係について、Orsolini et al. 、QJRMS, 1997 1mb,平均東西風の時間変化、各年のDec->Feb、東風の北半球へのpenetration、dash=U=0, 白bold=dQ/dy=0, 赤点が2日波のpeak, greenがinertial eddy 補足:2日波と慣性不安定との関係について、Orsolini et al. 、QJRMS, 1997 Feb 西風 Dec 2つの擾乱の関係性 1mbあたりの水蒸気分布、15 Jan, 17 Jan, 25 Jan, 92年、南半球はk=3の2日波、北半球は細かいeddyあり 惑星波動の赤道域への伝播-->慣性不安定が起きる夏の東風で2日波を作りやすいようになっていると書いてはある
9−2:成層圏における順圧不安定らしい例(4日波) Nimbus 4 and 5 のradianceから求めた s=1 波のシグナル、上部成層圏南半球の冬で東方伝播(E)の4日あたりのところにシグナルが見える(70Sあたり)、Venne and Stanford, J. Atmos. Sci., 1982 西方伝播 東方伝播 4日波の鉛直位相(△印)、位相が鉛直にたっているようである。(stationary惑星波のような鉛直伝播性ではないよう) 1979年8月(南半球の冬)の平均東西風とPotential Vorticity の緯度勾配、Hartmann, 1983, J. Atmos. Sci. 高度45kmあたりの70S近傍にpotential vorticity gradientの負の領域がみえる。 順圧線形不安定で擾乱生成と言われているよう 確かめてある
球面上の線形順圧渦度方程式で解かれてある(南北構造のみ) s=1 固有関数の南北分布、70度あたりに振幅のピーク(実線)がある。固有値として、周期が3日で成長率が5日の値をもつ。このモードが比較的観測された4日波に近いと思われる。Hartmann, 1983, J. Atmos. Sci. 振幅 線形の固有値問題で使われた風(上)と渦度勾配(下) 2つの擾乱の関係性 U=180, φ0=60として、Bを変えたときの分布
衛星データからの4日波解析(Lawrence and Randel, 1996, JGR) 高度場の振幅 影は負のpotential vorticity gradient の領域 4日波 運動量輸送は南北的か、 平均東西風の様子、4日波の高度振幅、南北運動量フラックスs、EP-flux と発散、1977年9月
最近の4日波衛星観測、Garcia et., 2005, JAS 東進4日波に対応した温度波の振幅と位相の緯度高度図、2004年1-2月(北半球の冬の解析) 東向き 波数1のスペクトル、東進4.3日にピーク、2004.1-2月
Manney and Randel, 1993, JAS による順圧傾圧不安定の線形計算 温度構造(前ページの図とよく似ている) 西風運動量の赤道向き 順圧性 傾圧性 赤道方向に熱を輸送、EPflux的には下向き 基本場の様子 波数1の不安定モード(周期4日、成長率4日) 16
Hartmannから、U=180, phi 0 =60, Bを変化させたときの東西風、PV-gradient 成層圏順圧不安定の別例: 中緯度モードを求めるための基本風 Hartmannから、U=180, phi 0 =60, Bを変化させたときの東西風、PV-gradient Nimbus 4 and 5 のradianceから求めた、波数 s = 2 波のシグナル。南半球の冬で東方伝播の12日あたりのところにシグナルが見える(50Sあたりで、前例と比較して中緯度より)。Venne and Stanford, J. Atmos. Sci., 1982 100m/s 東方伝播 振幅 固有関数、U=180, phi 0 =45, B=8の場合の結果、周期は17日となっている。50Sあたりに振幅のピーク
1983南半球春の例:NMCデータの解析 平均東西風(2mb, 1983)の冬から春への時間変化 波数2で東に伝播、周期が10日程度の擾乱が見える、Shiotani et al., Q. J. R. Met. Soc., 1990。 波数2の東方伝播 波数2の波の振幅、位相の緯度-高度断面図、20 Nov. 1983, 不安定かも? Height場の時間変化、7-17, Oct.1983, 10mb
計算されたエネルギー応答の大きさ(solstice->dash) 9−3:自由振動と不安定波との関係 波数3の西向き2日波と思われる波のprimitive方程式による計算がSalby, 1981, J. Atmos. Sci.によりなされている equinoxでは見えない 計算のためのsolstiseでの基本場 2つの擾乱の関係性 自由振動モードとして計算された s=3 のRossby重力波、夏半球中間圏あたりに大きな振幅がある。 Intrinsic frequency, 振幅、位相の図 計算されたエネルギー応答の大きさ(solstice->dash)
Primitive系での方程式書いておこう。これにより東西平均風による、自由振動の東西風による変形や線形の不安定問題が解かれる。 前ページのようにm=3のRossby-gravity波動が自由振動では、という話がある。一方、この章では流れの傾圧不安定という解釈をおこなった。2つの考えは、自由振動ということと、不安定なので基本場との相互作用で作られるという、独立な考え方である。2つをつなぐ話がSalby and Callaghan, 2001, JAS によってなされているので、それを紹介をしておこう。 Primitive系での方程式書いておこう。これにより東西平均風による、自由振動の東西風による変形や線形の不安定問題が解かれる。 2つの擾乱の関係性 Fは線形のdampingが用いられ、球面上の波動方程式で以下の形が仮定され、解かれる。ここで、不安定のときは、ωは複素数となる
もっとも成長率の大きなところでの、ハイトアノマリーの振幅および位相の分布図、下は南北風分布、70kmあたりはは結構赤道対称的である 複素振動数までひろげてみる 高度場 彼らは複素数平面での振動数におけるresponseの様子をみるころで、流れからエネルギーをうけとりモードが維持されるとしている、固有値問題としては解いてなさそう。 もっとも成長率の大きなところでの、ハイトアノマリーの振幅および位相の分布図、下は南北風分布、70kmあたりはは結構赤道対称的である 南北風 2つの擾乱の関係性 振動数の複素数平面での応答の強さ分布、濃いところが応答がつよい場所、成長率が正となり、エネルギーをうけとっているようである。
影はEP-flux Divergenceが正の領域(西風加速)である 2つの擾乱の関係性 構造はそれほど変化せず、基本場との相互作用で成長率が出てくるので、基本的には、自由振動モードと考えているようである、夏至、冬至の状況で、エネルギーをもらい、維持されているよう。 擾乱の水平構造、波数3で赤道域で南北風が大きい
9−4:Kelvin-Helmholtz不安定 いつものように、exp(ik(x-ct))の形を仮定する、2次元のそのような擾乱は鉛直流wについて、以下の式である。 境界条件は上端が∞まで広がっているとして∞で有限の値、下端は幾分非現実的だが(実際の計算ではーzのある所、地面に対応した所でw=0とすべきであろう)ー∞で有限の値をもつとする。さらにもし解が波型の場合には物理的にエネルギーがz=0から放出しているような解を選ぶことにする。 積分定理から、Richardson 数 が1/4より小さいとき、不安定の必要条件として、 示されている (Miles, Howard, J. Fluid Mech., 1961)。 | c | > U なる場合はCritical Level がないので、波は基本流と相互作用をしない。いまの場合、シアー不安定で波を生成するためには基本流と相互作用をして擾乱が生成されるであろうから、 Eliassen-Palmの定理より、上の条件では何も起こらない(強制問題は考えられるけれども)。そこで以下の議論は | c | < U のみを扱う。さらに対称性から Re(c)=0が解の1つであることが想像される。この場合のみを考察しよう(cf. Lindzen, 1974: Lindzen, Dynamics in atmospheric physics, 1990) ◯ 重力波生成(Lindzen, 1974, JGR)の簡単例 ある高度で基本場である平均東西風に飛びのある(z=0とする)例が一番簡単であろう、このとき安定度N2は一定の値をもつとする。(Ri <1/4を満たしている)
次にz=0での接続条件を考えよう(一般的なシアー流中での不安定の問題ではこのようなことを考える必要はないが、その場合は手で解くことは無理で数値解に頼らざるを得ない、今の条件ではz=0以外の所で解は簡単)。例えば Lindzen(1974) を参照して接続条件として、圧力の連続と、鉛直の変位(鉛直流ではなく) ς が連続であることを使おう。 変位の時間微分は速度であることと線形近似を用いると 長波長で中立の鉛直伝播性の波: Lindzen, 1974, JGRに従って、cr=0の中立解として、 から、z=0において、以下の量が連続が条件となる。 z>0を1層、z<0を2層とすし、 図はMcIntyre and Weissman, 1978, JASから cr=0, ci>0の不安定解はLindzen, 1974参照
K-H不安定でおきているらしい不安定の観測例 赤道レーダ( 0.2S, 100.32E)で観測されたK-H不安定、Yamamoto et. al., GRL, 2003, 熱帯圏界面、2001年11月。不安定の条件は満たしているらしいが。上から鉛直流、東西、shear, Ri、せまい範囲でシグナルが強い、ゆっくり時間的にゆれている<ーケルビン波の存在のよう、Xは圏界面 シアー 東西風 圏界面 Ri Nov.2001の平均 11月
別例:K-H不安定によって生成されたらしい重力波の観測(中緯度対流圏) Ferretti et al. (1988, Met. Atmos. Phys.) 1979, Aprilの地表、850mb, 300mbの大きな場の様子、上から12GMT/10/Apr, 00/11/Apr, 12/11/Apr 地表圧力偏差パターン(タイプB)の時間変化、波波している(00/11/Aprあたり1時間ごと)
200km水平スケールで3時間くらいの周期の波とされている。 固有値問題も解いてある。 位相速度 成長率 基本場の状態(10kmくらいの高度でRiの小さいところあり) 固有解の鉛直構造、鉛直変位(左)と鉛直速度(右)