平成15年度 卒業論文 食品流通における安全と安心の確立の ためのトレーサビリティデータに関する検討

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平成15年度 卒業論文 食品流通における安全と安心の確立の ためのトレーサビリティデータに関する検討  平成15年度 卒業論文     食品流通における安全と安心の確立の     ためのトレーサビリティデータに関する検討 課程名 流通情報工学課程 学籍番号 99713 氏名 越智和博 おはようございます。 流通情報工学課程 99713の越智和博です。 これより、卒業論文の発表を始めます。 題目は「食品流通における安全と安心の確立のためのトレーサビリティデータに関する検討」です。 よろしくお願いします。 指導教官 鶴田三郎 教授        黒川久幸 助教授

 現在、BSE問題や食品の管理不足による食中毒事件、食品の偽装事件が発覚することにより、消費者の食への不安は高まっています。 このスライドは、昨年度末から現在も問題となっている、アメリカにおけるBSE問題についての記事です。アメリカでBSEに感染した疑いのある牛が発見され、アメリカ産牛肉の輸入が停止されました。身近な問題として、牛丼が相次いで販売停止になり、私たちの食生活に影響を及ぼしています。 2003年12月25日 日経MJ (2)

次に、アメリカでBSEが問題となってからおよそ一ヵ月後の記事です。これを見ると、焼肉チェーン店の牛角で売り上げが9 2004年1月20日 日経MJ (7)

 左の記事は、アメリカ産牛肉をオーストラリア産として販売していたスーパーの事件と、輸入カモ肉を国産と偽って販売した疑いがある業者に関する記事です。日付は2月14日とごく最近であり、鳥インフルエンザや卵の表示偽装、など、日本各地で食品に関する事件が起きているにも関わらず、このような事件は後を絶ちません。  それに対し、右の記事は農林水産省が和牛と表示した牛肉の仕入れ伝票をチェックすると共に、DNA鑑定をし、不正表示を防ぐことを目的としています。全国各地で左の記事のような事件が多発するため、食品表示と中身が一致しているかどうかを科学的な技術を用いて検査するものです。  今取り上げた食品に関する問題は、食品そのものの基本的な情報の欠如や、流通していく段階で、「食品に何が行われたのか」という情報が明確ではなかったため、起きた事件だと考えられます。  これらの問題を解決するためには、食品の流通経路に着目し、生産から消費までの間で何が行われているかを明確にするシステムが必要です。そのシステムの一つにトレーサビリティがあり、食品における安全と安心を確立するシステムとして期待されています。 では、トレーサビリティとは一体どのようなものなのか、次より述べていきます。 (120秒) 2004年2月14日  朝日新聞 (8) 2004年2月17日日経MJ (2)

トレーサビリティ 安全→科学的数値で表せる 安心→安全という情報より生まれる 定義 特徴 ①食品事故問題の特定・・・ 「生産、処理、加工、流通・販売のフードチェーンの 各段階で食品とその情報を追跡し遡及できること」 特徴  ①食品事故問題の特定・・・  ②情報の公開・・・ 安全→科学的数値で表せる 安心→安全という情報より生まれる       消費者の心の問題  トレーサビリティとは、日本語に訳すと「追跡可能性」であり、農林水産省が提案するガイドラインでは、「生産、処理、加工、流通・販売のフードチェーンの各段階で、食品とその情報を追跡し遡及できること」と定義されています。  また、大きく2つの特徴があります。 ①の食品事故問題の特定とは、トレーサビリティにより、事故発生の原因、発生現場を特定でき、事故に関わる商品の回収範囲を特定することができるようになります。また、回収費用の大幅な削減ができ、各段階で管理が徹底されるために、品質の向上にも繋がります。 ②の情報の公開とは、産地や加工場が明確に表示され、流通経路が明らかになることにより、消費者へ的確な情報を提供することができ、商品に対する安心感を持たせることができるようになります。  ①は、食品の事故が起きた際、原因の特定に関する記述なので、安全に関する項目といえます。(クリック)食品における安全とは、食品が腐敗する状態を科学的に数値として表せるものであり、食品事故の原因を早急に特定することにより、安全を確保することに繋がると考えられます。  ②は、食品の情報を公開することにより、消費者が食品の安全を理解することができるようになります。(クリック)食品の情報が正しく消費者に伝われば、安心して食品を購入することができるようになるため、②は安心に関する項目といえます。  今回の発表では、食品が腐敗を起こしたり、人体に影響を及ぼすような状態でないことを明確にする、「安全に関するデータ」を扱い、安全のために必要であるデータについて検討をします。 また、そのデータより、安心を生み出すことが可能であると考えられます。  定義で挙げられているように、トレーサビリティは食品の流通履歴を追求し、どこで何が行われているのかを明確にするシステムです。しかし現状では安全と安心を確立することに関しては不十分であるといえます。  現在、トレーサビリティで取り扱われているデータは、野菜を例に挙げると「品種、農薬、肥料、栽培方法、収穫日」といった基本的な生産物のデータと、(クリック)「生産者、生産者連絡先、生産場所、組合」などの食品が問題を起こした際に責任をどこがとるか、というデータです。  安全と安心を確立するためには、生産から消費までの各工程で何が行われているか一貫して明確にする必要があり、加工や流通の情報が抜けてしまっている現状では一貫している状態とは言えません。(クリック)これでは、途中で食品に影響を及ぼすようなことがなされていても知ることができず、トレーサビリティ自体の意味を失ってしまいます。 (180秒) 現状 生産物のデータ + 責任追及のデータ 現状のデータのみでは一貫性がなく、安全と安心の確立ができない

研究の目的 安全と安心を確立するためにはどのようなデータを取り、どう活用すればよいかを検討する。 今後のトレーサビリティへの取り組みに関する提言を行う。  このように、単にトレーサビリティを導入するだけでは、食品の安全を安心を確立することはできず、トレーサビリティで何のデータをどこで扱えばよいのか、を検討する必要があります。  そこで、本研究では、食品の生産から消費までの履歴を追跡するトレーサビリティに着目し、安全と安心を確立するためにはどのようなデータを取り、どう活用していけばいいかを検討することを第一目的とします。また、今後のトレーサビリティへの組み込みに関する提言を行うことを第二目的とします。 (30秒)

安全と安心のために必要なデータの検討 原材料加工 最終加工 卸業者 消費者 生産 小売 原材料加工 最終加工 卸業者 消費者 生産 小売 現状取扱データ キューピーで扱われているデータ 生産 原料加工 加工 出荷 原材料加工  まず、現状のトレーサビリティでどこでどのようなデータを扱っているのかを簡潔に図に示します。 図中における現状取扱データの矢印は、「SEICA」と呼ばれる青果ネットカタログでのトレーサビリティで扱われるデータをもとに示しました。 青い矢印は、一般企業において最もトレーサビリティの設備が整っているキューピー株式会社の事例を簡潔に図に示しました。 現状取扱データに関しては、生産と最終加工の部分しかデータを扱っていません。 また、キューピーに関しても、原材料加工から出荷までのデータは扱っているものの、それ以外のデータは扱っていない状態です。  しかし、生産から消費までの工程でデータを扱っていなければ、安全と安心を確立することはできません。  (クリック)そこで、このようなデータの扱い方を提案します。 生産から消費者の手に渡るまでの工程をデータとして記録し、一貫性を持たせ、安全と安心を確立できるものにします。  上下の図を比べると、赤い四角で囲った、配送・保管・販売といったデータが必要であるということがわかります。  また、先ほどの事例にもあった、加工中の温度や環境、状態といったデータも、食品を劣化させる要因であり、必要なデータであるといえます。 これらのことをもとに、必要であるデータを次の表にまとめました。 (60秒) 最終加工 卸業者 消費者 生産 小売 一貫した流通の   ために必要なデータ 生産 配送 原料加工 配送 加工 配送 出荷・保管 配送 保管・販売

製造ミス、食害を及ぼすことのないかどうかの検品結果 生産数量 このデータの食品の数量(追跡範囲の限定) 包装 工程 データ項目 概要 加工 加工後における原材料 現状では加工後に表示義務がなくなるため 添加物 使った添加物、添加物の簡単な説明 加工状態 温度、湿度、加工時の状態 検品結果 製造ミス、食害を及ぼすことのないかどうかの検品結果 生産数量 このデータの食品の数量(追跡範囲の限定) 包装 容器、包装に関して食害がないか(環境ホルモン) 加工/流通 保存期間 食害を及ぼさない範囲の保存期間であるか 保存場所 適切な保存場所であるか 保存状態 適切な温度、状態であるか 流通 管理業者 流通に関する責任を明らかにする 配送時間 食品に影響を及ぼさない配送時間であるか 配送状態 食品に影響を及ぼさない配送状態であるか(温度など) 荷役時間 食品に影響を及ぼさない荷役時間であるか 荷役状態 食品に影響を及ぼさない荷役状態であるか(温度など)  この表は、食品流通において、加工時、流通時、両方に必要であるデータの3つの観点よりまとめました。  特にこの中でも重要なのが、加工と流通の両方に重なる「保存」に関する項目です。 食品を扱う上で、保存期間、場所、状態は大事な要素であり、例えば保存状態が悪ければ即食品の悪化に繋がってしまいます。 また、時間が経過すればどうしても食品は劣化してしまうので、時間に関わる項目は重要であるといえます。 それ以外に、物流作業である配送や荷役に関しても、温度や劣化に気を使う食品においては注意しなければならない項目です。  では、これらのデータを、どのように扱えばよいかを、データの流れを中心に見ていきます。 (30秒)

3次加工C 3次加工D 2次加工A 卸業者 原材料 組合 1次加工 3次加工E 2次加工B 3次加工F 販売店 消費者 食品の流れ 原材料の流れ データ     入力タイミング 3次加工D 2次加工A 卸業者 原材料 組合 1次加工 3次加工E 2次加工B 3次加工F U このスライドは、一つの原材料を分けていくような食品の流通経路を図に示しました。 まず、赤線と赤丸で示した部分は、現在トレーサビリティでデータが扱われている箇所を示しています。 これは、「原材料の情報」と「加工段階」の2点に集中しています。 次に青線で示した、B、F、Jなどは、出荷に関するデータを入力する箇所です。 緑色のC、G、Kなどは配送中に関するデータ、肌色のD、H、Lなどは入荷に関するデータを入力する箇所です。 出荷、配送、入荷、加工の4点において、どのようなデータを扱うべきかを次のようにまとめました。 V W X 販売店 Y A B C D E F G H I J K L M N O P Q R S T 消費者 出荷 配送中 入荷

出荷 配送中 入荷 加工中 原材料生産者、住所連絡先、出荷時間 出荷先、取扱組合 取扱メーカー名 原材料生産者、住所連絡先、出荷時間    出荷先、取扱組合 取扱メーカー名 配送中 配送中の温度・湿度、配送時間、荷役時間           配送による損傷の有無 入荷 入荷数、入荷時間 スライドの黒字は現在取り扱われているデータを示し、青は、取り扱われていないデータを、赤は取り扱われてなく且つ重要であるデータを示しました。 出荷に関しては、出荷時間、取扱メーカーが必要です。時間が関わるデータは食品の劣化が関係するので、軽視することはできません。 取扱メーカー名は、食品を扱うメーカーが、過去に問題を起こしていないか、信頼できる会社なのかを判断するときに用いることができます。 配送中に関しては、配送中の温度・湿度に気をつける必要があります。温度・湿度は食品そのものに影響を及ぼすので、重要な項目であると言えます。 配送時間、荷役時間も時間が関係しているので必要なデータです。 入荷に関しては、入荷時間を明確にすることにより、流通している食品の範囲を限定することができるようになります。 加工中に関しては、原材料の生産情報、加工状態(温度・湿度)が重要な項目です。加工食品は、加工後の食品の原材料の表示義務がなくなるため、「気仙沼産 マグロ」と表記されていたものも、切り身にしてしまえば「マグロ切り身」となってしまいます。これでは食品の追跡が不可能なので、原材料の生産情報は食品が形を変えたとしても必ず必要なものです。 また、検品結果は、食品が安全に加工されているかどうかを理解する指標の一つとして考えられます。 その他の保存場所、保存期間、保存状態は、食品流通全体を通して重要なデータ項目です。これらを明確にしておけば、誤って半年前の卵を流通させてしまうようなことは考えられないはずです。食品流通の各工程でこれらのデータを扱う必要があります。 では次に、具体的に、これらのデータを考慮して、牛肉のトレーサビリティについての提言を行いたいと思います。 (120秒) 原材料の生産情報、環境ホルモン、食品添加物 加工状態(温度・湿度)、品質保持期限の表示   検品結果、食品アレルギー有無の表示 加工中 その他        卸業者、販売店では加工の代わりに            保存場所、保存期間、保存状態(温度・湿度)

具体的事例への提言 BSE問題について 牛自体のデータ(出生、雌雄、種別、飼養場所の履歴) + (BSE検査結果) 現状    取扱データ BSEの疑いは晴れるが、これだけで安全を理解し安心して食せるのだろうか  現状の牛肉のトレーサビリティは、牛自体のデータと、BSE検査で問題がなかったか、という点しか扱ってなく、牛肉の解体時に牛肉が腐敗したり、菌に侵されたりするような状態でないか、というデータが欠落しています。これらをチェックするようなデータ項目を設けるべきであり、具体的には、「加工時における状態(室温、湿度)加工メーカー名、食品添加物、入出荷数、入出荷時間、出荷先、保存場所、保存状態、保存期間、配送状態、加工終了後の検品結果」があります。これらをトレーサビリティデータとして扱うことにより、消費者がデータを確認したときに「これなら安心して食べられる」と理解できるようにすべきです。 検討結果より、必要であるデータをトレーサビリティに組み込むべき ・加工時(解体)における状態(室温、温度) ・解体業者名 ・添加物 ・入出荷数 ・入出荷時間 ・出荷先 ・保存場所 ・保存状態 ・保存期間 ・配送状態  ・配送時間 ・加工後の検品結果 が必要である。

結論 現状扱われているトレーサビリティデータのほかに、流通・加工のデータが必要である データの入力タイミングを出荷・配送・入荷・加工の4点からわけ、何のデータを入力すべきか示した 牛肉のトレーサビリティという具体的な事例に対し検討を行い、その改善についての提言を示した 検討結果をトレーサビリティに組み込むことにより、安全と安心が確立できる  食品流通における安全と安心を確立するためには、現状の食品や生産者のデータだけではなく、加工・流通のデータも扱う必要があります。  具体的データ項目としては加工後における原材料、添加物、加工時の状態、検品結果、生産数量、包装、保存時の状態・期間・場所、配送時の状態・時間、荷役時の状態、時間が必要です。  また、データ入力のタイミングを「出荷・配送・入荷・加工」の4点からわけ、それぞれ何をデータとして入力すればよいかを示しました。  これらのデータをトレーサビリティに組み込むことにより、安全と安心を確立できることがわかりました。