このような機会を与えていただきました 日本眼科医会の三宅会長をはじめとする 会員の先生方、またオーガナイザーの 千原先生、松下先生に感謝いたします。 また、平素より沢内病院から患者さんを お願いしております、岩手医科大学、 岩手県立中央病院、県立北上病院、 横手市の平鹿総合病院など 近隣の先生方にこの場をお借りして.

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このような機会を与えていただきました 日本眼科医会の三宅会長をはじめとする 会員の先生方、またオーガナイザーの 千原先生、松下先生に感謝いたします。 また、平素より沢内病院から患者さんを お願いしております、岩手医科大学、 岩手県立中央病院、県立北上病院、 横手市の平鹿総合病院など 近隣の先生方にこの場をお借りして 深く感謝申し上げます

眼科医療の地域格差を考える 3 開業医の立場で 岩手県(旧沢内村、釜石市)への 休日出張診療を通して 眼科医療の地域格差を考える 3 開業医の立場で    岩手県(旧沢内村、釜石市)への      休日出張診療を通して さど眼科・順天大・東北大 佐渡一成 2

Medical Tribune 2008,4,3 医師引き揚げによる住民の生活破壊 特に影響が大きいのは他の医療機関が  少ない、あるいは全くない地域条件の悪い  ところです。他に医療機関のない地域からの  医師引き揚げは、住民の生活そのものの  破壊につながります。 医師不足はへき地だけでなく、  地方都市でも深刻化しています。 さて、これは4月のMedical Tribuneの記事です。不足はへき地だけでなく、地方都市でも深刻化しています。 3

今月の新聞記事です。 4

岩手県では90年から06年の間に 病院が22から14に減少した 岩手県では90年から06年の間に病院が22から14に減少しました。 5

病院休止のお知らせ(銚子市立総合病院) 子どもからお年寄りまで、市民の皆様一人ひとりが、 健やかに安心して生活するために、地域医療の充実が 必要なことは誰もが願うことであります。 市立総合病院は、こうした「市民の命と健康を守る」地域の 病院としての大きな役割を担ってまいりましたが、 平成20年9月末日をもって一旦休止することにいたしました。         ・・・・・・・ 開設者として、市民の皆様をはじめ市立総合病院に 関係するすべての皆様に深くお詫び申し上げます。 私としても、この苦渋の決断につきましては断腸の思いで・・・・  平成20年7月7日                    銚子市長  岡野 俊昭  千葉県の銚子市立病院も先月末には診療を中止しました。 6

休診日を利用して 岩手県西和賀町では月に1回 釜石市では2ヶ月に1回 の頻度で診療を行っている。 西和賀町では沢内病院で保険診療        の頻度で診療を行っている。 西和賀町では沢内病院で保険診療 釜石市では無料で検査と助言のみ 現在私は仙台で開業しておりますが、休診日を利用して岩手県西和賀町では沢内病院で保険診療を平成13年から月に1回、釜石市では2ヶ月に1回無料で検査と助言のみを昨年から行っています。 7

                                                        これは岩手県の地図です。平静17年11月、沢内村と湯田町が合併して西和賀町になりました。青い破線が県道1号線の町内部分ですがこれだけで約40kmあります。また西和賀町は秋田県と接した地域で 8

雪の中を乳児を抱いて歩いている 当時の村立沢内病院 日本有数の豪雪地帯です。沢内村の昭和32年の乳児死亡率は、出生数1,000人に対し69.3人。当時の全国平均40.1人に比較してほぼ2倍弱の高率であり、当時の医療環境は劣悪でしたが、その後、 9

建設行政や産業行政には、たとえ不十分ではあっても、きわめて意欲的であるのに反し、 厚生行政や文教行政については、はなはだ 関心が低いように思われる。 生命や教育、すなわち人づくりに 重点を置かないようでは、 結局は政治の失敗となろう。・・・ 所得格差を問題とするより先に、 人命格差を問題とすべきであろう。 故・深沢晟雄村長が推し進めた生命尊重行政によって 1964年1月5日「和賀新聞」より 10

沢内生命行政 1957年 深沢村長就任 1958年 70歳以上の老人に「養老手当金」給付 1960年 65歳以上の老人医療国保10割給付 1957年 深沢村長就任 1958年 70歳以上の老人に「養老手当金」給付 1960年 65歳以上の老人医療国保10割給付 1961年 1歳以下の乳児と60歳以上の医療に        国保10割給付 1962年 乳児死亡率ゼロ達成(以後計9回) 1965年 深沢村長死去 わずか5年後の1962年には「乳児死亡率ゼロ」を達成し、当時は「沢内方式」として国内だけでなく、発展途上国からも多くの見学・研修者が訪れていた 地域医療の先進地でした。 11

左上は昭和38年に盛岡までの定期バスが開通したときの写真です。冬の交通確保も人命格差解消のためでした。右上は患者送迎用のジープと雪上車。左下は乳児の家庭を保健婦が訪問して健康状態を確認しているところ、右下はバイクで訪問している保健婦です。 12

沢内病院の冬 これは現在の沢内病院の様子です。かつては地域医療の先進地であった沢内でも数年前には一時、常勤の医師が不在となり眼科診療だけが定期的に行われていたという時期もありました。 現在は内科、外科、歯科に常勤医がいます。また、小児科と眼科が非常勤で定期的に診療を行っています。 1976年完成の病院 13

盛岡まで60km 北上まで50km 横手(秋田)まで40km 車で1時間 バスで2時間                                                         盛岡まで60km 北上まで50km 横手(秋田)まで40km   車で1時間   バスで2時間 西和賀町から眼科を受診するためには、盛岡市、北上市、秋田県の横手市まで出かける必要があり、自家用車で約1時間、バスなら2時間かかります。 釜石市は沿岸の町で、近年急速に人口減少が進んだ地域です。 14

医師不足と自治体病院 また、岩手県の海浜の中都市では、 医師不足と経営悪化を解消する方策として、 四年後に市内の県立と市立の二つの   また、岩手県の海浜の中都市では、   医師不足と経営悪化を解消する方策として、   四年後に市内の県立と市立の二つの   自治体病院を統合することが決定した途端、   その半年後に市立病院の全医師が   辞めていった。 釜石市は、製鉄と漁業が中心産業で製鉄が盛んなときには、10万に届こうとしていた人口が、 日医ニュース No.1093 勤務医のページ より 15

医師不足と自治体病院 また、岩手県の海浜の中都市では、 医師不足と経営悪化を解消する方策として、 四年後に市内の県立と市立の二つの   また、岩手県の海浜の中都市では、   医師不足と経営悪化を解消する方策として、   四年後に市内の県立と市立の二つの   自治体病院を統合することが決定した途端、   その半年後に市立病院の全医師が   辞めていった。 現在は3万にまで減少しました。医師不足と経営悪化を解消する方策として、市内にあった県立病院と市立病院を統合することが決定した途端、市立病院の全医師が辞め、市立病院が消滅してしまったところです。 日医ニュース No.1093 勤務医のページ より 16

釜石は私の故郷ですので、沢内同様に、休日診療について相談しましたが、受け入れてもらえませんでした。 17

釜石市では検査・助言のみ 釜石市の公的な医療機関に相談しましたが、 「2ヶ月に1度・休日の」診療は受け入れてもらえず、  「2ヶ月に1度・休日の」診療は受け入れてもらえず、 釜石保健所に相談したところ、  「お金の授受がなければ検査・助言はかまわない。」  「保険診療ではないので、薬の処方はできない。」  とのことでした。 視力表と細隙灯顕微鏡が設置されていた  眼鏡店隣接の診療スペースで  診療することになった。 僻地・郡部のコンタクトレンズ診療の実態  日コレ誌 50:53-57,2008 保健所に相談したところ、「お金の授受が無ければ、薬は処方できないが、検査・助言はかまわない」とのことでした。そこで、数人の希望者にコンタクトレンズの定期検査やセカンドオピニオンのような助言などを行っています。 18

西和賀町の年齢構成 人口 構成比 年齢区分 男 女 計 年代別 60以上 65高齢者 0~4 82 94 176 5.5% 53.5% 60.0% 5~9 114 106 220 10~14 132 113 245 8.0% 15~19 173 159 332 20~24 142 141 283 7.3% 25~29 130 116 246 30~34 120 117 237 6.7% 35~39 131 115 40~44 134 276 10.1% 45~49 248 206 454 50~54 285 247 532 15.9% 55~59 327 284 611 60~64 249 469 14.5% 46.5% 65~69 257 318 575 40.0% 70~74 278 404 682 18.6% 75~79 286 373 659 80~84 201 328 529 11.2% 85~89 86 190 90~94 31 87 118 2.2% 95~99 6 38 44 100~ 2 0.0% 合計 3,383 3,829 7,212 100.0% この表は、西和賀町の年齢構成です。町の総人口は7200人。60歳以上が45%、65歳以上が40%を超える高齢化の進んだ地域です。 19

沢内病院 眼科外来(月3回) 看護師(2人) 3m視力表・検眼レンズセット オートレフ 細隙灯顕微鏡、アプラネーション眼圧計 沢内病院 眼科外来(月3回) 看護師(2人) 3m視力表・検眼レンズセット オートレフ 細隙灯顕微鏡、アプラネーション眼圧計 直像鏡、倒像鏡、検影器 静的動的視野計 電子カルテ 沢内の眼科診療は月3回です。2回は順天堂大学から金曜日に、あと1回は私が休日に行っています。 20

眼科外来(月3回) 前後左右のコントローラ 上下のコントローラ 看護師(2人) 3m視力表・検眼レンズセット オートレフ 細隙灯顕微鏡、アプラネーション眼圧計 直像鏡、倒像鏡、検影器 静的動的視野計 電子カルテ 電子カルテ 外来の設備は、視力表、オートレフ、細隙灯顕微鏡、静的量的視野計などで 最近、電子カルテが入りました。診療内容は紙カルテに記載し、電子カルテは主にレセプトと薬剤処方に用いています。 前後左右のコントローラ 上下のコントローラ 21

沢内病院での眼科診療 眼科外来診療(入院患者の診療) 在宅訪問診療(往診) 外来手術 翼状片、内反症など 白内障   翼状片、内反症など   白内障   レーザー(虹彩切開、網膜光凝固、             後発白内障切開;レンタル) 遠隔診療での支援   メールや電話・FAXを利用した助言 沢内での眼科診療では、眼科外来診療、在宅訪問診療に加えて、外来手術などを行っています。レーザーはレンタル料が診療報酬から補えるくらいの患者数になったら行いますので、急ぎの症例は盛岡・北上・横手などにお願いしています。 22

手術記録ノート 1987年 これは、昭和62年の手術記録ノートです。当時は故・赤松恒彦先生が東京から診療に来てくださっていました。患者さんが他の病院まで行けなかったことが最大の理由ですが、小切開手術ではない時代に、全摘や計画のう外+後房レンズ挿入術を出張先で行っていたことに驚きましたが、眼球内容除去まで行っていたのは先生の使命感の大きさだったのだと思います。 23

2003年8月の白内障手術 私にとって沢内では、初めての手術 器械はレンタル 業者さんもスタンバイ これは私にとって沢内でははじめての白内障手術の様子です。手術用顕微鏡もフェイコマシーンもレンタルし、業者さんにも立ち会っていただきました。 24

現在の白内障術前検査 全身検査:沢内病院の内科 眼軸長(SANTESONIC) 寄贈(製造中止) ケラトメータ(Retinomax plus K) 角膜内皮:未施行 眼内レンズのパワーは仙台で計算 現在の術前検査です。 25

現在の白内障術前検査 全身検査:沢内病院の内科 眼軸長(SANTESONIC) 寄贈(製造中止) ケラトメータ(Retinomax plus K) 角膜内皮:未施行 眼内レンズのパワーは仙台で計算 角膜曲率はレチノマックス プラスKで測定し、眼軸長は、現在は製造中止のサンテソニックで、何とか測定しています。角膜内皮細胞の検査は行っておりません。 26

現在の手術室 手術用顕微鏡(トプコン) 寄贈 白内障手術装置 (ニデックCV-12000) 寄贈 仙台と同一機種 手術用顕微鏡(トプコン)  寄贈 白内障手術装置 (ニデックCV-12000)  寄贈            仙台と同一機種 心電図モニター(除細動器付) 術野のモニター(拡大読書器のテレビ):故障中     あたらしい眼科 25:123-127,2008 手術用顕微鏡およびCV-12000は赤松先生から寄贈いただいたものです。 27

現在の手術室 手術用顕微鏡(トプコン) 寄贈 白内障手術装置 (ニデックCV-12000) 寄贈 仙台と同一機種 手術用顕微鏡(トプコン)  寄贈 白内障手術装置 (ニデックCV-12000)  寄贈            仙台と同一機種 心電図モニター(除細動器付) 術野のモニター(拡大読書器のテレビ):故障中     あたらしい眼科 25:123-127,2008 術野のモニターには拡大読書器用のテレビを利用していましたが、現在は接続不良のためモニターは機能していません。 28

白内障手術の適応(沢内村) 十分な術後経過観察が不可能 手術のために他の医療機関を 受診できる患者の手術は行わない   受診できる患者の手術は行わない 手術適応はあるが、他の医療機関を   受診できない患者さんが対象 十分なインフォームドコンセントの上で 沢内村の適応ですが、十分な術後経過観察が不可能な地域での内眼手術ですので、手術可能な医療機関を受診可能な患者の手術は行っておりません。手術適応なのに、他の医療機関に行けない患者さんを対象に、インフォームドコンセントの上で手術を行っています。 29

ディスポ類はカスタムパック(仙台と同じ) 精密機器は仙台で滅菌し当日持参 今のところ仙台から看護師をひとり同伴 沢内の眼科担当看護師2人 3日前から抗菌剤点眼 郵送できるものは前もって郵送 ディスポ類はカスタムパック(仙台と同じ) 精密機器は仙台で滅菌し当日持参 今のところ仙台から看護師をひとり同伴 沢内の眼科担当看護師2人 手術当日まで、可能な限り、自分のクリニックでの手術と同じように準備をしています。精密機器は仙台で滅菌し当日持参しますが、ディスポ類など郵送できるものは前もって郵送しておきます。手術日には仙台から当院の看護師をひとり同伴します。 30

仙台と沢内の相違点 器械など 沢内の手術用顕微鏡に 「助手いらず」が装着できないため ウェットシェル・テクニック利用  沢内の手術用顕微鏡に  「助手いらず」が装着できないため  ウェットシェル・テクニック利用  顕微鏡・ベッド・椅子は異なるが、  持ち込み可能な器械は仙台から持参 手術時は、可能な限り仙台のものを持参していますが、手術用顕微鏡・ベッド・術者の椅子は異なっています。沢内の手術用顕微鏡には「助手いらず」が装着できないため、沢内の手術は全例ウェットシェル・テクニックで行っています。 31

沢内での術式(現在) 仙台と同一 術前減菌処置:手術前3日間 標準術式:3.2mm切開創による超音波乳化吸引術 術前減菌処置:手術前3日間   標準術式:3.2mm切開創による超音波乳化吸引術  強角膜切開(手術終了時創口は結膜で被覆)  創口:非吸収糸による縫合  眼内レンズ:アクリソフ 手術件数:1日2件まで(ハンドピースが2セットのため) それ以外は、仙台で通常行っているのと同様に行います。創口は非吸収糸で1針縫合し、さらに結膜で被覆します。手術件数はハンドピースが2セットしかないため、1日2件までとしています。 32

術後の診察スケジュール 沢内 仙台 手術: 午前中(休日) 滅菌解除: 当日夕方 術後診察 5,29 病日 午前中(水曜) 翌日          沢内 手術: 午前中(休日) 滅菌解除: 当日夕方 術後診察    5,29           病日    仙台  午前中(水曜)     翌日  1,2,3,5,8,15,29   病日 術後の診察スケジュールですが、沢内では手術当日に滅菌解除し、点眼・内服を開始するものの、次の診察は東京・順天堂から眼科医が診療に訪れる5日後の金曜日です。この間は診察ができないために、電話・FAX・外眼写真を添付したメールなどで相互に連絡をとっています。 33

仙台と沢内の相違点 サポート体制 休日診療のため ・患者急変時の対応(応援依頼) ・器械トラブルなどの対応が不十分   ・患者急変時の対応(応援依頼)   ・器械トラブルなどの対応が不十分  電話・FAX・メール(外眼写真添付)などで  連絡は行っているが、眼科医による 術後経過観察の間隔が開いてしまうこと これまで大きなトラブルは起きていませんが、患者急変時、特に他科医師の応援が必要になった際や、手術中に器械が動かなくなってメーカーの対応が必要な場合などの対応には懸念が残ります。また、眼科医による術後経過観察の間隔が開いてしまうことは避けられません。 34

現状と問題点 手術当日は可能な限り準備しているので 比較的安心 トラブル時の応援体勢が不十分 術後眼内炎など   比較的安心 トラブル時の応援体勢が不十分 術後眼内炎など   眼科医不在の際の迅速な対応が不可能 手術を含め過疎地の診療は   高コストになりやすく経済効率が悪い 一方で、交通弱者が多く、地域で診療を   受けたいという需要は切実 手術当日は可能な限り準備しているので比較的安心ですが、術後眼内炎が疑われる際などに求められる正確な判断と迅速な対処は、眼科医不在のため不可能です。手術を含め過疎地の診療は高コストになりやすく経済効率が悪いのですが、交通弱者が多く、地域で診療を受けたいという需要は切実です。 35

DISCCUSINON 日本国内にも、未だに白内障の手術が 受けられないために失明状態の患者が 少なからず存在している  受けられないために失明状態の患者が  少なからず存在している この問題は、医療側が患者のところに  出かけることで解決できる ただし、現状では継続的な術後管理は困難 日本国内にも、未だに白内障の手術が受けられないために失明状態の患者が少なからず存在しています。この問題は、医療側が患者のところに出かけることで解決できます。ただし、現状では継続的な術後管理は困難です。 36

DISCCUSINON 術後眼内炎に対する対応の遅れは、 視機能にとって致命的である しかし、稀な合併症を恐れて、   視機能にとって致命的である しかし、稀な合併症を恐れて、   手術を躊躇することが正しいのか?   当初は、内眼手術は躊躇していました 術後眼内炎に対する対応の遅れは、視機能にとって致命的です。しかし、稀な合併症を恐れて、手術を躊躇することが正しいのでしょうか? 37

・眼内炎などのトラブルに気付くのが遅れる危険 ・高齢者・交通弱者の切実な需要 など 多くの問題なども包括して考えた上で                        など  多くの問題なども包括して考えた上で  眼科医は遠隔地でも積極的に手術もすべきか?  現在は、納得できる準備の上で手術を行っている 高齢者・交通弱者の切実な需要など多くの問題なども包括して考えたとき、遠隔地での手術はどのようにあるべきでしょうか?私自身、当初は内眼手術である白内障手術は躊躇していましたが、現在は納得できる準備の上で手術を行っています。 38

カタクリ群生地                                                               ふー。これだけですと大変そうに聞こえるかもしれませんが、毎回、休診日前日の夜を、ゆっくりと静かな環境と温泉で過ごしながら、食事とお酒を楽しんでいます。 39

岩手県西和賀町(沢内村)での保育所検診 20年以上に渡り 「0歳児から5歳児まで」を対象に 弱視の早期発見を主目的とした 眼科健診を継続している  沢内村における眼科診療(保育所検診) 順天堂医学 52:114-114,2006 ここからは、このような地域ならではの「関与している眼科医が1人」だからこそ 実感できる達成感の例をお示しします。沢内村では昭和60年から20年以上にわたり弱視の早期発見を主目的とした健診を継続しています。 40

2004年まで20年間の健診児数 せ ん だ し ま ち か わ ふ ね <3 3 4 5 2304 188 208 255 266 1985 7 10 23 14 8 22 18 105 86 15 6 13 115 87 17 19 16 104 88 20 12 112 89 9 11 1990 108 91 101 92 147 93 140 94 138 1995 151 96 133 97 126 98 125 99 120 2000 127 01 02 110 03 102 04 188 208 255 266 169 196 264 281 103 95 134 145 2304 2004年まで20年間の健診児数 スライドは平成16年までの健診を行った子供の延べ人数です。平成17年までは沢内村の保育所3箇所が対象でしたが、平成18年からは湯田町が合併したため、5箇所の保育所で健診を行っています。今年で延べ人数は2900人を超えました。 41

コピーで薄いところはサインペンで 補修してあります 健診に用いているランドルト環 コピーで薄いところはサインペンで 補修してあります 視力は健診前に保母さんがランドルト環で測定します。このランドルト環はコピーで、薄いところはサインペンで補修してあります。 42

健診当日は、測っていただいた視力に加え、ペンライトで眼位と眼球運動をチェックし、手持ちのオートレフで屈折検査を行っています。 43

泣き出しやすい子はなるべく後に検査します。前の子供がきちんと検査できると次の子も頑張る一方、1人泣き出すと連鎖反応が起こるからです。保育所には子供たちの「お昼寝」の時間がありますから、午前3箇所、午後2箇所を回っています。 44

保育所検診の記録表 これは、今年8月の健診結果の記録の一例ですが、前年の結果も一目瞭然です。1歳の時は泣いてしまって検査不能でも翌年2歳で再検できますので、無理はしません。子供たちにとって、慣れた環境でいつもの保母さんと一緒に検査を行うと多くは1歳で屈折検査が可能で、2歳では裸眼視力の検査がランドルト環で可能です。 45

1歳で遠視による弱視の発症が疑われたケースは、9月に沢内病院で保護者に説明を行い、アトロピンを処方。今月5日に調節麻痺下の屈折検査を行い、眼鏡を処方しました。今後、視力検査ができるようになったら視力の経過を確認していく予定です。 46

醍醐味・達成感 うちの○○ですが、おかげさまでめがねを かけることができました。 めがねをかけるかどうかが心配でしたが、 かけた瞬間に物が見えるっていって喜んでずっと かけています。よっぽどうれしかったようです。 早くみつけて頂き、本当にありがとうございました。 いろんなものを見せてあげたいと思います。 10月17日に沢内病院から届いたメールです。偶然、病院関係者の娘さんでしたが、常勤の眼科医がいない地域でも弱視の早期発見・治療が可能です。 47

沢内での診療で得られた達成感(例) 通常3歳半くらいで可能になると考えられている 他覚的屈折検査や視力検査が、  例えば、20年以上にわたる保育所健診の結果、 通常3歳半くらいで可能になると考えられている 他覚的屈折検査や視力検査が、 子どもの慣れた環境で行われるために、 屈折検査は1歳で、視力検査は2歳で可能です。 結果として、斜視や内反症、遠視などが 早期に発見され治療につながっており、 治療可能な弱視が見逃されたことはありません。  今後、小児眼科健診のモデルとなると考えています。 子どもの慣れた環境で行われれば、通常3歳半くらいで可能になると考えられている、屈折検査は1歳で、視力検査は2歳で可能です。調節麻痺剤の点眼は使用しませんが、屈折検査と視力検査が毎年繰り返されます。結果として、斜視や遠視などが早期に発見されて、治療可能な弱視が見逃されたことはありません。例えば、中学校で視力低下を訴えて受診した場合でも、引っ越してきた子供でなければ保育所健診のデータがすべて残っています。 48

「プール遊び後の水道水での洗眼」について 保母さんからの質問: これまでプールの後には洗眼を指導してきたが、 小学校では「これまでの方式は止めた」。 保育所ではどのようにしたら良いか? 私の指示: 保育園でのプール活動は「水遊び」に近いので、 ゴーグルも洗眼も不要と考えているが、 教育的な配慮を考えて 眼に異物が入ったときと同様に 「プールの後は3つ数えて洗いましょう」と 指導を行うよう統一した。 また、保育所検診の際に、プール後の洗眼について相談がありました。「プール後の洗眼は悪いこと」と新聞が報じたことが「洗眼は悪いこと」という誤解につながっているようでしたので、保育園でのプール活動は、「水遊び」に近いので、ゴーグルも洗眼も不要と考えていますが、ただ教育的な配慮を考え、眼に異物が入ったときと同様に「プールのあとは眼を洗うもの」といったことを教えることを5箇所すべての保育所に連絡し、プールのあと「洗眼器で3つ数えて洗いましょう」という指導を行うように統一しました。 49

沢内での診療で得られた達成感(例) (保育所健診にかかわっている眼科医はひとり) このような地域だからこそ、   このような地域だからこそ、  統一された方法で健診を行うことや  健診方法のアップデートも容易!  地域全体に関わることが可能!   その結果、転入者以外では  小学校入学後に見逃された弱視の可能性を  考えること必要はない。 このような地域だからこそ、すべての子供の検査に関わっていますから、統一した方法で健診を行うことや健診方法のアップデートも容易です。地域全体に関わっているので、転入者以外では小学校入学後に見逃された弱視の可能性を考える必要はありません。 50

醍醐味・達成感 良いと信じることをすぐに実現できること 行ったことの結果を実感できること 情報のばらつきが少ない状態で診療が行える 例えば、保育所での屈折検査に消極論が   あるかもしれないが、他の眼科医と調整する   必要がないので、周囲の理解と協力で   ストレートに実現できる 良いと信じることをすぐに実現できること 行ったことの結果を実感できること 情報のばらつきが少ない状態で診療が行えますし、保育所で屈折検査を行うことに様々な理由で消極論があるかもしれませんが、自分が正しいと信じたことがストレートに実現できるのです。「良いと信じることをすぐに実現できること」、「行ったことの結果を実感できること」は醍醐味であり、達成感につながっています。 51

眼科医療の地域格差 21世紀の日本国内でも、 未だに白内障の手術が受けられないために 失明状態の患者が少なからず存在している。  未だに白内障の手術が受けられないために  失明状態の患者が少なからず存在している。 沢内でも、高齢者などの交通弱者が多く、  家族と離れて病院へ行かなければならない状態  であっても、1人では行くことができず  (介護保険でも支援が受けられず)、できれば  地元で診療を受けたいという需要は切実である。 沢内でも、高齢者は、家族がいても忙しくて、1人では病院へ行くことができず、できれば地元で診療を受けたいという需要は切実です。 52

支える医療 例えば、沢内から盛岡まで 「まつげを抜いてもらいに」 「白内障の点眼をもらいに」 「緑内障の視野検査に」行く   「まつげを抜いてもらいに」   「白内障の点眼をもらいに」   「緑内障の視野検査に」行く 自家用車で1時間(運転してくれる家族不在) バスで2時間(本数に制限あり) 病院での待ち時間 介護保険では往復にかかる時間や病院での待ち時間は考慮されていない 交通費もかかる(タクシーでは尚更) 沢内から盛岡まで「まつげを抜くために」行くためには、自家用車で1時間かかります。運転してくれる家族がいなければバスで2時間かかりますし、バスの本数も少ないのです。さらに病院での待ち時間がありますし、介護保険では往復にかかる時間や病院での待ち時間は考慮されていません。タクシーの利用では尚更交通費がかかることになります。 53

支える医療 月に3回沢内で診療を行うことで 「まつげを抜いてもらえる」 「白内障の点眼が処方される」 「緑内障の視野検査ができる」ようになる   「まつげを抜いてもらえる」   「白内障の点眼が処方される」   「緑内障の視野検査ができる」ようになる 町内のバスで来院(本数に制限あり) 自家用車で家族や隣人が送り迎え 病院での待ち時間はあるものの、   交通費や往復の時間は大幅に節約できる 村民・町民が片道1~2時間かけて病院に通うことに   よる経済的・時間的負担は、村・町単位で考えると膨大 何より近くで眼を診てもらえるという安心感 沢内で診療を行うことで「まつげを抜いてもらえる」ようになりました。本数に制限はありますが、町内のバスで来院したり、自家用車で家族や隣人が送り迎えしてもらえます。病院での待ち時間はあるものの、交通費や往復の時間は大幅に節約できます。村民・町民が片道1から2時間かけて病院に通うことによる経済的・時間的負担は、村・町単位で考えると膨大なものです。さらに、何より近くで眼を診てもらえるという安心感が大きいようです。 54

私が郡部・過疎部での診療で得たもの 「医療は社会保障である」という実感 「攻め」の医療とは異なる 「守り」というよりは「支える」医療を行っている実感 諸般の事情で常勤は困難ではあっても、 医師を目指すことにしたころの 志の一部を実現・継続している達成感 私が沢内や釜石での診療で得たものは、「医療は社会保障である」という実感と「守り」というよりは「支える」医療を行っている達成感です。諸般の事情で常勤は困難ではあっても、医師を目指していたころの志の一部を実現している充足感もあります。 55

地域の医療は「公共サービス」なのか? 警察や消防、自衛隊に地域格差はない 僻地勤務手当て、寒冷地手当て、・・・ 医療は、住民が安心して暮らすための   社会保障・公共サービスであるはずなのに・・・   地域格差が拡大している 保険点数(診療報酬)は全国一律 急に「眼が痛くなった」ときや「見えにくくなった」とき  でも安心してその地域で暮らしていけるために  必要な状況が保障されていない 地元で診療を受けたいという切実な需要が  満たされていない 警察や消防、自衛隊に医療のような地域格差はありません。医療は、住民が安心して暮らすために不可欠な社会保障・公共サービスであるはずなのに地域格差がますます拡大しています。警察や消防、自衛隊には僻地勤務手当て、寒冷地手当てなど、過疎地などでの勤務をサポートする仕組みがありますが、保険点数(診療報酬)は全国一律であり、人口が少なく効率が低下する過疎部では、ますます赤字体質から抜け出すことが困難になります。 眼科医がいなければ、急に「眼が痛くなった」ときや「見えにくくなった」ときでも安心してその地域で暮らしていくことはできません。眼科医が常駐できるような状況を保障するようなシステムになっていません。これでは地元で診療を受けたいという切実な需要を満たすのは不可能です。 56

医師が定着しない原因 保険点数(診療報酬)は全国一律のため、 人口が少ない地方では赤字体質となる 結果として医療機器の更新もできない   人口が少ない地方では赤字体質となる 結果として医療機器の更新もできない 都市部では可能な最新の医療が行えないこと キャリア形成にマイナスなこと 家族の教育問題                   など 保険点数・診療報酬は全国一律のため、人口が少ない地方では赤字体質となることは、医師が定着しない原因にもつながっています。赤字の累積した病院では、医療機器の更新もできません。都市部では可能な最新の医療が行えませんし、地域医療に長期間携わってもキャリア形成上はマイナスになっています。さらに、家族の教育問題などもあります。 57

増田進先生(元沢内病院長)の話 「地域医療というのはそこに住んでいる人を守ること」 「現在の介護保険を含めた医療・福祉制度だけ          では僻地の地域医療は実現できない」 元の沢内病院長 増田先生は 58

増田進先生(元沢内病院長)の話 「地域医療というのはそこに住んでいる人を守ること」 「現在の介護保険を含めた医療・福祉制度だけ          では僻地の地域医療は実現できない」 「地域医療というのはそこに住んでいる人を守ること」であり 「現在の介護保険を含めた医療・福祉制度だけでは僻地の地域医療は実現できない」と話していました。 左から             赤松恒彦先生        野崎道雄先生(日眼医)  増田 進先生(沢内病院) 1985年 沢内病院訪問 59

NEEDS と WANTS 夕張希望の杜の村上先生は、著書の中で、「ニーズ」と「ウオンツ」について触れています。ニーズは「必要不可欠なもの」であるのに対して、ウオンツは、「あったほうがうれしいな」くらいの意味のようです。家族にできるだけ負担をかけずに地元で診療を受けたいという気持ちは切実です。このように切実な需要は最低限補償されるべき「ニーズ」です。 60

症例 先天性眼瞼欠損 角膜混濁の 30代女性 R L RV=0.15(nc) LV=指数弁 虹彩付SCL コスメティックユース 症例 先天性眼瞼欠損 角膜混濁の 30代女性 R L RV=0.15(nc) LV=指数弁 虹彩付SCL コスメティックユース 人工涙液頻回点眼中 ここからは、仙台の例ですが、おしゃれ用のカラーコンタクトはウオンツですが、このような角膜混濁例の虹彩つきコンタクトはニーズです。 61

症例 角膜内皮障害の高度な 術後無水晶体眼の高齢者 症例 角膜内皮障害の高度な 術後無水晶体眼の高齢者 考慮事項 ・34年前の水晶体全摘術後 ・高度角膜内皮障害 ・眼鏡では視力不良 ・自分ではCLの装脱ができない 34年前の水晶体全摘術後で、眼鏡では視力不良、自分ではCLの装脱ができないかたにとって RV=(0.6×+11.0) LV=(0.6×+12.5) いつも着物で来院するおしゃれな女性 62

症例 角膜内皮障害の高度な 術後無水晶体眼の高齢者 症例 角膜内皮障害の高度な 術後無水晶体眼の高齢者 考慮事項 ・34年前の水晶体全摘術後 ・高度角膜内皮障害 ・眼鏡では視力不良 ・自分ではCLの装脱ができない ブレスオー連続装用 ブレスオーの連続装用はQOL維持に不可欠なニーズです。 RV=(0.8×SCL) 8.1/+13.0/13.5 LV=(0.8×SCL) 8.7/+14.5/13.5 最近、施設入所のため 通院不可能となりCL装用断念 5年間通院 63

症例 円錐角膜、アトピー性皮膚炎、 巨大乳頭結膜炎の20代女性 症例 円錐角膜、アトピー性皮膚炎、 巨大乳頭結膜炎の20代女性 2001.12.6 1年前からの視力低下を主訴に受診 RV=0.02(nc)、LV=0.02p(nc) 両眼点状表層角膜症(3+) 角膜混濁(軽度) RGP処方 RV=(1.0p×RGP)  LV=(0.6×RGP) 眼鏡では矯正不能な円錐角膜例に対するハードコンタクトもニーズです。 64

遮光眼鏡・拡大読書器 ロービジョン者にとって、遮光眼鏡や拡大読書器は日常生活に欠かせない「ニーズ」ですし、 65

求心性視野狭窄 高度の求心性視野狭窄があっても視力が0.7以上あれば現在の制度では普通免許は交付されますが危険だと思います。しかし、特に地方では車が無ければ生活自体が成り立たず、運転免許はニーズなのです。 運転に危険を伴う 66

就労 ロービジョンの方にとって就労支援もニーズです。眼鏡でも問題なく見えるのに、コンタクトレンズを装用することや「眼鏡をかけずに遠くも近くもよく見たい」という需要に答える遠近両用の眼内レンズなどは「ウオンツ」であり、「ニーズ」とは、分けて考えるべきもので、対処も当然異なるべきです。 67

この記事の中で住民は 68

記事より 「市として医療行政をどう考えているのか わからない」 「身近に300床の高機能の病院が欲しいという 住民の願いは幻を見ている」   わからない」 「身近に300床の高機能の病院が欲しいという   住民の願いは幻を見ている」 「市として医療行政をどう考えているのかわからない」と考えている反面、病院の管理者は「身近に300床の高機能の病院が欲しいという住民の願いは幻を見ている」と考えています。 69

受益と負担との関係による選択肢がない Medical Tribune 2008,4,3 例えば、県庁所在地などで既にいくつか医療機関が ある地域でも「市民病院あるいは県立病院が必要か」 と問えば、住民はおそらく「必要」と答えると思います。 そのとき「税負担が増えてもよいのか」、それとも 「車で10分のところにあるほかの病院を利用するのか」、 受益と負担の関係で選択肢を提示する仕組みがない ところが問題ではないでしょうか。              Medical Tribune 2008,4,3 既にいくつか医療機関がある地域でも、「もっと近くに病院が必要か」と問えば、おそらく住民は「必要」と答えると思います。そのとき「税負担が増えてもよいのか」、それとも「車で10分のところにある病院を利用するのか」、受益と負担の関係で選択肢を提示する仕組みがないところが大きな問題です。この場合、税負担が増えても必要なものであれば「ニーズ」、税負担が増えるのならいらないのならば「ウオンツ」なのだと思います。 70

限られているのは、財源。 だけでなく 人材も足りない! NEEDS と WANTS 「ニーズ」と「ウオンツ」を区別しない施策は問題解決の妨げです。地元で診療を受けたいという切実な需要は補償されるべき「ニーズ」です。社会保障としての医療が、限られた財源の中で満たすべきものは、「ニーズ」であり「ウオンツ」ではありません。「ニーズ」と「ウオンツ」を分けて考えることが重要だと考えていますが、このような考え方・アプローチはまだまだ少ないように感じられます。さらに限られているのは財源だけではありません。人材も足りないのです。財源不足の上に、医師不足です。現状では、限られた医師でも有効な医療が行うことのできる医師の適正配置の検討が必要です。 限られているのは、財源。 だけでなく 人材も足りない! 71

医療の地域格差の縮小へ 社会システムの不備の結果とも言える 「医療の地域格差」を 予算もマンパワーも少ない郡部・過疎地の 医療従事者だけのがんばりで 改善することは不可能である。        “支援が必要” 社会システムの不備の結果とも言える「医療の地域格差」を予算もマンパワーも少ない郡部・過疎地の医療従事者だけのがんばりで縮小・改善することは不可能です。医療の地域格差を縮小するには、“支援が必要”です。 72

現状打破に必要なのは 医師を含む医療従事者の協力 多くの医師が参加すれば、 眼科無医地区を減らすことができる   多くの医師が参加すれば、   眼科無医地区を減らすことができる   診療交代や学会・研修への参加も可能   ストレス減少・医療レベルの維持・向上にも繋がる 行政の積極的な関与   社会システムの問題なので、   行政の関与なしには   問題の本質に近づくことすらできない 医療の地域格差は、そもそも社会システムの問題なので、行政の積極的な関与なしには問題の本質に近づくことすらできません。沢内村・西和賀町の地域医療が何とか一定の水準を維持しているのは行政が積極的に関与しているところが大きいと感じています。現在、我々眼科医が地域格差縮小のためにできることは、多くの医師が過疎地域の医療に参加することです。多くの眼科医が参加すれば、眼科診療が行われていない地域が減少します。住民の立場からみれば、長時間かけて病院に通う必要がなくなり、何よりも近くで眼を診てもらえるという安心感を持ってもらえることになります。 73

・ 多くの場合、夜間の急変は少ない ・ 常勤でなくても日常診療の大部分が可能 眼科という診療科の特性 ・ 多くの場合、夜間の急変は少ない ・ 常勤でなくても日常診療の大部分が可能 眼科という診療科は、夜間の急変が少なく、常勤でなくても日常診療の大部分は可能です。産婦人科や小児科と異なり、時々でも当該地域で診療ができれば、地域の眼科医療は支えられます。 時々でも、当該地域で診療ができれば      地域の眼科医療は支えられる 74

地域医療充実のための“両輪” 医療の集約化 高度の診療能力を持った医療機関に 患者を集めて診断・治療を行う 現地診療   高度の診療能力を持った医療機関に   患者を集めて診断・治療を行う 現地診療 多くの日常診療は現地で可能 高度の診療能力を持った医療機関に   依頼する必要があるかどうかの判断が重要        (最前線:現場でのトリアージ)  沢内から私への依頼は、手術ではなく  「まつげを抜いてくれるだけでも助かる」であった 充実した地域医療を実現するためには、高度の診療能力を持った医療機関に患者を集めて診断・治療を行う「医療の集約化」と「現地診療」の両方が必要です。細隙灯検査、眼底検査、睫毛を抜く、点眼薬を処方するなどの日常診療は、患者さんの住んでいる地域で可能です。現場では、高度の診療能力を持った医療機関に依頼するかどうかの見極め・判断が重要ですが、2次、3次の医療機関に依頼する必要がある症例は多くありません。 75

昨年10月から今年9月までの1年間(沢内病院) 眼科外来患者 のべ人数 1907人 実人数 1762人 眼科外来患者 のべ人数 1907人           実人数 1762人 他院へ紹介した患者数    31人 (1.75%)  内訳   手術 19人(うち緊急 1人 網膜剥離)   白内障13、YAG・LI・光凝固・眼瞼下垂 各1  検査 12人   緑内障3、視力不良2、糖尿病網膜症・CRVO・ERM各1 昨年1年間に他院へ紹介した患者数は31人で、眼科外来患者の実人数の1.75%でした。 76

地域医療充実のための“両輪” 医療の集約化 高度の診療能力を持った医療機関に 患者を集めて診断・治療を行う 現地診療   高度の診療能力を持った医療機関に   患者を集めて診断・治療を行う 現地診療 多くの日常診療は現地で可能 高度の診療能力を持った医療機関に   依頼する必要があるかどうかの判断が重要        (最前線:現場でのトリアージ)  沢内から私への依頼は、手術ではなく  「まつげを抜いてくれるだけでも助かる」であった 初めて沢内のスタッフが私のクリニックを訪れた際のお話は、「手術をして欲しい」ではなく、「まつげを抜いてくれるだけでも助かる」のでお願いできなだろうかというものでした。 77

最先端と最前線            集約化と現地診療 大学病院などの3次医療機関は難易度の高い症例に対して最新の器械や最先端の技術を駆使した治療を行います。診療の最前線である地域医療の現場における、細隙灯検査、眼底検査、睫毛を抜く、点眼薬を処方するなどといった日常診療の多くは、最新の器械や最先端の技術を駆使しなくても眼科医が現地に出かけていけば可能になります。 78

沢内村の眼科診療開始のきっかけ そろそろ、まとめに入りますが、沢内村で眼科診療が行われるようになったきっかけは昭和59年に、故・赤松恒彦先生が、予算500万円で日眼医の「眼科医療僻地における調査」を担当したことです。 79

沢内村の眼科診療開始のきっかけ 1984年に、故・赤松恒彦先生が、予算500万円で 日眼医の「眼科医療僻地における調査」を担当した。  日眼医の「眼科医療僻地における調査」を担当した。 調査後、(調査で疾患を発見できても治療はできないと  いうことでは地域住民の理解も協力も得られないので)  被調査者中の要治療者について出張診療を行った。 さらに住民の要望に応える形で、1984年6月から、  毎月第2・第4週の金・土曜日に一般を対象とした  眼科診療が開始された。 調査後、疾患を発見できても治療はできないということでは地域住民の理解も協力も得られないので被調査者中の要治療者について出張診療を行いました。さらに住民の要望に応える形で、その年の6月から一般を対象とした眼科診療を開始しました。 80

提案 「自由になる時間の一部を地域医療に充てても良い」 と考える医師は少なくないと推察されるが、 その気持ちを実現できるシステムがない。   と考える医師は少なくないと推察されるが、   その気持ちを実現できるシステムがない。 故・赤松恒彦先生が沢内で診療を始めた   きっかけは日眼医の調査であった。 このシンポジウムをきっかけに   日眼医が中心になって   「過疎地へ医師派遣を行うシステム」の   検討を提案したい。 「自由になる時間の一部を地域医療に充てても良い」と考える医師は少なくないと推察されますが、その気持ちを実現できるシステムが現在はありません。故・赤松恒彦先生が沢内で診療を始めたきっかけは日眼医の調査でした。このシンポジウムをきっかけに、日眼医が中心になって過疎地へ医師派遣を行うシステムの検討していただきたいと考えています。 81

眼科診療が行われるのであれば 「月に2回だけでも、土曜日でもかまわない」ので お願いしたいと希望している既存の医療機関が あります。 まずは、このような医療機関の 支援ができないでしょうか 眼科診療が行われるのであれば「月に2回だけでも、土曜日でもかまわない」のでお願いしたいと希望している既存の医療機関があります。まずは、このような医療機関の支援ができないでしょうか? 82

提案:日眼医地域診療支援プロジェクト 眼科医を必要としている地域へ交代で 出かけて診療を行う(地域ネットワーク)   出かけて診療を行う(地域ネットワーク)     1人では週1回の出張診療の継続は     困難であっても、4人なら月1回、     8人なら2ヶ月に1回の出張で     週1回の診療が実現できる *既存の医局からの派遣だけでは、人手不足に   なっている医療機関への補充の可能性も         (大学と日眼医の連携) 眼科医を必要としている地域へ、個々の医師が交代で出かけて診療を行い、その地域の眼科医療を継続的に行うシステムを構築する。1人では週1回の出張診療の継続は困難であっても、4人なら月1回の出張で、地域にとっては週1回の診療が実現できます。既存の医局からの派遣だけでは、人手不足のために診療継続が困難になっている医療機関などに対しては、大学医局と日眼医が連携して補完する可能性も考えられます。 83

提案:日眼医地域診療支援プロジェクト 日本眼科医会で、 眼科診療を希望する医療機関の受付 出張可能な医師の募集 出張する医師のスケジュール管理 近隣の医療機関との調整                   などを行う 日本眼科医会で、①眼科診療を希望する医療機関の受付、②出張可能な医師の募集、③出張する医師のスケジュール管理、④近隣の医療機関との調整 などを行っていただければ、システムは機能し始めます。 84

まとめにかえて 現状打破には、 ①行政の積極的な関与 と ②多くの医師が参加すること が 必須である。 これらが満たされれば、  ①行政の積極的な関与 と  ②多くの医師が参加すること が                  必須である。 これらが満たされれば、  住民・行政・医療従事者が一体となって  地域の実情に合った医療、  医療従事者が誇りを持って継続できる医療を  構築することが可能になる。 最後にもう一度繰り返しますが、現状打破には、①行政の積極的な関与 と②多くの医師が参加すること が必須です。これらが満たされれば、住民・行政・医療従事者が一体となって、地域の実情に合った医療、医療従事者が誇りを持って継続できる医療を構築することが可能になります。 85

「自由になる時間の一部を 地域医療に充てても良い」と考える医師は 少なくないと推察されるが、 その気持ちを実現できるシステムがない。  地域医療に充てても良い」と考える医師は  少なくないと推察されるが、  その気持ちを実現できるシステムがない。 このシンポジウムをきっかけに  日眼医が中心になって  過疎地へ医師派遣を行うシステムの検討を  提案した。 「自由になる時間の一部を地域医療に充てても良い」という気持ちを実現できるシステムが現在はありません。地域医療、医療格差には、あまり明るい話題を見つけることができませんでしたので、このシンポジウムをきっかけに、明るい兆しを感じたいと考えて、日眼医が中心になって過疎地へ医師派遣を行うシステムを提案しました。   ご清聴ありがとうございました 86