主格３形式と客格と「は」 －主語と客語－ ［1-2］ 日本語構造伝達文法 この項は『日本語構造伝達文法（05版）』の 第２章，第３章の内容に基づいています。 今泉 喜一 2011年4月 印刷： 1-3,8-17,19 /18横

兄が明日新幹線で大阪へ行きます。 兄が 明日Ø 行きます 新幹線で 大阪へ 格の力 ……名詞をある意味関係で動詞と結びつける力 改めて格とは何か 兄が明日新幹線で大阪へ行きます。 この文はなぜ文として成立しているのか。 ……力が働いているから。 ……どんな力？ ……格の力 兄が 明日Ø 行きます 新幹線で 大阪へ 格の力 ……名詞をある意味関係で動詞と結びつける力 どんな意味関係？ 兄が 行きます が……行為の主体 明日Ø 行きます Ø ……行為の時点 新幹線で 行きます で ……行為（移動）の手段 大阪へ 行きます へ ……行為（移動）の目的地

「格」とは名詞を動詞・形容詞に意味関係で結びつける力 改めて格とは何か 「格」とは名詞を動詞・形容詞に意味関係で結びつける力 ただし，国語学では「格」とは文中の語と語の関係 連用格……名詞と動詞・形容詞の関係 国語学 が，を，に，へ，で，と，より，から 連体格……名詞と名詞の関係 の 私たちが「格」と考えるのは「連用格」の方。 したがって，「連体格」は「格」ではないことになる。 「の」は「格」を示さず，名詞と名詞をつなぐだけ。 「格」を表すのに「格詞」（格助詞）が用いられる。 主格詞……　Ø１，が 客格詞……　を，に，へ，で，と，より，から，（まで），Ø２ ここでは「主格」について考えることにする。

改めて格とは何か 主格３形式と客格と「は」 主格３形式 私

改めて格とは何か 主格３形式と客格と「は」 主格３形式 私 私 hasir- / -u 私，走る。

改めて格とは何か 主格３形式と客格と「は」 主格３形式 私 hasir- / -u 私，走る。

主格３形式と客格と「は」 主格３形式 主格３形式 私 hasir- 私 hasir- 私 hasir-

主格３形式と客格と「は」 主格３形式 私 hasir- 私 hasir- 私 hasir-

主格３形式 → → 私 私 hasir- 私 hasir- 私 hasir- hasir- 第１主格 １ 主語について述べる 典型的主語 主格３形式と客格と「は」 私 私 hasir- 第１主格 １ 主語について述べる 典型的主語 → 主格詞　Ø1 私 Ø1 走る。 私 hasir- 第２主格 ２ 出来事について 述べる 主格詞 が1 あっ，犬 が1いる／ 私 が1 走る（こと） 私 hasir- ３ 第３主格 hasir- 主語が選ばれる → 主格詞 が2 （だれが走る？） 私 が2 走る。

「は」とは何か？

「も」 「こそ」 は，も，こそ ［相対化描写詞］ ［他実体随伴描写］ 彼 hasir- hasir- 彼 彼 hasir- 彼が走る 主格３形式と客格と「は」 は，も，こそ ［相対化描写詞］ （とりたて詞，副助詞，係助詞） 「も」 ［他実体随伴描写］ 彼 hasir- hasir- 彼 彼 hasir- 彼が走る 彼がも走る ［走る人はほかにもいる。］ 「こそ」 ［他実体排除描写］ 彼 ar- de 犯人 彼 犯人 de ar- 彼 ar- de 犯人 彼が犯人である 彼こそが犯人である ［犯人はほかにいない。］

［主題にする。］ ［他と対比する。］ 「は」は実体(名詞)を目立たせる。 （主題化する） 「は」 は ［主題化・対比］ の機能をもつ。 主格３形式と客格と「は」 は，も，こそ ［相対化描写詞］ （とりたて詞，副助詞，係助詞） 「は」 ［実体目立たせ描写］ 彼Ø1本を読む 彼Ø1は本を読む 彼Ø1は本をは読む ［主題にする。］ ［他と対比する。］ 「は」は実体(名詞)を目立たせる。 （主題化する） 「は」 は ［主題化・対比］　の機能をもつ。 （相対化する）

彼 hasir- 彼 hasir- 彼 hasir- 「は」 による 「ふちどり」 彼は 彼は［主題］ 彼は［対比］ 主題「は」 主格３形式と客格と「は」 は，も，こそ ［相対化描写詞］ （とりたて詞，副助詞，係助詞） 「は」 による 「ふちどり」 彼 hasir- 彼 hasir- 彼 hasir- 彼は 彼は［主題］ 彼は［対比］ 彼 彼 彼 hasir- hasir- hasir- 主題「は」 主題，対比「は」 ○がなくとも 「は」 で読むこと可能

描写詞 「は」の有無 主格詞 「Ø１・が」 と 描写詞 「は」 主格 主語の実現形式 機 能 － ～Ø１ Ø１ ～Ø１ は － ～が１ が１ 主格３形式と客格と「は」 描写詞 「は」の有無 主格詞 「Ø１・が」 と 描写詞 「は」 主格 ＋は 主語の実現形式 機　能 １ － ～Ø１ 私Ø１田中です。 主語について述べる。 Ø１ ～Ø１ は ２ ＋は 私Ø１は田中です。 主語について述べる。 主題・対比 ３ － ～が１ あっ,犬が１います｡ 事実提示／従属節内主語 が１ ＋は ～が１ は 事実活写提示／ ４ 雨が１は降る降る。 従属節内対比主語 ５ が２ － ～が２ 私が２田中です。 質問への回答など（選択主語）

８種類の主語 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ No. 主格形式 主語の種類 例 文 話題主語 あの鐘，鳴る。 Ø１ 主題主語 あの鐘は鳴る。 主格３形式と客格と「は」 描写詞 「は」の有無 ８種類の主語 No. 主格形式 主語の種類 例　文 ① 話題主語 あの鐘，鳴る。 ② Ø１ 主題主語 あの鐘は鳴る。 ③ 対比主語 あの鐘は鳴る。 ④ 事象主語 鐘が鳴ってる。 ⑤ 事象話題主語 鐘，鳴ってる。 が１ ⑥ 事象主題主語 鐘は鳴ってる。 ⑦ 事象対比主語 鐘は鳴ってる。 ⑧ が２ 選択主語 あの鐘が鳴る。

６種類の客語 ⑪ ⑫ ⑬ ⑭ ⑮ ⑯ No. 客格形式 客語の種類 形式 例 文 彼，これを読む。 論理客語 を 彼，これ（を）読む。 主格３形式と客格と「は」 描写詞 「は」の有無 ６種類の客語 （ここではを格の場合を示す。他の格も同様。） No. 客格形式 客語の種類 形式 例　文 彼，これを読む。 ⑪ 論理客語 を 彼，これ（を）読む。 ⑫ 話題客語 を これを，彼が読む。 ⑬ 主題客語 をは これをは彼が読む。 彼，これをは読む。 ⑭ 対比客語 をは （あれは読まない。） 彼，これをは読む。 ⑮ 事象対比客語 をは （宿題はやらない。） 彼，これを読む。 （←どれを読む？） ⑯ 選択客語 を 彼，これ（を）読む。

まとめ 主格には３種類のものがある…… Ø１格，が１格，が２格 主語は「は」との関係で８種類のものが考えられる…… ① 話題主語 ② 主題主語 ③ 対比主語 ④ 事象主語 ⑤ 事象話題主語 ⑥ 事象主題主語 ⑦ 事象対比主語 ⑧ 選択主語 客格には９格ある…… を格，に格，へ格，で格，と格， から格，より格，まで格，Ø２格 客語は「は」との関係で６種類のものが考えられる…… ⑪ 論理客語 ⑫ 話題客語 ⑬ 主題客語 ⑭ 対比客語 ⑮ 事象対比客語 ⑯ 選択客語

主語・客語の種類 記号 主 語 ・ 客 語 Ａ Ｂ Ｃ Ｄ Ｅ Ｆ Ｇ Ｈ Ｉ Ｊ 彼，会社，やめるんだって。 話題主語 話題客語 主格３形式と客格と「は」 主語・客語の種類 記号 主　語　・　客　語 彼，会社，やめるんだって。 Ａ 話題主語 話題客語 彼女は　フランス語は話すけど，スペイン語は話さない。 Ｂ 主題主語 対比客語 対比客語 彼女は　フランス語は話すけど，ワインのことはよく知らない。 Ｃ 主題主語 事象対比客語 事象対比客語 彼はすぐ切れるけど，彼女は辛抱強い。 Ｄ 対比主語 対比主語 私にいい考えがある。 Ｅ 論理客語 事象主語 あ，ヘリコプター，こっちへ降りてくる。 Ｆ 事象話題主語 論理客語 ほら，目を上げれば，星はまたたいている。 Ｇ 論理客語 事象主題主語 花は咲いたが，あの人は帰らない。 Ｈ 事象対比主語 事象対比主語 お茶は，じゃあ，私が入れます。 Ｉ 主題客語 選択主語 連れてく人がいないの？　じゃあ，パーティーには 私を連れてって。 　　　 Ｊ 主題客語 選択客語

主語・客語の種類 記号 主 語 ・ 客 語 Ａ Ｂ Ｃ Ｄ Ｅ Ｆ Ｇ Ｈ Ｉ Ｊ 彼，会社，やめるんだって。 主格３形式と客格と「は」 主語・客語の種類 記号 主　語　・　客　語 彼，会社，やめるんだって。 Ａ 彼女は　フランス語は話すけど，スペイン語は話さない。 Ｂ 彼女は　フランス語は話すけど，ワインのことはよく知らない。 Ｃ 彼はすぐ切れるけど，彼女は辛抱強い。 Ｄ 私にいい考えがある。 Ｅ あ，ヘリコプター，こっちへ降りてくる。 Ｆ ほら，目を上げれば，星はまたたいている。 Ｇ 花は咲いたが，あの人は帰らない。 Ｈ お茶は，じゃあ，私が入れます。 Ｉ 連れてく人がいないの？　じゃあ，パーティーには 私を連れてって。 　　　 Ｊ