キリスト教倫理(THE312) -諸宗教と生命倫理-

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信心を抱くということ... 信心を抱くということは、神の意志について未だに理解 できなかったり、それがたとえ私たちを喜ばせてくれる ものでなかったとしても、受け入れることです。 もし私たちに、神と同じように全てを出発点からその結 末まで見る能力があったとしたら、どうして私たちの人 生が慣れない道や私たちの理解や望みと相反する道をた.
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キリスト教倫理(THE312) -諸宗教と生命倫理- 中央聖書神学校

宗教の機能 宗教の普遍的な関心事 ・「彼岸」の概念 -死後の生活 ・「彼(ひ)岸」と「此(し)岸」の関係 -生きている中にどうすべきか   ・「彼岸」の概念     -死後の生活   ・「彼(ひ)岸」と「此(し)岸」の関係     -生きている中にどうすべきか     -彼岸:生死を超越した理想の境地     -此岸:目標に達した理想的な状態   ・超自然的なものへの畏敬     -絶対的なもの・具体的なもの

宗教の機能 肯定的機能(1)-宗教が提供するもの ・ 個人に付加的な生活力と精神的満足 ・ 人生の艱難・試練に耐える気力  ・ 個人に付加的な生活力と精神的満足  ・ 人生の艱難・試練に耐える気力  ・ 悪に対処する方策  ・ 厳正の生活資質の向上  ・ 未来への希望  ・ 人類理想の世界  ・ 救いの道の提示

宗教の機能 肯定的機能(2)-宗教が提供するもの ・ 道徳的な標準の指示 ・ 共同体における連帯感の培養 ・ 公共(社会的)秩序の促進   ・ 道徳的な標準の指示   ・ 共同体における連帯感の培養   ・ 公共(社会的)秩序の促進   ・ 個人的安寧の提供   ・ 価値観の規準の提供   ・ 共同体・個人のアイデンティティー確立の扶助

宗教の機能 否定的機能 ・ 社会の発展を遅らせる可能性 ・ 狂信性の助長 ・ 排他的な態度の育成 ・ 迷信との連結  ・ 社会の発展を遅らせる可能性  ・ 狂信性の助長  ・ 排他的な態度の育成  ・ 迷信との連結  ・ 革命的な傾向の表出 (テロリズムの培養)  ・ 「人々の阿片的存在」 (K.マルクス)

  宗教家、教師など一般に道徳を強く説く人には、自分自身のことを忘れる能力の高い人が多い。(河合隼雄『日本文化のゆくえ』p.254)

宗教一般と生命倫理 社会の近代化と世俗化による宗教の形骸化 人間に生と死がある限り絶滅しない宗教的世界観 ポストモダンの時代における宗教への回帰風潮 人間の生と死、死後の神秘に明確な教義を持っている宗教の生命倫理に対する鮮明な主張

一神教と生命倫理 一神教と教義的コンセンサス 今日の一元的西欧社会における民族的、宗教的、政治的の多元化 一神教の教義を倫理の基盤としている社会では比較的容易に得られる倫理的コンセンサス 今日の一元的西欧社会における民族的、宗教的、政治的の多元化 強要される倫理的中立路線 多元的社会から拒否される純キリスト教的倫理議論

倫理的曖昧性中立性 倫理的コンセンサス 多神教 一神教

宗教の機能と影響 倫理観 個人の行動 宗教 社会の仕組み 世界観 価値観 政治の形態 人生観

仏教と生命倫理

釈迦 仏教の開祖 釈迦族の王子として出生 (前6~前4世紀頃、ルンビニー、現在のネパール) 29歳で出家、35歳で大悟-仏陀 80歳頃没 この世の真理と解脱の道を説く

釈迦の教えの原点 洞察による救い 最も適切な知識 感性による認知ではない 論理的類推でもない 瞑想と意識の昇華から直観的に開かれる知識 真理そのものではなく真理に至る道の提示 合理的思考体系は真理に至る道具にならない。

仏教の世界観 存在の三要素(Trilaksana) 無常(Anitya) 無我(Anatman・Anatta) 苦悩(Dukkha) +α→涅槃(Nirvana)「四法印」

無常(Anitya)-諸行無常 仏教の基本概念 あらゆる現象、あらゆる物体は無常 あらゆる現象は因縁によって生じるもの 一瞬も同じ状態にとどまっていることなく、生まれてはまた消えていくという認識 すべてのものは流転する。-ヘレクライトス 人間の苦悩の出発点 恒久的な教義も否定

無我(Anatman)-諸法無我 仏陀の人間論 諸行無常が真理ならば諸法無我も真理 人間存在を含めあらゆる事物には永遠不滅の実体や本性は不在 すべてが空(Sunyata) Non-substantiality(非実体性), Non-essentiality of being(存在の非本質性) Non-individuality(非個体性) Non-characterized state of being(存在の非特性)

釈迦の人間論 『体は自我にあらず、感覚も己にあらず、思惟、形、意識、認識、知性も自我にあらず。変転するものは自我にあらず。』 仏陀

釈迦の人間論 自我の定義 自我と解脱の関係 肯定的な定義(…である)ではない 否定的という定義(…ではない) 解脱の時点で「…である」という定義可能 自我と解脱の関係 実体がないとすれば誰が救われるのか。 実体のない自分を救おうとすること自体に矛盾 その矛盾を悟ることが解脱への第一歩

釈迦の霊魂説 十四無記 釈迦に質問して返事がなかった十四項目 霊魂の有無 霊魂の永遠性 仏教の根本である諸行無常、諸法無我からすれば不変の霊魂の存在認識不可能 真言宗では霊魂の存在を肯定 他の宗派では曖昧

涅槃(Nirvana)-涅槃寂静 涅槃(吹き消す、すべての業を吹き払う) 煩悩を断じつくした静けさの境地 理想の境地 人間の究極の目的 不道徳、冒涜などあらゆる行動的、感性的、情緒的誤りからの解放 幻想はなく実在だけの世界

涅槃(Nirvana)-涅槃寂静 二元論的要素の消滅 存在・非存在の区別消滅 正・反のない世界 対立概念が存在しない意識領域 立証する手段が届かない場

涅槃(Nirvana)-涅槃寂静 涅槃の否定的側面 涅槃の肯定的側面 何かを求める心を否定 欲求心の否定 普遍的愛の充満 悟り・開眼(Enlightenment) 法身(Dharma-kaya)の具現

空観(Sunyata-Void, Emptiness) 龍樹(2世紀)による大乗仏教の基礎概念」 無我の概念から派生した教え 大乗仏教の特色を最も良く表した概念 「空」-無の意識が全くない「無」 「無」-あるものの存在が無いという意識 「空観を抜きにして大乗仏教を語ることはできない。」高楠 「仏教のすべては空観の洗礼を受けている。」玉置

空観(Sunyata-Void, Emptiness) 空観の意味 存在の目的を拒否するのではない 存在そのものの拒否でもない 西欧的なニヒリズムではない 実存的「無」ではなく存在論的「空」 人生の目的ではなく手段 涅槃に至る手段

空観(Sunyata-Void, Emptiness) 西欧的な感覚では捉え得ない概念 自我を思考の中心とする西欧的思考体系 「我思う、故に我あり」デカルト 倫理学の二律背反の原理を超える論理 「私は常にうそをつく」という命題が正しいと断定できるか 同一の原理(A=A)、矛盾の原理(A≠non-A)、排中の原理(A=B or A=nonB)を超越した論理 存在・非存在が対立概念でない空観 「完全な空・無はすべてを把握する」

仏教(民衆)の死生観 死者の存続(日本の宗教の核) 日本人は死者があたかもそこにいるかのように信じ、彼らを意識する。 それによって自らの生き方を確認する。 死の儀礼を経ることにより、           徐々に死者になってゆく。 死者としてのアイデンティティー           が与えられる儀式が必要

仏教(民衆)の死生観 死体(西欧的表現)と遺体(仏教的表現) 臓器移植の社会的容認と死体の関係 臓器移植に対する拒否感と遺体の関係 臓器移植の社会的容認と土葬の習慣 臓器移植に対する拒否感と火葬の習慣

仏教の死生観 浄土真宗東本願寺派(大谷派) 生死(しょうじ)輪廻の生に執着しない立場 煩悩具足の凡夫という自覚 如来から痛まれている存在である人間 単に生命の延長、生のみを肯定する医療技術に疑義 (加来知之)

運慶「無著像」 無著(むじゃく)は、法相宗で尊崇されたインドの仏教学者。弟の世親(せしん)とともに、興福寺北円堂の本尊弥勒仏(みろくぶつ)をまもる羅漢として配されている。

仏教の死生観 浄土真宗東本願寺派(大谷派) 脳死・臓器移植に対する教理的曖昧さ 生と死の二律背反を否定 人間の意志を尊重 (加来知之)

仏教の死生観 浄土真宗西本願寺派 生命倫理については基本的に統一見解なし 人間が生きている間に、死をどう受け入れるかに焦点 死ぬことは生きることの否定ではないという認識 脳死を人の死と見なさないという共通見解  (内藤昭文)

仏教の死生観 浄土真宗西本願寺派 臓器移植に反対 生死輪廻の思想から 生に執着することを否定 生のみを肯定する医療に疑義  (内藤昭文)

仏教と生命倫理 脳死・臓器移植への仏教的態度 教義的根拠からではなく自然を尊ぶ日本人の感性に基づいた道徳判断 脳死判定を退けながら、臓器移植を許容する矛盾を感性的に処理 「自然」を尊ぶ感性と「利他行」を重んじる仏教的な道徳性

仏教と生命倫理 中絶への仏教的態度 日本における多くの「堕胎」事例に対する仏教的対応 胎児の生命を絶つという殺人行為を、「水子供養」として祭儀的に倫理的矛盾を緩和 中絶を決定した個人の慰めの儀式を行うことによって倫理的罪悪感の軽減を図る「水子供養」

  臓器(施物)を提供するドナー(施す者)が例え清らかな心から発した行為であっても、レシピエント(施しを受ける者)が自らの延命を願うあまり、他者の死を待つ気持ちをいささかなりとも抱くならば不浄となり、執着を離れろと説く仏教の教えから見れば、不浄行となり、布施行は成立しなくなる。(藤井正雄)

仏教と生命倫理 臓器移植は臓器提供者と受領者にと って解脱を目指す修業、無我の修業。 臓器移植における仏教的認識 (中野東禅) ドナーのモラルとレシピエントのモラルの整合性 ドナーの利他行的道徳観とレシピエントの無心の宗教心の有機的結合 臓器移植は臓器提供者と受領者にと って解脱を目指す修業、無我の修業。 (中野東禅)

立正佼成会と脳死 脳死を人の死と認知しない立場 脳死は限りなく医学的には死に近い状態であることを認識 自らが脳死状態になった場合、これを自分の死と受容する人の意思は否定しない立場

法華経根本道場大聖堂 5000人を収容できる普門館

立正佼成会と臓器移植 臓器移植は緊急避難的な過渡的医療形態 普遍的な医療法ではないという立場(絶対反対ではない) 臓器の提供・授与のアンバランスの問題 臓器の分配の公平性の問題 人間の生体自体にある免疫性の問題

立正佼成会と生命倫理 法華経の教義に立つ仏教分派 教条主義を回避 教義を戒律的に信徒に強要しない 状況倫理的な曖昧さを特徴とする 是であれば、否でもあるという見解

創価学会と脳死・臓器移植 脳死問題 臓器移植問題 基本的には統一見解を出すには時期尚早 布施行として条件付きで承認 その条件-三輪清浄 1) レシピエントの心にエゴがないこと 2) 仲介者にエゴがないこと 3) ドーナーにエゴがないこと