フェアトレードへの賛否 経済班② 澤山友佳
フェアトレードが解決しようとした問題 従来の自由貿易を中心とする貿易システムに よって、先進国の小売り企業は大きな利益を上 げている一方で、途上国の一次産品生産者が不 利な状況に追い込まれている これは自由貿易市場に必要な条件が整っていな いため
完全競争市場 完全競争市場において、生産者と消費者の利 益が最大になる 完全競争市場の条件 無数の生産者と消費者がいる すべての商品は同一 生産者の参入・退出は自由 完全情報
途上国の生産者の抱える問題 市場へのアクセスの欠如 情報へのアクセスの欠如 金融市場へのアクセスの欠如 貸し付けへのアクセスの欠如 生産の転換が困難
市場へのアクセスの欠如 遠隔地である立地・輸送手段の欠如などが理 由で、一次産品の生産者が補助金・関税障壁 など輸入国側の干渉がない市場に直接アクセ スできない このとき零細農家は中間業者に頼ることしか できず、中間業者は共謀して買い取り価格を 釣り上げるため、市場価格は生産者に不利な ものになる
情報へのアクセスの欠如 自由市場が機能するためには完全情報が必要 生産者と貿易業者の両者が市場価格の情報に アクセスできなければならない ラジオ・新聞・電話を持たない遠隔地の生産 者は相場に関する情報を得られず、中間業者 の言い値で売るよりほかはない 消費者の求める品質や特徴などについての知 識を得られず、需要に合わせた生産ができな い
金融市場へのアクセスの欠如 途上国の小規模な生産者は、生産量が少なく 取引所に直接連絡するのが難しいため、先物 取引を利用して価格を固定し、相場変動のリ スクを避けることが困難である 先物取引:市場価格の変動リスクを回避するため に、取引価格と量を予め定めておくこと 異常気象や政治的動乱から収入を守るための 保険にもアクセスできない
貸し付けへのアクセスの欠如 農村地域には公正な条件で少額融資を提供す る銀行がほとんどない 農業機械や肥料購入のための費用は高利貸し をする中間業者に頼るしかない
生産の転換ができない 貯蓄がほとんどなく、貸し付けへのアクセス も限られている遠隔地の生産者は、価格情報 に合わせて作物を転換するというリスクの高 い行動を取ることができない
批判1 以上に述べた市場の条件を整える努力をする ことの方が重要ではないか? 生産者が相場や市場についての情報を得られるよ うにする 少額融資のしくみを整える など… ←これらを実行するためには途上国の生産者に ある程度の収入が必要
批判2 需要が少ないので効果が限定的 ミクロ経済学的に見てみると フェアトレード(以後、FT)商品、 非FT商品を比較すると、 FT商品は需要・供給共に価格弾力 性が小さい →非FT商品よりも均衡価格が高く、 均衡需給量が小さいため普及には 限度がある
批判3 途上国の貧困層に先進国の市民がお金を渡す 方法として非効率的 アメリカの事例では、1ポンドの有機フェアト レードバナナに追加的に払われる20セントの うち、生産者に還元されるのは5セントのみで あり、還元率は25% (『フェアトレード 倫理的な消費が経済を変える』p.66より) ←フェアトレード商品は流通量が少ないため、 流通コストが割高になる
批判3 ←バリューチェーンの問題 従来 生産者:5ドル →中間業者:10ドル→小売業者:20ドル フェアトレード(2倍の価格で買い取り) 生産者:10ドル→中間業者:20ドル→小売業者:40ドル 中間業者・小売業者が利益率を変えないように取引する と、小売価格に上乗せされた20ドルのうち5ドルしか生 産者には還元されないことになる ※フェアトレード商品は高いという認識に便乗し、小売 り企業が価格を不当につり上げていることもある
批判4 供給過剰を引き起こす恐れ 高い価格で購入するという契約が過剰供給を 促す可能性がある これは価格低下を引き起こす、もしくは売れ 残りを産む
批判5 途上国の産業の効率化を阻む フェアトレードが零細な生産者をその位置に 押しとどめ、農業セクターの労働力過剰状態 の解消と工業セクターへの労働力の移動を困 難なものにする
批判6 品質の低下を招く 品質に関係なく最低価格を保証するため、品 質向上の努力をしなくなる ←品質基準を設けると、これを満たせない零細 な生産者を排除することになる
批判7 フェアトレードの枠組みに含まれない生産者を圧迫す る 通常時 需要100 FT商品25 非FT商品 75 需要減退時 フェアトレード契約農家は契約通りの量を買い取っても らえるが、非契約農家は生産した作物が売れなくなる ←フェアトレードの割合が小さいので、大きな影響はな い
批判8 認証型フェアトレードは搾取する大企業を利 するだけ 大企業はほんの一部の商品にラベル認証を受 けるだけでフェアトレード企業というブラン ドイメージによる利益を享受できてしまう 最低取扱量/率を定めていないため
批判的立場からの提案1 転作/多様化 価格下落に合わせて非効率な生産者が淘汰さ れるのが市場の原理 通常の貿易システムで採算の取れない生産者 を倫理に訴える販売方法で保護するのではな く、他の作物への転作や栽培の多様化を補助 するべきである
批判的立場からの提案2 品質・付加価値の向上による高価格路線化 ←実際は資本や技術、マーケティング能力がな いので難しい
批判的立場からの提案3 そもそもの一次産品価格低下の原因である国 際商品協定・国内価格調整制度(マーケティ ング機構)による生産量制限を復活させる =制度的な保護を行うべき
参考文献 奥田孝晴(2009)「国際学の遙望:「連帯の経済学」 への視座を求めて−フェアトレード運動と「市民力」成 長会計に関する一論考−」『湘南フォーラム:文教大学 湘南総合研究所紀要』No.13 pp.103-127 佐藤寛(2011)『フェアトレードを学ぶ人のために』 世界思想社 渡辺龍也(2010)『フェアトレード学 私たちが創る 新経済秩序』 アレックス・ニコルズ/シャーロット・オパル編著・北 沢肯訳(2009)『フェアトレード 倫理的な消費が経 済を変える』岩波書店