北里大学医学部産婦人科 神奈川県寄附講座「地域周産期・救急医療連携教育」 海野信也 第51回日本母性衛生学会 シンポジウム5 「これからの妊婦健診体制を考える」 2010年11月6日 地域医療連携の中の 周産期医療と妊婦健診 研究班で「周産期医療の広場」というウェブサイトを立ち上げました。 http://shusanki.org/ 周産期医療に関する情報提供サイトです。 最新データを掲載します。 Twitterもやっています。 NobuyaUnno 北里大学医学部産婦人科 神奈川県寄附講座「地域周産期・救急医療連携教育」 海野信也
本日の講演内容 地域医療連携は医療再編のキーワード 周産期医療における地域医療連携 「たらいまわし」体制からの脱却 周産期医療体制整備指針の改定 「たらいまわし」体制からの脱却 「生殖・周産期医療連携パス」の可能性
地域医療連携は医療再編のキーワード がん対策基本法: 「大腿骨頚部骨折」「脳卒中」地域連携パス: がん対策推進基本計画およびがん診療連携拠点病院の指定要件の見直し 5大がん(肺がん、胃がん、肝がん、大腸がん、乳がん)の地域連携クリティカルパスの整備 「大腿骨頚部骨折」「脳卒中」地域連携パス: 急性期担当:『計画管理病院』 回復期担当:『第2段階目の保険医療機関等』 維持期(外来フォローなどの)担当:『第3段階目の保健医療機関等』 地域連携診療計画管理料 900点(急性期病院で入院中に1回) 地域連携診療計画退院時管理料 1200点(療養病院で入院中に1回)
京都府の脳卒中地域連携パスの流れ
平成8年に始まった「周産期医療対策事業」 とはなんだったのか 都道府県ごとの「周産期医療システム」整備 都道府県の「周産期医療協議会」による運営 総合周産期母子医療センター・地域周産期母子医療センターの整備 システムとリソースの同時整備 周産期医療の全国への普及→地域化 高次周産期医療だけを担当する専門家集団の出現 産科医・助産師 新生児科医・新生児専門看護師 地域周産期医療の量的確保の推進
周産期医療システム 周産期医療システムは地域連携パスの先駆け 周産期医療協議会 MFICU・NICU 緊急帝王切開 NICU 患者と情報 の流れ 周産期医療協議会 総合周産期母子医療センター MFICU・NICU 周産期医療情報センター 周産期研修センター 地域周産期 母子医療センター 高度周産期医療機関 緊急帝王切開 NICU 一般周産期 医療施設 周産期医療システムは地域連携パスの先駆け
平成8年に始まった「周産期医療対策事業」の問題点 絶対的「医療リソース不足」対策の遅れ 周産期センターの過酷な勤務環境の放置 後方病床対策の欠如 NICU長期入院児問題の発生 一般救急医療との連携の欠如 母体救命救急症例への対応困難 医療機関未受診者への対応困難 妊婦・新生児 都道府県外施設との連携体制の欠如 広域搬送の際の現場の過重負担 周産期救急医療システムの機能不全 搬送先決定に要する現場の過重負担 ドクターカー関連の制度整備の遅れ 現場の加重負担 一次二次医療体制への配慮の欠如→ローリスク妊婦の分娩施設確保困難が発生 「分娩難民」 「たらいまわし」 低効率の 「たらいまわし」 過剰勤務と 医師不足の 悪循環
周産期医療対策整備指針の改定 母体救命救急対応 たらいまわし 未受診 NICU不足 スーパー周産期センター 周産期医療と救急医療の連携強化 周産期救急情報センター機能 搬送コーディネータ 県境をまたぐ広域搬送 迎え搬送 戻り搬送 妊婦健診補助の増額 NICU増床 GCU強化 後方病床確保 NICU入院児支援コーディネータ
第2段階を迎えたわが国の周産期医療システム 第1段階 都道府県ごとのシステムの大枠の整備 ハコモノの整備 第2段階 一般救急医療システムとの連携強化から統合へ 縦割り行政からの脱却 都道府県の枠を越えた広域システムへ ハコモノからヒトへ 医療従事者の勤務実態を考慮したシステム整備へ
東京都母体救命搬送システム 緊急に母体救命処置が必要な妊産褥婦(対象患者)について、救急医療と周産期医療が連携して、迅速に受入先を確保 対象患者が、近くの救急医療機関で受け入れられなかった場合に必ず受け入れる「母体救命対応総合周産期母子医療センター」を3か所確保 総合周産期センターと救命救急センターの緊密な連携のもとに対象患者を必ず受け入れ、診断・処置等を行う。 搬送先選定に要する時間を極力短縮し、 迅速に母体の救命処置を行う体制を整備
東京都母体救命搬送システム 平成21年3月25日~平成22年8月31日 72件 東京都母体救命搬送システム 平成21年3月25日~平成22年8月31日 72件
東京都母体救命搬送システム 平成21年3月25日~平成22年8月31日 72件 東京都母体救命搬送システム 平成21年3月25日~平成22年8月31日 72件
東京都母体救命搬送システム 平成21年3月25日~平成22年8月31日 72件 病院選定時間 東京都母体救命搬送システム 平成21年3月25日~平成22年8月31日 72件 病院選定時間
東京都母体救命搬送システム 2009年3月25日~2010年2月28日 46件 入院まで(覚知~病着) 東京都母体救命搬送システム 2009年3月25日~2010年2月28日 46件 入院まで(覚知~病着)
周産期救急搬送体制ー情報システム 地域にとって必要な、実情に即した体制を構築する。 症例の実態・現有リソースの調査→最適なシステム構築→必要リソースの整備 一般救急との連携 国民への情報開示 搬送コーディネータ (現場の献身に依存しない)持続可能な情報システム (情報を積極的に収集することを通じた)迅速性を担保したシステム 正確な情報の迅速な提供 救急患者受入に対する医療機関および現場の医師へのincentive
周産期救急医療情報センター 搬送コーディネーター 神奈川県: 県・医師会救急医療中央情報センター事務職員 千葉県: 総合周産期母子医療センター事務職員 大阪府方式: 産婦人科医師(部長クラス) 札幌市方式: 助産師 東京都:
神奈川県の周産期救急搬送先照会システム (07年4月試行,11月本格稼働) 産科救急症例発生 「基幹病院」 自院収容不可 緊急度:高 緊急度:低 胎盤早期剥離,母体救急など 切迫早産など 神奈川県救急医療中央情報センター(32施設を対象)検索・紹介を依頼(県内のみ) 「基幹病院」医師が 収容先を独自検索し紹介を行う. (県内・県外とも) 県内満床で検索失敗 「基幹病院」医師が県外を検索・紹介
神奈川県の母体搬送 県外搬送率の年次推移 救急医療中央情報センター による斡旋開始
母体搬送受入の県内完結の有無 全国周産期医療(MFICU)連絡協議会 2007年調査 20 県内施設が 受け入れる 限られた地域のみ 県外搬送を行う 県外搬送を検討 全国周産期医療(MFICU)連絡協議会 2007年調査 20
周産期センター間の連携 県境をどうまたぐか 提案 周産期センター間の連携 県境をどうまたぐか 提案 広域搬送症例を分娩不可避の症例のみ、最小限に絞る 県の周産期医療協議会等で決めておく 原則は県内受入・広域搬送は緊急避難 最緊急・緊急のせっぱ詰まった搬送依頼は他県には行わない 都道府県間で、広域搬送の基本的ルールを定める 原則として総合周産期母子医療センター間でのみ行う 搬送もと施設は個別交渉しない 搬送と(生まれない場合の母体、生まれた場合の新生児の)戻り搬送を、送った県の責任で実施することを明記する 送った県は、受け入れ可能になり次第、戻り搬送を行う(県が経費負担する) 他県からの受入状況・他県への送出状況を各県で集計し、システムの再調整を行う 現実に相互搬送の多い都道府県による広域周産期医療システムを整備する 広域搬送のための空床情報提供システム 広域搬送を可能にするシステム 救急隊の県外搬送への対応 ヘリコプター搬送体制の整備
周産期搬送ルール化 都と3県 新年度検討 病院選定など連携 東京新聞2010年1月11日 朝刊 周産期搬送ルール化 都と3県 新年度検討 病院選定など連携 東京新聞2010年1月11日 朝刊 妊婦や新生児ら周産期医療の救急搬送などをよりスムーズにするため、東京都は新年度、隣接する神奈川、千葉、埼玉県に呼び掛け、都県境を越えた相互搬送のルールづくりの検討を始める。搬送先の病院を選ぶ時間の短縮などが狙いで、今夏までに一定の方向を取りまとめたい考えだ。 現在、かかりつけ医からの転院や、一般通報の患者搬送は各都県域内で行うことが基本。都県境を越えた周産期搬送は、医療機関が個別に受け入れ先を探している。 ルール化では、たとえば搬送の依頼は各都県のコーディネーターが一元的に受け付け、病状の軽重なども考慮した上で運び先を選ぶことを想定。受け入れ医療機関が特定の病院に偏ることを解消したり、搬送時間を短縮したりすることを目指す。 ただ新生児集中治療室(NICU)などの医療態勢は、都内が他県よりも進んでいることから、相互搬送といっても都内への搬送が過度に増える可能性もあるため、当面は、やむを得ない場合だけ、広域搬送する仕組みについて検討する方向だ。 都はこの検討に合わせ、都内の周産期母子医療センターなど約四十医療機関を対象に、都外からの受け入れや都外への搬送実態を調査する。
周産期医療における地域連携の問題点 医療機関相互の連携が中心 一般救急(救急隊)との連携が不足 分娩施設間 分娩施設と高次医療機関との間 回復期・慢性期施設との連携の欠如 一般救急(救急隊)との連携が不足 搬送先の検索方法 広域搬送対応 システムに本来の主体である妊産婦が参加していない
わが国の周産期医療システムー第3段階へ 第3段階 第1段階 第2段階 主体は妊産婦・家族 → 情報の共有 都道府県ごとのシステムの大枠の整備 ハコモノの整備 第2段階 一般救急医療システムとの連携強化から統合へ 縦割り行政からの脱却 都道府県の枠を越えた広域システムへ ハコモノからヒトへ 医療従事者の勤務実態を考慮したシステム整備へ 第3段階 主体は妊産婦・家族 → 情報の共有 地域のネットワーク化された医療資源を最大限に活用
「たらい回し」から脱却するために 神奈川県の場合(平成20年2月1日現在) 母体搬送受入 依頼を年80-100件断り、県外に斡旋 周産期センター NICU GCU 新生児病棟 産科病棟 MFICU 入院期間 6カ月以上1年未満 14人 1年以上 26人 小児科病棟 ここにも長期・隠れ長期 入院児が沢山いる 9人が小児病棟に移れない 9人が福祉施設・自宅等に移れない 在宅 在宅優先 入所待機者 50-60名 在宅優先 年に1-2名/施設 重症心身障害児施設 9施設(定員550名) 1施設年1-2名位しか空かない 入所者の平均年齢40歳以上 他の介護・療養施設
「受入拒否」「たらいまわし」を減らす方法 入口を拡張する NICUを増やす NICU増床・NICU加算2 GCUの受入能力を強化する GCU看護師充実 出口を拡張する NICUの在院日数を減らす 軽症児対策: 長期入院児対策: 退院促進 →在宅ケアの充実 →訪問看護 レスパイト 自院小児病棟への転棟促進 地域病院の新生児室・小児病棟への転院促進 重症心身障害児施設への転院促進 周産期センターだけでは 解決できない 地域全体の ネットワーク形成の 必要性
周産期地域医療連携パスを 作ったらどうか 産科一次施設 周産期センター産科 周産期センターNICU 周産期センター小児病棟 地域病院小児病棟 重症心身障害児施設 地域行政サービス 母子手帳発行 支援リソースの紹介 地域医師会 在宅支援施設 患者会 育児支援サークル 周産期・育児・小児医療に関わる地域の状況が誰でも把握できる情報提供・共有のツールとしてもちいることはできないか
広領域のネットワーク形成の重要性 経済情勢が厳しい中で、地域の医療提供体制、福祉体制、子育て環境の充実をはかるには、個別行動だけでは政治的力を持ちにくい。 情報の開示、交換、問題の共有を通じて、地域に最適化したsolutionを提案し、世論形成につなげていく必要性がある。 患者さんや一般の妊産婦さんが声をあげることが、もっとも大きな力になる。
北里大学医学部 神奈川県寄附講座 「地域周産期・救急医療連携教育」 北里大学医学部 神奈川県寄附講座 「地域周産期・救急医療連携教育」 平成21年度補正予算 地域医療再生基金による 神奈川県より県内4大学医学部に対して周産期・救急医療に関わる医師の地域医療機関への派遣推進を任務とした寄附講座設置の依頼 地域医療連携、チーム医療、スキルミックスがキーワード 特任教員として、新生児科医・公衆衛生学者・社会福祉士(2名)・救急救命士を新たに雇用 学内兼任教員として、産婦人科医・救急医・助産師・看護師・薬剤師・救急救命士・作業療法士等を任用予定 学外教員として、地域周産期センター医師・神奈川県保健福祉部課長・相模原市医師会副会長等を任用予定 活動予定 救命救急センター ドクターカーの本格運用支援 地域 医療連携関係のセミナー・講演会の開催 情報提供サイトの設置・運営 周産期地域連携パスの作成
生殖医療から始まる地域医療連携が必要かもしれない ART専門施設にたいする周産期専門施設からの批判 多胎妊娠の増加 → NICU病床不足に拍車をかけている 合併症を有する不妊症患者に関するコンセンサスの欠如 スクリーニング項目 不妊治療実施の要約 治療施設の適正化 「生殖・周産期医療地域連携パス」のようなものを作って、地域の関係施設のネットワーク形成をはかってはどうか。
謝 辞 本講演の機会を与えていただきました 第51回日本母性衛生学会 会長 牧野田 知先生 に深謝いたします。 謝 辞 本講演の機会を与えていただきました 第51回日本母性衛生学会 会長 牧野田 知先生 に深謝いたします。 座長の労をおとりいただきました 東京女子医科大学教授 松田義雄先生 母子愛育会愛育病院看護師長 石川紀子先生 にあつく御礼を申し上げます。