卜部 佑介* 前田 修平 気象庁 地球環境・海洋部 気候情報課

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卜部 佑介* 前田 修平 気象庁 地球環境・海洋部 気候情報課 近年の日本の天候と十年規模変動の関係 卜部 佑介* 前田 修平 気象庁 地球環境・海洋部 気候情報課 Urabe, Y. and S. Maeda, The relationship between Japan’s recent temperature and decadal variability, SOLA, 10, 176-179, doi: 10.2151/sola.2014-037

Outline はじめに - 十年規模変動への近年の注目 - 日本の近年の天候 - 季節変動の強化 - 大気、海洋の近年の状況 - La Niña-like conditions - まとめ

使用データ + 大気循環場 - JRA-55 (気象庁; Kobayashi et al., 2015) + 海面水温 (SST)  - COBE-SST (気象庁; Ishii et al., 2005) + 表層水温  - MOVE-G (気象庁; Usui et al., 2006)  - 客観解析データ (Ishii and Kimoto, 2009) + 日本の気温  - 気象庁の現場観測  (http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/list/mon_jpn.html)

はじめに

代表的な十年~数十年規模の変動 Pacific Decadal Oscillation (PDO) North Pacific Gyre Oscillation (NPGO) Mantua et al. (1997) Di Lorenzo et al. 2008 Cold (Negative) Phase Bond et al. 2003 Warm (Positive) Phase http://jisao.washington.edu/pdo/graphics.html NPGO (SSH) = Victoria Mode (SST) Warm Phase Cold Phase Interdecadal Pacific Oscillation (IPO) Atlantic Multidecadal Oscilaltion (AMO) Zhang et al. (1997) 北大西洋で平均したのSST偏差から、線形トレンド成分を除いたもの。60-70年周期。 太平洋の海面水温に6年のLow PassフィルターをかけたEOF第1モード 5

地球温暖化の停滞(ハイエイタス)と十年規模変動 Annual Global Mean Surface Temperature (GMST) anomalies relative to a 1961–1990 climatology from the latest version of the three combined Land-Surface Air Temperature (LSAT) and Sea Surface Temperature (SST) datasets (HadCRUT4, GISS and NCDC MLOST). Five CCSM4 21st century simulations with RCP4.5 (uniform increase in GHGs, no volcanoes): Composites of decades with near-zero warming trend (hiatus decades) and decades with rapid global warming (accelerated warming decades) show opposite phases of the IPO in the Pacific (hiatus=linear trend of global T <-0.10K/decade; 8 hiatus decades Accelerated=linear trend of global T>+0.41K/decade; 7 accelerated warming decades) IPCC AR5 (2014) Meehl et al. (2013) ・正のIPO(≒El Niño-like + 負のPDO)  温暖化加速 ・負のIPO(≒La Niña-like + 負のPDO)  温暖化停滞

日本の近年の天候 - 季節変動の強化 -

日本の気温の時系列 1990年代後半から見られている傾向 夏-秋 気温上昇 ⇔ 冬-春 気温低下 日本の気温の経年変動* (5年移動平均) 黒 : 年平均 (December – November) 赤 : 夏-秋平均 (June – November) 青 : 冬-春平均 (December – May) 破線: 1999 – 2011の線形トレンド成分 紫 : 夏-秋平均 (+0.31 ˚C / 10yr) 水色 : 冬-春平均 (-0.22 ˚C / 10yr) いずれも95%の水準で統計的に有意 * 1898年以降観測を継続している気象観測所の中から、都市化による影響が少なく、特定の地域に偏らないように選定された以下の15地点の月平均気温データ。 網走,根室,寿都(すっつ),山形,石巻,伏木(高岡市),飯田,銚子,境,浜田,彦根,宮崎,多度津,名瀬,石垣島 http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/list/mon_jpn.html 1990年代後半から見られている傾向 夏-秋 気温上昇 ⇔ 冬-春 気温低下 Urabe and Maeda (2014)

月毎の傾向:ラニーニャの影響との類似 (a) 日本の気温の月平均平年偏差 (1999~2012年平均) * 冬-春平均と夏-秋平均の差はWilcoxon rank sum test (Wilcoxon, 1945)によると99%以上の水準で有意 Urabe and Maeda (2014) (b) 日本の気温偏差とNINO3指数の相関係数 ※縦軸を上下逆にしてある 夏-秋 高温 冬-春 低温 = 季節変動の強化 ラニーニャの影響に類似

大気、海洋の近年(1999 – 2012)の状況 - La Niña-like Conditions -

La Niña-like Conditions SSTとWalker循環 SST偏差 太平洋熱帯域の状況 West East SST Positive Negative Chi200 Divergence Convergence La Niña-like Conditions 200 hPa の速度ポテンシャル(χ200)偏差 Urabe and Maeda(2014)

熱帯からの影響伝播 近年の循環場には熱帯の対流活動からの影響が重要 200 hPa高度(Z200)偏差 冬 – 春平均 夏 – 秋平均 Urabe and Maeda(2014) 近年の循環場には熱帯の対流活動からの影響が重要

ラニーニャ傾向→循環場の変動→日本の天候(季節変動の強化) 日本への影響 200 hPa高度(Z200)偏差 200 hPa の東西風 Anomaly (Shade) / Climatology (Contour) 冬 – 春平均 Far-Eastern trough (Takaya and Nakamura, 2013) の強化 東アジアモンスーンが強まり、日本の低温と整合的 夏 – 秋平均 日本付近で東西に正偏差が分布 ジェットが北偏し、日本の高温と整合的 ラニーニャ傾向→循環場の変動→日本の天候(季節変動の強化) 整合的な状況として理解できる

表層水温の状況 14 西部太平洋熱帯域の領域平均 表層水温(海面~300m平均)偏差 黒 : MOVE-G 青 : 客観解析 (Ishii and Kimoto, 2009) Urabe and Maeda(2014) 最近十年ほど見られているラニーニャ傾向は、年々変動と同程度かそれ以上に強い偏差をもたらしている 14

まとめ - 近年の状況 - 日本の気温は夏から秋(冬から春)にかけて高温(低温)傾向 = 季節変動の強化 まとめ - 近年の状況 - 日本の気温は夏から秋(冬から春)にかけて高温(低温)傾向 = 季節変動の強化 太平洋熱帯域の水温は西部(東部)で正偏差(負偏差)。Walker循環が強まり、西部で対流活発  La Niña-like Conditions 大規模な循環場もLa Niña傾向に対する応答として整合的な分布 日本の気温の状況とも整合的 15

ところで、、、、地球温暖化予測では

地球温暖化による熱帯循環場の変化の東アジア循環場への影響 熱帯の成層の安定化 > 降水量の増加 Knutson and Manabe(1995) Sugi et al.(2002) Held and Soden(2006) … 西太平洋の上昇流の弱化  ウォーカー循環の弱化 発散風によって励起される赤道波の振幅の低下  エルニーニョ側への変化 ・夏:チベット高気圧の弱化(北縁を流れる亜熱帯ジェットの南下) ・冬:日本付近での熱帯起源のロスビー波(気圧の谷)の振幅の低下  ゾーナル温暖化 +暖冬冷夏傾向への変化

~ × 地球温暖化によるウォーカー循環の弱化 地球温暖化による熱帯域での熱力学バランスの変化 凝結熱 上昇流の強さ 成層安定度 凝結熱以上に安定度が増加することで、上昇発散風は弱化 対流圏下層の水蒸気量の増加によって、安定度が増加 水蒸気量は増加するが降水はあまり増えず、凝結熱は微増 比湿の変化率 500hPa鉛直風速の将来変化 ハドレー循環の変化率 P=Mq 降水量の変化率 ウォーカー循環の変化率 積雲による質量フラックスの変化率 Held and Soden 2006 下降流の弱化 上昇流の弱化 Held and Soden 2006 Vecchi and Soden 2007

また、ごく最近は、、、、2014年2月から正のPDO指数、この夏も持続する予測