授乳と薬 平成25年 10月4日 李英健
アメリカのFDA分類 オーストラリア分類 添付文書 成育医療研究センター 唯一法的根拠のある 公的文書 情報の海
目的:妊娠中の薬剤使用に関する情報を提供するとともに、 妊娠中に薬剤使用した症例の妊娠転機を集積し、エビデンスを創出していくこと・
例え ある歯科医の処方 授乳中の方に ロキソニン
この期間は授乳を中止してミルクに変更した方が無難かなぁ・・・ 添付文書には授乳中の婦人に投与することを避け、やむをえず投与する場合には授乳を中止させること。[動物実験(ラット)で乳汁中への移行が報告されている。] と書いてあるし・・・ この期間は授乳を中止してミルクに変更した方が無難かなぁ・・・ 薬を服用する直前に 授乳させたらいいのかなぁ・・・
母乳のメリット 1.抗感染作用 2.認知能力への好影響 3.免疫修復作用
1.抗感染作用 母乳に含まれるIgAや各種の抗菌因子による防御反応 ・疫学的な研究で、中耳炎などの発症率は 母乳栄養児では人口乳を与えられた児に 比べ半分以下 ・消化管・呼吸器の感染も母乳栄養児では少ないこと ・新生児の壊死性腸炎の予防
2.認知能力への好影響 ・1992年、LucasらはLancetで母乳と知能指数に対する論文を発表。 未熟児を「母乳を与えられた群」と、 「乳汁分泌が不足して母乳を与えられなかった群」 とに分けて、その後の認知能力の発達を小児期の7~8歳の時点で 比較した。 結果、母乳群は平均の知能指数が有意に高いことが証明された。 ・2008年、Kramerらの研究では、1万3千人以上の小児を 「普通の乳児期のケアを受ける群」と 「Baby Friendly Hospitalで積極的な母乳推進プログラムを受ける群」 の2群に無作為に分けられた。 6歳時点で認知脳を比較した結果、後者の群で優位に上昇した。
3.免疫修復作用 ・母乳栄養で育った人には自己免疫疾患、 糖尿病などが少ないとの報告がある。 ・現段階ではエビデンスレベルは低いが、 糖尿病などが少ないとの報告がある。 ・現段階ではエビデンスレベルは低いが、 乳児の気道過敏性低下による母乳と 喘息との関連性も示唆されている。
出来るだけ、母乳は飲み続ける!!! アメリカ小児科学会やカナダ小児科学会は母乳の利点などから、 最低6か月(出来れば12か月)までは、完全母乳栄養を推奨している。 出来るだけ、母乳は飲み続ける!!! アメリカ小児科学会の「母乳と薬」改訂版で「禁忌(contraindication)」 の言葉が使われていない
ロキソニンの乳汁以降は確認できなかった としている。 後陣痛に対するロキソプロフェン(ロキソニン) の有効性に関する検討 (1990年07月,産婦人科の世界 ) 石川雅嗣 (旭川医大)らの発表によると、、、 ロキソニンの乳汁以降は確認できなかった としている。
授乳中に注意すべき薬 1.乳児の暴露レベルが高くなる薬 2.放射性アイソトープ 3.抗がん剤 4.母乳分泌を妨げる薬
1.乳児の暴露レベルが高くなる薬 結論として、、、 ・フェノバルビタール(フェノバール) ・エトスクシミド(ザロンチン) ・プリミドン(マイソリン) ・テオフィリン(テオドール) ・リチウム(リーマス) ・ヨード製剤 実際に現在使われているほとんどの薬で 体重換算した本来の治療量(血中濃度)の 10%以下しか暴露されない。
(子供) A薬:100㎎ (母親) (子供) 本来の治療量(血中濃度)の10%以下とは? A薬:200㎎ (母親の治療に必要な量) (母乳)
暴露レベルが治療域に近づく可能性の比較的高い薬 フェノバルビタール(フェノバール) エトスクシミド(ザロンチン) プリミドン(マイソリン) テオフィリン(テオドール) リチウム(リーマス) ヨード製剤
2.放射性アイソトープ 理由:授乳中の乳腺上皮細胞には ヨードトランスポーターの発現があるため、 ヨウ素は乳汁中に濃縮され、 甲状腺機能亢進症の治療:ヨウ化ナトリウムカプセル 甲状腺疾患の診断:ヨードカプセル-123 等 理由:授乳中の乳腺上皮細胞には ヨードトランスポーターの発現があるため、 ヨウ素は乳汁中に濃縮され、 乳児の甲状腺機能低下症の原因となりうる。 (Mandel SJ et al,2007)
3.抗がん剤 ・以前は、一般的に母乳は禁忌!!とされてきた。 ・最近では、抗がん剤療法と授乳の両立も 試みられるようになっている。 試みられるようになっている。 ・シスプラチンやアドリアマイシンなどの消化管吸収が ほとんど認められない薬では授乳と治療を両立された 例もある。 まだデータも少なく未開の分野のため、慎重な判断が必要
・エルゴタミン(クリアミン、カフェルゴット) ・ホルモン性経口避妊薬 4.母乳分泌を妨げる薬 ・ブロモクリプチン(パーロデル) ・エルゴタミン(クリアミン、カフェルゴット) ・ホルモン性経口避妊薬 ※逆にメトクロプラミドやドンペリドンは、 プロラクチン分泌増強作用のため、 乳汁分泌を促進する目的で用いられることがある。
中毒と授乳 母親自体が中毒状態のときには これまでの一般原則が当てはまらない場合がある 原因:母親がCYP2D6の超迅速代謝者 母親自体が分娩直後からコデインリン酸塩を含む鎮痛薬を使用し、 授乳中の児が生後2週間で呼吸抑制によって死亡した例が報告されている。 原因:母親がCYP2D6の超迅速代謝者 (ultrarapid metabolizer) のため、モルヒネへの転換が異常に高かった。 母親がモルヒネの急性中毒に準ずる状態で あったために、乳汁中のモルヒネ濃度が上昇。 2週間授乳し、蓄積した結果、呼吸抑制。 日本人でも1%程度は存在すると言われている。 母親自体が中毒状態のときには これまでの一般原則が当てはまらない場合がある
その他 禁忌 ・シクロホスファミド(エンドキサン) ・アミオダロン(アンカロン) 慎重投与 ・ミコフェノール(セルセプト) ・スタチン系製剤 ・コルヒチン ・アテノロール(テノーミン) ・コデイン、ジヒドロコデイン ・エトレチナート(チガソン) エンドキサン:骨髄抑制 スタチン:人でのデータはなく、児の脂質代謝に影響する可能性(RIDは1.4%だが) コルヒチン:副作用は認められていないが、他の安全な痛風治療薬があるため、推薦されない アテノロール:妊婦が服用して、新生児の低血糖などのIUGRを起こしたためか チガソン:内服薬(ビタミンA)。角化症。ビタミンAが母乳の成分であるこから、移行すると予想。しかも脂肪組織に高濃度で蓄積。慎重になるべき。 セルセプト:母乳への移行に関するデータが全くないため、母乳栄養は避けるべき。
どうしても授乳を中止する場合 乳汁分泌は、産後の2カ月ほどは、吸啜によるプロラクチンの 影響を受け、その後は、乳汁が乳房から吸い取られることが 産生の刺激となる。 即ち、いずれの時期でも授乳自体が乳汁産生を維持している。 単純に数日間の中止を伝えると、 母乳の分泌維持が出来なかったり、 乳汁うっ帯や乳房炎を起こしたりして、 その後の授乳の再開が難しくなる。 母乳中止中も一定回数の搾乳が必要である。
最後に、、 授乳中の薬の安全性の情報はきわめて乏しく疫学的な情報がほとんど存在しない場合が多い。 授乳のメリットと薬物の安全性を考慮し、最善の方法を選択する必要がある。 今回お伝えした話は一部であること。