Lecture No. 3 動物テクノロジー概論  東京大学大学院農学生命科学研究科 高等動物教育研究センター・附属牧場 今川 和彦

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URL: http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/Kaz-Lab/index.htmlplantation Lecture No. 3 動物テクノロジー概論  東京大学大学院農学生命科学研究科 高等動物教育研究センター・附属牧場 今川 和彦 K. Imakawa, Ph.D. akaz@mail.ecc.u-tokyo.ac.jp www.vm.a.u-tokyo.ac. URL: http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/Kaz-Lab/index.htmlplantation

家畜の改良増殖を取り巻く状況 飼料価格の高騰などにより、国内の畜産農家の経営は非常に厳しい状況にあり、 更なる品質の向上や生産コストの低減 家畜の改良増殖を取り巻く状況  飼料価格の高騰などにより、国内の畜産農家の経営は非常に厳しい状況にあり、   更なる品質の向上や生産コストの低減 消費者の安心・安全に対する意識が高まる中で、良質の畜産物が生産され、   安定的に供給されること 国、地方における厳しい財政状況やそれぞれの役割、加えて新しい技術の進展などを   踏まえ、効率的で効果的な家畜改良増殖をどのように進めるか?

「肉牛肥育」ということ 正常な成長に必要な栄養水準以上の栄養を与えて、もともとその動物が持っている骨格や筋肉の発育能力を十分に発揮させたうえに、十分な脂肪の蓄積を図る飼い方 肉の化学的組成   動物の種類、性別、年齢、部位、栄養状態、輸送や貯蔵の状態で異なる    (ブロイラーを、何故、狭い舎内で飼うか?)    (ウシ肥育の仕上げはフィードロットで―アメリカ)   (ビタミンA欠乏飼育) 脂肪の蓄積   栄養状態、すなわち肥育の程度に依存する    放牧された場合や粗飼料を多給するような肥育では脂肪蓄積は少なく、    濃厚飼料の自由摂取で飼われたウシは脂肪蓄積度が高くなる ほぼ輸入飼料に頼っている

反芻動物の飼育 反芻獣は第1胃という醗酵タンクがあり、胃内微生物が粗飼料からでも 必要な栄養素を作ってくれるため、草だけでも生きていける ウマは反芻胃を持たないが・・・   ウマは胃ではなく、盲腸でウシの第1胃と同じことがおきている          ウシと同じエサ(牧草など)でかまわない 肉の舌触りは、脂肪の融点に関係する   不飽和脂肪酸含有量が高ければ高いほど融点は低い―舌触りが良い 反芻動物に不飽和脂肪酸を与えたら?   第1胃内での醗酵・分解の過程で、不飽和脂肪酸は水素添加を    受けるため、ナタネ油やヒマワリ油などを与えても、そのまま    体脂肪に移ることはない 脂肪交雑の良い肉は好まれる

アメリカでは83%(2,900万頭)が30ヶ月齢以下でと畜される 日本とアメリカにおける牛肉の生産・流通  アメリカでは83%(2,900万頭)が30ヶ月齢以下でと畜される   さらに、1頭ごとではなく部位ごとの売買のため、トレーサビリティーが困難・・・ 子牛生産     肥育       食肉加工        部位ごとの売買          (フィードロット)        アメリカ 成牛出荷 小売・輸出 (規格部位別供給) 食肉加工 放牧 サイレージ 穀物肥育 18-20ヶ月  農水省管轄        厚労省管轄  子牛生産       肥育      食肉処理場    1頭ごとの売買                       (地方自治体) 日本 小売・外食 卸・問屋 食肉加工 放牧・舎飼 舎飼 穀物肥育 成牛出荷 28-34ヶ月

牛肉トレーサビリティー法: と畜 約125万頭(全頭検査) 牛肉トレーサビリティー法: と畜 約125万頭(全頭検査)  牛の生産者 畜産農家 約11万 牛の個体識別のための情報の管理   及び伝達に関する特別措置法 国産牛の安全性を確保するのが狙い 1頭ごと(個体識別番号)の売買が トレーサビリティを可能にしている DNAサンプル   採取 全頭検査  処理場 165ヶ所 食肉卸売業者    約1万 アメリカのBSE検査 30ヶ月以上 35万頭/3500万頭 2900万頭(83%)は 30ヶ月未満でと殺 (35万頭/600万頭)   小売店  約4万 焼き肉店 ステーキ店   約2万 DNA鑑定 抜き打ちサンプル採取    年間1万~2万 部位ごと vs. 1頭ごとの流通   

優秀な雄をもつための努力 イタリアの例 国内外のトップ1%の種雄の選抜 国内のトップ1%の雌ウシの選抜   イタリア国内の登録牛約100万頭からの選抜 候補雄の精液の準備と人工授精   計画的な人工授精により、毎年約500頭の雄子ウシの生産    疾病、遺伝的能力、増体性や精子の活力検査の後、約400頭に    これらから雄一頭あたり1000本の精液、人工授精 種雄として   その後、5年間にわたって子供の能力を判定(後代検定)    約40頭が種雄ウシに 優秀な種雄の選抜にも多くの労力と時間がかかる  

優良雌を用いる増産の発想 子供の形質には、雌の遺伝子も関係する 家畜遺伝育種学   優良な雌に、優良な雄の精子を導入し、優良な子供を作る 排卵数の限界   卵巣には数十万個の卵子が存在するが、排卵数は動物種によって決まっている    ウシの排卵は、原則1性周期に1個    妊娠期間が長いために、雌が生涯に妊娠できる回数は限られている 過排卵誘起   性腺刺激ホルモンの投与により、種固有の排卵数を越える多数の卵子を排卵    動物個体差が激しいが、3~10個の排卵が可能 過排卵処置の次は?

家畜繁殖技術の発展 家畜の繁殖に関する技術は、人工授精技術を基礎に発展し、体内受精卵移植技術・ 体外受精卵移植技術は国内で広く利用されている   体外受精卵移植技術は国内で広く利用されている 現在では、性判別技術やOPU(生体卵胞卵子吸引技術)などが実用化され、更なる   普及が期待されている

過排卵と胚移植のドッキング 優良雄と雌の胚(受精卵)を別の個体の子宮に移植 過排卵と人工授精=体内受精卵   手術を行わずに、子宮から直径150~300ミクロンの胚の回収    バルーンカテーテルを膣から子宮へ挿入、バルーンを膨らませて    子宮頚管を固定    生理食塩水などで子宮内洗浄後、灌流液とともに回収 胚移植   胚(初期胚)を発情同期化牛(レシピエント・受胚牛)に移植、妊娠

体内受精卵・体外受精卵移植技術 優良雌の卵子の活用 と畜場での ホルモン投与による 卵巣採取(黒毛) 過排卵処置 未受精卵の回収 人工授精 体内受精卵・体外受精卵移植技術  優良雌の卵子の活用 と畜場での 卵巣採取(黒毛) 未受精卵の回収 体外成熟 体外受精 体外受精卵移植 ホルモン投与による 過排卵処置 人工授精 受精卵の回収 性状チェック 体内受精卵移植

体外受精の誕生と産業化 哺乳類(ウサギ)の体外受精が1959年チャン(M.C. Chang)によって 精子と卵子の効率的回収   精子の回収、凍結精子=どこにでも運搬が可    屠畜場の(和牛の)卵巣からでも卵子の回収 体外で受精   未成熟卵子から成熟卵子へ、受精、着床が可能な段階まで培養    in vitro maturation (IVM), in vitro fertilization (IVF), in vitro culture (IVC) 仮親に移植   和牛の胚を乳牛の子宮へ移植    和牛は優良なウシを、乳牛は分娩後、泌乳

体外受精 1978年、イギリスで体外受精児ルイーズ・ブラウンさんが誕生した・・・ 2006年12月、ルイーズさん(28歳)が自然妊娠で出産   ルイーズさんの妹ナタリー(体外受精児)も1999年に自然妊娠・出産 日本初の体外受精   東北大、1984年2月、体外受精により 2726グラムの男児、自然妊娠・出産    2003年8月、本邦で体外受精児が自然妊娠で男児出産 2004年までに日本では、13万5000人が生まれている   2004年だけで、1,8168人(2004年出産の1.6%) 現在、30人に1人

Ovum Pick-Up (OPU) 生体卵胞卵子吸引技術 過排卵以上に卵子を収集・活用するには?  雌の生体内の卵巣から未受精卵を吸引し、体外受精により受精卵を生産する技術は、 これまで困難であった若齢牛や妊娠牛、 繁殖障害牛からの受精卵生産が可能 高泌乳牛

OPU – IVFによる胚生産 性判別精子(雌のみ)を利用し、体外受精により、雌胚のみを作出する 問題点(ポイント):いつ、どこで卵子を「卵成熟」に導くか?

体内(卵巣内)ですすむ「卵の成熟」を体外で行うリスクは? 「卵の成熟」を体内で 卵の成長 卵の成熟 卵核胞 第一極体 第二極体 雌性前核 LHサージ 雄性前核 第一減数分裂前期 卵核胞の崩壊 第二減数分裂中期 卵原細胞 卵の直径:85μm 精子の頭部の長さ:7μm 6h 4h 2h 2~4h 8~10h 性成熟後、性周期の中で卵胞が十分な大きさに育ち、第一減数分裂が再開され、卵核胞の崩壊が起き、第1極体を放出する。その後、LHサージにより排卵が起こるが、卵子は第二減数分裂中期で休止し、精子の進入を待つ 受精できる卵子は、核と第1極体を持つものとなる。ここに精子が進入することにより受精卵となるが、精子が進入する ことにより第二減数分裂が再開始され、第2極体が放出される。このため精子が進入したかどうかを判断するためには、第2極体を確認することが必要になる 体内(卵巣内)ですすむ「卵の成熟」を体外で行うリスクは? 「卵の成熟」を体内で

E2 LHサージ  LH エストロジェン     E2 卵管へ  排卵  プロジェステロン      P4 FSH 1次卵胞  性(排卵)周期 

OPU – IVFによる胚生産 授精可能な卵子にするために: 体外培養 vs. 体内成熟 いつ(どのタイミングで)OPUを行うか? 過排卵処置したドナー牛の排卵時間の特定:  98%以上の排卵がGnRH投与後26時間以降に観察された 体外培養による卵子の成熟 体内成熟 GnRH投与後25-26時間にOPUを実施:排卵直前の成熟した卵子の採取が可能  どちらが良いか?

体内成熟OPUのメリット 初期胚の発達能や胚盤胞への発生能が高い 通常OPU 体内成熟OPU (膨化卵子数) 初期胚の発達能や胚盤胞への発生能が高い  通常OPU 体内成熟OPU (膨化卵子数) 採取卵子数       26.0  12.7 34.1  胚盤胞数        4.3  2.9 12.9  6.3 (家畜改良センター成績) 卵胞発育同調-卵胞刺激処理したドナーより採取した卵子は 初期卵割の正常性および胚盤胞への発生能が高い(今井2008) しかし、仔の♂♀比は50%

性判別技術 雌牛がミルクを生産する=精子の段階と受精卵(胚盤胞)での判別 1970年代 米国農務省USDAにて開発 性判別技術  雌牛がミルクを生産する=精子の段階と受精卵(胚盤胞)での判別  1970年代 米国農務省USDAにて開発 1990年代 性判別精子から最初の子牛が誕生 方法: フローサイトメーターより判別  雄精子と雌精子のDNA含有量の差異(3~4%) 精子の希釈と蛍光染料での染色:雌精子は雄精子よりわずかに強く染色  判別は100%可能か?  約85~90%の確率で雌子牛が誕生 受胎率は?  通常の精液の70~90%  (今のところ)雌雄判別精液の経産牛への使用は推奨されていない→? 体内成熟OPU + 性判別精子

ウシ受胎率の現状 乳用牛だけではなく肉用経産牛の受胎率も低下している いくら性判別精子を使用しても、妊娠・分娩しなかったら次の泌乳はない 農水省 「家畜改良増殖目標」 牛:効率的な繁殖・子牛生産を推進 10%の低下で年間約30億円の損失 20%の低下で年間約60億円の損失 (北海道ETセンターによる試算) 乳用牛だけではなく肉用経産牛の受胎率も低下している いくら性判別精子を使用しても、妊娠・分娩しなかったら次の泌乳はない

卵子、精子や受精が重要なことは云うまでもないのだが・・・ 低受胎率の原因を考える・・・ Palpation Ultrasound Progesterone ELISA(PAG etc.) Implantation(着床)  Day 19~20  ART(胚移植) Day 7  AI(人工授精) Day 1 Day 280   妊娠期間・分娩  Day 30  Fert. rate   受精率 90~95% Preg. Rate   妊娠率(受胎率) 40~55% Fert. rate  100% Blast. formation Preg. rate 45~60% Ovulation, sperm, and fertilization are important, but construction of proper uterine environment is also important for higher pregnancy rate  卵子、精子や受精が重要なことは云うまでもないのだが・・・ Estrous cycle control     Pregnancy control          性周期                    妊娠(受胎率)  Improvement in implantation      Increase in pregnancy rate       着床(率)の改善                    受胎率の向上

家畜繁殖技術の発展 家畜の繁殖に関する技術は、人工授精技術を基礎に発展し、体内受精卵移植技術・ 体外受精卵移植技術は国内で広く利用されている   体外受精卵移植技術は国内で広く利用されている 現在では、性判別技術やOPU(生体卵胞卵子吸引)技術などが実用化され、更なる   普及が期待されている

遺伝率の推定値  有性生殖(減数分裂)では、親の形質がそのまま子に伝わることはない  たとえ、性判別精子の使用で妊娠・分娩しても遺伝率が低ければ・・・  形質                   遺伝率(h2) 乳牛  乳量  0.2 ~ 0.3              脂肪率 0.4 ~ 0.8  乳タンパク質含量 0.4 ~ 0.7  妊娠期間 0.2 ~ 0.4 ブタ  増体重 0.1 ~ 0.3  赤肉割合 0.14~0.76  背脂肪厚 0.2 ~ 0.6  飼料効率 0.15~0.6  産子数 0.1 ~ 0.2 親のもつ遺伝的能力を そのまま利用できないか?

クローン? 有性生殖を介さないで「子」を作ることは可能か? クローン?  有性生殖を介さないで「子」を作ることは可能か? Klon (ギリシャ語で小枝)             挿し木で全く同じ植物が増えていくことの意 ひとつの細胞から増殖した遺伝的に同一な複製生物 ヒトや動物の一卵性双生児 すでにクローン牛はいっぱいいた?

生殖細胞(受精卵)クローン vs 体細胞クローン ドリー誕生までの長い道のり 生殖細胞(受精卵)クローン vs 体細胞クローン ドリー誕生までの長い道のり 人工授精   優秀なオス牛の精子をメスの子宮に注入する 体外受精   メス牛の卵巣から卵子を取り出し、試験管内で成熟させ た後、   オス牛の精子と受精させ、受精卵を代理母のメス 牛に移植   (受精卵移植)する 生殖細胞(受精卵)クローン   すでに相当数が生まれている 体細胞クローン ヒツジ(ドリーなど)、ウシ、マウス、ブタ、ネコ(Cc)

受精卵クローンが産まれるまで 受精後4~5日、8~16細胞期に割球に分ける 性周期を合わせる(発情同期化) 受精の仕方‐体外受精と同じ 受精卵の分割(2倍体=一対のまま)        受精後4~5日、8~16細胞期に割球に分ける   一個一個の細胞にバラしても、それぞれが個体になりえる →全能性を持つ細胞   借り腹(代理母・受胚牛)の準備   性周期を合わせる(発情同期化) 細胞融合・受精卵                       割球を除核したそれぞれの卵子に核移植し、細胞融合させると 受精卵になる。その後、代理母のメス牛に受精卵を移植し、産んでもらう 16細胞の割球から11頭が生まれた・・・

体外授精 細胞融合による受精卵クローン 除核 受精卵移植 受精卵の提供動物(ドナー) 未受精卵の提供 代理母 割球に分離 割球の挿入・融合   割球に分離 未受精卵の提供   除核    割球の挿入・融合 未受精卵から受精卵へ変身 代理母 受精卵移植    妊娠・分娩

体細胞クローン 細胞融合の技術は確立されていた ドリー誕生の技術・成功のカギは? 体細胞クローン 細胞融合の技術は確立されていた ドリー誕生の技術・成功のカギは? ドナー細胞                      皮膚や筋肉などの体細胞の培養 いかにして全能性(初期化)を持たせたか? 核移植                         ドナー細胞の核を別の除核した卵子に移植 電気刺激による核と卵子の融合 受精卵移植                     

ドリー成功の秘訣 一度分化した細胞は全能性細胞に戻らないのか? 未分化細胞   全能性細胞(受精卵が3回分裂するぐらいまで) 分化した細胞   発生・分化を経た体細胞 一度、分化した乳腺細胞を未分化(様)細胞に戻すには?   初期化処理→全能性の回復(?)

体細胞クローンの作出 乳腺細胞の培養 体細胞の提供 全能性の獲得 未受精卵の提供 未受精卵の採取 除核 核移植 レシピエント(代理母)   未受精卵の採取 除核    核移植 レシピエント(代理母)   胚移植

世界一有名なヒツジの生と死を見つめて ドリーは赤ちゃんじゃなかった? 体細胞クローン                    6歳のメスのヒツジの乳腺細胞から取り出した核を別の   ヒツジの未受精卵に移植し、代理母の子宮で育てた 誕生 1996年7月5日、イギリスのロスリン研究所 妊娠・出産 1998年 娘ボニー、1999年 三匹 関節炎 2001年 早すぎる老化が始まる 安楽死 2003年2月14日 進行性の肺疾患 年齢 6歳7ヶ月、ヒツジの平均寿命の半分  

クローン動物の人(牛)格? 個性は遺伝子だけでは決まらない・・・ 一卵性双生児ほど似ていない クローン動物同士でも社会的順位が生まれる   個性は遺伝子だけでは決まらない・・・ クローン動物は子孫を残すことができる クローン動物には異常が多すぎる     ヒツジ、ウシ  体の巨大化     マウス      過度の肥満     ブタ       心臓の異常  発育障害、肺の異常、免疫機能不全など

クローン牛を食べても平気なの? 普通のウシの6倍だが原因は不明 死産や生後まもない子牛の死亡率が30% 動物実験では問題はなかった・・・   普通のウシの6倍だが原因は不明 動物実験では問題はなかった・・・ いまのところ健康被害はない・・・

クローンは救世主か災いのもとか 動物工場で薬を生産 医薬品を家畜の体内で生産           有用な蛋白質(ヒト血液凝固第九因子、ヒトポリクローナル抗体など)をつくる遺伝子を組み込み(トランスジェニック)乳に分泌させる。 クローンにより個体を増やす   植物や魚のクローンは進んでいる。

クローン牛の作出 何故、クローン牛の作出か? 平成11~17年度 農林水産技術会議事務局 クローン牛の作出   何故、クローン牛の作出か? 平成11~17年度 農林水産技術会議事務局  21世紀グリーンフロンティア研究・遺伝子組み換え及び  クローン技術による画期的な動植物の研究  「体細胞クローン動物における個体発生機構に関する研究」  目的:   「体細胞クローン技術の高度化・安定化を目指し、個体発生の   基礎メカニズムを解明する」  実施機関:   9機関15研究室 平成18~22年度 農研機構の交付金プロジェクトとして  「体細胞クローン牛の作出率向上のための個体発生機構の解明  実施機関として、畜産草地研究所と九州沖縄農業研究センターを含む  4機関5チーム

クローン牛の作出手順 

核移植胚の作出方法 (1)レシピエント卵子の準備 (2)レシピエント卵子の除核 (3)ドナー細胞の注入 (4)細胞融合   ①卵巣輸送   ②COCの採取   ③成熟培養   ④成熟卵子の裸化処理 (2)レシピエント卵子の除核   ①ホールディングピペットの作製   ②カッティングニードルの作製   ③除核   ④インジェクション (3)ドナー細胞の注入 (4)細胞融合 (5)活性化処理と発生培養 畜産草地研究所

食肉処理場由来の卵巣または生体から卵丘細胞-卵子複合体(Cumulus-Oocyte (1)レシピエント卵子の準備   食肉処理場由来の卵巣または生体から卵丘細胞-卵子複合体(Cumulus-Oocyte Complexes: COC)を採取、体外成熟後に用いる   ①卵巣輸送    滅菌生理食塩水に抗菌剤(ペニシリン、     ストレプトマイシンなど)を入れたもの   ②COCの採取

ヒアルロン酸分解酵素による卵丘細胞の除去 成熟培養の確認は? 第一極体の放出 ③成熟培養 ④成熟卵子の裸化処理 卵子洗浄                体外成熟後のCOC = 卵丘細胞の除去 ヒアルロン酸分解酵素による卵丘細胞の除去 成熟培養の確認は? 第一極体の放出

①ホールディングピペットの作製 ②カッティングニードルの作製 (2)レシピエント卵子の除核   ①ホールディングピペットの作製    ②カッティングニードルの作製 マイクロプーラー: ヒーター部の ビーズ玉に 先端部を接近させ 丸く溶かす  ③除核およびインジェクション システム ホールディング ピペットと カッティング ニードルがセット された様子

未受精卵の除核 卵子の固定 透明帯の切開 第1極体を上にし、 第1極体の真上の透明帯に ホールディングピペットで 未受精卵の除核  卵子の固定 第1極体を上にし、 ホールディングピペットで 吸引固定 透明帯の切開  第1極体の真上の透明帯に カッティングニードルを貫通させる  ホールディングピペットと カッティングニードルを摺り合わせて 透明帯を切開 カッティングニードルで上から 押さえながら、第1極体と その近くの核を含む細胞質を 押し出す

ドナー細胞の注入=インジェクション インジェクションピペットにドナー細胞を吸引 レシピエント卵子をホールディングピペットにより固定 ドナー細胞の注入=インジェクション  インジェクションピペットにドナー細胞を吸引 レシピエント卵子をホールディングピペットにより固定 ドナー細胞を囲卵腔内(透明帯と卵の間)に注入

ドナー細胞とレシピエント卵子の細胞融合 融合用シャーレに卵子を入れる ドナー細胞とレシピエント卵子の接触面が電流方向に対して ドナー細胞とレシピエント卵子の細胞融合  融合用シャーレに卵子を入れる ドナー細胞とレシピエント卵子の接触面が電流方向に対して 垂直になるよう固定する ニードル型電極、DC25V/150 mm、10 msec x 1回 通電

活性化処理と発生培養  培養7日目の胚盤胞期の 核移植胚 ドナー牛と体細胞クローン牛      畜産草地研究所

遺伝子導入動物の作出 Gordon マウス 受精卵前核へのプラズミドDNA顕微 注入による遺伝子導入マウスの作出 遺伝子導入動物の作出  Gordon        マウス  受精卵前核へのプラズミドDNA顕微                           注入による遺伝子導入マウスの作出 Gordon &       マウス 遺伝子導入マウスの導入遺伝子がメンデル                        Ruddle                 の法則で次世代へと受け継がれることを発見 Palmiter ら      マウス   成長ホルモン遺伝子を導入したマウスが                         大型化することを発見 1985 Brinster ら マウス   遺伝子導入効率に関係する要因を発見 1986 Hammer ら      ウサギ 中家畜で初めて遺伝子導入に成功                   ヒツジ 効果は?   ブタ 1989 Roschlau ら ウシ    ウシで初めて遺伝子導入に成功 1991 Krimpenfort ら    ウシ    体外受精技術を応用した遺伝子導入ウシの作出 1999 Eyestone ら      ウシ    体外受精技術を利用した遺伝子導入ウシの                           商業的利用 遺伝子導入だけではなく、その解析技術の向上

受精卵をふるいにかける? 「性別」や「遺伝病」を判別する「着床前診断」の功罪? 初期胚の発達途上で1個の細胞を切り離し、遺伝子診断   受精卵には、一部分の細胞が失われても、残りの細胞がその欠落を    補償し、その後の発達を「調整」する能力がある ディシェンヌ型筋ジストロフィー   2~4歳前後で発病、全身の筋肉が萎縮して歩行や運動が困難に   X染色体に原因遺伝子、ほとんどが男性(X染色体1本)に発病   着床前診断:XXなら子宮に、XYなら凍結保存や研究に  「いのち」の選別につながる着床前診断はすべきではない  (デザイナー・ベイビー)

遺伝子がもたらす医療新時代 Peering into the future 現在(2007年1月)、遺伝子検査が行われている疾患   遺伝病を中心(単一の原因遺伝子)に1300種以上    乳がん(BRCA)5~10%、大腸がん3~5%にしか変異がない・・万能ではない 遺伝性疾患のリスク評価   新生児を対象に29種類の病気の検査:イソ吉草酸血症(IVA) 着床前遺伝子診断   ハンチントン病(不随意運動や痴呆) 複数の遺伝子が関与する疾患の場合   2型糖尿病、心臓病、アルツハイマー病・・・2010年までに検査法 カスタム医療

着床前診断、その是非は? 「賛否両論」生命の選抜につながる・・・読売新聞2007年5月27日 日本遺伝カウンセリング協会での報告   日本筋ジストロフィー協会が2005年に実施した調査(回答者1292人の患者)   筋ジストロフィー患者の約4割(38.0%)が賛成、反対16.9%、    分からない39.9% 「デュシェンヌ型」の着床前診断は承認 遺伝子の異常により発症

血液検査だけで「がん」を早期発見 タンパク質やエキソソーム診断ががん治療のカギ? 「がん」などの病気と闘う最善の方法   初期症状を見逃さないこと バイオマーカー(指標)   タンパク質は人体が正常に機能するのに欠かせない    DNAよりはるかに多様で細胞の機能と密接に関わっている    病気に罹ると、タンパク質がその病気特有の生物変化を示す    メラノーマ(悪性黒色腫)や乳がんなどは前駆症状の段階で特有の    タンパク質が生じる   様々ながんに特有なエキソソームの発見 すべての病気のバイオマーカー特定は可能か?   リー・ハートウエル(フレッドハチンソン癌研究所) 3~5年以内に

日本初の遺伝子治療の成果は? 北海道大学病院でのアデノシン・デアミネース(ADA)欠損症に治療の試み    とくにリンパ球が減って重い免疫不全症に、幼児期に死 「治療は安全かつ有効だった」   ADA遺伝子を組み込んだウイルスベクターを血液から分離したリンパ    球に取り込ませ、異常がないことを確認後、点滴でからだに戻す    7回目の治療後、免疫機能の改善、ほかの子と一緒に遊べるまでに    この方法だと、治療をし続けなければならない    骨髄の造血幹細胞に正常な遺伝子の導入すれば半永久的な治療効果

クローン技術で移植臓器はつくれるか? 肝細胞だけあれば肝臓がつくれるわけではない 特徴的な構造をもつ臓器を作り出すことは非常に難しい 移植用臓器の不足   心臓や肝臓、腎臓などに重い障害を抱え、臓器移植を待つ患者は多い 異種移植の可能性   ヒト以外の動物(ブタなど)の臓器を移植につかう    しかし、拒絶反応が・・・      超急性拒絶反応(a-ガラクトース、移植後数分で)      急性拒絶反応(移植後1週間から3ヶ月)      慢性拒絶反応(移植後3ヶ月以降) 2002年1月、a-ガラクトース遺伝子欠損ブタが作出されたが、 拒絶反応抑制は、この先が本番 

キメラという発想 Chimeraギリシャ神話「ライオンの頭、雌ヒツジの胴、ヘビの尾」の怪獣 ブタの初期胚にヒトのES細胞を注入したら・・・    やってみないと分からない 「クローン規制法」による制限 キメラ・ブタは「特定胚」のうち「動物性集合胚」にあたり、研究は「可」

男性の体細胞から卵巣や子宮がつくれるか? 性腺(精巣と卵巣)の発達時期の違い   精巣は卵巣より3~4週間も発達が早い 何がオスを決めるか?   ヒトは女性になるようにプログラムされている   Y染色体上のSRY遺伝子で男性生殖器官に分化する 成熟した卵子を作るには   染色体がXYのままだと、減数分裂が進まず成熟した卵子は出来ない    ターナー症候群(X染色体が1本)は卵巣が未発達だが、子宮は存在    受精卵の提供があれば、妊娠は可能   SRYを抑えただけではターナー症候群と同じになるだけ 性染色体をXXにする必要がある

不妊男女のための治療クローニング 人工授精、体外受精、そのほかには? 男女の体細胞の核をそれぞれ未受精卵に移植 ES細胞の樹立   初期胚(胚盤胞)で内部細胞塊(ICM)と取り出しES細胞に 体外で精巣または卵巣に分化   分化後、成熟した精子や卵子を得る 体外受精      生殖腺への分化は、実験的には成功しているが・・・

ES細胞:今後の展開 超えなければいけない2つのハードル 体外で大きな臓器をつくる   必要とされる細胞への効率的な分化と、   血管(動脈と静脈)、リンパ管、支持組織をどのように開発するか?    大きな臓器を体外でどのように維持するか    ブタの体内で                             異種移植 未分化なES細胞の「がん」の可能性   未分化な細胞と分化した細胞群を見分けられるか?    どのようにすれば未分化な細胞を分化した細胞群から分けられるか? 幹細胞・多能性幹細胞はLecture 4で詳述