聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院救命救急センター 中山太雅(代謝・内分泌内科)

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聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院救命救急センター 中山太雅(代謝・内分泌内科) Journal Club 2014年10月7日(火) Low-Dose Dopamine or Low-Dose Nesiritide in Acute Heart Failure With Renal Dysfunction ~The ROSE Acute Heart Failure Randomized Trial~ 今回私は※「タイトル」を読みましたので、こちらについて発表致します。 JAMA ; 310: 23: 2533-2543. 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院救命救急センター                中山太雅(代謝・内分泌内科)

DESIGN ① ■多施設2重盲検プラセボ比較試験 ■2010年9月~2013年3月までに入院した急性心不全症例に対してROSE studyが施行された。 ●ROSE:Renal Optimization Strategies Evaluation 低用量Dopamine(2μg/㎏/min)もしくは低用量 Nesiritide(0.005μg/㎏/min)を利尿療法として施行 し、心うっ血改善と腎機能保持の効果を解析する。 まず、今回の試験のデザインです。本試験はROSE試験と呼ばれ、低用量ドパミンもしくは低用量ネシリタイドを利尿治療で使用した際の心うっ血の改善や腎機能保持は認められるかをプラセボ群と比較したものです。本試験は多施設2重盲検プラセボ比較試験であり、北アメリカの26ヶ所で2010年9月~2013年3月まで施行されました。

DESIGN ② <Inclusion criteria> ■急性心不全と腎不全を合併する360人を対象 ■腎不全:eGFR 15~60ml/min/1.73m2 ■急性心不全の診断は少なくとも1徴候(呼吸困難、起坐呼吸、浮腫)と1症状(ラ音、浮腫、腹水、CXp上の肺血管うっ血)が必要で心駆出率(EF)は関与しない。

DESIGN ③ また、試験施行にあたり下記が条件とされた。 ■毎日Lasixを内服していた被験者は元々の量の2.5 倍にあたる1日推奨投与量最大600mg/dayまで経 静脈的にラシックスを投与。 ■外来でLasixを内服していなかった被験者は入院 後Lasix 80mg/dayを経静脈的に投与。さらに、1日 投与量の半分を少なくとも2回に分けbolusで投与。 ■全ての被験者に食塩2g/日と水分2L/日の制限。

DESIGN ④ ■360人の被験者を以下の手順で割りつけた。 Ⅰ.無作為非盲検下で1:1 の割合でNesiritide (177人)とDopamine(183人)の2群に割り付け Ⅱ.2群を無作為2重盲検下で治療群とPlacebo群に2:1で割り付け(N:119/P:58、D:122/P:61) Ⅲ.各治療群(Nesiritide 119人、Dopamine 122人) とPlacebo群合計(119人)で実際に治療介入が あったかどうか確認し72時間主要転帰の確認 ※N:Nesiritide、D:Dopamine、P:Placebo まず、本試験の被験者は合計360人であり、非盲検下で約1:1の割合でネシリタイド群(177人)とドパミン群(183人)に無作為に割り付けました。さらに、ネシリタイド群から実際の治療群119人とプラセボ群58人、同様にドパミン群から実際の治療群122人とプラセボ群61人に2重盲検下で無作為に割り付けました。次に、ドパミン群の治療施行者183人、ネシリタイド群の治療施行者119人、さらに両群のプラセボ被験者を合わせた119人が実際に治療介入があったかを確認したうえではじめの無作為化から72時間後で主要転帰に至ったかを確認しました。

割り付け方法 こちらのFigure1は、本試験の被験者の割り付け方とドパミン、ネシリタイド、プラセボの各群に割りつけられた被験者が主要転帰に至ったか至らなかったかを示しています。 なお、プラセボ群54人、ドパミン群11人、ネシリタイド群2人は試験薬を服用せず、投薬期間は各群で有意差はありませんでした。次のスライドから具体的に説明します。

DESIGN ⑤ ■すべての被験者は試験開始前に下記の項目を チェックされている。 ●vital sign、血清Cr値、血清cystatin C、血清N- terminal probrain natriuretic peptide、電解質 N-terminal probrain natriuretic peptide:NT-proBNP ■72時間を通して24時間ごとに蓄尿が施行され、 蓄尿量と尿中Na排泄値を確認された。 ■全ての試験者を無作為後から60日後と180日後 に電話でvital signを評価し再入院とした。

では、Trial end Pointsは何? 今回のROSE試験の主要転帰は以下の項目か ら構成される。 Ⅰ.72時間後の累積蓄尿量 →心うっ血改善効果の指標とされる Ⅱ.72時間後の血清cystatin C 変化量 →腎機能保持の指標とされる 今回のROSE試験の主要転帰は「72時間後の累積蓄尿量」と「72時間後のシスタチンCの変化量」の2項目であり、蓄尿量は心うっ血改善効果の指標、シスタチンCの変化量は腎機能保持の指標とされた。

Treatment failure 無作為後72時間でいずれかを認めた場合とした。 ■血清Cr値が0.3㎎/dl以上増加するtype1心腎症 候群の発症 ■心不全に対して経静脈的に血管作動薬を追加 したり限外濾過をしたり人工呼吸器を使用した りなど救命治療が必要とされる程の心不全悪 化もしくは持続 ■試験薬の中止を必要とする程の著明な血圧低 下もしくは著明な頻脈

統計解析 ■general linear models:各々の複合主要転帰における治療効果を評価 ■multiple imputation:失敗したデータの収集 ■Intention-to-treat:すべての治療群の比較 ■general linear models and logistic regression analysis:副次的転帰の評価 ■Kaplan-Meier curves、log-rank tests、Cox proportional hazards models:time-to-event比較 ■SAS version 9 or higherをすべてで使用した。

各群のcharacteristicsについて Table 1 Table1に2つの治療群の結果が記載されている。各試験群のベースラインの特性は類似していた。被験者の中央年齢は70歳、73%が男性で21%が女性であった。EFの中央値は33%で、全体の26%にあたる44人の被験者はEF50%以上であった。被験者の多数(67%)は12ヶ月以内に心不全で入院歴があった。試験デザインでは被験者には中等度~重度の腎不全がありeGFRの中央値は42ml/min/1.73m2であった。eGFRの各層で各群に有意差はありませんでした。

Table2 こちらTable2はドパミンVSプラセボ、ネシリタイドVSプラセボにおける主要転帰である72時間の蓄尿量と72時間でのシスタチンC変化量について有意差を認めたかを記載しています。

Table3 こちらTable3ではドパミンVSプラセボ、ネシリタイドVSプラセボにおけるsecondary end pointsについて有意差を認めたかを記載しています。赤枠の囲いは有意差を認めた項目です。

Subgroup Analysis(Dopamine VS Placebo) こちらはドパミン群とプラセボ群のサブグループ解析についてです。Forrest plotより赤枠で囲っているEF>50で時の72時間蓄尿量のみ明らかな有意差を認めました。

結果 (Low-dose dopamine VS Placebo) Ⅰ.72時間での蓄尿量とcystatin C変化量に有意差 を認めなかった→主要転帰に有意差なし Ⅱ.72時間での血清Cr値変化量、体重変化、尿中 Na値、NT-proBNP、type 1心腎症候群の進行 に有意差なし→副次的転帰も有意差なし Ⅲ.72時間での治療失敗はDopamine群の方が低 血圧、頻脈のため治療中断となった被験者が 多かった。 上記を言う。

結果 (Low-dose dopamine VS Placebo) Ⅳ.60日時点での死亡率、重篤有害事象発生数、 生存者数に有意差はなかった。 Ⅴ.72時間で利尿薬全使用量と水分摂取量に有 意差はなかった。 Ⅵ.baseline chacteristicsにおいて有意差を認めた のはEF>50%での72時間蓄尿量のみであり、 プラセボ群の方が尿量が多かった。 上記を言う。

Subgroup Analysis(Nesiritide VS Placebo) こちらはネシリタイド群とプラセボ群のサブグループ解析についてです。Forrest plotより赤枠で囲っているSBP≦114mmHgの際の72時間蓄尿量で明らかな有意差を認めました。

結果(Low-dose Nesiritide VS Placebo ) Ⅰ.72時間での蓄尿量とcystatin C変化量に有意差を認めなかった→主要転帰に有意差なし Ⅱ.72時間での血清Cr値変化量、体重変化、尿中Na値、NT-proBNP、type 1心腎症候群の進行に有意差なし→副次的転帰も有意差なし Ⅲ.72時間での治療失敗はNesiritide群の方が「低血圧」による治療中断となった被験者が多かったが有意差としては認めていない。 Ⅳ.60日、180日時点での死亡率、重篤有害事 象発生数、生存者数に有意差はなかった。 なお、ここでの治療失敗(treatment failure)は無作為後72時間での、type 1心腎症候群、心不全の悪化/持続、試験薬の投薬中止が必要となる頻脈や低血圧、のいずれか一項目の進行とする。

結果(Low-dose Nesiritide VS Placebo ) Ⅴ.72時間で利尿薬全使用量と水分摂取量に有 意差はなかった。 Ⅵ.baseline characteristicsにおいて収縮期血圧 ≦114mmHgでの72時間蓄尿量で有意差を認 め、Nesiritide群の方が尿量が多かった。 Ⅶ.baseline charactericticsにおいてEF<50%での 72時間cystatin C 変化量で有意差を認め、 Nesiritide群の方が少なかった。

そもそもROSE試験の由来は? 急性心不全での低用量Dopamineの効果を示 唆する先行研究が行われ、低用量Dopamineは 催不整脈作用や心変力作用を減少すると仮定。 しかし、その先行研究はEF<40%の被験者には より高用量のDopamineを使用したり投与期間 が一定しない等の問題点があった。 ■そこで投薬期間が一定で試験薬の投与量も 一定のROSE試験が検討される。

今回の研究のlimitations ■ROSE臨床試験は臨床イベントの相違点を発見するには至らなかった。 ■無作為化前の利尿薬使用を認めた被験者が 存在する。 ■無作為化前に利尿薬未使用であった被験者 は臨床医の判断により利尿薬投与後24時間 で投与量が調整された被験者がいる。 これらの要因は主要複合転帰に影響を与え る可能性がある。

Take Home Message 急性うっ血性心不全と中等度もし くは重度腎不全を合併する被験者 低用量Dopamineも低用量Nesiritide のどちらも心うっ血の改善や腎機能 の改善に効果を認めない。