抗菌薬の投与方法 新潟県立看護大学 野村憲一

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米国の外来呼吸器感染症での抗菌薬投与状況 抗菌薬投与率 普通感冒 5 1% 急性上気道炎 52% 気管支炎 6 6% 年間抗菌薬総消費量 21% 【 Gonzales R et al : JAMA 278 : ,1997 】
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抗菌薬の投与方法 新潟県立看護大学 野村憲一 新潟県立看護大学 野村憲一 公益財団法人 北野生涯教育振興会の助成金(2015年)によって、本資料は作成されました。この場を借りて感謝いたします。

このことをわかるには、母集団薬物動態解析を理解しておかなくてはなりません。 最近の抗菌薬の投与方法はここが変わった! βラクタム薬は、1日2回投与ではなくて3回投与が主流です。 このことをわかるには、母集団薬物動態解析を理解しておかなくてはなりません。

抗菌薬の薬物動態学・力学(PK-PD) 薬物の用法・用量の根拠となる臨床薬理学的理論が構築されつつある. 有効な 投与法の 探索 PK (標的部位での抗菌薬の濃度) PD (最小発育阻止濃度:MIC) 有効な 投与法の 探索

臨床的有効性とPK-PDパラメーター ② T>MIC (%) ③ AUC24/MIC ① Cmax/MIC比 MIC AUC Cmax 濃度依存的に抗菌作用を示す. キャンディン系 ポリエン系 時間依存的に抗菌作用を示す. 中間的な性質を示す. アゾール系

抗菌薬のPK-PDパラメーター 薬力学的分類 治療目標 フルオロキノロン系 ガチフロキサシン レボフロキサシン モキシフロキサシン  ガチフロキサシン  レボフロキサシン  モキシフロキサシン 濃度依存性 (時間非依存性) 24時間AUC/MIC比>25-30 マクロライド系  エリスロマイシン  クラリスロマイシン  アジスロマイシン MIC超過時間 time above MIC >40-50% 24時間AUC/MIC比>25-30 濃度非依存性 (時間依存性) ベーターラクタム系  ペニシリン系  セファロスポリン系 濃度非依存性 (時間依存性) MIC超過時間 time above MIC >40-50%

Time above MICの薬剤 第4世代セフェム(セフォゾプラン)

Low MICの細菌に対するシミュレーション (第4世代セフェム(セフォゾプラン)の場合) 100 (mg/mL) 10 2バイアル/30分 抗菌薬濃度 低い MIC %T>MIC=6時間=25% 50%にするには→1日2回投与で十分 6時間 0.1 例をあげて紹介します. 例えば,このように,あるセフェム系薬でMICを上回る時間が6時間だったとします. Time above MICが50%以上となるには, MICを上回る時間を12時間以上にする必要がありますので,1日2回投与が推奨されます. 0.01 4 8 12 16 20 24 時 間

ところが, では,high MICの場合は? 100 10 高い MIC 0.1 0.01 4 8 12 16 20 24 時 間 (mg/mL) 10 抗菌薬濃度 2バイアル/30分 2バイアル/30分 高い MIC %T>MIC=5時間=20.8% 50%にするには→1日に2Vの3回投与(計6V)が必要. 5時間 0.1 また,このように,あるセフェム系薬でMICを上回る時間が4時間の場合では,Time above MICが50%以上(12時間以上)となるには,1日2回の投与では不十分で,1日3回投与が推奨されます. ところが, 0.01 4 8 12 16 20 24 時 間 1日あたり,4バイアルまでの保険診療上の規定があるので・・・.

3回/日投与(2V, 1V, 1V) のシミュレーション 100 10 高い MIC 0.1 0.01 4 8 12 16 20 24 2バイアル 2バイアル (mg/mL) 1バイアル 10 抗菌薬濃度 %T>MIC=12時間=50% 6時間 4時間 2時間 高い MIC 0.1 また,このように,あるセフェム系薬でMICを上回る時間が4時間の場合では,Time above MICが50%以上(12時間以上)となるには,1日2回の投与では不十分で,1日3回投与が推奨されます. 0.01 4 8 12 16 20 24 時 間

必ずしも3回/日投与の方がtime above MICが長いとは限らない. 3回/日投与は,いつも2回/日投与よりも有効なのか? 100 1V 2V 2V (mg/mL) 10 必ずしも3回/日投与の方がtime above MICが長いとは限らない. Very High 抗菌薬濃度 3hr 3hr 1hr Zone 2 Middle Zone 1 Low 0.1 また,このように,あるセフェム系薬でMICを上回る時間が4時間の場合では,Time above MICが50%以上(12時間以上)となるには,1日2回の投与では不十分で,1日3回投与が推奨されます. 0.01 4 8 12 16 20 24 時 間 Zone 1では,3回投与の方がT>MICは長い. Zone 2では,2回投与の方がT>MICは長い.

持続投与のシミュレーション 100 10 MIC 0.1 0.01 4 8 12 16 20 24 時 間 (mg/mL) 抗菌薬濃度 %T>MIC=24時間=100% MIC 0.1 また,このように,あるセフェム系薬でMICを上回る時間が4時間の場合では,Time above MICが50%以上(12時間以上)となるには,1日2回の投与では不十分で,1日3回投与が推奨されます. 0.01 4 8 12 16 20 24 時 間

持続投与のシミュレーション 持続投与では,まったく効果がない場合がある. 100 10 MIC 0.1 0.01 4 8 12 16 20 (mg/mL) 10 抗菌薬濃度 MIC %T>MIC=0時間 0.1 また,このように,あるセフェム系薬でMICを上回る時間が4時間の場合では,Time above MICが50%以上(12時間以上)となるには,1日2回の投与では不十分で,1日3回投与が推奨されます. 0.01 4 8 12 16 20 24 時 間 持続投与では,まったく効果がない場合がある.

3回/日投与(1V, 1V, 1V)のシミュレーション 100 10 High MIC 0.1 0.01 4 8 12 16 20 24 (mg/mL) 10 1V 1V 1V 抗菌薬濃度 High MIC 2h 0.1 また,このように,あるセフェム系薬でMICを上回る時間が4時間の場合では,Time above MICが50%以上(12時間以上)となるには,1日2回の投与では不十分で,1日3回投与が推奨されます. 0.01 4 8 12 16 20 24 時 間 1回に1V(計3V/日)では,time above MICが維持できない場合がある.

セフェム系の最適投与法 2V,1V,1V, 8時間おき.

AUC / MICの薬剤 イトラコナゾール ボリコナゾール

予防投与として用いたイトラコナゾールシロップの 薬物動態 臨床試験(京都府立医科大学倫理委員会承認番号C-290) 予防投与として用いたイトラコナゾールシロップの 薬物動態 Kanbayashi Y, Nomura K, et al., International Journal of Antimicrobial and Agents, 2009

背景 造血器悪性腫瘍に対する化学療法後の好中球減少 時にみられる侵襲性アスペルギルス症は,致死率 50%ときわめて予後不良である. (Kume H, et al., Pathol Int 2003, 53:744-750. ) アスペルギルスにも高い活性を示し,吸収率も改善 されたイトラコナゾール内用液は,予防効果が期待 できる薬剤の一つである. 造血器悪性腫瘍に対する化学療法後の好中球減少時にみられる侵襲性アスペルギルス症は、致死率50%ときわめて予後不良です。 アスペルギルス属にも高い活性を示し、また吸収率が改善されたイトラコナゾール内用液は、予防効果が期待できる薬剤です。 17

目的 深在性真菌症予防には,イトラコナゾールはトラフ値が 250ng/mLは必要. しかし,トラフ値から,適正投与量を決定することは困難. 患者の血中濃度にもとづいた,母集団薬物動態解析に より,日本人での深在性真菌症予防としてのイトラコナ ゾール内溶液の至適投与法を確立する. 18

母集団薬物動態解析(Population Pharmacokinetic Analysis)とは? 解析プログラムとして,Bealらが開発したNONMEM (Nonlinear Mixed Effect Model:非線形混合効果モ デル)が広く利用されている. ここで、母集団薬物動態解析(Population Pharmacokinetic Analysis)について説明いたします。 19

患者および方法 京都府立医大附属病院の血液・腫瘍内科で化学療法を受 けた入院患者7名 イトラコナゾールシロップ200mg/1回/日を予防目的で投与 し,定常状態での血中濃度を測定(24ポイント) 母集団薬物動態解析にて薬物動態パラメーターの算出を 行い,解析・検討した.  (NONMEM version VI, level 1.0 ) 20

薬物動態モデル 母集団薬物動態解析の結果、最適なベースモデルとしてこのようなモデルを選択いたしました。 薬物動態モデル ADVAN2 TRANS2(線形) 1次吸収過程のある1-コンパートメントモデル 混合効果モデル(個体間変動) 指数誤差(exponential)モデル 測定誤差(ERROR)モデル 期待値推定アルゴリズム FO(first order approximation)      POSTHOC:経験ベイズ推定 母集団薬物動態解析の結果、最適なベースモデルとしてこのようなモデルを選択いたしました。 21

結語 日本人のイトラコナゾールシロップの母集団薬物動態パラメーターを決定した.この結果により,投与量・方法別のシミュレーションが可能となった. 真菌感染症は,イトラコナゾールシロップ200mg/日の投与で予防でき,服用困難な症例では分割投与も同等の効果が期待できる.

アスペルギルス症例に対するボリコナゾールの有効性 Nomura K, et al., European Journal of Clinical Microbiology, 2009.

母集団薬物動態パラメーター Parameter mean (RSE %) 500 Bootstrap replicates median (95%CI) CL(L/hr) 11.2 (21.3) 11.5 (8.1-15.9) Vd(L) 68.7(12.0) 68.5(57.4-81.54) Kel 0.163 0.167 AUC(μg·hr/mL) 17.86 17.39 AUC(0-24hr) 35.71 34.78 t1/2(hr)=0.693/Kel 4.25 4.15 Cmax 2.91 2.90

日本人でのAUC/MIC>20の割合 Reliability=89.2% possibility Crystal ball Ver.7