疫学初級者研修 疫学概論 アウトブレイク(集団発生)調査の基本ステップ

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レセプトに関連する動向1 レセプトにまつわるトピック 労災レセプト 高齢者の一部負担金問題
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大阪市の依存症対策 現状と課題 H29事業 共通 アルコール依存 薬物依存 ギャンブル等依存 治療が長期間に及ぶ-薬物治療の効果は限定的
~ 生産者の皆さん、抗菌剤の慎重使用等対策を進め、
疫学概論 疫学研究の目的 Lesson 1. 疫学研究 §A. 疫学研究の目的 S.Harano,Md.PhD,MPH.
議論の前提 ある人獣共通感染症は、野生動物が感染源となって直接又は媒介動物を通じて人に感染を起こす。
疫学概論 §C. スクリーニングのバイアスと 要件
疫学概論 横断研究 Lesson 11. 記述疫学 §A. 横断研究 S.Harano,MD,PhD,MPH.
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~「依存症対策のあり方について(提言)」(平成29年3月)と府の対応~
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疫学初級者研修 疫学概論 アウトブレイク(集団発生)調査の基本ステップ 2002.2.19. 岡山市保健所 中瀬克己 katusumi_nakase@city.okayama.okayama.jp

関東地域EHEC急増調査

日本でも 複数県集団発生の影響は大きい 例年よりの増加分 関東を中心とした事例を含む

米国の動き 1 PFGEなど新しい検査法による 調査の質向上 食品由来集団発生 非喫食者へ拡大 食品由来感染コントロールの 複雑・困難化 米国の動き 1 PFGEなど新しい検査法による 調査の質向上 食品由来集団発生    非喫食者へ拡大 食品由来感染コントロールの 複雑・困難化 広域集団発生の存在

米国の動き 2 質の高い調査と製造過程改善の 広域での有効性 迅速な発見と対処のためには 調査手法の改善が必要 米国の動き 2 質の高い調査と製造過程改善の 広域での有効性 迅速な発見と対処のためには 調査手法の改善が必要 サーベイランス改善、 PFGEのルーチン化、 結果への迅速対応

拡大防止対策 O157届け件数は減少していない 発生源(牛)や 農産物対策は? 農林部局との 協力対策の進展は?

多組織間の合意、市民への説明 標準化された指標  菌の検出 標準化された手法 喫食・環境調査 + PFGE  +系統化・精緻化

標準化された指標・手法 による共通理解が必要 多県・多組織にまたがる対策を進めるには  標準化された指標・手法 による共通理解が必要

中国地域の動き 定例平成13年度 中国地区食品衛生業務打合せ会議 2001年9月3日 岡山市 定例平成13年度 中国地区食品衛生業務打合せ会議 2001年9月3日 岡山市  第1回 中国地区食中毒等広域調査連絡会議 2001年12月20日 岡山市

Field Epidemiology Training Program 実地疫学専門家養成コース Field Epidemiology Training Program

実地疫学専門家養成コース 1999年9月開始 対象:医師若干名 大学、保健所、検疫所、防衛庁から 対象:医師若干名 大学、保健所、検疫所、防衛庁から 感染症のコントロールと予防: 全国の自治体への無償派遣(感染症法15条に基づく)、相談 感染症サーベイランスの運営 実地疫学の普及: ブロック別等での研修会 国立感染症研究所 感染症情報センター℡03-5285-1111

研修での6つの要素 1999-2001 集団発生調査 サーベイランス等からの検討 サーベイランス 短期記述的検討、長期課題 研修での6つの要素 1999-2001 集団発生調査 サーベイランス等からの検討 サーベイランス 短期記述的検討、長期課題 疫学的研究 グループプロジェクト、長期課題 コミュニケーション フルホットライン、週報など トレーニング 初期1ヶ月、短期トピックス 教育 地域ブロック別研修会 近畿、中四国

標準的手順から見た 集団発生対応の点検

アウトブレイク対策・調査の標準的手順 拡大防止・治療対策 Ⅰ 集団発生(アウトブレイク)の確認 Ⅱ 患者の定義、積極的患者発見 Ⅰ 集団発生(アウトブレイク)の確認 Ⅱ 患者の定義、積極的患者発見 Ⅲ 集団発生の特徴を図式化 Ⅳ 原因・伝搬経路の仮説作成 Ⅴ 仮説の疫学的検証 Ⅵ 将来の発生予防対策

感染症サーベイランス 医療機関 メディア 一般 第一報 本当に集団発生? 臨床診断は? 病原体診断は? 通常の症例数は?

Ⅰ 集団発生(アウトブレイク)の確認 第一報を受けるポイント Ⅰ 集団発生(アウトブレイク)の確認 第一報を受けるポイント 診断は確かか? 誰からの通報か?病原体診断か?診断根拠は? 記述疫学の3要素(時,場所,人) いつ、どこで、どのような人に発生しているか 原因究明のヒント アウトブレイクか? 通常よりの増加は? 医療対応の必要性の判断 患者数,症状の内容,重篤度、予後(転帰) 部内、関係機関への連絡

集団発生の存在の確定 迅速な対応? 疫学的調査? 予防的治療 情報提供 保健衛生活動

拡大防止対策 O157届け件数は減少していない 発生源(牛)や 農産物対策は? 農林部局との 協力対策の進展は?

発症者の推移 岡山 届け出時にはほとんど終息(潜伏期3,4日) 2次感染は少ない 第一例目

調査実施 集団発生の存在の確定 迅速な対応? 疫学的調査? 原因不明 ひきつづき患者発生 世論の圧力 研修・訓練 研究目的 予防的治療 情報提供 一般衛生活動 調査実施

記述疫学 集団発生 調査チーム 疫学者 病原体学者 環境衛生担当者 行政官 広報担当者 コーディネーター 状況観察 情報の確保 症例の定義 症例の調査 記述疫学

5日目有症者の定義(食中毒患者) 時・場所・人の要素および症状を含む定義 5日目有症者の定義(食中毒患者) 時・場所・人の要素および症状を含む定義  A病院の入院・退院患者については16日以降上記の症状が発症した者。あるいは増悪した者 下記症状のうち1つ以上に当てはまる者 下痢(1回以上)ただし軟便のみは除く 腹痛 下腹部通の持続(半日以上、ただし間欠的なものは含める) 嘔吐 吐き気

発生発見と対応準備がない場合 発生発見と反応準備がある場合 早い 対応 発見 予防可能な 患者 遅れた 対応 遅い 発見 初発 患者 患者数 発生発見と対応準備がない場合  発生発見と反応準備がある場合 早い 対応 発見 予防可能な 患者 遅れた 対応 遅い 発見 初発 患者 患者数 日

調査手技:情報の正確性 豊橋

患者の定義と調査 情報の収集 記述疫学の実施 性別・年齢 家族の状態・旅行歴 臨床症状 危険因子 情報の収集 記述疫学の実施

Ⅲ 集団発生の特徴を図式化

エピデミック・カーブ 患者発生の状況に応じて、時間別、日別、週別、月別などの間隔で患者発生数を記述する。 ポイント・ソース(単一曝露)  患者発生の状況に応じて、時間別、日別、週別、月別などの間隔で患者発生数を記述する。 持続共通感染源

時・場所・患者の特徴により集団発生の様子を図式化 % 居住地 性別 子供 メニュー 家族 持ち帰り ? ?

Ⅳ 原因・伝搬経路の仮説作成 しつこさ 知識・経験 自信 記述疫学こそ基本

症例定義の見直し 豊橋 新しい症例の定義1 新しい症例の定義2 症例定義の見直し 豊橋 新しい症例の定義1 仕出し料理の摂食したもので,4月24日以降に以下の主症状のいずれか一つ以上の症状を有するもの 主症状 下痢( 3回以上)と腹痛 血便と腹痛 O157VTⅡ検出者 新しい症例の定義2 仕出し料理の摂食したもので,4月24日以降にO157VTⅡを検出したもの

仮説の検証 解析疫学 コホート研究 症例対称研究 前向き 後ろ向き

後ろ向きコホート調査(1) 対象集団 危険因子曝露グループ 過去を振り返る。 危険因子非曝露グループ 過去 現在

後ろ向きコホート調査(2) 対象集団 危険因子曝露グループ 発症率? 過去を振り返る。  比 較  発症率? 危険因子非曝露グループ 過去 現在

ケースコントロール調査 危険因子の曝露 曝露割合? 患者 (症例) 比 較 健康人 曝露割合? (対照) 過去 現在

※相対危険度とχ2値の違い χ2=3.26(P=0.07) χ2=19.55(P=0.0000098) オッズ比=10.5 相対危険度=3.11 (0.55< <17.6) χ2=3.26(P=0.07) オッズ=10.5 相対危険度=3.11 (1.53< <6.31) χ2=19.55(P=0.0000098)

:的 :射撃の跡 妥当性 ライフル銃の 銃身が正しい 銃身が右に ずれている 優秀な 狙撃手 精度 普通の 狙撃手

対応と予防の実施 病原体の除去・制圧 伝播の阻止 宿主免疫の強化 将来的な予防

提言の例 規則・法令 基準の改定にもかかわらず、非殺菌りんごサイダーによるO157集団感染が継続している。今後の発生予防のために販売用果実飲料は、殺菌されるべきである。 行政・施設の管理責任者 疫学的・細菌学的調査から、有症状の食品取扱者からの汚染と考えられる。今後のSRSV集団発生を防ぐために、食品取扱者は、有症時には食品取り扱いを止めるべきである。また、調整済み食品への直接接触は最小限とすべきである。 医療関係者  気管支鏡は、発端患者の検査後結核菌に汚染され、被覆部に穴があったため洗浄消毒が十分できず、他への感染を媒介したと考えられる。取り扱い要領が示すように、使用前後の漏れテストを確実に行うべきである。  CDC,Epidemic Intelligence Service Conference 2000年4月抄録

アウトブレーク対応の目的 サーベイランスの充実 危機管理 担当者のトレーニング 調査 対応の組織化 原因究明 対応策立案  再発予防 対応の組織化 市民・他組織との コミュニケーション (窓口としてのマスコミ)

発生時対策による予防・監視対策の発展 改善 改善 発生時対策 発生監視 発生予防 改善 改善 発生時対策 発生予防 発生監視

発生時対策としての準備 対応できる 人・もの・金・組織が必要 集団発生対応から得た提言 対応できる 人・もの・金・組織が必要 集団発生対応から得た提言 人の養成:場 研修会主催、FETP派遣   手法 ケーススタディー、派遣協力 もの:汎用性・保守可能 なもの 金:緊急時予算 組織:相互援助協定、緊急時の権限委譲、 責任範囲の組織間合意

感染症法 感染症の発生の状況、動向及び原因の調査(15条) 情報の公開(16条) 1~4類感染症 調査に必要な協力を求めることができる 感染症研究所 情報の公開(16条) 分析を行い、予防のための情報を積極的に公表 個人情報の保護に留意

標準化された指標・手法によって 経験の蓄積 共通の理解 を推進できる 健康危機に 技術・人の一部は備えることができる 標準化された指標・手法によって 経験の蓄積 共通の理解 を推進できる