岐阜県口腔保健協議会 口腔保健指導者研修会(第一分科会) 岐阜県成人歯科健診推進事業 市町村における成人口腔保健の推進策 -特に歯周病対策について- 岐阜県歯科医師会 成人口腔保健委員会 担当理事 水野 明広
1.岐阜県「歯・口腔の健康づくり計画」の 中間評価と目標値変更について 1.岐阜県「歯・口腔の健康づくり計画」の 中間評価と目標値変更について
岐阜県「歯・口腔の健康づくり計画」 平成13年度(2001年度)策定 平成14年度(2002年度)計画推進スタート ↓5年 平成18年度(2006年度)中間評価・見直し ↓4年 平成22年度(2010年度)最終評価
中間評価と目標の見直し 目標達成率 100%以上: 目標クリア ◎ 50~100%未満: 順調 ○ 10~50%未満: やや順調 △ 目標達成率=(ベースライン値-最新値)/(ベースライン値-目標値) ×100% 目標達成率 100%以上: 目標クリア ◎ 50~100%未満: 順調 ○ 10~50%未満: やや順調 △ 10%未満: 不調 × (ベースライン値未調査 - )
歯・口腔の健康づくり計画
妊産婦・乳幼児期う歯等の予防
学齢期う歯等の予防 1226施設中
成人期の歯周病予防
高齢期の歯の喪失防止
対象別 者・家族・職員→施設
2.なぜ今、歯周病対策が必要か
「ヘルスプランぎふ21」「歯・口腔の健康づくり計画」 中間評価 (平成18年3月) 成人期 目標項目 対象 ベースライン(参考値) 2000 中間実績値 2005 目標値 2010 進行した歯周炎の減少 (有する人の数) 40歳 42.3 % 41.5 % 30 % 50歳 56.6 % 53.4 % 40 %
「健康日本21」 中間評価 (平成18年8月) 成人期 目標項目 対象 進行した歯周炎の減少 (有する人の数) 40歳 32.0 % 「健康日本21」 中間評価 (平成18年8月) 成人期 目標項目 対象 ベースライン(参考値) 2000 中間実績値 2005 目標値 2010 進行した歯周炎の減少 (有する人の数) 40歳 32.0 % 26.6 % 22 % 50歳 46.9 % 42.2 % 33 %
疾病構造の変化 う蝕→(予防・治療・受診機会・認識)減少 歯周疾患(認識不足) 不変・増加? 歯周疾患(認識不足) 不変・増加? 歯の喪失原因:歯周病46.1% う蝕42.1% 他11% (H17 歯科疾患実態調査より)
3.歯周病対策の啓発方法
むし歯 ← 小さい時から知っている 歯周病 ← (中重度に)なってから 初めて気づく むし歯 ← 小さい時から知っている 歯周病 ← (中重度に)なってから 初めて気づく
歯周病 を 「認 識」 (口の中は自分でわかる)
方 法 ・健 診 (節目健診・歯周病検診・事業所健診) (集団型・診療所型) ・保健指導 (健康教室・成人生涯研修) 方 法 ・健 診 (節目健診・歯周病検診・事業所健診) (集団型・診療所型) ・保健指導 (健康教室・成人生涯研修) ・イベント (健康まつり・フェスティバル・保健大会) ・直接啓発 (CM・セルフチェック票・ポスター・医科) ・メタボリックシンドローム対策の枠組みを用いた 成人歯科健診・保健指導の普及
健診空白期間
平成18年度 事業所健診票(一部)
事業所健診の工夫 視覚に訴える動機付け 口腔内カメラ、モニターによる指摘
県内事業所への啓発 県内 50名以上従業員の事業所 1145ヶ所 18万4074名
2500枚
30万枚 本人に配布 (医科の健診時 に活用)
4.糖尿病と歯周病
糖尿病の現状 糖尿病罹患者は5年間で50万人(約7%)増加 糖尿病の可能性が否定できない人を加えると5年間で250万人(約18%)増加 H9 1370万人→ H14 1620万人
糖尿病 医療費
糖尿病で歯周病が増える理由 糖尿病は血糖値が高くなる病気 → 口腔の環境への影響 ① 口の中が乾燥する たんぱく質の代謝が変化する 糖尿病は血糖値が高くなる病気 → 口腔の環境への影響 ① 口の中が乾燥する ② 唾液などの糖分濃度が高くなる ③ 細菌に対する抵抗力が低下する ④ 組織の修復力が低下する たんぱく質の代謝が変化する 脂質の代謝が変化する 肥満の影響 合併症の影響 両方とも生活習慣病
血糖値が高いと ① 口の中が乾燥する 高血糖状態 → 浸透圧の変化 → 多尿 →口渇(口が渇く) → 唾液の口の中の浄化作用の低下 高血糖状態 → 浸透圧の変化 → 多尿 →口渇(口が渇く) → 唾液の口の中の浄化作用の低下 歯周病の原因菌の増殖 組織修復作用低下
血糖値が高いと ② 唾液などの糖分濃度が高くなる 唾液や歯肉からの滲出液 ← 血液から作られる 高血糖下では唾液や滲出液の糖分濃度が高くなる 唾液や歯肉からの滲出液 ← 血液から作られる 高血糖下では唾液や滲出液の糖分濃度が高くなる ↓ 歯周病菌・むし歯菌の増殖
血糖値が高いと ③ 細菌に対する抵抗力が低下する 高血糖下では細菌を貪食する好中球の働きが低下 ↓ 感染防御機構が十分に機能しなくなる 高血糖下では細菌を貪食する好中球の働きが低下 ↓ 感染防御機構が十分に機能しなくなる 感染症である歯周病が起きる
血糖値が高いと ④ 組織の修復力が低下する 高血糖下では組織修復能力が低下 ↓ 歯周組織の破壊・修復のせめぎ合いで 破壊が勝る 高血糖下では組織修復能力が低下 ↓ 歯周組織の破壊・修復のせめぎ合いで 破壊が勝る 感歯周病の進行が早い
たんぱく質の代謝が変化 A.糖の代謝だけではなくたんぱく質の代謝も変化 ↓ 歯周組織内のコラーゲンの減少や性質変化 ↓ 歯周組織内のコラーゲンの減少や性質変化 歯周組織の弾力が失われる・破壊された組織の修復力低下 B.過剰なブドウ糖とたんぱく質が結合 最終糖化産物(AGE) 歯周組織にAGEが蓄積 炎症・組織破壊(歯周病の発病・進行)
脂質の代謝が変化 糖の代謝だけではなく脂質の代謝も変化 ↓ 高脂血症(中性脂肪・LDLコレステロールの増加) 糖の代謝だけではなく脂質の代謝も変化 ↓ 高脂血症(中性脂肪・LDLコレステロールの増加) 近年、高脂血症が歯周病の危険因子
肥満の影響 脂肪細胞から分泌され続ける炎症物質 ↓ 歯周組織に炎症
合併症の影響 全身の血管に障害 末梢血管の血流量の低下 ↓ 感染が長引く 組織修復低下 歯周病の進行 骨粗鬆症
両方とも生活習慣病 歯周病と糖尿病のリスクファクターが重なる 食習慣 精神的ストレス 喫 煙
歯周病で血糖値が上がる理由 ① 慢性の細菌感染症によって様々なサイトカインが分泌 される ① 慢性の細菌感染症によって様々なサイトカインが分泌 される → インスリン(血糖値を下げる唯一のホルモン)の 働きを阻害する。インスリン抵抗性が生じる ② 歯周病で歯を失うと→軟食・早食い→食後高血糖・肥満
糖尿病 と 歯周病 の相関関係 ① 糖尿病の人は歯周病の罹患率が高い ② 糖尿病の人は歯周病がより重症化しやすい ③ 糖尿病の罹病期間が長い人ほど、歯周病の罹患率が高い ④ 血糖コントロールがよくない人は歯周病がより重症化しやすい ⑤ 歯周病が重症化している人ほど血糖コントロールがよくない ⑥ 歯周病の人は糖尿病の罹患率が高い ⑦ 歯周病の人は糖尿病でないとしても糖尿病予備軍であることが 多い ⑧ 糖尿病の人が歯周病をしっかり治療するとHbA1cが改善する ( HbA1c : 通常時の血糖レベルの判定に使われる。HbA1cは血糖と違い、食事の影響を受けないためいつでも検査ができる。グリコヘモグロビンなどとも呼ばれ、赤血球の中に含まれるヘモグロビン(血色素)にブドウ糖が結合したもの。過去約120日間の平均的な血糖状態が分かる。基準値は4.3~5.8%で、6.5%以上だと糖尿病と判定される。
糖尿病治療 と 歯周病治療 の連携 糖尿病患者の歯周病を徹底的に治療 ↓ 血糖コントロールが改善 糖尿病患者の歯周病を徹底的に治療 ↓ 血糖コントロールが改善 ・岐阜県糖尿病対策地域ネットワーク事業(保健所毎) ・医科との連携 (岐阜県糖尿病対策推進協議会)
5.メタボリックシンドローム対策の枠組みを用いた成人歯科健診・保健指導の普及について
メタボリックシンドロームとは? メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群) 肥満なかでもお腹の内臓のまわりに脂肪がつく「内臓脂肪型肥満」の人が、脂質代謝異常(高脂血症)や血圧高値(高血圧)、高血糖(糖尿病)のいずれか2つ以上をあわせ持っている状態 → 動脈硬化 → 心臓病・脳卒中 ・男女とも40歳以上で特に多い ・40~74歳(5,700万人)で男性が2人に1人、女性5人に1人 (メタボリックシンドローム者940万人・予備群約1,020万人 合計1,960万人) ・診断基準の一つである腹囲が、男性85cm女性90cm以上の者は未満の者に比べ血中脂質、血圧、血糖のいずれかのリスクを2つ以上有する割合が高い
メタボリックシンドローム対策 (特定健診・特定保健指導)について 健康保険法等一部改正(平成18年6月) 平成20年度から医療保険者に40歳以上の被保険者・被扶養者を対象としたメタボリックシンドロームに着目した予防的健診・保健指導(特定健診・特定保健指導)の実施が義務づけられた。 医療制度改革における生活習慣病対策 医療費適正化計画の実効を上げるための方策)
特 徴 ① 各医療保険者(国保(市町村)・組合健保・政管健保・各共済組合等)に義務化(費用は保険者の医療保健財源から支出) 特 徴 ① 各医療保険者(国保(市町村)・組合健保・政管健保・各共済組合等)に義務化(費用は保険者の医療保健財源から支出) ② 全ての40歳以上の被保険者および被扶養者を対象 (後期高齢者75歳以上は努力義務) 約5000万人 ③ 内容(対象疾患)を生活習慣病対策(特にメタボリックシンドローム対策)に法的に限定している。 ④ 5年後(平成25年)に特定健診受診率・特定保健指導実施率糖尿病等の有病・予備群の減少率の達成状況により → 各医療保険者が支払う後期高齢者支援金の 加算(ペナルティー)・減算(インセンティブ)が行われる。
保健指導対象者の選定と階層化 ステップ 1 腹囲男性85cm以上、女性90cm以上 → ① 腹囲男性85cm未満、女性90cm未満かつ BMI 25以上 → ② ①②以外 → ③ 体重(kg)/身長(m)2 ステップ 2 (追加リスク) 血糖 ・ 脂質 ・ 血圧 ・ LDLコレステロール ・ 質問票 ・ 尿酸 <グループ分け> (1) 積極的支援レベル(内臓脂肪型症候群基準適合者) (2) 動機づけ支援レベル (3) 情報提供レベル
ステップ 3 (グループ分け) ① の場合 ステップ2の追加リスクが 2以上 → 積極的支援レベル 0または1 → 動機づけ支援レベル ステップ 3 (グループ分け) ① の場合 ステップ2の追加リスクが 2以上 → 積極的支援レベル 0または1 → 動機づけ支援レベル ② の場合 ステップ2の追加リスクが 3以上 → 積極的支援レベル 1または2 → 動機づけ支援レベル 0 → 情報提供レベル ③ の場合 ステップ2の追加リスクが 4以上 → 積極的支援レベル 1から3 → 動機づけ支援レベル
ステップ4 質問票を用いて生活習慣改善の必要性を判断し、 追加的に保健指導のレベルを決定
階層化した保健指導の概要
詳細な健診(精密健診) 医師が必要と判断した場合、眼底検査・心電図 等 受診勧奨
特定保健指導・行動変容のための教材 基本ツールの中の 展開ツール(必要に応じて使用) → 歯科
特定保健指導に限らず、 メタボリックシンドローム対策の枠組みを用いた 成人歯科健診・保健指導の普及
最後に 歯の寿命は 人間の寿命についていけるか 最後に 歯の寿命は 人間の寿命についていけるか
縄文時代 (3000年前) 30歳 ? 40歳 ?
縄文時代 ・ 江戸時代 昭和22年 男 50.0歳 女 53.9歳 昭和40年 男 67.7歳 女 72.9歳 平成17年 男 78.5歳 女 85.5歳
介入 生命寿命 ← 医学(予防・医療) 歯の寿命 ← 歯科医学(予防・歯科医療) う蝕予防・歯周病予防・外傷予防