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<すぐに使える!ワンランク上の教育・研修ツール> 高齢者の身体機能と 生活を意識したケア 介護チームマネジメント 2017.3.4月号 WEB特典 <すぐに使える!ワンランク上の教育・研修ツール> 高齢者の身体機能と生活を意識したケア 東京都登録講師派遣事業 研修講師 東京都立中央・城北職業能力開発センター板橋校 講師 吾妻正徳 日総研出版2017(C)

「利用者の自立した日常生活」を第一に考える! なぜ、「生活を意識したケア」が必要? ○介護保険法第1条 要介護状態となった人が,その有する能力に応じて自立した日常生活を営むことができるように,必要なサービスを提供することを目的とする 「生活を意識したケア」とは  介護保険法第1条には,要介護状態となった人が,その有する能力に応じて自立した日常生活を営むことができるように,必要なサービスを提供することを目的とする旨が明記されています。  したがって,介護保険制度の下で私たちが提供するサービスは,「利用者の自立した日常生活」を第一に考えなければなりません。 介護保険制度下で提供するサービスでは 「利用者の自立した日常生活」を第一に考える!

身体機能・感覚機能の変化 加齢に伴う機能低下 ↓ 「楽しみ」の喪失 「こころ」と「からだ」が動かなくなる  筋肉,骨,関節などをはじめとする身体機能や,視覚,聴覚,味覚,嗅覚,皮膚感覚などの感覚機能は加齢と共に変化します。  介護の世界ではよく「こころが動けばからだも動く。からだが動けばこころも動く」と言いますが,さまざまな機能が低下した結果,生活における楽しみを失って自宅や自室に引きこもってしまうなど,「こころ」と「からだ」がますます動かなくなってしまい,自立した日常生活から離れてしまう人も少なくありません。  しかし,身体機能や感覚機能には,加齢に伴う機能低下を予防・改善できるものもありますし,低下した機能を補うケアの方法もあります。  私たち介護職は,加齢に伴う心身機能の変化に対する正しい知識を身につけ,高齢者が「こころ」と「からだ」を動かして自立した日常生活を送ることができるようなケアを心がけることが大切です。

加齢による身体機能の変化 ①筋肉 【筋肉量の減少】 ・寝たきり状態では1日で3%,1週間では 15~20%も筋肉量が減少 ・20歳の筋力を100%とすると,70代後半の筋肉量は60%まで低下 運動量(活動量)の減少に大きく影響 ■身体機能の変化 ◎筋肉の変化 【筋肉量が減少する】  加齢によって筋肉はどのように変化するのでしょうか。誰もが思い浮かべるのが「筋肉量の減少」でしょう。では,なぜ加齢によって筋肉量が減少するのでしょうか。これには,運動量(活動量)の減少が大きく影響しています。  例えば,高齢者が安静に臥床している(寝たきりの状態)とすると,筋肉量は1日で3%,1週間では15?20%も減少すると言われています。  このような状況は極端な例ではありますが,多くの人は年齢と共に活動量が減少するため,それに伴って筋肉量も減少します。  具体的には,20歳の筋力を100%とすると,70代後半では60%まで低下してしまいます。

加齢による身体機能の変化 ①筋肉 上肢の筋力に比べ,下肢の筋力は活動量の減少による影響を受けやすい ↕ 下肢の筋力が低下したからと言って、上肢の筋力も同じように低下するわけではない  ここで注意しなければならないのは,身体中の筋肉はどれも同じように減少するのではないということです。  図を見ると,握力は50歳くらいまでは減少が緩やかですが,膝伸展力は若いうちから徐々に減少しています。言い換えれば,上肢の筋力に比べ,下肢の筋力は活動量の減少による影響を受けやすいということです。  このように,下肢の筋力が低下したからと言って,上肢の筋力も同じように低下するわけではありません。  なお,図は普通に生活している人の筋力の低下を表したものであるため,骨折などによって長期間寝たきりになっている人などは,さらに筋力が低下することになるでしょう。場合によっては,60代でも若い時の50%以下になっている人もいます。

「サルコペニア」による負のスパイラルを予防する 加齢による身体機能の変化 ①筋肉 【ケアの視点】 ・衰えた筋力を補い,達成感が得られるケアを  →  ・安易な全介助は自信を失わせる     ・手すりやトランスファーボードを活用 ・筋力は適切な栄養摂取と運動によって回復  →  ・バランスの良い食事と運動機会の提供     ・筋肉量を増やし,筋力の強くする 【ケアの視点】  下肢筋力の低下により「立ち上がり」や「歩行」などの動作が困難になっても,上肢の筋力はまだ衰えていない人はたくさんいます。そのような人に全介助のトランスファーを行うと,「一人でいすにも移れないなんて情けない…」と思わせてしまいます。  そのため,手すりやトランスファーボードなどを上手に使い,衰えた下肢の筋力を上肢の筋力で補うことにより,自分で移動したという達成感を得られるケアを提供することが大切です。  また,筋力は加齢によって低下しても,適切な栄養摂取と運動によって回復します。介護保険法で機能訓練が重要視されているのも,「機能は回復する」ことを前提にしているからです。  しかし,食事と運動のいずれか一方が不十分だと,筋肉量の減少,筋力の低下(サルコぺニア)という負のスパイラルに陥る場合が少なくありません。  このように,筋肉量を増やし,筋力を強くすることは,高齢者が自立して生活していく上でとても重要です。 「サルコペニア」による負のスパイラルを予防する

加齢による身体機能の変化 ①筋肉 【サルコペニアとは】 ・筋肉量の減少により筋力が低下した状態 ・高齢者の身体機能障害や転倒のりスク因子となる 【サルコペニアの簡易チェック方法】 <指輪っかテスト> 両手の人差し指と親指で輪をつくり,利き足ではない足のふくらはぎを両手で囲んだ時に隙間ができればサルコペニアが疑われる 【サルコペニア】  サルコペニアとは,筋肉量の減少により筋力が低下した状態を指しており,高齢者の身体機能障害や転倒のりスク因子となるものです。サルコぺニアの簡易チェック方法として「輪っかテスト」があります。 【指輪っかテスト】  両手の人差し指と親指で輪をつくり,利き足ではない足のふくらはぎを両手で囲んだ時に隙間ができればサルコペニアが疑われます。

加齢による身体機能の変化 ②骨 <骨粗鬆症> ・加齢による骨の変化の代表 ・転倒などの衝撃によって骨折しやすくなるほか,圧迫骨折も多く見られる <圧迫骨折> ・最初は無症状で,ある程度骨折が進行してから症状が現れる ・気づきやすい症状は背中や腰の痛み ◎骨の変化 【骨が弱くなる】  加齢による骨の変化の代表は,何と言っても,骨粗鬆症によって骨が弱くなることです。骨が弱くなれば,当然骨折しやすくなります。転倒などの衝撃によって骨折しやすくなるほか,圧迫骨折も多く見られます。  圧迫骨折の場合,最初は無症状で,ある程度骨折が進行してから症状が現れることがよくあります。気づきやすい症状として背中や腰の痛みがあります。

加齢による身体機能の変化 ②骨  背中や腰に痛みがあると,どうしても活動量が減るため,サルコぺニアになりやすくなります。さらに,痛みをかばって歩くようになると,バランスを崩しやすい歩行となり,転倒しやすくなってしまいます。  また,外見的には背中が丸くなりますが,背中が丸くなると,痛みだけでなく,逆流性食道炎,食欲不振,呼吸機能の低下などが見られることもあります。  そして,このような不快な症状は気分の落ち込みを招きます。「最近,活気がない」という人が,骨粗鬆症により脊柱を圧迫骨折していたということもあります。

加齢による身体機能の変化 ②骨 【ケアの視点】 ・骨粗鬆症は自覚症状がない → 専門医による診断と治療が必要  → 専門医による診断と治療が必要 ・適切なケアで骨の加齢を食い止める  →  服薬やカルシウム,ビタミンDなどのバランスの 取れた食事,運動と日光浴 ・骨に負荷のかかる運動  →  ・水中では水泳よりもウォーキングが有効    ・一番簡単なのは散歩 【ケアの視点】  では,骨粗鬆症の人に対してどのようなケアを心がければよいのでしょうか。当然,専門による診断と治療が必要であり,服薬やカルシウム,ビタミンDなどのバランスの取れた食事はもちろん,運動と日光浴も大切です。  骨は筋肉と同じように,運動によって鍛えられます。特に,骨に負荷のかかる運動は有効です(水中で運動する際は,水泳は骨にかかる負荷が少ないので,水中ウォーキングの方が有効です)。  一番簡単なのは散歩です。歩いて下肢筋力を鍛えれば,転倒防止にもつながります。また,外に出て適度な日光浴をすれば,カルシウムの吸収に必要なビタミンDをつくり出すこともできます。  骨粗鬆症は,骨折などにより痛みが出るまでは自覚症状がないため,なかなか予防に注意が行きません。80歳以上の人の60%は骨粗鬆症だと言われています。  しかし裏を返せば,40%の人は骨粗鬆症になっていないということです。高齢者だから,女性だからと言って,誰もがなるわけではありません。骨折で寝たきりになる前に,ぜひ適切なケアで骨の加齢を食い止めましょう。

加齢による身体機能の変化 ③関節 ◎関節の変化 【痛みや動かしにくさが生じる】  加齢による関節の変化として多いものに,関節軟骨の変性があります。関節は,骨と骨が直接つながっているわけではなく,骨と骨の間にコラーゲンを主成分としたクッションの役割をする関節軟骨があり,それを介してつながっています。  年を取ると,この関節軟骨の性質に変化が起こり,コラーゲン量が減り,軟骨層がだんだん薄くなっていきます。そうすると,クッション作用が弱まって,関節に痛みを感じたり,関節が動かしにくくなったりします。

加齢による身体機能の変化 ③関節 <変形性関節症> ・60歳以上の80%以上に関節軟骨の変性(すり減り)が見られる  → 進行すると変形性関節症に ・肥満気味の高齢者には,変形性膝関節症が多い  → 大腿四頭筋を鍛えることで予防,痛みを改善 【変形性関節症】  60歳以上の高齢者では,80%以上の人に膝関節,股関節,肘関節などの関節軟骨の変性(すり減り)が見られます。そして,これが進行すると変形性関節症になってしまいます。さらに,肥満気味の高齢者では,変形性膝関節症が多く見られます。 【適度な運動が必要】  変形性関節症の治療の一つに理学療法がありますが,変形性膝関節症は大腿四頭筋を鍛えることで予防できますし,痛みの症状を改善することもできます。

加齢による身体機能の変化 ③関節 【ケアの視点】 ・関節の痛みが強い時は安静に ・運動しないと変形性関節症は悪化する傾向にある  → 医師によく確認して適切な運動を ・膝に痛みがあると,積極的に身体を動かさなくなる  → サルコぺニアによる負のスパイラルが生じる ・疾患や麻痺がなくても、関節は動かさない固まる 【ケアの視点】  痛みが強い時は関節を安静にしますが,何も運動しないと変形性関節症は悪化する傾向があるため,医師によく確認して適切な運動を行う必要があります。  膝に痛みがあると,どうしても身体を動かすことに積極的になれません。身体を動かさないと筋肉量も減り,前述のようにサルコぺニアに至ってしまうため,大腿四頭筋を鍛えることができず,ますます膝の痛みが増すという負のスパイラルに陥ってしまいます。  また,変形性関節症や脳卒中後遺症の麻痺などでなくても,関節は動かさないと固まってしまうため,適度な運動が必要です。 適度な運動を!

加齢による身体機能の変化 まとめ ・筋肉,骨,関節の機能低下は生活に影響を与える → 「ロコモティブシンドローム」の予防が重要  → 「ロコモティブシンドローム」の予防が重要 【ロコモティブシンドロームとは】 要介護や寝たきりになってしまったり,そうなってしまうリスクが高かったりする状態 ・施設は,高齢者が使いやすいように工夫されているため,機能低下があっても不自由なく生活できる ・たとえ不自由であったとしても,誰もが「年だから仕方ない」と考えがち  → 機能改善に考えが及ばないことが多い 【まとめ】  このように,加齢により筋肉,骨,関節の機能が低下すると,さまざまな面で生活への影響が出てきます。その結果,要介護や寝たきりになってしまったり,そうなってしまうリスクが高かったりする状態をロコモティブシンドロームと言い,このロコモティブシンドロームの予防が重要視されています。  しかし,デイサービスや特養などの施設は,高齢者が使いやすいように工夫されているため,筋肉,骨,関節それぞれの機能が低下しても,さほど不自由なく生活できてしまいます。  また,機能が低下して施設内の生活で不自由を感じても,本人,家族のみならず,職員も「年だから仕方ない」と考えてしまい,機能の改善という点に考えが及ばないことが多くあります。

小さな動作の積み重ねがADLの向上につながる 加齢による身体機能の変化 まとめ ・運動プログラムは身体機能の低下予防や回復には有効だが,ADLの向上につながる日常生活動作はほかにもある  → 移動時,安易に車いすを使っていませんか?  施設のプログラムで行う運動はとても大切で,身体機能の低下予防や回復には有効です。しかし,プログラム以外でも,ADLの向上につながる日常生活の動作はたくさんあります。トイレや食堂に移動する時,歩行器などを使えば歩ける人でも車いすを使っていませんか。  歩いた方がよいことは分かっていても,人材不足の中,そのような時間的余裕がない職場も多いと思います。それならば,毎回ではなくても,1日のうち何回かは歩くような介護計画を立案し,職員全員で実践することを心がけてください。  このような動作の積み重ねが,筋肉,骨,関節の機能低下を防ぎ,ADLの向上につながります。身体機能の低下は,こころの機能も低下させ,その人の生活全体に大きな影響を及ぼすことを忘れないでください。 小さな動作の積み重ねがADLの向上につながる

加齢による感覚機能の変化 ・身体機能同様,感覚機能(視覚,聴覚,味覚,嗅覚,皮膚感覚など)も加齢により低下する ・感覚機能の中には,日々の生活の中でその低下を予防したり,改善したりすることが困難なものがある ■感覚機能の変化  視覚,聴覚,味覚,嗅覚,皮膚感覚などの感覚機能も加齢により低下しますが,感覚機能の中には,運動機能のように日々の生活の中でその低下を予防したり,改善したりすることが困難なものもあります。  そのため,どのような点に注意して高齢者の生活を支えていかなければならないか考えていく必要があります。 「生活を支える」という視点が必要

加齢による感覚機能の変化 ①視覚 <老眼> ・目のピントを合わせる能力が低下することによって起こる ・40~50歳ごろから発症することが多く,近くの物が見えづらくなったり,見ていると目が疲れたりする ◎視覚機能の低下 【近くの物が見えづらくなる】  加齢による視覚機能の低下で代表的なものは老眼です。老眼は,目のピントを合わせる能力が低下することによって起こります。  個人差はありますが,40~50歳ごろから発症することが多く,近くの物が見えづらくなったり,見ていると目が疲れたりします。

加齢による感覚機能の変化 ①視覚  また,加齢によって視力そのものも低下していきます。図を見ると,視力は老眼が発症する40~50歳ごろから低下しはじめ,60歳を超えると急激に低下することが分かります。  そして,70歳になると20代の約半分にまで低下しますが,この年代になると白内障にかかる人も多く,そのような場合はさらに視力が低下します。

加齢による感覚機能の変化 ①視覚 <加齢黄斑変性> 近年,高齢者の視覚機能低下の原因として増えている 【症状】 <変視症>視野の中心部がゆがんで見える <中心暗点>視野の真ん中が見えなくなる <色覚異常>色が分からなくなる 【加齢黄斑変性】  近年,高齢者の視覚機能低下の原因として増えているのが加齢黄斑変性です。  症状としては,網膜のゆがみによって視野の中心部がゆがんで見える変視症や,視野の真ん中が見えなくなる中心暗点,視力低下,さらには色が分からなくなる色覚異常などがあります。

加齢による感覚機能の変化 ①視覚 <白内障> ・加齢による機能低下ではないが,高齢者にとって一般的な疾患 ・60代では約半数,80歳以上ではほぼ全員が視力に影響する白内障にかかっているという報告もある 【症状】 ・眼の水晶体が濁って黄色いフィルターをかけたようになり,視力の低下や,光をまぶしく感じたり,色の識別が困難になったりする ・黄色や青色の識別が難しくなる ・段差や突起物の注意を促す表示には赤色を使うとよい ・外光が直接差し込むと,とてもまぶしく感じる 【白内障】  白内障は加齢による機能低下ではありませんが,高齢者にとって一般的な疾患であり,60代では約半数,80歳以上ではほぼ全員が視力に影響する白内障にかかっているという報告もあります。  眼の水晶体が濁って黄色いフィルターをかけたようになるため,視力の低下や,光をまぶしく感じたり,色の識別が困難になったりするのが代表的な症状です。  特に,黄色や青色の識別が難しくなるため,白内障の人は緑色の紙に書かれた青色の文字は読めません。黄色も見づらいので,段差や突起物の注意を促す表示には,黄色ではなく赤色を使うようにしましょう。  また,外光が直接差し込むような場所では,とてもまぶしく感じてしまうため,デイルームや食堂などでは座席の場所にも気をつけてください。

加齢による感覚機能の変化 ①視覚 <視野障害> ・視野の一部が見えなくなる視野欠損や視野が狭くなる視野狭窄などがある ・加齢を原因とする以外に,緑内障や脳卒中の後遺症としても起こる 【症状】 ・視野周辺部からの欠損が特徴 ・脳卒中の後遺症では,視野欠損や視野狭窄のほか,物が二重に見える複視や,自分では見えていないことを認識できない障害(半側無視)になる場合もある 【視野障害】  そのほか,高齢者の視覚機能の低下には,視野障害(視野の一部が見えなくなる視野欠損や視野が狭くなる視野狭窄など)があります。白内障とは異なり,誰でもなるわけではありませんが,加齢を原因とする以外に緑内障や脳卒中の後遺症としても起こるため,視野障害を持つ高齢者は少なくありません。  緑内障による視野障害は,視野周辺部からの欠損が特徴です。また,脳卒中の後遺症では,視野欠損や視野狭窄のほか,物が二重に見える複視や,自分では見えていないことを認識できない障害(半側無視)になる場合もあります。

加齢による感覚機能の変化 ①視覚 【ケアの視点】 ・視覚機能が低下すると,物にぶつかりやすくなったり,テーブルの上の物が見つけにくくなったりする  例) ①視野の上部に欠損がある場合       → テーブルの手前にお膳を置く     ②左半側無視の人を席に案内する場合       → いすの左側から座り,右側に立ち上がる ・瞳孔の光量調節能力が低下し,暗い場所から明るい場所に出た時やその逆の時に,目が慣れるまで時間がかかる  → 夜間トイレに行く時,トイレが明るいとかえって何も見え   なくなって危険 【ケアの視点】  いずれの原因にしても,視覚機能が低下すると,物にぶつかりやすくなったり,テーブルの上の物が見つけにくくなったりするため,症状を踏まえた介助が必要です。  例えば,視野の上部に欠損がある人には,テーブルの手前にお膳を置くようにしたり,左半側無視の人を席に案内する時は,いすの左側から座り,右側に立ち上がるようにしたりするなどの工夫が必要です。

加齢による感覚機能の変化 ①聴覚 ◎聴覚機能の低下 【音や声が聞き取りにくくなる】  加齢による聴覚機能の低下(難聴)には,「伝音性難聴」と「感音性難聴」があります。  図に示すように,耳の仕組みは「外耳」「中耳」「内耳」に分けられます。このうち,外耳および中耳の機能低下による難聴を伝音性難聴,内耳から聴神経の機能低下による難聴を感音性難聴と言い,加齢による聴覚機能の低下には感音性難聴(いわゆる老人性難聴)が多く見られます。  感音性難聴の特徴として,音が聞こえづらくなることのほかに,言葉の聞き取りに困難を感じることも多くなります。

加齢による感覚機能の変化 ①聴覚  図に示すように,加齢に伴って周波数の高い音が聞こえづらくなると共に,言葉を聞き分ける能力も低下し,特に子音の「サ行」や「タ行」などの日常会話の中で高い音域となる言葉が違う言葉に聞こえる「異聴」が起こりやすくなります。  異聴は子音で起こりやすく,母音では起こりにくいため,「7時(しちじ)」を「1時(いちじ)」と聞き違えたりします。  さらに,言語の明瞭度の低下,音のゆがみなどのほか,早口が聞き取りにくくなったり,電車のアナウンスなど多数の音が混在している場での聞き取りも難しくなったりします。

加齢による感覚機能の変化 ①聴覚 <感音性難聴による生活への影響> 認知症高齢者には,感音性難聴が生活に大きな影響を及ぼす場合がある  認知症のあるAさんは,「気になる音」が聞こえると急に落ち着かなくなり,そこから徘徊しはじめました。  これに気づいたスタッフが,ドアをそっと閉め,食器を洗う時は食器同士がぶつからないようにするなど,Aさんが「気になる音」を出さないようにさまざまな注意を払った結果,徘徊する頻度が減少しました。 【感音性難聴による生活への影響】  特に,認知症高齢者には,感音性難聴が生活に大きな影響を及ぼす場合があるので注意が必要です。例えば,認知症高齢者の行動・心理症状(BPSD)として,通所サービスに通っている人の徘徊(歩き回り)について次のような事例があります。  認知症のあるAさんは,「気になる音」が聞こえると急に落ち着かなくなり,そこから徘徊しはじめます。これに気づいたスタッフが,ドアをそっと閉め,食器を洗う時は食器同士がぶつからないようにするなど,Aさんが「気になる音」を出さないようにさまざまな注意を払った結果,徘徊する頻度が減少しました。  私たちがさほど気にならない音でも,感音性難聴の高齢者にはとても気になる場合があるのです。さらに,認知症の人では,その音がBPSDの出現につながってしまうこともあります。

加齢による感覚機能の変化 ①聴覚 【ケアの視点】 ・正面から,声のトーンを抑え,ゆっくり,はっきりと発音し,身振り手振りなどを交えて伝える ・感音性難聴の人には,大声で話さないようにする ・伝音性難聴の人は補聴器の使用は有効だが,感音性難聴の人には有効であるとは限らない ・大きな声を出せばコミュニケーションが取れる人は,耳垢(耳垢栓塞)を疑う ・声をかけても返事がないからと言って,突然後ろから肩をたたいたりしない 【ケアの視点】  難聴の高齢者とコミュニケーションを取る時は,その人の正面から,声のトーンを抑え,ゆっくり,はっきりと発音し,身振り手振りなどを交えて伝えることが大切です。  この時,大声で話さないようにしましょう。感音性難聴は,小さい音が聞こえづらくなるだけでなく,大きい音はうるさく聞こえます。これは,音が大きくなるにつれて音量が増強して感じられる補充現象(リクルートメント現象)によるもので,加齢の進行と共に顕著になり,ドアの開閉音や食器のぶつかる音などが異常なほど響いて聞こえます。  したがって,伝音性難聴の人には大声で話すことによる効果はありますが,感音性難聴の人には逆効果になる場合もあります。同様に,伝音性難聴の人への補聴器の使用は有効ですが,感音性難聴の人には,補聴器が有効であるとは限りません。  なお,大きな声を出せばコミュニケーションが取れる人の場合は,まず耳垢(耳垢栓塞)を疑ってください。耳掃除をすると,今までのことがうそのように,スムーズにコミュニケーションを取れるようになる人もいます。  また,声をかけても返事がないからと言って,突然後ろから肩をたたいてはいけません。高齢者は平衡感覚も低下しているため,振り向きざまに転倒してしまう恐れがあります。

加齢による感覚機能の変化 ②味覚 <味を感じづらくなる> ・味蕾の減少が一因であると言われているが,個人差が大きく,ほとんど減少しない人もいる ・味覚機能が低下する原因の多くは,唾液の分泌量の減少 ・人工唾液を用いて口腔内の乾燥を防ぐことで,味覚が改善される場合がある ◎味覚機能の低下 【味を感じづらくなる】  味覚機能も加齢によって低下します。これは,舌にある感覚受容細胞である味蕾の減少が一因であると言われていますが,個人差が大きく,ほとんど減少しない人もいるようです。  一般的に味覚機能が低下する原因の多くは,唾液の分泌量の減少にあります。糖分,塩分などは,唾液に溶けて味蕾を刺激しており,唾液が減少するとそれだけ味が感じづらくなります。そのため,人工唾液を用いて口腔内の乾燥を防ぐことで,味覚が改善される場合があります。

加齢による感覚機能の変化 ②味覚 ・唾液が減少すると,口腔内の自浄作用が低下する → 舌苔が味蕾を覆い,味覚機能が低下する  →  舌苔が味蕾を覆い,味覚機能が低下する ・舌苔の予防・除去  →  舌ブラシやうがい薬を用いたケアが有効 ・薬の副作用により味覚が低下している場合もある  →  降圧薬,抗リウマチ薬,抗不安薬,睡眠導入 薬などの中には,副作用として味覚障害が報 告されているものがある  また,唾液が減少すると口腔内の自浄作用が低下し,雑菌が繁殖しやすくなります。すると,舌の表面に舌苔が生じて味蕾を覆ってしまい,味覚の低下にもつながります。舌苔の予防・除去には,舌ブラシを用いた口腔ケアやうがい薬を用いた口腔内の殺菌が有効です。  そのほか,内服薬の副作用によって味覚機能が低下する場合もあります。高齢者が服用する機会が多い降圧薬,抗リウマチ薬,抗不安薬,睡眠導入薬などの中には,副作用として味覚障害が報告されているものがあります。

加齢による感覚機能の変化 ②味覚 【ケアの視点】 ・味覚機能は,食欲に大きな影響を及ぼす → 食べても「おいしくない」と思ったら,食欲が低  →  食べても「おいしくない」と思ったら,食欲が低 下し,「サルコぺニア」に至る恐れがある ・まずは積極的に口腔ケアを行い,おいしく食事を取ってもらえるようにする 【ケアの視点】  味覚機能の低下は,食欲に大きな影響を及ぼします。食べても「おいしくない」と思っていたら,食欲もなくなり,サルコぺニアに至ってしまう恐れもあります。  原因によっては,味覚機能を改善できる場合もあるため,まずは積極的に口腔ケアを行い,いつまでもおいしく食事を取ってもらえるようにしましょう。

加齢による感覚機能の変化 ②味覚 ・味覚機能が改善できない場合は,味付けを工夫 → 「おいしい」と思ってもらうためには,濃い目の  →  「おいしい」と思ってもらうためには,濃い目の 味付けが必要 ・塩分や糖分が多くなるが,味付けを薄くして食欲が低下してしまっては本末転倒  → ・だしを利かせて味を引き立たせる ・香味野菜を用いる ・酸味を利用した味付けの工夫をする  口腔ケアなどで味覚機能の低下が改善できない場合は,味付けを工夫します。  味覚機能が低下した人に「おいしい」と思ってもらうためには,味付けを濃い目にする必要があります。味付けを濃い目にすると,当然,塩分や糖分が多くなるため,高血圧や糖尿病を抱える高齢者にとってはよいことではありません。だからと言って,すべての味付けを薄くすることで食欲が低下してしまっては本末転倒です。  このような場合は,だしを利かせるなどして,塩分を多くすることなく味を引き立たせたり,香味野菜を用いたりする工夫が必要です。  また,塩味や甘味に比べ,酸味は味覚機能の低下による影響を受けづらいため,フライにレモンを絞るなど,酸味を利用した味付けの工夫もしてみてください。

加齢による感覚機能の変化 ②味覚 ・食事摂取量を考える → 塩分や糖分の過剰摂取に注意 ・品数を減らして味付けで満足感を得てもらう  →  塩分や糖分の過剰摂取に注意 ・品数を減らして味付けで満足感を得てもらう  →  しっかりした味付けのおかずを作り,おいしく 食べてもらう  さらに,ここで考えてほしいことは「食事摂取量」です。濃い味付けにした上で,これまでと同じ量の食事を取っていては,当然,塩分や糖分の過剰摂取につながるため注意が必要です。  しかし,一般的に高齢者は食事の摂取量が少ないため,濃い味付けでも,1日の塩分・糖分の摂取量はさほど多くなりません。まずは「おいしく」食べてもらうことを優先して味付けを考えてもよいでしょう。  また,おかずの品数も重要です。おかずの品数が多いと食事が豪華に見えますが,塩分・糖分の摂取量が決まっていると,その分,一品一品の味付けを薄くしなければなりません。品数を減らして,しっかりした味付けのおかずにした方が,食事の満足感が得られる場合があることも覚えておいてください。

加齢による感覚機能の変化 ③嗅覚 <嗅覚は鍛えられる> ・視覚や聴覚に比べると,低下し始める年齢は遅い ・加齢による嗅覚機能の低下を改善することは困難 ・いろいろな香りを意識してかぎ分けることにより嗅覚を鍛えることはできる ・副鼻腔炎などで低下した嗅覚機能は,治療により改善できる ◎嗅覚機能の低下 【嗅覚は鍛えられる】  視覚や聴覚に比べると低下し始める年齢は遅くなりますが,加齢によって嗅覚も低下します。  加齢によって低下した機能を改善させることは困難ですが,いろいろな香りを意識してかぎ分けることにより嗅覚を鍛えることもできますし,副鼻腔炎などで低下した場合は治療により改善できます。

加齢による感覚機能の変化 ③嗅覚 【ケアの視点】 ・香りは「風味」として食事のおいしさに影響する → 味覚機能の低下と同様に,だしや柑橘系の  →  味覚機能の低下と同様に,だしや柑橘系の 食材で香り付けを行うなど工夫するとよい ・嗅覚機能が低下した人は,ガス漏れや食べ物の腐敗臭に気がつかない場合もある  → 特に高齢者のみの世帯の場合は,ガス漏れ     警報機を設置したり,訪問時の冷蔵庫チェッ クが必要 【ケアの視点】  香りは「風味」として食事のおいしさに影響するため,味覚機能の低下と同様に,だしや柑橘系の食材で香り付けを行うなど工夫するとよいでしょう。  また,嗅覚機能が低下した人の生活で注意しなければならないことに,ガス漏れに気づくのが遅かったり,食べ物の腐敗臭に気がつきにくかったりすることが挙げられます。  したがって,特に高齢者のみの世帯の場合は,ガス漏れ警報機を設置したり,訪問時に冷蔵庫をチェックしたりするようにしてください。

加齢による感覚機能の変化 ③嗅覚 ・近年の研究では,アルツハイマー病やパーキンソン病の症状として,嗅覚機能の低下が注目されている  →  味付けの好みの変化がきっかけでアルツハ イマー病の診断につながった事例がある ・いろいろな香りで嗅覚機能を鍛えることにより認知機能が改善したという報告もある  →  お香を薫いたりアロマセラピーを取り入れたり する施設も増えている  なお,近年の研究では,アルツハイマー病やパーキンソン病の症状として嗅覚機能の低下が注目されています。  前述のように,嗅覚機能の低下は味覚にも影響するため,味付けの好みが変わったことがきっかけでアルツハイマー病の診断につながった事例もあります。  また,いろいろな香りで嗅覚機能を鍛えることにより認知機能が改善したという報告もあり,お香を薫いたりアロマセラピーを取り入れたりする施設も増えてきています。

加齢による感覚機能の変化 ④皮膚感覚 <刺激に対する反応が鈍くなる> ・加齢に伴い,皮膚にある感覚点(触点,温点,冷点,痛点,圧点)の機能が低下し,外的な刺激に対する反応が低下する ・夏に何枚も重ね着をしているのは温度覚の機能が低下しているため ◎皮膚感覚機能の低下 【刺激に対する反応が鈍くなる】  皮膚感覚機能は,温度覚,触覚,振動覚,痛覚などから成ります。加齢に伴って皮膚にある感覚受容器である感覚点(触点,温点,冷点,痛点,圧点)の機能が低下すると,外的な刺激に対する反応が低下します。  例えば,夏に何枚も重ね着をしている人がいるのは温度覚の機能が低下しているためです。

加齢による感覚機能の変化 ④皮膚感覚 <痛覚機能> ・痛点は加齢に伴って減少すると共に,痛みを感じはじめる強さ(痛みの閾値)も高くなる ・高齢者の場合,普段からいろいろなところに痛みがあることが多いため,身体の異常を知らせる役割である痛みを感じずに過ごしてしまうことがある 【痛覚機能】  痛覚機能も加齢に伴って変化します。痛点は加齢に伴って減少すると共に,痛みを感じはじめる強さ(痛みの閾値)も高くなるため,一般的に高齢者は痛みを感じづらくなると言われています。  さらに,高齢者の場合,普段からいろいろなところに痛みがあることが多いため,身体の異常を知らせる役割である痛みを感じずに過ごしてしまうことがあります。  したがって,入浴時などには本人の痛み訴えの有無にかかわらず,全身状態を観察することが大切です。 入浴時などには本人の痛み訴えの有無にかかわらず,全身状態を観察することが大切

加齢による感覚機能の変化 ④皮膚感覚 【ケアの視点】 ・特に注意したいのが,カイロやあんかの使用,入浴などによるやけど  →  カイロやあんかは直接肌に触れないように工 夫し,入浴介助をする時は必ず介助者自身 で温度を確認するようにする ・高齢者はのどの渇きに対する感覚も低下している  → 「高齢者はのどの渇きを感じづらい」というこ とを念頭に置き,水分摂取を促す 【ケアの視点】  特に注意したいのが,カイロやあんかの使用,入浴などによるやけどです。カイロやあんかは直接肌に触れないように工夫し,入浴介助をする時は「湯加減はいかがですか?」と口頭で確認するだけでなく,必ず介助者自身で温度を確認するようにしてください。  なお,高齢者はのどの渇きに対する感覚も低下しています。お茶を勧めても,「のどは渇いていないし,トイレが近くなるからいい」と言って飲まない人は少なくありません。高齢者の脱水は命にかかわります。  「高齢者はのどの渇きを感じづらい」ということを常に念頭に置いて,水分を勧めるようにしてください。

高齢者の身体機能と生活を意識したケア まとめ ・高齢者は,機能低下を予防したり,改善したりする方法や,低下した機能を補う方法を知らない  →  「年だから仕方ない」と思い込んでいたり,身体を動 かすこと(運動や外出)の重要性が伝わっていないこ とも多い ・高齢者に「外に出よう」という気持ちになってもらうためには,外に出ることによって得られる楽しみや喜びが必要  →  高齢者が自分一人で新たな楽しみを見つけることは 困難 ・身体機能が低下しても,生活の楽しみを見つけられるよう,介護職が高齢者の思いに耳を傾け,実現させる  →  正しい知識と技術必要となる 【まとめ】  加齢に伴う機能の低下は誰にでも訪れます。しかし,機能低下を予防したり,改善したりする方法や,低下した機能を補う方法は誰もが知っているわけではありません。それを知っているのは,私たち高齢者ケアの専門職であり,当事者である高齢者は知らないのです。  身体機能や感覚機能の低下により生活が不活発になってしまった人の多くは,「年だから仕方ない」と思い込んでいたり,身体を動かすこと(運動や外出)の重要性が伝わっていなかったりするために引きこもりになっている人です。このような人に「家(部屋)にいてばかりではだめですよ」と口で言っただけでは,なかなか身体を動かしてもらうことはできません。  高齢者に「自立した日常生活」を送ってもらうためには,まず「引きこもっていないで,外に出よう」という気持ちになってもらわなければなりませんが,それにはその人が外に出ることによって楽しみや喜びが得られることが必要です。  しかし,引きこもっている高齢者が自分一人で新たな楽しみを見つけることは困難です。したがって,私たち介護職は,高齢者それぞれが身体機能に応じた生活の楽しみを見つけられるよう,高齢者の思いに耳を傾け,その思いを実現させるケアを提供するために正しい知識と技術を身につける必要があるのです。

確認テスト① 1.筋力の低下,筋肉量の減少による日常生活機能への影 響やその改善方法について,間違っているものを1つ選び なさい。 ①義歯の調整など,かみ合わせの調整を行う。 ②食事は3食きちんと食べ,特に良質のタンパク質は若い 時よりも多く摂取する。 ③入院する必要がある場合,高齢者は体力の回復に時 間がかかるため,病気が治っても,なるべく長く入院した 方が退院後の生活機能の向上につながる。 ④筋力の低下は便秘の原因にもなる。 ⑤筋肉量を増やすことは,脱水の予防にもつながる。 解答・解説  正解:③ ①かみ合わせに不具合があると,十分に咀嚼ができないだけでなく,全身にさまざまな  影響を及ぼします。人は力を入れる時に歯を食い縛りますが,この食い縛りができな  いと全身の力を十分に発揮することができません。高齢者の場合も,一人で立ち上  がれなかった人が,義歯の調整をしたら立ち上がれるようになったという事例がありま  す。 ②3食しっかり食べているのに低栄養になっている高齢者が増えています。「新型栄養  失調」とも呼ばれるこの状態は,加齢に伴って消化吸収力が低下することと,コレステ  ロール値やメタボなどを気にしすぎて卵や肉といった良質なタンパク質の摂取量が少  ないことが原因で起こります。 ③歩いてトイレに行けるような状態でも,入院生活は極端に筋肉量を減少させます。体  重60kgくらいの人が,3日間の入院で3kg以上減ることも珍しくありません。これは,入  院により食生活が改善されて脂肪が減ったのではなく,筋肉量が減ってしまったこと  が大きな原因です。 ④人は排便する時,腹筋に力を入れて便を押し出します。したがって,腹筋が弱くな  れば便を押し出す力が弱くなり,便秘につながります。また,前かがみの姿勢を取る  と,直腸と肛門の角度が真っすぐに近くなって排便しやすくなりますが,筋力が低下  していると排便に適した姿勢を保持することが難しくなります。 ⑤筋肉には水分が蓄えられており,身体の水分が足りなくなると筋肉から水分が出て   きます。すなわち,筋肉は水分の予備タンクであり,筋肉量の少ない高齢者は脱水  症状を起こしやすい状態にあります。

確認テスト② 2.両手の親指と人さし指で輪をつくり,利き足ではない方 のふくらはぎの一番太い部分を軽く囲った時,サルコぺ ニア(筋肉量の減少,筋力の低下)の可能性が高いもの をすべて選びなさい。 ①両手でふくらはぎを囲めない(ふくらはぎの方が太い)。 ②両手でちょうど囲める。 ③両手で囲んだ時,ふくらはぎとの間に指1本分の隙間が できる。 ④両手で囲んだ時,ふくらはぎとの間に指2本分の隙間が 解答・解説  正解:③④  サルコぺニアの簡易チェック方法である「指輪っかテスト」です。  サルコぺニアか否かの正確な診断には筋肉量の測定が必要となりますが,この指輪っかテストのほか,片足立ちテスト(片足立ちで靴下が履けない,いすに座った状態から片足で立てない,片足立ちのまま60秒キープすることができない),握力(男性26kg未満,女性18kg未満),歩行速度(0.8m/秒以下,青信号で横断歩道を渡りきれない)なども簡易的なチェック方法として用いられます。

確認テスト③ 3.「ロコモティブシンドローム」の説明として正しいものを1つ選びな さい。 ①加齢に伴う筋力の低下や関節や脊椎の病気,骨粗鬆症などによ り運動器の機能が衰えて,要介護や寝たきりになってしまったり, そのリスクの高かったりする状態。 ②加齢に伴って,筋力や心身の活力が衰えていくことをはじめ,精 神心理や社会性が低下していくこと。 ③腹囲が男性85cm以上,女性90cm以上であって,高脂血症,高血 糖,高血圧のうち2つ以上に該当する状態。 ④老化の原因を抑制することで,健康長寿を目指そうとする考え方。 ⑤認知症の人などが,なじみのない環境へと生活の場が変わること により,心理的な不安や混乱が高まり,それまでなかったBPSDな どが生じること。 解答・解説  正解:① ①運動器症候群とも言われ,2007年に日本整形外科学会が提唱した言葉ですが,厚  生労働省の「健康日本21(第二次)」などでも重要視されています。 ②「フレイル」の説明。日本老年医学会が提唱した言葉で,健康な状態と日常生活で  サポートが必要な介護状態の中間を意味します。多くの高齢者は,フレイルを経て要  介護状態へ進むと考えられているため,フレイルに早く気付き,正しく介入(治療や  予防)することが介護予防につながります。 ③「メタボリックシンドローム」の説明。 ④「アンチエイジング」の説明。 ⑤「リロケーションダメージ」の説明。

確認テスト④ 4.左上を正常な見え方と した場合,①~④の見え 方となる原因として最も当 てはまるものをA~Cの記 号で答えなさい。 A:緑内障 B:白内障 C:黄斑変性 解答・解説  正解:①B ②C ③C ④A ①白内障の見え方です。水晶体の混濁により,かすみがかった黄色いフィルターを通  して見たような感じになります。 ②黄斑変性のうち,中心部のゆがみがある見え方です。 ③黄斑変性のうち,中心部のゆがみに加えて中心暗点がある見え方です。中心に見  えない部分があるのが,緑内障の見え方との違いです。 ④緑内障の中期の見え方です。初期は視野の周辺部に見えない部分が生じ,病気  の進行に伴い,見えない部分が視野の中心部へ広がっていきます。

確認テスト⑤ 5.老人性難聴(感音性難聴)の高齢者とのコミュニケーショ ンの取り方でふさわしくないものを2つ選びなさい。 ①耳元で大きな声で話す。 ②「7時」と伝えたい時には,「ななじ」と言い換える。 ③ゆっくり話すと,初めに言ったことを忘れてしまうので早 口で話す。 ④口の動きや表情が分かるように,正面から話しかける。 ⑤大勢の人が話している場所での会話は避ける。 解答・解説  正解:① ③ ①リクルートメント現象により,小さい音は聞こえにくく,大きい音はうるさく感じま  す。日常会話は聞こえづらくても,物が落ちた音などにとても驚くのはそのため  です。 ②子音のうち,カ行,サ行,タ行,パ行は特に聞きづらいと言われているため,  聞き取りやすい言葉に言い換えるのも有効です。例:「パンフレット」→「案内」 ③音が聞き取りづらくなると脳に伝わる情報が減ってしまい,言葉の内容を認識  するのに時間がかかるようになるため,ゆっくり,はっきり話してください。 ④耳から入ってくる情報量の減少は,視覚によって補える部分が多くあります。  電話での聞き間違いが多いのは,この視覚による情報がないためです。 ⑤雑踏や電車の中など,多数の音の中から必要な音を聞き分ける能力も低下  するため,静かな環境で話すことが大切です。