「人を対象とした研究倫理委員会」を立ち上げるとき

Slides:



Advertisements
Similar presentations
個人情報保護講座 目 次 第1章 はじめに 第2章 個人情報と保有個人情報 第3章 個人情報保護条例に規定されている県の義務 第4章 個人情報の漏えい 第5章 個人情報取扱事務の登録 第6章 保有の制限 第7章 個人情報の取得制限 第8章 利用及び提供の制限 第9章 安全性及び正確性の確保 第 10.
Advertisements

「バリアフリーの心理学」(望月) 配布資料(10/ )
「ストレスに起因する成長」に関する文献的検討
シンポジウム 子どもの豊かな育ちを 支援する地域力
Anthony and Govindarajan Management Control Systems
治験業務の実際 府中みくまり病院 胡田  正彦.
Ⅱ 訪問介護サービス提供プロセスの理解 Ⅱ 訪問介護サービス提供プロセスの理解.
1 生命倫理学とは何か 倫理学Ethicsは哲学の1部門 善、道徳を追求する学問 規範倫理学normative ethicsとメタ倫理学
心理学の「人に関する」実験・調査に関する 研究倫理
大谷経営労務管理事務所のISO9001認証取得について
(1)ノーマリゼーション、 QOL そして バリアフリー
日本教育工学会 第22回大会報告 大学院での遠隔教育と 障害学生支援
進化する香川大学 -地域の知の総合拠点- 2009年6月29日 一井 眞比古 KAGAWA UNIVERSITY.
障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針の概要
● ブログ:「対人援助学のすすめ」  応用行動分析学11(1)  応用行動分析とは?      望月昭 ● ブログ:「対人援助学のすすめ」 ●HP:「望月昭のホームページ」
バリアフリーのための心理学 2010 (1)社会参加とはどういうこと? ブログ:対人援助学のすすめ
学術機関リポジトリとは 定義 学術機関リポジトリ (Institutional Repository) は,大学あるいは研究機関の電子的な知的生産物(論文,電子的教材,実験データ,学会発表資料)を蓄積し,保存し,(原則として)無料で発信するための保存書庫。 意義 研究成果の視認性とアクセシビリティの向上.
第三章 会社のグループを形成する.
アジア系留学生に対する ソーシャルワーク教育に関する研究(2)
R 対人援助に必要な心理学(対人援助学) 立命館大学 応用人間科学研究科 望月 昭 ブログ:「対人援助学のすすめ:日々是新鮮」
(7)テレビ電話機能の使用 その前に・・・基礎研究例
ドイツの医師国家試験 口答試験 実施要領 医師試験第3部(学部6年終了時)
九州大学を学問の府に 小 田 垣 孝 学問の府 ・真理を求め、真理に基づいた発言と行動 ・市民全体に対して直接責任を負った発言と行動
「人を助ける」実践・研究に関する 倫理的課題(FC問題を中心に)
社会福祉調査論 第15回_2 第5章 倫理と個人情報保護 第7章 社会科学としての社会福祉
この授業のねらい 個人的問題から、社会的課題までを、 「行動分析学」(Behavior Analysis) の枠組みでとらえ、具体的な対策について発言提案・実践することができる。
(2)なぜ君は 「応用行動分析」を選ぶのか?
研究倫理 対人援助の実践研究を促進するツールとして
知的障害・発達障害 と差別解消法 2013年9月28日(土) REASE公開講座:知的障害・発達障害と社会
化学・生命科学科(学部・大学院) 就職関連 情報(2012年卒対象)
経済学部 岸本寿生 社会科学への誘い 経済学部 岸本寿生
品質実施作業部会(Q-IWG) 現状と最新情報
東京医科歯科大学 歯科器材・薬品開発センター シンポジウム
研究の倫理 学生と教員の教育・研究を促進する ツールとしての研究倫理
医師主導型臨床試験の 審査について 治験審査委員会 臨床試験部.
社会学部 模擬授業 社会調査から見る日本社会 グラフからよみとれること 社会学科准教授 村瀬洋一
「国際学会等参加補助企画」 希望者の募集について
学生の学力低下と化学教育における工夫 日本大学理工学部の教育事例紹介 私化連シンポジウム 日本大学 理工学部 物質応用化学科
第55回総会からの「医の倫理」手続き提示スライド
疫学概論 ヘルシンキ宣言 Lesson 23. 疫学研究の倫理 §A. ヘルシンキ宣言 S.Harano, MD,PhD,MPH.
私立大学情報教育協会 研修運営委員長 南 雄三
(1)ノーマリゼーション、 QOL そして バリアフリー
行動分析実習 第7回: 行動的QOL:行動の選択肢の拡大を軸とする作業目標.
【資料3】 骨子案の検討事項について 平成28年9月30日 福岡市障がい者在宅支援課.
(提案事業のタイトルを記載:80文字以内) ○○○○○○○○○○○○ (提案者名を記載) ○○○○
一般財団法人 日本製薬医学会 The Japanese Association of Pharmaceutical Medicine
『組織の限界』 第1章 個人的合理性と社会的合理性 前半
デジタルアーカイブ専攻 コア・カリキュラム構成の設定と学習内容・行動目標 デジタル・アーキビスト の養成 育成する人物像 入学前課題
~求められる新しい経営観~ 経済学部 渡辺史門
SCS研修「高等教育における障害者支援(2)」 国際的な障害者の権利保障と教育
社会学部 模擬授業 社会調査から見る日本社会 グラフからよみとれること 社会学科准教授 村瀬洋一
社会学部 模擬授業 社会調査から見る日本社会 グラフからよみとれること 社会学科准教授 村瀬洋一
第7回:環境と随伴性を自らが変容する 行動の獲得とその援助: 1)「要求言語行動」(マンド)の獲得とその成立のための実践
 認定社会福祉士(医療分野)       制度について 2010年3月30日 (社)日本医療社会事業協会   笹岡 眞弓.
11応用行動分析(その7) 自己決定(Self-Determination)
「対人援助の方法」(対人援助学)としての応用行動分析の“応用”
アクティブ・シミュレーション の場としての大学 ①物理的資源としての大学 ②人的資源としての大学 ③情報蓄積資源としての大学
2011 行動分析学特論 (1)行動分析学と 対人援助(学)
SCS研修 高等教育に学ぶ障害者への 配慮と学習支援
山梨大学 学術リポジトリ 概要 ・2009年6月1日正式公開 ・コンテンツ件数 1,738件
臨床研究委員会において科学性・妥当性の審査
学系選択について 総合情報学科 ~ H30年度 ~.
行動福祉学 来し方行く末 行動福祉学・対人援助学という コンテクスト 立命館大学 望月昭 HP:望月昭のホームページ
09応用行動分析(その9) 自己決定(対人援助のキモ)
学生ボランティアを中心とした障害学生支援の課題 日本福祉大学における障害学生支援を手がかりとしての考察
DI者の権利擁護にかかる相談窓口とソーシャルワーク・ポリシー
第2回実務者会議の議論を受けた検討 資料14 1 第2回実務者会議での議論の概要 (○:有識者意見、●:関係府省意見) 1
長野大学における科研費等の運営・管理について
○ 大阪府におけるHACCP普及について S 大阪版 評価制度を設ける 大阪府の現状 大阪府の今後の方向性 《従来型基準》
2010応用行動分析(3) 対人援助の方法としての応用行動分析
Presentation transcript:

「人を対象とした研究倫理委員会」を立ち上げるとき 日本行動分析学会第28回年次大会 2010/10/9 シンポジウム「行動分析家が人を対象とした研究ならびに臨床的活動を実践するときに必要な倫理的配慮 IRBとしての 「人を対象とした研究倫理委員会」を立ち上げるとき -行動分析学あるいは対人援助学の立場から-   立命館大学    望月 昭

コンテンツ 大学における研究倫理委員会: 研究者の属する組織による研究倫理審査 2. R大学の「研究倫理委員会」設立のいきさつ    研究者の属する組織による研究倫理審査 2. R大学の「研究倫理委員会」設立のいきさつ   3. 立命館大学(衣笠C)「人を対象とする研究倫理審査委員会」 4. 批判・問題・課題

1. 大学における研究倫理審査 ● IRB: 研究者の所属する組織による、 「自己審査」機能 ● 「大学」という組織 外的状況 1. 大学における研究倫理審査 ● IRB: 研究者の所属する組織による、     「自己審査」機能 ● 「大学」という組織       外的状況    ・コンプライアンス中心の危機管理   ・上位(?)組織からの指示指導(文科省など)        内的状況   ・学生(学部生・院生)の研究、教育(授業) ・多領域を有する組織 (人を対象とする・・・)

1)応用人間科学研究科(Human Services) 2001~ 「対人援助(学)」:援助者による“2人称”的研究 97年から設置希望 文学部動物実験委員会 08 0)  人文系(心理)・社会系(法、経営) 1)応用人間科学研究科(Human Services) 2001~ 「対人援助(学)」:援助者による“2人称”的研究 2)先端総合学術研究科(Core Ethics) 2003~   「生存学」;当事者による“1(1.5?)人称”的研究 ●研究、授業内容における倫理的課題 ●研究対象としての「研究倫理」

Making 倫理委員会 2006: 「研究倫理WG」(人間科学研究所) 基本論点: ・倫理とコンプライアンスの分離  基本論点:    ・倫理とコンプライアンスの分離     ・研究者倫理から研究(行動)倫理へ    『テキスト』:  坂上貴之(2004) 倫理的行動と対抗制御 -行動倫理学の可能性.行動分析学研究,19(1),5-17.

研究倫理と研究者倫理? ●研究費流用などの不祥事の中で、 研究に関わる諸問題が、研究者個人のモラルにもっぱら帰属するかのような状況(研究者の 倫理)」。 ●そして、研究に関する倫理規定は、 「非倫理的行動を、罰、不の強化で減少させるためのルール」(坂上,2004参照)

研究者と対象者 「非倫理的行動をしない」という消極的な意味づけの中では、ともすると研究倫理のための作業は、 「研究(者)」と「対象者」が、 対立的な構図として位置づけられてしまう。 研究促進と対象者の利益が ともに増大するための仕組みを追求    =「研究の倫理」(?)  またそのような研究行動を強化する仕組みを具体的に工夫することが、研究倫理行動(?)

三大原則(侵襲性)・利益相反 研究行動の倫理 コンプライアンス 研究費不正 ハラスメント 剽窃・著作権 安全対策 研究者と対象者のコラボレーション   安全対策 対象者・研究者   の保険・補償  技法の妥当性 実験機器等の 管理 f-MRIなど 研究倫理の居場所と戦略

3. 立命館大学(衣笠C)「人を対象とする研究倫理審査委員会」 2009年7月から 1)学生も「研究者」である。 2)学生に指導教員の記載をとくに義務づけない。 3)対象者と同時に研究者も守る(保険等の確認) 4)「発表しない研究はない」(発表促進も倫理) 5)審査申請は、義務ではなく申請制 6)委員会は、研究事前のみでなく、中途でも、あるいはトラブルが生じたときの相談にも乗る。 7)審査は極力、迅速に(最大1ヶ月で結論)。 8)審査プロセスは極力公開

立命館大学における人を対象とする「研究倫理指針」 ●研究者とは: 「研究者」とは、本学の教員のほか、本学で研究活動に従事する学部生、大学院生および研究員等を含む。   ●研究とは:  「人を対象とする研究」とは、臨床・臨地人文社会科学の調査および実験をいい、個人または集団を対象に、その行動、心身もしくは環境等に関する情報を収集し、またはデータ等を採取する作業を含む。 「安全」を担保 問題に!

判定原案の作成および論点の集約 (暫定審査) 研究倫理審査フローチャート 研究計画の(再)作成 研究者による自己チェック (規程等は各自がダウンロード) 大学HPへ 検討コメントと 共に公開 申請対象外 申請対象 申請せず 申請書記入・事務局提出 人を対象とする研究倫理     審査委員会 判定原案の作成および論点の集約 (暫定審査)  簡易審査 事務局と月当番委員(10名) 人を対象とする研究倫理審査委員会における審査 他の倫理委員会による審査 (場合による) 立命館大学研究倫理委員会へ審査結果を報告 審査の判定と研究者への通知 (1)承認 (2) 条件付 承認 (3) 変更 の勧告 (4) 不承認 (5) 非該当 する 委員長による条件充足結果の確認 計画変更 審査せず 研究開始 疑義申出 する しない 研究計画の中途変更 する する 再審査申請の場合、理由を 添えて申請書を再提出。①へ 申請書を再提出。①へ 疑義申出/再審査申請 委員長と協議の上、計画変更、再審査

学生(教員)への教育 院生による1回生向けのマニュアル製作 心理学:2回生時に「基礎実験」の授業で 研究倫理の講義 大学院(応用人間科学研究科)  1回生時に研究法として講義 -----------------------------------------   応用人間(臨床・対人援助)ではFDなど  文学部教授会、その他オンデマンド

研究法の一部としての研究倫理

参加者(組織)と社会へ向けた報告発表公表3) ・先行研究の網羅 先人へのRespect 4) 最新・最適のトリートメントや調査か?  研究目的・目標の設定 ・以降の研究活動における倫理的諸項目についての具体的プラン(研究公表まで 研究方法の確定 研究活動 ここまでに1)インフォームト・コンセント ・参加者(組織)が途中でも参加拒否を表明する機会を設ける 研究の実施 ・実施・発表中のプライバシー保護 2)資料保存の機密性の保護 ・実施過程でのSV 研究の公表 ・危機管理・損害補償 ・公正な分析と表現(integrity)5) 参加者(組織)と社会へ向けた報告発表公表3) 

対人援助における研究の倫理 研究(実践)とは「援護」としての発表を前提とする。 大学院授業 対人援助における研究の倫理 研究(実践)とは「援護」としての発表を前提とする。 研究倫理は手続き上の「留意点」ではなく、研究の目的あるいは研究することがすでに倫理的判断の結果である。 ●対象者の利益(選択肢拡大)に対して研究内容が一致しているかどうかが、まず問題。 ●「援護」(公表)することが倫理的である。 そして、その役割を果たしうる表現であるか?

対人援助だから危ない点 無意識の改ざん・データの選択 → 長期的には「援護力」を失う 大学院授業 対人援助だから危ない点 ・「援助」している研究者の“信念”が、公正さ(integrity)を阻害する。   無意識の改ざん・データの選択         → 長期的には「援護力」を失う ・目標達成の“信念”から、対象となる「本人」の援助要請の有無さえ確認しないで作業を継続する (パターナリズム) ・対象者ではなく「他の援助者」(親・組織)の要請に統制されてしまう(クライエントが当事者ではない場合)

当事者と「善意」の研究者(援助者)の関係のチェックシステム 大学院授業 当事者と「善意」の研究者(援助者)の関係のチェックシステム ・直近の援助者(代理人)ではなく、 対象となる当事者自身から、援助実践に関する  「対抗制御」(counter control)の回路を保証する。  ●坂上貴之(2004) 倫理的行動と対抗制御-行動倫理学の可能性- 行動分析学研究、19(1)、5-17. ●Nozaki & Mochizuki (1995): Assessing choice making of a person with profound disabilities. The Journal of the Association for Persons with Severe Handicaps, 20(3),196-201.

当事者(被援助者)・環境・援助者 当事者 大学院授業 既存環境 研究対象 (^,モ,^);  当事者  宗教・信条  市場原理  組織の規制 研究対象 (^,モ,^); 援助者 研究者 実践・研究 個人的利益 締め切り! 「人称と臨床」(07/6/02)シンポジウム指定討論より

結果(経過):申請数と提案内容 2009年7月~2010年9月 結果(経過):申請数と提案内容  2009年7月~2010年9月 承認    16 条件つき  21 変更勧告  3 不承認    0 非該当    1 取り下げ   1 ---------------------- 計     42件  学生(学部)  1 院生 博士   5    修士   15 教員・PD等   21

4. 問題・批判・課題 ●問題: 申請数・審査コスト ●批判:「安全」と「倫理」のすり替え? 4. 問題・批判・課題 ●問題: 申請数・審査コスト         ●批判:「安全」と「倫理」のすり替え? ●全学的な認識: コンプライアンス・ハラスメントとの区別 ○審査委員会と研究倫理コンサルテーションを 別立てにしなければならないか。 (神里彩子・武藤香織(2010)研究コンサルテーションの現状と今後の課題.生命倫理,20(1),183-193参照