電機制御工学 定性的制御編 清弘 智昭
自動制御の種類 定量的制御 フィードバック制御(Feed Back Control) 定性的制御 シーケンス制御 対象とする系の出力(温度,速度,位置など)をある目標値にする制御。 定性的制御 シーケンス制御 対象とする系の状態(オン・オフなど)を,あらかじめ定められた順序に従って段階を進めていく制御。
フィードバック制御 定値制御 レギュレータ(Regulator) 目標値を一定に保つ 追値制御 サーボ(Servo) 目標値に追随する 制御量 目標値 誤差信号 操作量 比較部 制御部 制御対象 検出部 フィードバック信号 目標値 (Desired Value,Reference) 定量的な制御命令 偏差 (Deviation),誤差(Error) 目標値と制御量との差 制御量 (Controlled Variable) 目的とする状態
定性的制御 シーケンス制御 (Sequential Control) シーケンス制御の構成 命令処理部 制御装置 制御対象 検出部 状態 操作 信号 制御 命令 制御 信号 検出部 シーケンス制御の構成
シーケンス制御の分類 時限プログラム制御 時間で制御が進行する。 例:交通信号 順序プログラム制御 条件制御 時限プログラム制御 順序プログラム制御 条件制御 時間で制御が進行する。 例:交通信号 外部のセンサや内部の状態の変化に従って制御が進行する。 例:全自動洗濯機 入力と内部状態の組み合わせで制御が決定される。 例:エレベータの行き先階の決定法
命令処理部 シーケンス制御の設計は命令処理部の設計が主となる 命令処理部の構成要素 有接点 無接点 電磁リレー(Relay:継電器とも呼ぶ) 電磁接触器 プログラマブルコントローラ 半導体個別素子 トランジスタ,IC等 プログラマブル・コントローラ(シーケンサ) マイクロプロセッサ
電磁リレーの動作 コイルに電流を流さない コイルに電流を流す 共通 共通 b接点 導通 導通 a接点 バネに引かれて可動鉄片は上に押される。 共通とb接点が導通する。 可動鉄片は電磁石(コイル)に引きつけられる。 共通とa接点が導通する。
電磁リレーの記号
電磁リレーの働き 電磁リレーの接点 電磁リレーの働き 簡略記号 a接点 コイルがONでONになる NO (Normally Open), Make 接点 b接点 コイルがONでOFFになる NC (Normally Closed), Break 接点 電磁リレーの働き 絶縁 コイルと接点は完全に離れている。 入力と出力の共通端子(接地)は存在しない。 論理の反転 コイルの電流OFFでb接点はON コイルの電流ONでb接点はOFF 回路数の増加 1個のコイルで複数の接点をON-OFFできる。 増幅 小さなコイル電流で大電流容量の接点をON-OFFできる a接点 b接点 簡略記号
電磁リレーのコイルと接点の対応付け コイルと対応する接点を点線で結ぶ リレーの個数が多くなるとわかり難い コイルを大文字のアルファベットで示し,対応する接点にどのコイルの接点なのかを示す コイルを大文字,接点を小文字にする場合もある
電磁接触器 大型で制御する電力が大きいものは電磁接触器と呼ばれている。 電磁接触器の記号は下図のようになる。 小型の電磁接触器
タイマ 入力信号が変化時より,ある一定時間だけ遅れて出力が変化するリレー。 遅延動作 遅延復帰 遅延 a接点 b接点 タイマの外観
OCR (Over Current Relay) 保護リレー コイルに過電流が流れたとき動作し,接点をOFFにして回路を遮断するリレー 手動復帰接点を持つ 動作した後は自動的には戻らない (原因を修復した後手動で復帰させる) 手動復帰接点の記号 保護リレー OCR (Over Current Relay)
シーケンス制御で用いられる器具と記号1 手動スイッチ類 a接点 b接点 a接点 押さない時はOFFで,押すとONになる接点 b接点 押さない時はONで,押すとOFFになる接点
シーケンス制御で用いられる器具と記号2 リミットスイッチ 機械的な外力で動作するスイッチ。 人間が操作するスイッチ, リレーの接点 リミットスイッチではない リミットスィッチの記号 a接点 b接点
シーケンス制御の基本回路 ラダ-ネットワーク (はしごのようになっているので) AND OR NOT ラダ-ネットワーク (はしごのようになっているので) 両方ONにならないとコイルに電流が流れない AND どちらかがONになるとコイルに電流が流れる OR 接点が押されるとコイルに流れていた電流がOFFになる NOT 両側の線は電源
自己保持回路の動作 自己保持回路 セットスイッチを押すと出力はセットされ,スイッチを離してもその状態を保つ回路。リセットスイッチを押すまでその状態を保つ。 リセットスイッチ セットスイッチ セットスイッチを押す セットスイッチ ON リセットスイッチ ON コイルに電流が流れる リレーの接点 ON セットスイッチを押す セットスイッチ ON リセットスイッチ ON リレーのコイルに電流が流れる リセットスイッチを押す セットスイッチ OFF リセットスイッチ OFF コイルの電流が切れる リセットスイッチを押す セットスイッチ OFF リセットスイッチ OFF コイルの電流が切れる リレーの接点 OFF セットスイッチを離す セットスイッチ OFF リセットスイッチ ON コイルに電流が流れる リレーの接点 ON 接点を通してコイルに電流が流れつづける リセットスイッチを離す セットスイッチ OFF リセットスイッチ ON セットスイッチがOFFなのでコイルには電流が流れない 最初の状態 両方のスイッチは押されていない。 セットスイッチ OFF リセットスイッチ ON リレーのコイルはOFF
自己保持回路の動作1 自己保持回路 セットスイッチを押すと出力はセットされ,スイッチを離してもその状態を保つ回路。リセットスイッチを押すまでその状態を保つ。 リセットスイッチ セットスイッチ 最初の状態 両方のスイッチは押されていない。 セットスイッチ OFF リセットスイッチ ON リレーのコイルはOFF
自己保持回路の動作2 リセットスイッチ セットスイッチ セットスイッチを押す セットスイッチ ON リセットスイッチ ON コイルに電流が流れる リレーの接点 ON セットスイッチを押す セットスイッチ ON リセットスイッチ ON リレーのコイルに電流が流れる
自己保持回路の動作3 リセットスイッチ セットスイッチ セットスイッチを離す セットスイッチ OFF リセットスイッチ ON コイルに電流が流れる リレーの接点 ON 接点を通してコイルに電流が流れつづける リセットスイッチを押す セットスイッチ OFF リセットスイッチ OFF コイルの電流が切れる
自己保持回路の動作4 リセットスイッチ セットスイッチ リセットスイッチを押す セットスイッチ OFF リセットスイッチ OFF コイルの電流が切れる リレーの接点 OFF リセットスイッチを離す セットスイッチ OFF リセットスイッチ ON セットスイッチがOFFなのでコイルには電流が流れない
自己保持回路の種類 リセット優先自己保持回路 セット優先自己保持回路 スイッチS と R を同時にONにするとRの方が優先される
シーケンス制御の例1 揚水ポンプ ポンプ運転開始の条件 ポンプ停止の条件 タンク内の水が無くなりLSLが押されなくなったとき タンクが満水になってLSUが押されたとき LSLで自己保持回路 セット, LSUで自己保持回路 リセット
揚水ポンプの設計 運転 停止 LSL-b LSU-b セット部 リセット部 セット部 ONで自己保持はセットされる LSLが押されなくなったらON b接点 リセット部 OFFで自己保持回路リセット LSUが押されたらOFF b接点 停止 LSL-b LSU-b
シーケンス制御の例2 運転時(Δ接続) 起動時(Y接続) 誘導電動機のY-Δ起動 Y接続にするとコイルに印加される電圧は になる 起動時に大きな突入電流が流れる コイルに印加する電圧を下げる Y接続にするとコイルに印加される電圧は になる 運転時(Δ接続) 起動時(Y接続)
3相誘導電動機のY-Δ起動 電磁接触器(MC)とコイルの配線 タイムチャート Y運転 Δ運転 STB SPB x TM MCY MCD MCY:Y結線用MC MCD:Δ結線用MC 電磁接触器(MC)とコイルの配線 タイムチャート Y運転 Δ運転 STB SPB x TM MCY MCD Δ結線用MC STB:スタートボタン x:補助リレー SPB:ストップボタン Y結線用MC
誘導電動機のY-Δ起動 ラダ-ネットワークの設計 1.STBでセット,SPBでリセットの自己保持を作る 2.Xでタイマを起動 3.MCYとMCDの回路を作る MCYとMCDが同時にONにならないようにする
シーケンス制御の表現法 開 始 端記号 (開始・終点など) タイムチャート Y-Δ起動の項参照 フローチャート ラダー図 直接ラダー図で表現 開 始 タイムチャート Y-Δ起動の項参照 フローチャート ラダー図 直接ラダー図で表現 状態遷移図 LSL=ON Y 条件判断 モータ ON 処理 LSU=ON LSU=OFF LSL=OFF Y モータ ON モータ OFF LSU=OFF LSL=ON モータ OFF
シーケンス回路の設計法1 タイムチャートなどから直接ラダ-図を作る 同期順序回路の設計手法を用いる(電磁リレーは不可) 揚水ポンプ,Y-Δ起動などの設計例 同期順序回路の設計手法を用いる(電磁リレーは不可) 00 01 10 入力論理回路 FF群 出力論理回路 入力 クロック たとえば状態00の時,入力論理回路で次の状態01を作っておく。すると次のクロックでFF群はこの01を読み込んで01になる。 FF群の出力と入力から次の状態を作っておく
同期順序回路によるシーケンス制御の設計 揚水ポンプ制御装置の設計 M LSL LSU M’ 0 0 0 1 0 0 1 X 0 1 0 0 0 0 0 1 0 0 1 X 0 1 0 0 0 1 1 0 1 0 0 1 1 0 1 X 1 1 0 1 1 1 1 0 LSL=0/1 LSU=0 LSL=1 LSU=0/1 LSU=1 モータ ON モータ OFF LSL=0 LSU,LSLが押されているとき「1」 出力はモータM,1つだけなのでFFは1個 前の状態mとクロック入力後の状態Mおよび入力の関係を示すと左のようになる。 ×は存在しない状態を表す 上の真理値表からカルノー図を描いて入力論理回路を作る
同期順序回路2 カルノー図を描いて論理式を求める LSL LSU 00 01 11 10 0 1 X 1 1 X 1 M 00 01 11 10 0 1 X 1 1 X 1 M 完成した同期順序回路 入力論理回路
シーケンス回路の設計法3 非同期順序回路の設計手法をもちいる 非同期順序回路 Δ Δ 不安定 不安定 安定 安定 出力が入力側にフィードバックされているディジタル回路。出力 と入力 は最終的には等しくならなければならない。 等しい状態 安定 等しくない状態 不安定(過渡状態) Δ Δ 不安定 不安定 安定 安定
非同期順序回路の解析 SRフリップ・フロップの解析 論理式から遷移表を作る 外部入力 は横 内部入力 は縦 枠の内部に出力 を書く 外部入力 は横 内部入力 は縦 枠の内部に出力 を書く 出力は論理式から求める。 は または のとき1 は または のとき1 論理式 大文字は出力 小文字は入力
非同期論理回路の解析2 00 01 11 10 00 11 11 11 11 01 01 01 11 11 11 00 01 11 10 10 10 11 11 10 00 01 11 10 00 11 11 11 11 01 01 01 11 11 11 00 01 11 10 10 10 11 11 10 安定なのでここに落ち着く 入力を変化させてSR=10に移動する この11が次の内部入力となるので,g1g2が11の場所に移動する ここも不安定なので,g1g2が10の場所に移動する 最初黄色の状態にあったときSRが10になったらどうなるだろうか そこは11で不安定なので縦方向に移動する。どこへ? と が等しいと安定であるから丸をつける 外部入力 が変化したとき出力 がどのように変化するかを調べる
非同期順序回路で揚水ポンプを設計する1 出力は M 1つ 入力は 外部 LSL,LSU 内部 m 遷移表を作る 入力は2なので列数は22=4 入力は2なので列数は22=4 出力は1なので行数は21=2 LSU LSL 00 01 11 10 1 遷移図より遷移表を作る m
非同期順序回路で揚水ポンプを設計する2 LSU,LSLが押されているとき「1」 LSU LSL 00 01 11 10 2 ① ⑥ 1 ③ モータOFF,LSU LSL=01の時を開始点とする。この時には安定なので丸をつける。 水位が下がってLSL=0になると左に移動する。この時ポンプを起動する必要があるので不安定で下に移動。 ポンプ起動で安定。貯水槽に水が入ると再びLSL=1になるので④に移動する。 さらに貯水槽の水位が上がって満水になるとLSU=1になる。 満水なのでポンプを停止させる。そのためには不安定でなければならない。 ポンプ停止状態で安定。再び起動するのはLSU LSL=00になったとき。 モータ ON モータ OFF LSL=0 LSU,LSLが押されているとき「1」 LSU LSL 00 01 11 10 2 ① ⑥ 1 ③ ④ 5 m 重 要 遷移表において,入力が変化した時には横方向へ,出力が変化する時には縦方向に移動する。
非同期順序回路で揚水ポンプを設計する1 出力は M 1つ 入力は 外部 LSL,LSU 内部 m 遷移表を作る 入力は2なので列数は22=4 入力は2なので列数は22=4 出力は1なので行数は21=2 LSU LSL 00 01 11 10 1 遷移図より遷移表を作る m
非同期順序回路で揚水ポンプを設計する2 LSU,LSLが押されているとき「1」 LSU LSL 00 01 11 10 2 ① ⑥ 1 ③ モータOFF,LSU LSL=01の時を開始点とする。この時には安定なので丸をつける。 水位が下がってLSL=0になると左に移動する。この時ポンプを起動する必要があるので不安定で下に移動。 ポンプ起動で安定。貯水槽に水が入ると再びLSL=1になるので④に移動する。 さらに貯水槽の水位が上がって満水になるとLSU=1になる。 満水なのでポンプを停止させる。そのためには不安定でなければならない。 ポンプ停止状態で安定。再び起動するのはLSU LSL=00になったとき。 モータ ON モータ OFF LSL=0 LSU,LSLが押されているとき「1」 LSU LSL 00 01 11 10 2 ① ⑥ 1 ③ ④ 5 m 重 要 遷移表において,入力が変化した時には横方向へ,出力が変化する時には縦方向に移動する。
非同期順序回路で揚水ポンプを設計する3 安定な部分はMとmが等しい,すなわちMは横の値と等しくなる。不安定な場合は,縦方向の移動先と同じになるのでその値を表に書き込む。また,何もない部分は×を書き込んでおく。 遷移マトリックスはカルノー図と同じなので,簡単化した式を書き出す。 LSU LSL 00 01 11 10 2 ① ⑥ 1 ③ ④ 5 m LSU LSL 00 01 11 10 1 × m
自動ボール盤の設計1 自動ボール盤の動作
自動ボール盤の設計2 1 スタートボタンSBを押す 被加工物(ワーク)を固定するため油圧バルブVcをONにする。
自動ボール盤の設計3 2 主軸を降下させる(急速降下) 2 主軸を降下させる(急速降下) ワークが固定(クランプ)されてリミットスイッチLS1が押されたら主軸上下用バルブの降下用ソレノイドを駆動する。主軸が降下するとLS2は離れる。 主軸
自動ボール盤の設計4 3 主軸を降下させる(加工速度降下) 3 主軸を降下させる(加工速度降下) LS3はドリルが被加工物の直前まできたら押される。ここからは穴開け加工をするために主軸をゆっくり降下させると共に,ドリルを回転させる。そのため,緩降下バルブのソレノイドと主軸駆動モータをONにする。 ドリル
自動ボール盤の設計5 4 主軸を上昇させる(モータ回転) 4 主軸を上昇させる(モータ回転) ドリルの先端が規定の穴の深さに達すると,LS4がオンになるので主軸を上昇させる。ドリルがワークの中に残っている間は主軸を回転させておく必要があるので,モータはONのままである。
自動ボール盤の設計6 5 主軸を上昇させる(モータ停止) 5 主軸を上昇させる(モータ停止) 加工をしていなくても,摩擦などを減らすため,ドリルがワークの中に残っている間は主軸を回転させておく必要がある。LS3が押された時にはドリルの先端はワークの外に出ているのでモータを停止させる
自動ボール盤の設計7 6 クランプを解除する 主軸が完全に上がりきってLS2が押されると穴あけ作業は終了したので,VcをOFFにして,ワークのクランプを解除する。 するとLS1は押されなくなり,最初の状態に戻る。
自動ボール盤の設計8 設計のポイントタイムチャートを見て作りやすいところから手をつける VuはLS4でセット,LS2でリセットの自己保持で実現できる。 VsはLS3でセットして,LS4でリセットするが,ステップ5で再びセットされないようにLS3をVuで禁止する。 MはLS3かつVdの時にセットする。またりセットはLS3かつVuでリセットすればよい。ただし, となるので注意のこと VdはLS1をVuで禁止することにより得られる。 Vcはリミットスイッチや制御器具の信号から直接生成することはできない。SBでセットはできるが,リセットではLS2が押された時となるが,スタート時にLS2が入っているのでセットできない。補助リレーXを用いて図のようなタイミングを作りリセットする。
プログラマブルコントローラ Programable Controller(PC) シーケンサとも呼ばれる プログラマブルコントローラの内部構成 ユーザプログラム データ一時記憶 シーケンサの制御プログラム パソコン コンソール
プログラマブルコントローラ プログラムの入力方法 ニーモニック(Mnemonic) (パソコン,コンソール) フローチャート等 (パソコン) ラダー図 (パソコン入力) ニーモニック(Mnemonic) (パソコン,コンソール) LD 01 OR 64 ANDC 00 フローチャート等 (パソコン) フローチャート ペトリネット
プログラマブルコントローラ 自己保持回路の構成例 下図のような自己保持回路をPCで実現する。 S R S F R f f 自己保持回路 F
プログラマブルコントローラ プログラムの例(ニーモニック) LD 0 S R OR 64 ANDC 1 ANDC 1 ST 64 f S R
入力インターフェースの条件 雑音に強い 絶縁されている