<minato@ypu.jp> 疫学(Epidemiology) 第3回 疫学研究のデザイン 中澤 港(内線1453) <minato@ypu.jp> http://phi.ypu.jp/epidemiology/

Slides:



Advertisements
Similar presentations
東京大学医学系研究科 特任助教 倉橋一成 1.  背理法を使った理論展開 1. 帰無仮説( H0 、差がない)が真であると仮定 2. H0 の下で「今回得られたデータ」以上の値が観測でき る確率( P 値)を計算 3. P 値が 5% 未満:「 H0 の下で今回のデータが得られる可 能性が低い」
Advertisements

橋本. 階級値が棒の中央! 階級値 図での値 階級下限階級上限
文責:研究幹事 研究会議レジュメ補足 2014 年度前期早稲田大学雄弁会. 学問における科学的な研究のプロ セスと目的を概観する.
第6回 適合度の検定 問題例1 サイコロを 60 回振って、各目の出た度数は次の通りであった。 目の出方は一様と考えてよいか。 サイコロの目 (i) 観測度数 : 実験値 (O i ) 帰無仮説:サイコロの目は一様に出る =>それぞれの目の出る確率 p.
入門B・ミクロ基礎 (第4回) 第2章 2014年10月13日 2014/10/13.
「ストレスに起因する成長」に関する文献的検討
看護学部 中澤 港 統計学第5回 看護学部 中澤 港
第4章補足 分散分析法入門 統計学 2010年度.
Lesson 21. 健康政策と疫学 §B. 集団データを用いた 疫学研究 疫学概論 集団データを用いた疫学研究
疫学概論 臨床生命表 Lesson 7. 生命表 §C. 臨床生命表 S.Harano,MD,PhD,MPH.
統計学第9回 「2群の差に関するノンパラメトリックな検定」 中澤 港
疫学概論 時系列研究 Lesson 11. 記述疫学 §B. 時系列研究 S.Harano,MD,PhD,MPH.
多変量解析 -重回帰分析- 発表者:時田 陽一 発表日:11月20日.
パネル分析について 中村さやか.
統計学 試験問題 石川県会立歯科衛生士専門学校
検定 P.137.
保健統計演習 橋本.
実証分析の手順 経済データ解析 2011年度.
公衆衛生学 疫学デザインと健康指標
疫学概論 コウホート生命表 Lesson 7. 生命表 §A. コゥホート生命表 S.Harano,MD,PhD,MPH.
疫学概論 母集団と標本集団 Lesson 10. 標本抽出 §A. 母集団と標本集団 S.Harano,MD,PhD,MPH.
初歩的情報リテラシーと アンケート集計のためのExcel・SPSS講座
疫学(Epidemiology) 第4回 標本抽出法 誤差やバイアスの制御 中澤 港(内線1453)
一般住民の大腿骨近位部骨折発症率で 認められる地域差は、 血液透析患者でも認められる
疫学概論 無作為化比較対照試験 Lesson 14. 無作為化臨床試験 §A. 無作為化比較対照試験 S.Harano,MD,PhD,MPH.
ベイズ的ロジスティックモデル に関する研究
第8回授業(5/31)での学習目標 一事例デザインとは? 分割区画型反復測定デザインとは? メタ・アナリシスとは?。
第3章 重回帰分析 ー 計量経済学 ー.
第3章 重回帰分析 ー 計量経済学 ー.
計算値が表の値より小さいので「異なるとは言えない」。
臨床検査のための代替キャリブレーション:ノルトリプチリン治療薬モニタリングへの応用
Nestedケース・コントロールデザインにおける擬似尤度によるパラメータ推定
正規性の検定 ● χ2分布を用いる適合度検定 ●コルモゴロフ‐スミノルフ検定
Study Design and Statistical Analysis
疫学概論 患者対照研究 Lesson 13. 患者対照研究 §A. 患者対照研究 S.Harano,MD,PhD,MPH.
analysis of survey data 第3回 香川大学経済学部 堀 啓造
Lesson 22. 健康政策への応用 §C. リスク・マネージメント 疫学概論 リスク・マネージメント
疫学概論 患者対照研究 Lesson 13. 患者対照研究 §A. 患者対照研究 S.Harano,MD,PhD,MPH.
公衆衛生学コース 人を対象にした研究のデザインⅡ 藤田 裕規 近畿大学医学部公衆衛生学.
離婚が出生数に与える影響 -都道府県データを用いた計量分析
疫学概論 横断研究 Lesson 11. 記述疫学 §A. 横断研究 S.Harano,MD,PhD,MPH.
相関分析.
疫学概論 交互作用 Lesson 18. 交互作用 S.Harano, MD,PhD,MPH.
感染症集団発生事例に対する基本的対応 大山 卓昭 感染症情報センター 国立感染症研究所.
疫学概論 交絡 Lesson 17. バイアスと交絡 §A. 交絡 S.Harano, MD,PhD,MPH.
食中毒と疫学調査の統計 ~2×2表~ 岡山理科大学 山本英二 2002/02/20.
ゲノム科学概論 ~ゲノム科学における統計学の役割~ (遺伝統計学)
配偶者選択による グッピー(Poecilia reticulata)の カラーパターンの進化 :野外集団を用いた研究
疫学概論 疾病の自然史と予後の測定 Lesson 6. 疾病の自然史と 予後の測定 S.Harano,MD,PhD,MPH.
疫学概論 バイアス Lesson 17. バイアスと交絡 §A. バイアス S.Harano, MD,PhD,MPH.
疫学概論 ヘルシンキ宣言 Lesson 23. 疫学研究の倫理 §A. ヘルシンキ宣言 S.Harano, MD,PhD,MPH.
再討論 狩野裕 (大阪大学人間科学部).
疫学概論 直接法と間接法の相違 Lesson 5. 率の調整 §D. 直接法と間接法の相違 S.Harano,MD,PhD,MPH.
疫学概論 情報の要約 Lesson 3. 情報の要約 (率、比、割合) S.Harano,MD,PhD,MPH.
疫学初級者研修  ~2×2表~ 平成12年2月14日(月) 13:00~ 岡山理科大学情報処理センター.
「アルゴリズムとプログラム」 結果を統計的に正しく判断 三学期 第7回 袖高の生徒ってどうよ調査(3)
クロス表とχ2検定.
疫学概論 方法論的問題点(患者対照研究) Lesson 13. 患者対照研究 §B. 方法論的問題点 S.Harano,MD,PhD,MPH.
「カテゴリ変数2つの解析」 中澤 港 統計学第7回 「カテゴリ変数2つの解析」 中澤 港
実習 実験の目的 現行と目標値の具体的数値を記す。 数値がわからなければ設定する。.
疫学概論 罹患の指標 Lesson 4. 罹患と死亡の指標 §A. 罹患の指標 S.Harano,MD,PhD,MPH.
第2章 統計データの記述 データについての理解 度数分布表の作成.
疫学概論 寄与危険度 Lesson 15. 関連性の測定 §D. 寄与危険度 S.Harano,MD,PhD,MPH.
わかりやすいパターン認識 第6章 特徴空間の変換 6.5 KL展開の適用法 〔1〕 KL展開と線形判別法 〔2〕 KL展開と学習パターン数
疫学概論 疫学研究の目的 Lesson 1. 疫学研究 §A. 疫学研究の目的 S.Harano,Md.PhD,MPH.
疫学保健統計 ~テスト対策~ 群馬医療福祉大学 看護学部 2年 ○○○優衣.
疫学概論 時系列研究 Lesson 11. 記述疫学 §B. 時系列研究 S.Harano,MD,PhD,MPH.
疫学概論 §C. スクリーニングのバイアスと 要件
疫学概論 横断研究 Lesson 11. 記述疫学 §A. 横断研究 S.Harano,MD,PhD,MPH.
疫学概論 臨床試験の種類 Lesson 14. 無作為化臨床試験 §B. 臨床試験の種類 S.Harano,MD,PhD,MPH.
Presentation transcript:

<minato@ypu.jp> 疫学(Epidemiology) 第3回 疫学研究のデザイン 中澤 港(内線1453) <minato@ypu.jp> http://phi.ypu.jp/epidemiology/

第3回講義概要 観察的疫学研究(記述疫学,地域相関研究,断面的研究,ケースコントロール研究,コホート研究)と介入研究に分け,それぞれのデザインと長所,短所について説明する。疫学研究倫理についても触れる。 日本疫学会編「疫学」では概ね第5章と第6章に相当する。

観察的疫学研究と介入研究の違い 観察的疫学研究では,研究者自身が対象集団に対して意図的に介入し,疾病に関する状態を能動的に変えることはない。 介入研究では,研究者自身が集団に対して意図的に介入し,能動的に割付けを行って,介入の結果によって疾病改善効果が見られるかどうかを検討する。 疫学研究においては,アプローチの違いというよりも,段階の違いと考えるべきである。

観察的疫学研究のいろいろ 記述疫学 分析疫学 生態学的研究(地域相関研究) 横断的研究 症例対照研究 コホート研究

記述疫学 descriptive epidemiologyの訳語(Last JM編A Dictionary of Epidemiology 4th Ed.ではdescriptive study,つまり記述研究という項目になっている) 変数の分布を記述することのみに関心があり,そのためにのみデザインされた研究をいう。その研究デザインには因果関係あるいは他の仮説検証を含まないが,得られたデータは状況把握と仮説構築に用いられる。その意味で疫学研究の第一段階といえる。 既に触れたように,ロンドンでのコレラ流行状況をまとめたSnowの研究は,すぐれた記述疫学研究である。

生態学的研究(地域相関研究) ecological studyの訳語 集団を単位として,異なる地域に共通する傾向があるかの検討または一つの地域での経時的傾向を調べる(生態学の中ではアレンの法則やベルグマンの法則を想起されたい) 交絡因子(撹乱要因)の影響を受けやすい欠点がある(ecological fallacyがありうる) 汚染物質の分布,汚染物質の食物連鎖,リスク評価などに用いられる 多因子の交互作用も含めて考えるためには,重回帰モデル,多重ロジスティックモデル,対数線型モデル,比例ハザードモデルなど,多変量の統計モデルを用いるのが普通

生態学的研究の例 山口県の各市町村別の一人あたり高齢者医療費と離婚率の関係 一人あたり高齢者医療費 離婚率

生態学的誤謬の例 出典:Greenland S (2001) Int. J. Epidemiol. 30: 1343-1350. ecological fallacyは,通常,生態学的誤謬と訳される。交絡が生じている場合に,集団を単位とすると,個人レベルでの真の関係とは違う関係が見え,間違った推論をしてしまうことを指す。例えば下表1のデータからでは2か3か判別不能 A群 B群 共変量 X=1 X=0 計 X=1 X=0 計 1.地域相関研究データ(A群とB群でY=1となるリスクは同じ) Y=1 ? ? 560 ? ? 560 N 60 40 100 40 60 100 率 5.6 5.6 2. 可能性1(X=1でX=0に比べY=1となるリスクは2倍,X=1でもX=0でもA群でB群に比べY=1となるリスクは7/8倍) Y=1 420 140 560 320 240 560 N 60 40 100 40 60 100 率 7.0 3.5 5.6 8.0 4.0 5.6 3. 可能性2(X=1でX=0に比べY=1となるリスクは1/2,X=1でもX=0でもA群でB群に比べY=1となるリスクは8/7倍) Y=1 240 320 560 140 420 560 N 60 40 100 40 60 100 率 4.0 8.0 5.6 3.5 7.0 5.6

横断的研究 cross sectional studyの訳語 対義語は縦断的研究(longitudinal study) 本来の意味は,時間軸と空間軸を考えたとき,1つの時間で広い空間の断面を切って観察するのが横断的研究。1つの空間を固定して時間軸に沿って長期間観察するのが縦断的研究。

症例対照研究 患者対照研究ともいう。case control studyの訳語 ある時点で疾病をもっている人を患者群として捉え,理想的にはその時点でその疾病をもっていない点だけが患者群と異なる人を対照群として捉え,過去に遡ってリスク因子への曝露の有無を調べ,曝露状況が患者群と対照群とで異なっているかどうかを調べる研究デザイン。 つまり多くの場合,後ろ向き研究(retrospective study)となる。広義の縦断研究には含まれる。

コホート研究 コホート(cohort。人口学ではコウホート,疫学ではコホートと書く)とは,何らかの共通特性をもった集団として一時点を共有するものをさす。 人口学では普通,同時出生集団をさし,例えば「1980年生まれ女子コウホート」のように使う。 疫学のコホート研究は,あるリスク因子に曝露した集団を,その後,コホートとして追跡調査(follow up study)し,疾病の発生率を観察するデザインが多い。そのリスク因子への曝露だけが異なる対照があると理想的だが,現実には難しい。 相対危険(=リスク比)を求めることができ,リスク因子の複数の疾病発生への影響を調べられるが,研究に時間と費用がかかる

その他の研究デザイン ケースコホート研究 対照が症例と同じコホートから選択されるが,その選択が症例の発症前に行われる症例対照研究 対照群には後に発症する人も含まれうる ケースコホート研究のオッズ比は,稀な疾患でなくても累積罹患率の推定値となる。 コホート内症例対照研究(nested case-control study) 追跡中のコホートから発生した患者を症例群とする 同じコホート内の非患者の中から適切な対照群を選択(選択が症例の発症後に行われる) コホートの過去の情報に遡って症例対照研究を実施。コホート全体について予め定期的に情報は得ておく。

介入研究について 介入研究では,研究者自身が曝露をセッティングすることにより,曝露以外の要因について差がないと期待される対照群を作り出すことができる。 薬を開発する際の臨床試験(clinical trial)で盛んに行われる。 臨床試験には第1相から第4相まである。 中でもRCT(Randomized Controlled Trial)は,最も科学的に厳密な仮説検定の方法とみなされている。 第3相臨床試験では,通常RCTが行われる

疫学研究倫理指針 2002年に文部科学省と厚生労働省が合同で発表した指針 疫学研究は人間を対象とするので,倫理面での配慮が不可欠 とくに介入研究では曝露条件をセッティングするので,十分に統制された実験をする必要がある 観察的研究や記述疫学研究であっても,プライヴァシーへの配慮が必要 文書によるインフォームドコンセントは必須