職業に起因する疾病4 甲田
GIO 労働に関連した健康障害について説明できる。
SBO 1. 作業関連疾患について説明できる。 2. 腰痛と頸肩腕障害について説明できる。 3. VDT作業による障害について説明できる。 4. 職場のメンタルヘルスについて説明できる。 5. 過労死と過労自殺について説明できる。
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現代日本の労働と健康問題の動向 作業環境の改善、労働強度の低下、職場の安全度の向上 →典型的急性中毒や典型的職業病の減少、 →典型的急性中毒や典型的職業病の減少、 労働災害の減少、災害性腰痛の減少、 →慢性腰痛や頸肩腕障害の増加、 心血管系疾患や精神疲労の増加
職業性要因の疾病への影響 多くの疾病は、職業性要因と非職業性要因の両面から影響を受けて発症する。 酸欠や中毒は職業性要因の影響がほとんど。 高血圧は非職業性要因と職業性要因の双方が関わる。
職業病と作業関連疾患 古典的職業病: 発症の主な要因が一つ。 鉛中毒、シンナー中毒、じん肺、放射線障害、 発症の主な要因が一つ。 鉛中毒、シンナー中毒、じん肺、放射線障害、 騒音性難聴、振動障害、熱中症、減圧症 etc 作業関連疾患: 発症要因が複雑。発症、増悪に作業が関与。 心臓・脳血管疾患、精神障害、消化器疾患、 筋骨格系疾患、etc
古典的職業病 中毒、難聴、熱中症、じん肺 非職業性疾患 先天異常、 感染症 作業関連疾患 精神、循環器、消化器、筋骨格筋
職業性要因の疾病への影響 注) 影響の大きさは甲田のイメージ 職業性要因 非職業性要因 作業関連疾患 生活習慣病 古典的職業病 酸素欠乏症 酸欠は職業性要因100%だろうが、フェニルケトン尿症は非職業性要因100%。 多くの疾病は両者の間にあり、職業性要因と非職業性要因の軽重は様々。 古典的職業病は右に偏り、 生活習慣病は左に偏る。 作業関連疾患は古典的職業病を含んで、やや左まで分布。 生活習慣病 古典的職業病 酸素欠乏症 塵肺 中毒 騒音性難聴 振動障害 心筋梗塞 脳卒中 糖尿病 高血圧 先天異常 感染症 注) 影響の大きさは甲田のイメージ
作業関連疾患の例 メンタルヘルス不全 高血圧症・虚血性心疾患 慢性気管支炎・肺気腫・気管支喘息 腰痛症、頚肩腕症候群、骨関節症 感染症 悪性腫瘍 胃・十二指腸潰瘍
WHO専門委員会の定義 疾病の発症、増悪に関与する数多くの要因の一つとして、作業(作用態様、作業環境、作業条件など)に関連した要因が考えられる疾患の総称
作業態様による障害
慢性腰痛 非災害性腰痛: 腰部に負担のかかる作業等により徐々に発症する 災害性腰痛に比べ労災認定は困難 腰背部筋疲労による慢性腰痛
腰痛発生の作業態様 重量物取扱い作業 重症心身障害児施設等における介護作業 腰部に過度に負担のかかる立ち作業 腰部に過度に負担のかかる腰掛け作業・座作業 長時間の車両運転等の作業
腰痛発生の要因 動作要因 腰部に動的あるいは静的に過度に負担を 加える動作要因 環境要因 腰部への振動、寒冷、床・階段 個人的要因 腰部に動的あるいは静的に過度に負担を 加える動作要因 環境要因 腰部への振動、寒冷、床・階段 個人的要因 年齢、性、体格、筋力、椎間板ヘルニア、 骨粗しょう症、精神的緊張
非災害性腰痛の業種別認定数 (1990〜1999年度の合計) 非災害性腰痛の業種別認定数 (1990〜1999年度の合計) 建設業 35人 9.1% 製造業 85 22.1 運輸業 83 21.6 社会福祉 91 23.6 重度障害施設 62 13.8 その他 91 23.6
頸肩腕障害
頸肩腕障害 腕や指を繰り返し使うことや、腕や首を一定に保つ姿勢が求められる仕事についている人たちに発生。 肩こり、腕のだるさ、痛み、しびれ 同時に不眠、うつ症状など精神・神経症状が出現する。 発症には筋肉疲労、視覚や聴覚の負担のほか、精神的ストレスも関与。
手指前腕の障害および頸肩腕症候群の業務上疾病の発生が多い職場 商業・金融・広告業 一般・電気・輸送用機械工業 食料品製造業 保健衛生業
VDT作業による健康障害 どんな種類があるか?
VDT(Visual Display Terminals)作業 ディスプレイ、キーボード等により構成される機器を使用。 データ入力 照合 検索 文章・画像等の作成・編集・修正 プログラミング 監視
VDT作業 作業の特徴は「拘束性」、他人とのコミュニケーション不足も。 拘束性の強い作業:単純入力型、拘束型 拘束性の比較的弱い業:対話型、技術型、 監視型
VDT作業と身体影響 目の疲れ・痛み 首肩のこり・痛み 腰の疲れ・痛み 背中の疲れ・痛み 頭痛 精神的疲労・ストレス
VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン(H14厚生労働省) 自主的な活動を勧めている 管理区分:AからC(拘束性の程度と作業時間) 作業環境管理(照明、採光、グレアの防止) 作業管理(一連続作業時間は1時間を超えない、10から15分の作業休止時間、椅子と机、眼鏡) 健康管理(眼疲労・筋骨格・ストレス・視機能についての健康診断と事後処置) 労働衛生教育
産業疲労
疲労 肉体疲労と精神疲労 全身性疲労と局所性疲労 急性疲労と慢性疲労 休息によって回復する生理現象。 過大な労働負担や不適正な休息条件が続くと、疲労は蓄積し慢性化して災害や疾病につながる。
近年の産業疲労 自動化、合理化が進み、急性の肉体疲労は減少 慢性疲労や精神疲労が増加傾向 眼精疲労、マネージャー病、腰痛、頸肩腕障害、心血管系死亡との関連が重要視
疲労の原因 作業負荷条件(作業環境、作業方法等) 労働時間条件(休息時間、実働時間、交代勤務等) 休息・休養条件(休養、睡眠、通勤、居住環境、生活態様等) 個人的適応条件(栄養・体力、作業適応性等)
過重労働による脳・心臓疾患
過重労働による健康障害の病態 過度な労働負担が誘引 高血圧や動脈硬化症などの基礎疾患が悪化 脳血管疾患や虚血性心疾患、急性心不全などを発症 永久的労働不能または死に至った状態
過重労働による健康障害の病態 加齢による自然経過としての血管病変の進行に過重労働による疲労の蓄積による著しい増悪が加わり発症。 拘束時間の長い勤務や精神的緊張を伴う業務で頻度は増加。
過重労働による脳・心臓疾患の認定基準 労災認定については、果たして「業務上」か「業務外」かの判断には困難を伴う場合が少なくない。 その認定をスムーズに行うために、「認定基準」が示されている
対象疾患 脳内出血 くも膜下出血 脳梗塞 高血圧性脳症 心筋梗塞 狭心症 心停止 解離性大動脈瘤
認定要件1 発症直前から前日までの異常な出来事 極度の緊張、興奮、驚愕、緊急的強度身体負荷、緊急で激しい作業環境
認定要件2 短期間の過重業務 発症前おおむね1週間の継続した長時間労働、拘束時間の長い勤務、出張の多い業務、不規則勤務、深夜勤務
認定要件3 長期間の過重業務 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働
過重労働による健康障害防止のための総合対策(H20改正) 時間外・休日労働時間の削減 健康管理体制の整備と健康診断 面接の申し出があった長時間労働者(月 100時間超の時間外労働)への医師による面接指導義務
職場の精神保健
職業生活において強い不安、ストレス等を感じる労働者は約6 割 厚生労働省平成19 年労働者健康状況調査 職業生活において強い不安、ストレス等を感じる労働者は約6 割 メンタルヘルス上の理由により連続1か月以上休業し、又は退職した労働者がいる事業場は7.6% プリント空欄消失
労働者に発病する精神障害 事故や災害の体験、仕事の失敗、過重な責任、仕事の量と質等の「業務による心理的負荷」 自分、家族、金銭関係の出来事等の「業務以外の心理的負荷」 精神障害の既住歴等の「個体側要因」 が関係しあって精神障害が発症
業務上精神障害の認定基準 対象となる精神障害(認知症やアルコール障害は除く)を発病 業務による強い心理的負荷が認められる 業務以外の心理的負荷により発病したとは認められない 個体側要因により発病したとは認められないこと
過労自殺 自殺は故意によるので労災認定されない うつ病などの精神障害では、自殺念慮が出現 業務によって精神障害が発病したと認められる場合 自殺にも労災認定 認定件数は増加傾向
職場のストレスチェック (H27年12月施行) 事業所におけるストレスチェックの実施義務 結果は本人に直接通知(事業者への提供は禁止) 結果で「医師による面接指導が必要」とされ、労働者が希望した場合の医師による面接指導の実施 面接指導結果に基づく就業上の措置
形成評価試験 1. 業務上疾病は産業医が認定する。 2. 職場のストレスによる胃・十二指腸潰瘍は作業関連疾患である。 3. 災害性腰痛は、業務上疾病の約60%を占めている。 4. 頸肩腕障害の発生には作業姿勢が関与している。 5. VDT作業の予防対策として視力検査がある。 6.脳・心臓疾患の労災の認定件数は近年増加している。 7. 過労死の対象疾患に心筋梗塞がある。 8. 過労自殺では労災認定はされない。 9.職業生活等において強い不安、ストレス等を感じる労働者は約6 割である。 10.業務上精神障害の認定件数は近年増加している。