ペイシェントクエスチョンを得るための NBM(Narrative based medicine)の可能性

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ペイシェントクエスチョンを得るための NBM(Narrative based medicine)の可能性 財団法人日本医療機能評価機構 EBM研究フォーラム 2004年10月16日 ペイシェントクエスチョンを得るための NBM(Narrative based medicine)の可能性 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野 中山健夫

診療ガイドラインとは何か? 「特定の臨床状況において、適切な判断を行なうために、臨床医と患者を支援する目的で系統的に作成された文書」 Clinical practice guidelines are systematically developed statements to assist practitioner and patient decisions about appropriate health care for specific clinical circumstances. [Clinical Practice Guidelines: Directions for a New Program, M.J. Field and K.N. Lohr (eds.) Washington, DC: National Academy Press. 1990;38] 「特定の臨床状況において、適切な判断を行なうために、臨床医と患者を支援する目的で系統的に作成された文書」

診療ガイドライン作成方法の成熟 誰が、誰のために、何の目的で、診療ガイドラインを作るのか? 各領域の指導的臨床医  → 臨床疫学者、生物統計学者、図書館員などの参加  → 実地臨床を担うプライマリケア医、患者・医療消費者の参加 * その他のエキスパート(医療経済学者、他の医療専門職、法律家・・・)、Stakeholders(利害関係者: 関連企業?)

EBMによる診療ガイドライン の基本構造     臨床上の疑問の明確化     エビデンスの検索・評価    (エビデンス・レベルの決定)     推奨度の決定

3つの「クエッション」 クリニカル・クエッション (Clinical Question: CQ) ペイシェント・クエッション (Patient Question: PQ) リサーチ・クエッション (Research Question: RQ)

クリニカル・クエッション (Clinical Question: CQ) 医師の視点で挙げられる臨床的疑問。  例:「入院した小児喘息者(Patient)にステロイド吸入を行なうことで(Intervention)<他の治療法と比べて Comparison>、在院期間を短縮できるか?(Outcome)」 EBMの第1段階「疑問の定式化」に相当し、“PICO”の要素に沿った形式が基本となる。診療ガイドライン作成でコアとなる部分。

ペイシェント・クエッション (Patient Question: PQ) 患者の視点で挙げられた療養に際する疑問。 生活上の留意点に関する疑問、治療法に関する情報を主治医と共有しようとする際に感じられる疑問など幅広く含む。 そのうちのいくつかの項目は、多くの患者が共通に感じているもので、CQとしては挙げられにくいが、医療者と患者の情報共有を進めるため診療ガイドラインにおいて言及するのが望ましい場合もある。

リサーチ・クエッション (Research Question: RQ) 現在、実際に多く行なわれている医学研究に際する研究者としての疑問。 EBMへの関心の高まりと共に、患者志向型の臨床研究、疫学研究の重要性が指摘されているが、現実には基礎医学的なアプローチで、病態メカニズムの解明を目指す研究が中心。 臨床的な意思決定、問題解決に必ずしも直結しない場合も多い。 診療ガイドライン作成過程で明確化され、共有された「必要な(高いレベルの)エビデンスが無い」課題が、これからの医学研究における有意義なRQとして認識されていくことが必要。

診療ガイドラインにおけるPQへの注目 どんなPQを診療ガイドラインで扱うべきか? PQを系統的に収集する方法・・・グループインタビュー、質問票調査、電話相談などの事例集約、Web上での情報収集など 「情報の非対称性」から“Shared Decision Making”へ 医療者と患者(+家族、介護者)の情報共有の基点としての診療ガイドライン  「対話の結節点」 稲葉一人(科学文明研究所・元大阪地裁判事)

海外の動向:AGREE 診療ガイドライン評価の試み・・・AGREE(Appraisal of Guidelines for Research & Evaluation)Projectによる6領域24項目の評価法。 「5.患者の視点や選好は考慮された」 診療ガイドライン開発にあたって、健康管理に関する患者の経験と期待に関する情報を知っておかねばならない。 ガイドライン開発にあたって、患者の視点を知っておくことを確実にする方法がいくつかある。 たとえば、開発グループに患者の代表を含める、患者のインタビューから情報を得る、また、開発グループが患者の経験に関する文献をレビューする、などである。 この手順が行われたという証拠がなければならない。

海外の動向:COGS 米国のCOGS (Conference on Guideline Standardization)からの提案 「16.患者の希望推奨が患者の選択や価値観に大きく関わるものであった場合の、患者の希望の扱い方について記載すること。」 Shiffman RN, et al. Standardized reporting of clinical practice guidelines: a proposal from the Conference on Guideline Standardization.  Ann Intern Med. 2003;139:493-8.

なぜ「当帰芍薬散」は好まれるのか? 「当帰芍薬散」は,漢方の原典である『金匱要略(きんきようりゃく)』に記載され,古くより多くの女性に用いられてきた漢方薬です.比較的体力が乏しく「冷え症で貧血の傾向」のある方,疲れやすい方の「月経痛」,「月経不順」から,「産前産後の障害(貧血,疲労倦怠等)」,そして「更年期障害」等に用いられています」 (http://www.tsumura.co.jp/kampo/forwomen/touki.htm) 「当帰」・・・帰ってくるのは誰?

なぜナラティブ(物語)を学ぶのか? - Why study narrative? - (1) 「診断的面接」において、ナラティブは、 患者が自身の病を体験する、現象学的な言語形式である。 医師と患者間の共感と理解を促進する。 意味の構築を助ける。 有益な分析の手がかりや、診断カテゴリーを提供する可能性がある。 (T. Greenhalgh and B. Hurwitz)

なぜナラティブ(物語)を学ぶのか? - Why study narrative? - (2) 「治療の過程」において、ナラティブは、 患者のマネージメントにおける全人的なアプローチを促進する それ自体が本質的に治療的あるいは緩和的である。 治療上の新しい選択を示唆したり生み出したりする可能性がある。 患者や医療従事者に対する「教育」において、ナラティブは、 多くの場合、印象深く忘れ難い。 体験に根拠をおく。 内省を強く促す。

なぜナラティブ(物語)を学ぶのか? - Why study narrative? - (3) 「研究」において、ナラティブは、 患者中心の計画を設定する。 一般に容認されている知恵に挑戦する。 新しい仮説を生み出す。

診療ガイドラインとNBM 診療ガイドラインを作成する時のNBM 診療ガイドラインを利用する時のNBM NBMの意義を認識しつつ、 PQのPOEM (Patient-Oriented Evidence that Matters)のリストアップ 個々の患者の個人的体験に深入りする必要は大きくない → 手法としては  In-Depth Interview < Focus Group Interview 診療ガイドラインを利用する時のNBM ガイドラインの「推奨」は臨床家の意思決定の3要素(Clinical state and circumstances, Research evidence, Patient preferences and actions, Haynes et al. ACP journal club 2002;136:A13-6)の一つ(に過ぎない) NBMはPatient preferences and actions を大切にする意識づけ・スキルを充実させる

患者と主治医の傍らに- 診療ガイドラインは、最新で質の高い情報に基づいて、より良い医療を提供していくのに役立つ「素材」。 現実の患者さんを(一般論しか述べていない)「診療ガイドライン」に当てはめるのではない。 患者さんと主治医が、より良い解決策を探っていこうとする時、その手引きとして、傍らにあるのが「診療ガイドライン」。

「根拠に基づく診療ガイドライン」の適切な作成・利用・普及に向けた基盤整備に関する研究:患者・医療消費者の参加推進に向けて 厚生労働科学研究費補助金 (医療技術評価総合研究事業  2004-6年度) 「根拠に基づく診療ガイドライン」の適切な作成・利用・普及に向けた基盤整備に関する研究:患者・医療消費者の参加推進に向けて 患者・消費者団体とのワークショップと患者アドボケート(メディエーター)育成プログラムの開発 海外の情報収集 例 英国・PIU (Patient Involvement Unit), DIPEx(Databese of Individual Patent's Experience of illness) 継続的な公開フォーラム  診療ガイドライン作成班への患者・消費者参加の試行

朝日新聞(朝刊1面)  平成16 年6月13日

医療を受ける側、提供する側、双方の視点が不可欠 「図説 古代出雲と風土記世界」(瀧音能之編、河出書房新社)から 三木健二先生(大阪国際大学客員教授・京都大学健康情報学分野、 元読売新聞論説委員)のご提供による