東アジア鉄鋼業の分業関係と普通鋼電炉メーカーの競争戦略 Steel & Steel社創立2周年記念セミナー「鉄鋼産業の環境変化と電炉メーカーの生存戦略」(2005年12月22日。於:ソウル) 東北大学大学院経済学研究科 川端望 kawabata@econ.tohoku.ac.jp 川端望と申します。日本の東北大学で、産業発展の研究をしております。本日は、韓国鉄鋼業の関係者の皆様にお会いできて、たいへん光栄に思っております。 2018/11/6
Ⅰ 報告の課題 東アジア鉄鋼業における国・地域別と企業形態別の分業関係を明らかにする Ⅰ 報告の課題 東アジア鉄鋼業における国・地域別と企業形態別の分業関係を明らかにする 各国・地域の独特の状況に対応して、電炉メーカーがとっている競争戦略の特徴と展望を述べる 本日の私の報告は、東アジア鉄鋼業の分業関係を明らかにして、その上で、個々の国・地域で普通鋼電炉メーカーがどのような地位にあり、どのような競争戦略を選択しているかを、おおまかに描いてみようというものです。これまで私は日本、中国、タイ、ベトナムで一定のフィールドワークをおこなってまいりましたので、その結果も活用しながらお話したく思います。 2018/11/6
Ⅱ 東アジア鉄鋼業の分業関係と電炉メーカー Ⅱ 東アジア鉄鋼業の分業関係と電炉メーカー まず、東アジアにおける鉄鋼業の分業関係を、統計資料を使って概観してみます。 2018/11/6
東アジアの鉄鋼需要(1) 1000t 出所:IISI, Steel Statistical Yearbook, 2005. 鉄鋼の需要を見てみましょう。この図は、過去10年間における東アジアの鉄鋼需要を、地域別に示したものです。まず何よりも注目しなければならないのは、中国市場の急成長です。中国は1990年代後半には、すでに世界最大の鉄鋼市場になっていましたが、2001年以後、成長速度が速まり、現在に至るまでその勢いは衰えておりません。中国市場が今後どうなるのかは、東アジアのみならず、世界の鉄鋼業を左右する要因となっております。 出所:IISI, Steel Statistical Yearbook, 2005. 2018/11/6
東アジアの鉄鋼需要(2) 1000t 出所:IISI, Steel Statistical Yearbook, 2005. 次に、中国を除いた各地域を拡大して見てみましょう。 この中で最大の規模を持つ日本市場は、7000万トンから9000万トンの間で推移しています。日本は昨年からようやく景気が回復したということになっており、鉄鋼需要も確かに回復しておりますが、長期傾向としては、需要は大きく伸びもせず、ただし落ち込みもしていないと見るべきだと思います。 韓国とアセアン6、つまり先発5カ国にベトナムを加えた6カ国には、アジア通貨危機による落ち込みとその後の回復という共通の特徴があります。ただしアセアンの回復度合いは国によって異なっており、この順調な回復に貢献しているのは、主にタイ、マレーシア、ベトナムです。 台湾の鉄鋼市場は、アジア通貨危機の影響を受けていないのですが、その後、成長もしていません。台湾経済は鉄鋼消費が相対的に小さい構造になっていると思われます。自動車産業や造船業の比重が、韓国より小さいからではないでしょうか。同じことはシンガポールにもいえて、経済は回復しても鉄鋼需要は伸びておりません。 出所:IISI, Steel Statistical Yearbook, 2005. 2018/11/6
東アジア諸国・地域の鉄鋼生産と需給関係(2003年) 銑鉄生産 粗鋼生産 熱間圧 延鋼材 生産(A) 鋼材輸出(B) 鋼材輸入(C) 鋼材見 掛消費 推計 (D)=(A)- (B)+(C) 輸出/ 生産 (B)/(A) 輸入/ 見掛消 費 (C)/(D) 日本 82,091 110,511 100,504 30,364 2,968 73,108 30.2% 4.1% 韓国 27,314 46,310 48,381 13,355 10,850 45,876 27.6% 23.7% 台湾 10,260 18,832 25,398 9,049 3,933 20,282 35.6% 19.4% 中国 213,670 222,340 241,080 6,960 37,170 271,290 2.9% 13.7% インドネシア 1,171 2,042 3,719 948 1,918 4,689 25.5% 40.9% マレーシア 1,600 3,960 4,563 1,757 3,355 6,161 38.5% 54.5% タイ 3,572 7,498 1,632 5,143 11,009 21.8% 46.7% フィリピン 500 1,770 1,822 3,592 0.0% 50.7% シンガポール 561 599 660 2,910 2,848 110.3% 102.2% ベトナム 200 544 2,389 8 2,655 5,037 0.3% 52.7% 次に鉄鋼の供給です。この表は東アジア諸国・地域の鉄鋼生産と需給関係をまとめたものです。細かくて恐縮ですが、詳しくは配布資料でご覧下さい。 私は供給側の生産構造から、各国・地域の鉄鋼業をグループ化することを試みております。そのために、さしあたり二つのことに注目していただきたいと思います。 ひとつは、熱間圧延鋼材生産高の数値です。日本、韓国、台湾、中国はいずれも年間2000万トン以上の鋼材を生産しています。これに対してアセアン6カ国の個々の国の生産高は、いずれも1000万トン未満に過ぎません。 次に、見掛け消費に対する輸入の割合、言い換えると輸入依存度の数値です。日本、韓国、台湾、中国はいずれも25%未満に過ぎず、自給率が高いといえます。これに対してアセアン6カ国はいずれも40%以上を輸入に頼っています。 ここから、日・韓・台・中とアセアン6カ国に大きな生産力の格差を認めることができます。 2018/11/6 出所:SEAISI, Steel Statistical Yearbook, 『中国鋼鉄統計』などから作成。川端[2005]45頁参照。
東アジア諸国・地域の鉄鋼設備・技術 出所:各種資料より作成。川端[2005]46頁参照。 大型設備基数(2002-3年) 工程別年間生産能力(1000トン/年)(2002-3年) 製鋼法別比率(%)(2003年) 大型高炉 大型転炉 大型HSM 製銑 製鋼 熱間圧延 製銑/製鋼 製鋼/熱延 転炉 電炉 平炉・その他の炉 日本 32 51 15 84,385 120,535 N.A. 70.0% 73.6 26.4 0.0 韓国 8 6 26,130 49,375 52,070 52.9% 94.8% 55.2 44.8 台湾 4 8,389 17,678 29,614 47.5% 59.7% 57.2 42.8 中国 29 18+ 262,410 263,810 260,510 99.5% 101.3% 82.4 17.6 インドネシア 1 3,030 5,600 7,470 54.1% 75.0% 100.0 マレーシア 1,850 7,250 6,920 25.5% 104.8% タイ 3 6,800 13,650 0.0% 49.8% フィリピン 1,700 4,900 34.7% 84.9 15.1 シンガポール 600 900 66.7% ベトナム 130 500 4,510 26.0% 11.1% しかし、これらは生産活動の結果を見たものに過ぎません。生産活動の内部に立ち入るために、設備能力を見てみましょう。 日本、韓国、台湾、中国には、大型高炉・大型転炉・大型ホット・ストリップ・ミルが存在し、これらをワンセットで持つ銑鋼一貫製鉄所が存在します。そして製鋼の50%以上は転炉で行われています。つまり高炉メーカー、言い換えると銑鋼一貫メーカーが主要な企業類型だと言えます。 アセアン諸国には大型の高炉メーカーはありません。その中でやや異なるのはインドネシアです。インドネシアには還元鉄の一貫メーカーがあり、鉄源の生産能力が300万トンを超えています。それ以外のアセアン諸国では、鉄源からの一貫生産はないか規模の小さなものであり、外部からスクラップ等を購入する電炉メーカーが主要な企業類型です。 2018/11/6 出所:各種資料より作成。川端[2005]46頁参照。
東アジア鉄鋼業のグループ化 Ⅰ 銑鋼一貫体制による生産が中心 Ⅱ 銑鋼一貫体制未確立 日本、韓国、台湾、中国 Ⅰ 銑鋼一貫体制による生産が中心 日本、韓国、台湾、中国 Ⅱ 銑鋼一貫体制未確立 インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、シンガポール、ベトナム ※北朝鮮は情報不足により除外 以上のことから、東アジア諸国・地域の鉄鋼業をグループ化するとこのスライドのようになります。 第1グループは銑鋼一貫体制による生産が中心となっている諸国・地域で、日本、韓国、台湾、中国が含まれます。 第2グループは、銑鋼一貫体制が確立していない諸国であり、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、シンガポール、ベトナムが含まれます。北朝鮮は古い一貫製鉄所があると聞いていますが、極度に情報が不足していることと、東アジア経済のダイナミックな発展から外れているため、ここでは分類していません。 2018/11/6
電気炉の推定生産能力と稼働率 市場拡大している韓国、中国の稼働率は高い。 日本は景気回復に応じてやや高い。 粗鋼生産高 稼働率 日本 39,111 29,156 74.5% 韓国 24,595 20,728 84.3% 台湾 15,500 8,053 52.0% 中国 48,870 39,058 79.9% インドネシア 5,600 2,042 36.5% マレーシア 7,250 3,960 54.6% タイ 6,800 3,572 52.5% フィリピン 1,700 500 29.4% シンガポール 600 561 93.5% ベトナム 544 108.8% 市場拡大している韓国、中国の稼働率は高い。 日本は景気回復に応じてやや高い。 台湾と、アセアンの主要部分は高くない 次に、各国の電炉について、生産能力、粗鋼生産高、稼働率を推計したのがこの表です。これは2003年の数値です。 鉄鋼市場が拡大傾向にある韓国と中国では、稼働率がそれぞれ84.3%と79.9%と高くなっています。日本は、景気回復を受けて74.5%となっています。台湾と、アセアンのうち生産能力の大きいインドネシア、マレーシア、タイ、フィリピンの稼働率は低迷しています。鉄鋼需要が回復しているタイとマレーシアでも、電炉メーカーの稼動状況はあまりよくないようです。 注:2003年の数値 出所:各種統計より川端作成。 2018/11/6
Ⅲ 各国・地域電炉メーカーの競争戦略 以上の分業関係を念頭において、次に各国・地域電炉メーカーの競争戦略を、いくつかの事例を挙げて見てみましょう。韓国は皆様のほうがよくご存知と思いますので、第1グループから日本と中国、第2グループからタイとマレーシア、ベトナムをとりあげます。 2018/11/6
日本における企業類型別製品別生産シェア 出所:普通鋼電炉工業会ホームページ。 2018/11/6 まず日本です。まず、どのような市場で普通鋼電炉メーカーが強いかを見るために、この図をご覧下さい。日本における企業類型別・製品別の生産シェアを示しています。普通鋼電炉メーカーが圧倒的なシェアを持つのが棒鋼、大型・中小型形鋼です。あとでお話しするH形鋼でも4分の3くらいは電炉です。鋼矢板、バーインコイル、普通線材などでは高炉メーカーと拮抗しており、厚板、またここに出ていない薄板類となると高炉メーカーが圧倒的です。要するに条鋼類市場で電炉メーカーが強いわけです。ちなみにPOSCOは、こうした日本の状況を見ながら生産品種を選んできたと言う人もいます。 出所:普通鋼電炉工業会ホームページ。 2018/11/6
日本:普通鋼電炉業の競争と協調 業界協調による構造改善 協調を拒否する一部の独立系企業 高炉系電炉企業+独立系企業 1975-88年:不況カルテルによる、法的承認のもとでの業界レベルの設備調整 以後:業界の自主調整。合併や共同会社による事業再編や破綻企業の再生。 協調を拒否する一部の独立系企業 積極的設備投資 価格切り下げ→シェア拡大→低コスト実現→価格切り下げの積極的行動 日本の普通鋼電炉業界を特徴付けるのは、業界レベルの協調と、これに反対する動きがつくりだすダイナミクスです。 1975年以後、鉄鋼市場の成長がとまるとともに、普通鋼電炉業は慢性的な過剰能力を抱えてきました。これを処理するために、1975年から88年まで、独占禁止法の例外となる不況カルテルなど各種の法的な裏づけの下で、協調的な設備調整が行われました。価格の維持、設備の休止や廃棄が試みられました。ここには高炉メーカーの系列化にある電炉メーカーをはじめ、多くの電炉メーカーが加わりました。1990年代には、業界の自主的な調整として、合併や共同会社の設立を通した事業再編、破綻企業の再生、その過程での債務保証などが行われました。 しかし、こうした協調的調整は自由主義経済の原則に反するとして、これに参加しない独立系企業もありました。その代表が東京製鉄です。こうした独立系企業は、業界全体が過剰能力であっても設備投資を行い、製品価格も切り下げました。そしてシェアを拡大し、新設備と生産量の確保によって低コストを実現し、さらに価格を切り下げるという積極的な行動に出て行ったのです。 2018/11/6
1990年代H形鋼市場での競争(1) 高炉・高炉系電炉--協調的 数量調整 独立系電炉--価格競争 新日鉄、NKK、トーア・スチール、 ダイワ・スチール等 不況期に減産・価格維持 独立系電炉--価格競争 東京製鉄、大和工業 不況期に価格切り下げ、シェア拡大 トーア・スチール(現JFE条鋼)鹿島製鉄所の大型形鋼圧延機。同社記念誌より。 協調的数量調整を行う電炉メーカーと、競争的行動をとる電炉メーカーが対抗し、さらに高炉メーカーも含めて激しく争ったのがH形鋼市場でした。バブル経済崩壊後に建設投資が停滞したために、H形鋼は著しい需要停滞に見舞われました。高炉メーカーと高炉系列の電炉メーカーは、協調して減産し、価格を維持しようとしました。一方、独立系電炉メーカーは需要停滞に価格切り下げをもって応じたのです。 2018/11/6
1990年代H形鋼市場での競争(2) 2001年まで協調的価格維持が効かず、値崩れ。双方疲弊。 以後価格急騰:東京製鉄の地位確立 トーア・スチール破綻など、高炉系電炉の経営困難に 東京製鉄は9年連続赤字に耐える 以後価格急騰:東京製鉄の地位確立 その結果は、2001年までは双方の疲弊でした。協調的価格維持の試みは効果を上げず、値崩れが起きました。旧NKK系列のトーア・スチールが経営破たんするなど、系列電炉メーカーの経営は著しく悪化しました。一方、独立系電炉の代表である東京製鉄も、9年連続赤字という惨憺たる業績を残しました。しかし、その間も東京製鉄はシェアの拡大には成功しました。その結果、2002年以後の価格急騰期には、東京製鉄がトップ・シェアを確立するとともに、記録的な利益を達成したのです。 2018/11/6 出所:日経産業新聞編『市場占有率』各号より作成。
鋼板市場への進出 東京製鉄の鋼板生産 汎用品の低コスト生産、低価格化を武器に進出 2004年の国内ホットコイル生産は、高炉メーカー5社がなお96.4%を占める。 ホットコイル消費が横ばいの中での東鉄VS高炉の市場争奪戦。 酸洗鋼板、亜鉛めっき鋼板への品種拡大 中国への輸出 愛知県田原市に工場用地を取得し、自動車用鋼板工場建設計画を発表 東京製鉄は、鋼板生産への進出でも知られています。コンパクトな連続鋳造機とホット・ストリップ・ミルを持っています。ホットコイルのほか、酸洗鋼板と亜鉛めっき鋼板も生産しています。そして、主に建設材料と鋼管材料となる低価格品を生産しています。ただし、ホットコイルの生産シェアは4%未満に過ぎず、H形鋼とは違って、高炉メーカーを圧倒しているわけではありません。 しかし、東京製鉄は愛知県田原市に工場用地を取得し、自動車用鋼板工場の建設計画を発表しました。立地から言って、明らかにトヨタ・グループへの納入を狙っています。この試みの成否が注目されます。 2018/11/6
構造改善はどれだけ進んだか(1) 稼働率は1994年以後60%未満。能力削減進まず。 2003年以後、新基準の能力でようやく75%前後に。 こうしたダイナミクスの中で、構造改善はどれほど進んだでしょうか。この図は、日本の電気炉の生産能力と生産高、そして稼働率を示しています。能力削減は小幅にとどまり、1994年から2002年までの稼働率は7割を切っていました。2003年に能力が新基準になり、ようやく75%前後の稼働率になりました。 2018/11/6 出所:『鉄鋼統計要覧』日本鉄鋼連盟、各年版より作成。
構造改善はどれだけ進んだか(2) 普通鋼電炉は2003年37社、62基、総容量4647トン/回。 うち32基(51.6%)、2117トン(45.6%)は1980年以前に設置。 7割の会社は電炉1基のみ保有。 2003年現在、日本には普通鋼電炉メーカーが37社存在し、電炉は62基が稼動しています。そのうち32基は1980年以前に設置された、つまり25年以上経過した炉です。そしてメーカーの7割は、電炉を1基しか保有していません。 こうしてみた場合、構造改善による過剰能力の解消、設備の刷新、企業の零細性の克服については、十分には進展していないように思えます。 2018/11/6
中国:電炉の低い地位 電炉比率が17.6%と低く、競争力が弱い 電力不足 スクラップの蓄積不足 条鋼類を中小型高炉メーカーが生産 重点一貫企業55社中、粗鋼年産300万トン以上は18社のみで、粗鋼生産の52.5%のみ。 薄スラブ連鋳も高炉メーカーが導入 7社14基のうち、電炉メーカーは広州鋼鉄のみ 次に、いまもっとも世界の注目を集める中国鉄鋼業です。この国の特徴は、粗鋼生産に占める電炉の比率が17.6%と低いことです。この原因は、全般的な電力不足と、スクラップの蓄積不足、および回収体制の不備といわれています。 電炉の比率が低いということは、棒鋼や形鋼などの条鋼類も高炉メーカーが生産しているということです。中国には重点企業という政策的な区分があり、これは55社存在しますが、粗鋼生産が年間300万トンを超えるのは18社に過ぎません。そして、300万トン未満の高炉メーカーが、条鋼類の生産の担い手なのです。 なお、中国では薄スラブ連続鋳造機も電炉メーカーではなく高炉メーカーが主に導入しています。 2018/11/6
中国の鉄源としての銑鉄 電炉メーカーの銑鉄使用 自社で高炉併設 単純製銑企業からの購入 粗鋼生産トン当たり鉄源構成(キロ。2003年) 電炉メーカー自体にも特徴があります。それは、鉄源として銑鉄を大量に使用していることです。この表は、電炉の鉄源構成を日中比較したものですが、銑鉄原単位が日本では28.78キロに過ぎないのに、中国では300.3キロにものぼっているのです。 スクラップ 銑鉄 中国 784.09 300.3 日本 1024.9 28.78 出所:『中国鋼鉄統計』、『鉄鋼統計要覧』より作成。川端[2005]68頁参照。 2018/11/6
銑鉄生産の拡大 中国全土に高炉が321基存在。うち大型は24基。 cf.日本は32基で大型のみ 中小型が短工期で建設される 中国で2003年に新規稼働した高炉の内容積階層別基数 中国全土に高炉が321基存在。うち大型は24基。 cf.日本は32基で大型のみ 中小型が短工期で建設される 内容積(立方米) 新規稼働高炉数 内容積計 3000以上 1 3200 2000-3000 4 8700 1000-2000 6 9019 500-1000 3000 500未満 58 21217 計l 73 45136 電炉メーカーは自ら小型高炉を併設することもあり、また単純製銑企業から銑鉄を購入しています。2003年現在、中国全土には高炉が321基もあります。うち、2000立方メートル以上は24基に過ぎません。2003年に新規稼動した高炉も、多くは500立方メートル未満のものでした。 出所(上)日本鉄鋼連盟資料、(左)みずほコーポレート銀行資料より。 2018/11/6
小型高炉の淘汰と企業成長 (下)山西安泰集団の新高炉。450立方㍍×2基。以前は34×2、125×1だった。コークス炉もビーハイブ式から機械式に転換している。 1990年代後半には、山西省と河北省を中心に、100立方メートル未満の小型高炉が乱立していました。小型高炉は技術にも操業にも問題があり、資源の濫費と環境汚染のもととなっていました。左の写真もその一つです。最近では、こうした企業はかなり減ってきています。その一方、右の写真のように、450立方メートル程度の高炉に転換し、高い操業成績を上げている会社も存在しています。今後、単純製銑企業は徐々に減っていくでしょうが、それでも中国では、銑鉄が鉄源としての競争力を持つ状況がしばらく続くでしょう。 (上)操業状態に問題があり、環境を汚染している小高炉(山西省嵐県)。内容積100立方㍍以下。このような高炉が2000年代初頭まで多かった。 2018/11/6
中国鉄鋼産業政策と電炉 2005年7月発表 設備・技術の高度化 産業集約 電気炉は公称容量70トン以上とする。 省エネ対応・煙塵回収義務づけ。 産業集約 単純製銑企業、小型製鉄所の淘汰と大型企業への集中 電炉の役割拡大は規定されていない この点で、7月に発表された中国政府の鉄鋼産業政策も参考になります。この政策は様々な内容を含んでいますが、電炉に関してはあまり多くを述べていません。電炉の大型化、省エネ対応、煙塵回収の義務付けについては規定されています。しかし、高炉と比較して電炉の役割を拡大するかどうかについては、何も書かれていないのです。 2018/11/6
タイ・マレーシア:途上国における鋼板市場への進出 鋼板市場拡大と投資のジレンマ 単圧ホット→半製品調達問題 高炉一貫→資金と市場確保問題 代替的選択肢としての電炉・薄スラブ連続鋳造機 最小効率規模(年産) 推定投資額 高炉一貫 300万トン 40億ドル以上 電炉・薄スラブCC・コンパクトホット 100万トン 3億3000万ドル以上 単圧ホット 3億ドル以上 タイとマレーシアに移ります。この両国で注目したいのは、電炉メーカーが鋼板生産に進出していることです。これは、アメリカのケースとは異なり、発展途上国の独自の条件に対応した投資だと私は考えます。 途上国で鋼板市場が拡大すると、従来の技術ではホット・ストリップ・ミルを設置して単純圧延するか、あるいは一気に高炉の一貫製鉄所を建設するしかありません。しかし、単圧ホットでは、スラブの安定した廉価な輸入の確保という問題に常に悩まされることになります。かといって、一貫製鉄所は300万トン以上の市場を必要としますし、投資額も40億ドルを超えてしまい、途上国には荷が重いものです。 このジレンマを解決する第3の選択肢となっているのが、電炉・薄スラブ連鋳・コンパクト・ホット・ストリップという技術体系なのです。100万トンの生産規模、単圧ホットを多少上回る3億3000万ドル程度で建設が可能だからです。 2018/11/6
タイ・マレーシアの電炉メーカーによる薄板生産 薄スラブ連鋳or中厚スラブ連鋳による薄板生産 タイの銑鉄・還元鉄プロジェクトはアジア通貨危機で挫折。再度計画中。 国 製鋼方式 熱延 冷延 主要スタッフ Mega Steel マレーシア 電炉・薄スラブ連鋳 250万トン 140万トン (建設中) 不明 G-Steel タイ 電炉・中厚スラブ連鋳 150万トン なし 元POSCO NSM 元Hylsa等 これまでのところ、タイでは2社、マレーシアでは1社の電炉メーカーが、薄板生産を行っています。冷延薄板の生産にも進出しようとしていますが、現在の状況はよく分かりません。 生産する薄板の品質を上げようとすると、鉄源にスクラップだけでなく、銑鉄や還元鉄を用いる必要があります。タイの2社はこのための高炉や還元炉を建設する計画をもっていたのですが、アジア通貨危機で挫折し、現在仕切りなおしとなっています。 出所:各種資料より。 2018/11/6
タイにおける薄板生産の階層的分業 高級品(自動車車体・家電外板等) 中級品(屋根・壁材・ボンベ・自動車構造部品等) 日・韓製母材→日系企業による圧延・加工 中級品(屋根・壁材・ボンベ・自動車構造部品等) 豪・伯製母材→日・豪系と地場系による圧延・加工 低級品(一般用途鋼板、一般用途鋼管) 国産(電炉)・露製母材→地場系企業 最近、G-Steelは一部冷延原板に進出成功 タイには、日系の冷延単圧メーカーもあり、またタイ資本の熱延単圧メーカーもあります。これらと電炉メーカーは、製品に要求される品質に対応した分業関係を組んでいます。自動車の車体などに用いられる高級品は、日本や韓国から輸入したホットコイルを用いて、日系企業が冷延や亜鉛めっきを行っています。屋根材となる亜鉛めっき鋼板やボンベになるホットコイルなどの中級品は、オーストラリアやブラジル製の母材を用いて、日系、オーストラリア系のメーカーとタイ資本のメーカーが圧延・加工を行っています。低級品はロシア製スラブを用いてタイ資本の熱延メーカーが圧延したり、電炉メーカーが供給したりしています。つまり、国内電炉メーカーが供給できるのは、いまのところ低級品に限られるのです。ただ、最近、電炉メーカーのうちG-Steelが冷延メーカーへの納入に成功したという情報があります。 2018/11/6
ベトナム:条鋼生産の確立過程 線材・棒鋼単圧メーカーが中心 国有企業(VSC)・外資企業・私有企業による電炉投資競争 製鋼能力50万・条鋼圧延能力451万 大量のビレット輸入 国有企業(VSC)・外資企業・私有企業による電炉投資競争 続いてベトナムの事例です。ベトナムは順調に市場が拡大しており、市場規模はインドネシア、フィリピンを追い抜いてしまいました。しかし、生産構造は、2003年の製鋼能力50万トンに対して条鋼圧延能力451万トンというたいへんなアンバランスで、単圧メーカーが大量のビレットを輸入して棒鋼や線材を作っています。ベトナムの鉄鋼企業は国有企業であるVSC、外資企業、私有企業にわかれますが、いずれにとってもこれまで電炉への投資はハイリスクでした。しかし、最近になってようやく電炉への投資競争が始まっています。写真はVSCが建設中の工場で、ビレット50万トン、条鋼30万トンを生産する予定です。ベトナムの製鋼能力は、まもなく200万トンを超えると見られています。したがって、ビレット調達問題にかわってスクラップ調達問題が台頭するでしょう。 建設中の国有企業電炉・圧延ミル(ビレット50万トン、条鋼30万トン予定) 2018/11/6
Ⅳ 普通鋼電炉メーカーの発展方向 最後に、これまでの事例をまとめて、普通鋼電炉メーカーの発展方向を考えてみましょう。 2018/11/6
経済発展と電炉メーカーの競争戦略 単純に類型化できない国・地域もある(中国など) 経済開発進展度 国内鋼材需要 条鋼・鋼板の構成 主要企業類型 国内需要 例 中進・先進国 1000万トン超 条鋼+鋼板 高炉一貫 成熟 日本 拡大 韓国 途上国 500-1000万トン 電炉/鋼板単圧 タイ・マレーシア 500万トン前後まで 条鋼中心 電炉/条鋼単圧 ベトナム この表は、経済開発の進展度と鋼材需要、製品構成、主要な企業類型、国内需要の変動について図式的に単純化してあらわしたものです。実際の産業の姿は、これほど単線的にとらえられるものではありません。しかし、経済発展に対応した電炉メーカーの戦略を考えるためには、このような単純化も意味があると思います。 単純に類型化できない国・地域もある(中国など) 2018/11/6
日本と韓国の違い 高炉メーカーとの関係 電炉企業どうしの関係 日本 市場が成熟している ○棲み分け ○低価格で市場奪取 ○協調的調整 日本と韓国の電炉メーカーがとりうる競争戦略 高炉メーカーとの関係 電炉企業どうしの関係 日本 市場が成熟している ○棲み分け ○低価格で市場奪取 ○協調的調整 ○競争による淘汰 韓国 市場が拡大している ○自ら高炉一貫化 ○競争が基本 中進国・先進国における電炉メーカーの戦略を考えてみましょう。中進国・先進国であっても、日本のように市場が成熟している場合と、韓国のように市場がなお拡大している場合で異なってきます。 まず高炉メーカーとの関係です。高炉メーカーとすみ分ける戦略、低価格で高炉メーカーから市場を奪取する戦略の二つは、どちらにも存在します。そして韓国の場合、市場が拡大していますから、現代グループのように電炉メーカーが自ら高炉メーカーに成長していくという戦略も現実のものとなります。 次に電炉企業同士の関係です。日本は市場が成熟しており、普通鋼電炉業界は能力過剰に陥りやすいので、これを業界で協調的に調整していくという戦略と、積極的な競争による淘汰の中で生き残ろうとする戦略に分岐しているのです。これに対して韓国は市場が拡大し続けているため、協調的調整はあまり問題とならず、電炉企業同士の関係は競争が基本となります。 2018/11/6
タイ、マレーシアとベトナムの違い タイ、マレーシア、ベトナムの生産構造と電炉メーカーがとりうる競争戦略 国内総需要と構成 条鋼類生産 鋼板類生産 タイ、マレーシア 500万トン超、鋼板類拡大 電炉・圧延。安定生産から多様化へ。 単純圧延または電炉・薄スラブ方式 ベトナム 500万トン前後まで、条鋼類中心 単純圧延から電炉・圧延へ。安定生産が課題。 母材輸入・単純圧延 続いて途上国の場合です。市場が500万トン未満という経済発展の初期段階では、需要は建設用条鋼類が中心であす。これに対応した供給体制も、条鋼の単純圧延から電炉・圧延ミルへという経路をたどるのが自然です。ベトナムはおおむねこのケースになるでしょう。もう少し進んで市場が500万トンを超え、うち半分が鋼板類となってくると、選択肢が広がります。条鋼類は、安定生産に加えて、製品多様化が課題となります。これに加えて、鋼板類を単純圧延を行うか、電炉・薄スラブ方式で生産するかという選択肢がでてくるのです。これがタイとマレーシアのケースです。 2018/11/6
電炉・薄スラブ方式の可能性 市場条件との関係 製品高度化の課題 安定操業の課題 鉄源調達の課題 ○市場の成熟した先進国 ○鋼板市場はあるが高炉建設可能なほどではない途上国 △市場の拡大する中・先進国では高炉建設との比較になる 製品高度化の課題 高級品製造は困難 安定操業の課題 鉄源調達の課題 以上の分類を踏まえた上でコメントしたいのは、電炉・薄スラブ方式の可能性についてです。アメリカのヌーコア社が導入して以来、電炉・薄スラブ方式による鋼板生産が、電炉メーカーに飛躍の可能性を与えると言われてきました。 この方式は、どのような国・地域に適しているでしょうか。私の意見は、異なる二つの発展段階で適しているというものです。ひとつは、市場の成熟した先進国で、電炉メーカーが高炉メーカーに挑戦する武器として有効だということです。アメリカがこれであり、日本にもこの可能性はあります。もうひとつは、鋼板市場が拡大してはいるが、高炉建設が可能なほどではない途上国で、鋼板の輸入代替を行うための技術として有効だということです。これがタイ、マレーシアの状態です。これに対して、市場が拡大し続けている中進・先進国では、電炉・薄スラブ方式は高炉建設というもう一つの選択肢と比較されることになります。これが韓国の状態だと私には思えます。 また、電炉・薄スラブ方式は、いくつかの課題を抱えています。とくに大きいのは、タイの事例が示すように高級品の製造が困難だということでしょう。製品を高度化するためには、操業の安定、鉄源の調達などについて解決すべきことは多いと思います。 2018/11/6
今後の市場問題 中国における条鋼類、ホットコイル、厚板の過剰能力形成 銑鉄・半製品輸出抑制→製品輸出強化 生産 輸出 輸入 見掛消費 2005年1-9月の中国品種カテゴリー別需給関係 生産 輸出 輸入 見掛消費 輸出-輸入 条鋼類 139,539 5,700 1,340 135,179 4,360 鋼板類 104,080 6,830 17,440 114,690 -10,610 鋼管類 18,736 620 820 18,936 -200 最後に、今後電炉メーカーが直面する問題について一言だけコメントします。それは中国の過剰能力に起因する市場問題です。中国では、鉄鋼市場も確かに拡大していますが、生産能力はこれを上回る速度で拡大しています。表が示すとおり、すでに条鋼類は輸出超過となっていて、その超過幅は今年の1月から9月までで436万トンに達しています。鋼板類はいまだに輸入超過ですが、これは冷延鋼板や表面処理鋼板のためであり、ホットコイルや厚板はすでに供給超過に達しています。その上、中国政府は銑鉄や半製品の輸出を抑制し、最終製品の輸出を奨励しています。このため、電炉メーカーの事業範囲である条鋼、熱延鋼板類については、中国製品が近隣諸国にあふれてくる、あるいは価格引き下げの圧力がかかるということも考えておかねばならないでしょう。 出所:中国国家統計局、税関総署の数値を日本鉄鋼連盟が整理したもの。 2018/11/6
主要参考文献(日本語) 川端望[2005]『東アジア鉄鋼業の構造とダイナミズム』ミネルヴァ書房。 電炉業構造改善促進協会[2004]『普通鋼電炉業の現状と構造改善の進展:その新たな課題と展望』。 米倉誠一郎[1993]「不況カルテルとアウトサイダー」『年報近代日本研究』第15号、山川出版社。 以上で私の発表は終わりです。なお、私は今月、『東アジア鉄鋼業の構造とダイナミズム』という本を出版しました。あいにく日本語で書かれていますが、条件のある方には参照していただければ幸いです。ご清聴ありがとうございました。 2018/11/6