市町村合併のメリット・デメリット {2003年4月17日、耶馬溪町サニーホール}

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市町村合併のメリット・デメリット {2003年4月17日、耶馬溪町サニーホール} 大分大学教育福祉科学部助教授 (大学院福祉社会科学研究科担当専任) 森 稔樹

市町村合併の意義(1) 表看板:市町村の基盤強化 明治の大合併:市町村制施行、軍籍の管理、小学校の事務の委任など 昭和の大合併:地方自治の強化(建前)、中学校の事務、国民健康保険の事務 平成の大合併:地方分権改革、行政改革の一つの→行財政能力の強化

市町村合併の意義(2) 政府関係者などの主張 (1)地方分権に相応しい地方自治体の創造 (2)行財政改革の推進と体制の整備・確立 (3)住民の生活圏や経済活動の広域化→行政の活動も広域化の必要性(とくに、介護保険、ごみ処理など) (4)国・地方を合わせた、先進国に例を見ないほどの財政赤字(巨額の債務残高)

市町村合併の意義(3) 政府関係者などの主張(続) (5)少子化および高齢化への対応 (6)役所の機能強化←人事の停滞などの克服 (7)住民と行政との関係の再構築 (8)行政サービスのIT化などへの対応 (9)広域連合では、非能率であり、かつ、住民の意見を反映するにはあまり適切でない。

市町村合併の一般的問題(1) 或る意味で、市町村合併の一般的問題という表現自体が矛盾をはらんでいる。 本来、地域によって実情が異なるので、一律に合併を論じることは無理である。 しかし、政府などは、前述の理由をあげて必要なものと位置付けている。 即効性のある政策(方策)?

市町村合併の一般的問題(2) 市町村の規模:主に人口だけに着目して論じられることが多いが、それでよいのか? 財政力が弱い所同士で合併して強化される? 既存の制度を前提としての市町村合併 国民健康保険制度、介護保険制度←市町村を保険者とすること自体に無理があるという指摘 市町村合併を前提とする地方自治制度の改革

市町村合併の一般的問題(3) (1)「日本は政治や経済の転換期には必ず市町村合併政策をとる」 宮本憲一教授(滋賀大学長)の指摘 〔柴田徳衛=宮本憲一「都市と農村を考える 地方自治の学び方 いま、自治を発展させるためには何が必要か」季刊自治と分権第10号(2003年)30頁から〕 (1)「日本は政治や経済の転換期には必ず市町村合併政策をとる」 (2)基本的かつ重要な「改革がうまく実行できず、小手先の政策をとる」

市町村合併の一般的問題(4) (3)「事務の再配分を行えば、財源の再配分をしなければ」ならない。しかし、財政危機の下で、税財政全体の改革を残した。 (4)そこで、国から移されて事務量が増えた自治体の管理運営をどうするかという議論が出てきて、市町村合併が登場する。 「つまり規模の利益論で、合併して規模を大きくすればよい、新しい分権化における受け皿という話になってしまった。」

合併のメリット(1) ①行政の効率化(能率化?)、経費節約 住民の負担は減り、行政サービスは向上する(?) ②行政サービスの安定的な提供、充実 ③専門的・高度な能力を有する人材の確保・育成 ④広域的な視点からのまちづくり ⑤「目玉となる大型プロジェクト」の実施 ⑥地域のイメージアップ、そして若者の定着や職場の確保

合併のメリット(2) しかし、思いつきの羅列 相互に矛盾する点もある 行政効率←大型公共事業のため? 効率:職員数と人件費の削減 しかし、篠山市の例が示すように、限度がある。 また、多くの議論では、市町村の人口のみを基準としている(面積などは?)。

合併のメリット(3) 住民の負担は減り、行政サービスは向上するのか? 一般的に、このように主張されるが、必ずしもそうではない。篠山市では、一旦、住民の負担は下げられたが、再び上げられようとしている。 地域によっては、法人などについて増税となる(事業所税など)。

合併のデメリット(1) 新たな地域格差の発生(過疎化の進行) 地域の文化などの破壊(明治の大合併など) 住民自治の低下、住民サービスの低下 合併に伴い新しい行政財政需要が生じる (実際は、検討段階で生じている) 一定期間経過後、地方交付税が減少する

合併のデメリット(2) こうしたデメリットに対処するための方策 (1)合併支援体制の整備 (2)住民発議制度と住民投票制度 〔しかし、住民自治にとっては不十分〕 (3)合併を推進するための指針への追加 (4)財政上の措置 〔交付税措置の充実など〕

合併のデメリット(3) (5)情報公開→合併への気運 〔しかし、実際にはどこまでなされているのか?〕 手厚い財政措置の問題点 合併特例債:地方財政の健全化や行財政の効率化とは矛盾する可能性 7割は国からの地方交付税による措置(元利償還金を地方交付税に参入する) しかし、3割は市町村自身が償還する。 地方債残高が急激に増える危険性(合併債バブル)

兵庫県篠山市の例(1) 職員数 742名(1999年の合併時)→664名(2001名)→さらに、2004年度までに60名の削減 内訳:旧西紀町の支所で82→11名 旧今田町の支所で73→11名 旧丹南町の支所で174名→20名 旧篠山町の部分で413名→622名

兵庫県篠山市の例(2) 合併特例債 197億円が使える(調達できたという意味か)。 これにより、様々な大型公共事業が展開されている。同じような例として、静岡市(静岡市と清水市が合併)などがある。 7割は地方交付税によって面倒を見てもらえる。 しかし、3割は篠山市自身の負担。

兵庫県篠山市の例(3) 住民サービスと住民の負担 同市の行財政改革実施計画では、住民の負担増とサービスの切り下げが盛り込まれる。他にも、実際に、サービスが切り捨てられた例は多い。 こうした改革を全て行っても、12億8000万円ほどの削減効果しかない。

兵庫県篠山市の例(4) 地方債の残高 合併前の1996年度:4町を合わせて202億円 1998年度:4町を合わせて235億円ほど 2000年度(合併後):373億円ほど これでは、いくら人員削減を行っても財政赤字は減少しない。 適切な人員配置で行財政の水準を向上させることなどできるのか?

市町村合併の今後と私見(1) 西尾勝教授による「今後の基礎的自治体のあり方について(私案)」(いわゆる西尾私案。2002年11月1日) 合併しないで残った小規模市町村(詳細は不明であるが、人口が基準とされる)については、例外的な制度を作り、合併を促す。 次のような方向性が考えられている。

市町村合併の今後と私見(2) (1)窓口業務だけを残す。長と議会は置かれるが助役、収入役、教育委員会、農業委員会などは置かれない。つまり、地方自治体の決定権限は失われることとなる。 (2)他の自治体に編入される(小規模市町村の意見を聴いた上で、都道府県知事が都道府県議会の議決を経て決定する)。 (3)上のいずれを採用するにせよ、旧市町村単位の自治組織を置く。これを利用できれば、地域の自主性を確保できることともなる。

市町村合併の今後と私見(3) 西尾私案は、地方制度調査会専門小委員会に提出されているだけに、 基本的な方向性としては維持されるであろう。 都道府県合併についても検討が進められる。 住民自治を生かすための再編を求める動き 西尾私案に登場する、旧市町村単位の自治組織の活用(町内会や自治会という組織よりは、法的責任などが明確になる可能性)←私見では、この方向での改革に賛成

市町村合併の今後と私見(4) 合併は地方自治、地域づくりの手段であって、目的ではない。 合併は、一概にプラスであるともマイナスであるとも言えない。 要は、合併の前段階での協議、そして合併後に成立する地方自治体、そして住民の意識などにかかっている。 但し、強制的な合併では、地方の歪みを増大させる。