弁護士費用保険を巡る諸問題の検討 ―近時の2つの裁判例を中心として- 日本保険学会関東部会報告 2017年9月22日 青山学院大学法学部教授

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弁護士費用保険を巡る諸問題の検討 ―近時の2つの裁判例を中心として- 日本保険学会関東部会報告 2017年9月22日 青山学院大学法学部教授    日本保険学会関東部会報告           2017年9月22日 弁護士費用保険を巡る諸問題の検討 ―近時の2つの裁判例を中心として- 青山学院大学法学部教授           山下 典孝

概要 Ⅰ はじめに Ⅱ 約款所定の弁護士支払基準とその妥当性 1.弁護士報酬自由化と弁護士支払基準           概要 Ⅰ はじめに Ⅱ 約款所定の弁護士支払基準とその妥当性 1.弁護士報酬自由化と弁護士支払基準 2.LAC基準の合理性が問題とされた裁判例 ①長野地諏訪支判平成27年11月19日自保ジャーナル1965号163頁 ②東京地判平成28年10月27日ウエストロー・ジャパン文献番号2016WLJPCA10278005 3.保険者の同意(承認)条項の有効性 4.LAC基準の妥当性 5.着手金を巡る意見対立 6.弁護士報酬等の支払要件 7.弁護士費用保険における弁護士の位置付け Ⅲ 今後の課題 (教育内容等の改善のための組織的な研修等) 第二十五条の三  大学は、当該大学の授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究を実施するものとする。 大学は学費を徴収、公的財源が投入、多くの人材を社会に輩出 ほとんどの方がご存知とは思いますが、FD=Faculty Developmentとは、「授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な取り組み」のことを意味しています。これは授業を行う教員だけではなく、学生に対する教務関連の業務を担当する職員も含めた取り組みであります。 昨年度、大学卒業生の就職状況は惨憺たるものでした。青山学院も例外ではありません。大学での教育の成果を高め、学生たちが卒業後に仕事を見つけ活躍できる人材に育てることは大学に対して学生、保護者、社会から期待されている責務であると同時に、少子化が進む現代においては大学が生き残っていくための要件であると思われます。 青山学院大学は伝統的に教育を大変重視してきました。私が以前に勤めていた大学では、休講・出張がほとんど自由に取れ、講義内容も教員に任せきりの大学でした。学期中に海外出張に行くことも研究のためという理由であれば、ほぼ無制限に可能でした。一方、青山学院大学では、学期中の海外出張を取ることはかなり困難ですし、休講もきちんとした理由がなければとることが難しいです。青学に移ってきた時には教員にとって、研究を行っていくうえで窮屈な環境だと感じましたが、少し考えれば教育機関として当たり前のことをしているだけだと納得しました。 今後は青山学院大学の特徴を生かして、さらに教育の成果を高めるためのFD活動を行っていきたいと考えております。

Ⅰ はじめに 弁護士費用保険とは 被害事故その他の紛争に直面し弁護士に相談する、訴訟を依頼する際にかかる費用をてん補 する内容の保険である。 Ⅰ はじめに 弁護士費用保険とは  被害事故その他の紛争に直面し弁護士に相談する、訴訟を依頼する際にかかる費用をてん補 する内容の保険である。  わが国では、2000年に交通事故を対象とする自動車保険の弁護士費用等補償特約として開発 販売され、近時は「被害事故」以外の「離婚調停」「借地・借家」「遺産分割調停」「人格権侵害」等 の対象分野の拡大した個人向けの権利保護保険も開発販売されている。  日本弁護士連合会リーガル・アクセス・センター(以下「日弁連LAC」という。)と協定を結び、各弁 護士会を通じて弁護士の紹介を行う制度を採る弁護士費用保険のことを、特に「弁護士保険」とい う。  日弁連LACと協定を結ぶ損害保険会社、共済事業者及び少額短期保険事業者(以下「協定保険 会社等」という)が引受けている弁護士保険では、被保険者の多くが弁護士の知り合いがいないこ とから、弁護士会から紹介された弁護士に依頼することができ、国民の司法アクセスの実現に有 益な制度となっている。  弁護士費用保険の事業規模は、法テラスが運営する国選弁護事業を超える規模まで発展して 来ている。

Ⅰ はじめに 今回の報告の目的 ①長野地諏訪支判平成27年11月19日自保ジャーナル1965号163頁 ②東京地判平成28年10月27日ウエストロー・ジャパン文献番号 2016WLJPCA10278005 を題材として、 (1)保険者の同意条項の位置付け、 (2)約款別表等で示された弁護士報酬基準と保険金支払との関係、 (3)権利保護保険の給付要件、 等を中心に検討する。

Ⅱ 約款所定の弁護士支払基準とその妥当性 1.弁護士報酬自由化と弁護士支払基準 旧日弁連報酬規程は2004年4月に撤廃 Ⅱ 約款所定の弁護士支払基準とその妥当性 1.弁護士報酬自由化と弁護士支払基準 旧日弁連報酬規程は2004年4月に撤廃 2004年「弁護士保険における弁護士費用の保険金支払基準」(以下「LAC基準」 という。)の作成 ①LAC基準は、基本的には旧日弁連報酬規程に準じた内容を弁護士報酬算定の 目安とする。 ②協定保険会社等は弁護士保険における弁護士費用に関する保険金支払いに 当たって、この内容を尊重するものとされている。

2.LAC基準の合理性が問題とされた裁判例 ①長野地諏訪支判平成27年11月19日自保ジャーナル1965号163頁 〔事実の概要〕  損害保険料率算出機構が示した被保険者の後遺障害等級を不服として加害者 に対して損害賠償請求訴訟を提起した際に、被保険者が提出し資料のみでは客 観的に被保険者が主張する後遺障害等級に基づく損害を判断できないとして、被 保険者と委任契約を締結した弁護士との合意による着手金の額を保険金として 支払えないが、その後の結果において被保険者が主張が認められた場合には、 成功報酬による弁護士報酬支払の際に精算等を行う旨の提案をしたが、原告代 理人弁護士が当該提案を拒否。  保険者の同意(承認)条項が消費者契約法10条に違反するか、LAC基準が合理 性を有するかが争点とされた。

2.LAC基準の合理性が問題とされた裁判例 〔判旨〕 「本件特約において保険金支払の対象となる弁護士費用等について被告の同意を得 たものに限っているのは、保険金支払の対象として適正妥当な範囲を被告において 確認して保険金支払をその範囲に限るためのものであると解されるところ、このこと が、法律の任意規定の適用による場合に比し消費者の権利を制限し又は消費者の 義務を加重することになるというべき理由を見い出すことはできないし、消費者の利 益を一方的に害することになるともいえない。よって、消費者契約法10条には該当し ない。」 「LAC基準が保険金支払に関して問題がない範囲の基準を示すものとして弁護士会 関与の基で作成されたものであることからすれば、LAC基準を尊重した検討は基本的 には合理性を有するものといえる。」

2.LAC基準の合理性が問題とされた裁判例 ②東京地判平成28年10月27日2016WLJPCA10278005 〔事実の概要〕 弁護士費用特約等を引き受けていた保険者から被 保険者に支払われた既払金を経済的利益から控除し て弁護士報酬を計算するというLAC基準の合理性と、 被保険者から担当弁護士に弁護士報酬等の支払が 保険金の発生要件となるかが、問題となった。

2.LAC基準の合理性が問題とされた裁判例 〔判旨〕 「LAC基準を尊重して保険金額を定めることは,日弁連と 被告とが協定書を作成し,日弁連が関与してこれを定めた のであるから,その内容に合理性がないということはできな い」「LAC基準は,弁護士報酬そのものを算定するもので はなく,保険金支払の基準を示すものにすぎない。」とし、 「原告が原告訴訟代理人に対して報酬等を支払ったことは ないから,いずれにしても保険金の発生要件を満たさない ことは明らかである。」

2.LAC基準の合理性が問題とされた裁判例 東京地判平成28年10月27日2016WLJPCA10278005  被保険者が弁護士費用等の支払いがないとして保険者に対して弁護士費用等補償特約に基づく弁護士費用等の支払いを請求した事案 「LAC基準を尊重して保険金額を定めることは,日弁連と被告とが協定書を作成し,日弁連が関与してこれを定めたのであるから,その内容に合理性がないということはできない」「LAC基準は,弁護士報酬そのものを算定するものではなく,保険金支払の基準を示すものにすぎない。」とし、「原告が原告訴訟代理人に対して報酬等を支払ったことはないから,いずれにしても保険金の発生要件を満たさないことは明らかである。」

3.保険者の同意(承認)条項の有効性 弁護士費用保険に適用される約款では、保険者が同意(承認)して 支出された法律相談費用、弁護士報酬費用が保険金の支払対象と されている。  下級審裁判例は当該状況を有効と解する。 ①大阪高判平成26年7月30日自保ジャーナル1929号159頁 ②東京高判平成27年2月5日ウエストロー・ジャパン文献番号 2015WLJPCA02056003

3.保険者の同意(承認)条項の有効性 ①保険者の義務は保険金を支払義務に尽きるのであり、保険者の正 当な関心は保険金の支払いに関する範囲に限られ、同意や承認まで を要するとする必要性は高くない、 ②保険者は弁護士選任についての責任を負うべき地位になく、同意 や承認を要することは余計な干渉に他ならない、 ③依頼者・弁護士間の高度な信頼関係は、弁護士制度の存立基盤で あり、弁護士の選任に保険者の関与を許容すること望ましくない、 等を理由に、保険者の同意や承認を要する場合は極めて限定的に解 釈すべきとする見解

3.保険者の同意(承認)条項の有効性 保険者の裁量権を認めた上で、同約款条項を有効と解し、同約款条 項の適用に関して、保険者の裁量権の濫用の問題と解する見解 同様な約款条項は責任保険普通保険約款における争訟費用にお いても同様な条項が置かれている。当該条項において保険者の承認 を要求している理由として、不要な費用支出による応訴は、それが保 険者に転嫁され、やがて他の保険加入者への保険料増額に反映する ことを防止する趣旨にあると解されている。

3.保険者の同意(承認)条項の有効性 不必要な費用の転換防止の要請は、あらゆる費用保険に共通する ものであり、費用保険の中で責任保険の争訟費用や権利保護保険の 事前承認が特に必要とされる理由は、モラル・ハザードが特に強いこ とに求められるとする見解も主張されている。 この見解に対しては、被保険者にとって弁護士報酬の客観的妥当 性を証明することはかなりの負担となる点や、弁護士費用のてん補を 期待して保険に加入する保険契約者の期待に反する結果となること 等の疑問を呈する見解もある。

3.保険者の同意(承認)条項の有効性  保険金で弁護士報酬がてん補さるため被保険者間での公平性、類似の事案に おいて公平な取り扱いを行う必要性という観点も必要であることから保険者にお いて一定の金額の幅を持った裁量権が認められるべきと考える。  依頼者(被保険者)と担当弁護士との間の委任契約に基づく弁護士報酬と、弁 護士費用保険に基づく弁護士報酬支払に伴う損害てん補としての保険金支払と では契約関係やその法的性質は異なるものである。  これをすべて一致させる必要性は合理性があるとも言えない。  保険者は弁護士費用保険の保険金支払いの妥当性を判断するのみで、被保険 者と弁護士との委任契約に基づく弁護士費用の妥当性までを判断するものでは ない。また弁護士費用保険では被保険者(依頼者)と弁護士との間で取り決めら れた弁護士報酬をすべててん補しなければならない契約内容ではない。

4.LAC基準の妥当性 「LAC基準を尊重して保険金額を定めることは,日弁連と被告とが 協定書を作成し,日弁連が関与してこれを定めたのであるから,そ の内容に合理性がないということはできない」 「LAC基準は,弁護士報酬を保険金によって賄うことができる制度 について,報酬の支払が円滑になされることが重要な要素であると して,弁護士報酬に関する状況を理解している弁護士会が関与して, 保険金支払に関して問題がない報酬の範囲の基準として作成され たものであり,また,保険金支払に関しては最低でもLAC基準を尊 重した支払が期待されるものとして作成されたものである。」

4.LAC基準の妥当性 LAC基準は、旧日弁連報酬規程に準拠して作成されている。 弁護士報酬自由化後も多くの法律事務所では、旧日弁連報酬規程の準 拠した弁護士報酬規程に従った運用を行っている。また既払金等を控除 する取り扱いも、本来の弁護士の職務の対価として弁護士報酬が決めら れるものであることを考えれば、合理的な取り扱いと考えるべきである。 経済的利益の算定の際には、既払金や相手方から予め提示された金額 等は控除され、委任を受けた弁護士が実際に行った職務の対価として得 られた額を経済的利益の基準としている。この点は、旧日弁連報酬規程 の運用において曖昧な解釈がなされていたところを、弁護士報酬を保険 金でてん補するという保険制度の健全な運営の観点から謙抑的な取り扱 いを示している。

5.着手金を巡る意見対立 損害保険料率算出機構の認定と異なる後遺障害等級の主張が妥当か否 かを保険者の自由裁量に委ねると、当該認定に不満を持ち弁護士費用 特約を利用して損害賠償請求訴訟を利用する場合には、当該保険が役 立たないのではないかという疑問が示されている。 保険者は、被保険者側から提出された資料を客観的に判断した上で、経 済的利益を算出し着手金の額を決定したものと主張しており、この事実に 基づけば、当該着手金に基づき、訴えを提起できる機会そのものは保障 されていると考えられる。海外においては勝訴の見込みを権利保護保険 の給付要件とするが、わが国においては、約款上「「社会通念上不当な損 害賠償請求」を免責事由としているが、それに該当しない限りは、訴訟を 提起することは可能である。またLAC制度において弁護士を紹介すること や、着手金方式を採用せず、時間制報酬方式(タイムチャージ)を利用す ることも認められている。

5.着手金を巡る意見対立 確かに、場合によっては、被保険者が着手金の一部を自己負担すること も考えられなくはないが、当該訴訟における保険者が提案しているとおり、 被保険者の主張が認められたときには、成功報酬の際における報酬額で 精算することで対応もできる。 諸外国においては被保険者と保険者の意見対立がある場合には、訴訟 の結果において被保険者の主張が認められたときには、保険者はその費 用負担をするよう取り決めがなされているところもある。 着手金を決定する場合に、客観的根拠もない高額な賠償請求額を基礎と して高額な着手金を得た後、簡単に裁判上の和解等で相手方が提示して いた額と等しい結果で終結するような事案も考えられなくはない。このよう な方法で高額な着手金としての弁護士報酬を認めることは、弁護士費用 保険の健全な運営や今後の発展を阻害することになりかねない。

6.弁護士報酬等の支払要件 2件の裁判例においては、保険者側は被保険者が担当弁護士に対 して現実に報酬等の支払をしていることを必要とする旨の主張を 行っている。  前掲・東京地判平成28年10月27日では、「原告が原告訴訟代理人 に対して報酬等を支払ったことはないから,いずれにしても保険金 の発生要件を満たさないことは明らかである。」として現実の支払を 保険金の発生要件と解している。 同様な約款文言を有する賠償責任保険普通保険約款に基づく弁護 士報酬に基づく保険金請求が争われた大阪地判平成28年2月25日 自保ジャーナル1971号136頁でも現実の支払を要件と解している。

6.弁護士報酬等の支払要件 「本件約款によれば,被保険者が被告の承認を得て『支出した』弁護士報酬等の 争訟費用が保険により填補されるものとされている(本件約款第2条1項(4))。同 規定は,争訟費用については,保険者である被告の承認を得てこれを現実に支 出したことを保険金の支払要件として定めるものと解される。」 「被害者に支払うべき損害賠償金と異なり,弁護士報酬等の争訟費用については, 現実に支出したことを保険金の支払要件としても,被保険者(賠償責任者)の賠 償資力の保障という保険契約の本質的機能を没却するとはいえない。また,弁護 士報酬等の争訟費用については,被保険者が現実の支払額を超える保険金を請 求する事態も想定し得るところであるから,現実に支出したことを保険金の支払 要件とすることには合理性がある。もっとも,上記規定があっても,保険会社の運 用として,弁護士着手金等については,その支出の確実性や前払の必要性,合 理性を判断した上,債務を負担したにとどまる段階で任意に保険金を支払う場合 もあり得るけれども・・・,このことによって上記規定自体の合理性が否定されるも のではない。」

6.弁護士報酬等の支払要件 賠償責任保険における争訟費用の負担の位置づけと、弁護士費用 保険の目的の相違を踏まえて検討する必要があることは自覚してい るが、理論的には保険金支払要件と考えざるを得ない。  弁護士費用保険も損害保険契約の一種であり、被保険者が弁護 士に法律相談、訴訟の委任を行うことに伴う費用損害をてん補する ものである。そのため、被保険者が担当弁護士に対して弁護士報酬 の支払がなければ経済的損失は発生していないため、損害てん補 性という観点からは、弁護士報酬の支払は保険金支払要件となる。

7.弁護士費用保険における弁護士の位置付け 弁護士費用保険における保険金請求の当事者は、被保険者と保険者と なる。被保険者と委任契約を締結して訴訟を担当した弁護士は保険契約 の当事者ではない。  そのため、当該保険でてん補される弁護士費用等の算定において、保 険者と担当弁護士で意見の相違が発生した場合でも、担当弁護士は保 険金請求の当事者とはなり得ない。  2つの裁判例では、被保険者が原告となり、保険者を被告として保険金 請求を行っているが、その場合の原告訴訟代理人は担当弁護士となるの が一般的である。  下級審裁判例の中には、被保険者の無資力を理由に担当弁護士が債 権者代位権を行使し上で、保険者に対して保険金請求訴訟を提起した事 案もある(東京高判平成27年2月5日ウエストロー・ジャパン文献番号 2015WLJPCA02056003)。

7.弁護士費用保険における弁護士の位置付け 他人所有の自動車を運転中に物損事故に遭った者が,弁護士を代 理人として損害賠償請求訴訟を提起した後,所有者から損害賠償 請求権の債権譲渡を受けた場合について,この債権譲渡は信託法 10条により禁止されている訴訟信託に当たり無効であると判断した 福岡高判平成29年 2月16日判タ 1437号105頁がある。この事案は 自動車保険の弁護士費用等補償を利用し訴訟を提起するために債 権譲渡がなされた事案である。  事案は異なるが、保険金請求訴訟の原告となることを目的に保険 者に対する保険金請求権の譲渡を受け、訴訟を提起した場合には、 信託法10条違反として当該譲渡は無効と解することになると考える。

Ⅲ 今後の課題 日弁連LAC制度を利用し、弁護士会を介して被保険者に弁護士を紹 介する場合、弁護士紹介の対象となる弁護士は事前に所属弁護士会 での名簿登録が必要となる。 LAC基準を尊重することはもちろん、その他、依頼者の信頼を確保す るための名簿登録要件等の規則が整備・施行されている。事件を受 任する場合における弁護士報酬に関しても、委任契約と保険契約の 相違や、場合によっては被保険者の自己負担が発生することもある 点等を被保険者に対して説明すべきこと等、弁護士報酬をめぐる後日 のトラブルを回避する点等の指導もなされている。

Ⅲ 今後の課題 (1)選任済み案件における対応をどうするか 委任契約締結前に、被保険者から担当弁護士に対して弁護士費用 保険に関する留意事項を記載した書面の提出等をするなど、被保険 者と担当弁護士に関して事前の情報提供を行う保険者も出てきてい る。 協定保険会社等と日本弁護士連合会の協働により、弁護士費用保 険の適正な運営と対象分野の拡大がなされ国民の司法アクセスの改 善が図られてきた。 一部の不心得な弁護士による当該保険の悪用は、単なる制度のた だ乗りというだけの問題では済まされないのではないか。

Ⅲ 今後の課題 (2)対象分野の拡大に伴う問題 ①対象分野毎の専門的知見を有する弁護士を紹介す る制度の確立 ②特殊領域毎の弁護士報酬基準の作成 ③弁護士保険ADR制度の協定保険会社等の拡充

   ご清聴ありがとうございました 参考文献 大井暁「弁護士費用保険を巡る諸問題-弁護士費用特約を中心 としてー」保険学雑誌636号5頁以下(2017) 山下典孝「弁護士費用保険をめぐる諸問題についての比較法的 検討」日弁連法務研究財団編『法と実務13』(商事法務、2017年) 271頁~303頁 山下典孝「費用保険(権利保護保険)」実務交通事故訴訟体系第 2巻第7節(ぎょうせい、2017年刊行予定) 山下典孝「わが国の『権利保護保険』の理論的検討と克服すべき 課題」権利保護保険のすべて(仮題)(商事法務、2017年10月刊 行予定) (教育内容等の改善のための組織的な研修等) 第二十五条の三  大学は、当該大学の授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究を実施するものとする。 大学は学費を徴収、公的財源が投入、多くの人材を社会に輩出 ほとんどの方がご存知とは思いますが、FD=Faculty Developmentとは、「授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な取り組み」のことを意味しています。これは授業を行う教員だけではなく、学生に対する教務関連の業務を担当する職員も含めた取り組みであります。 昨年度、大学卒業生の就職状況は惨憺たるものでした。青山学院も例外ではありません。大学での教育の成果を高め、学生たちが卒業後に仕事を見つけ活躍できる人材に育てることは大学に対して学生、保護者、社会から期待されている責務であると同時に、少子化が進む現代においては大学が生き残っていくための要件であると思われます。 青山学院大学は伝統的に教育を大変重視してきました。私が以前に勤めていた大学では、休講・出張がほとんど自由に取れ、講義内容も教員に任せきりの大学でした。学期中に海外出張に行くことも研究のためという理由であれば、ほぼ無制限に可能でした。一方、青山学院大学では、学期中の海外出張を取ることはかなり困難ですし、休講もきちんとした理由がなければとることが難しいです。青学に移ってきた時には教員にとって、研究を行っていくうえで窮屈な環境だと感じましたが、少し考えれば教育機関として当たり前のことをしているだけだと納得しました。 今後は青山学院大学の特徴を生かして、さらに教育の成果を高めるためのFD活動を行っていきたいと考えております。