言語認知と消費者意識の測定 横山詔一(国立国語研究所) 測定のモノサシは? 言語認知 → ことば → ロゴス:知的な心のはたらき 消費者意識 → パトス:情動,情念 ■ロゴスの世界 典型は入試問題 正誤あり(ルールあり) 表現形式は条文や数式などによる記号列 ■パトスの世界 典型は恋愛感情 好き-嫌い,良い-悪い,欲しい,美しい・・・ 正誤なし(ルールなし) 表現形式は絵画,音楽,詩などによるイメージ表現
結論 PINS測定法は連想語を匂い立たせる 万葉集「紅葉葉の匂いは繁し」 鮮やかな色が美しく映えること 1.ユング連想検査法の流れをくむ 心のコリを発見する手法→心のツボを探る手掛かりに 2.認知科学の知見も活用している 新奇刺激への接触効果はパトス面 → ロゴス面 (好き嫌いが論理よりも先行する) 連想語を「良い,普通,悪い」に強制分類させるのは,単純ではあるが,パトス面の重要な情報 ネガティブ評価(警戒警報)の検出に有効
心はロゴスとパトスの交流広場 ロゴスとパトスをどう治めていくか 交通整理係(仲介役)が必要だ→言語がつかさどる ロゴスとパトスのようすは交通整理役に聞いてみよう ■実例1 ユング(1904)の言語連想検査:自由連想データ 100個の刺激語に対する第1連想語を記録 反応スピードを記録 100個の連想が終了後,もう一度繰り返して再検査を行い,前と同じことを言うように求める(再生テスト) 心のコリを探り当てる手法 コンプレックスの発見
言語連想結果の一例 28歳男性,市電運転手 ブレーキをかけるべきところでアクセル なぜ? 言語連想結果の一例 28歳男性,市電運転手 ブレーキをかけるべきところでアクセル なぜ? 刺激語 連想語 反応時間(秒) 再生 1 頭 鼻 4.2 忘却 2 緑 牧場 1.0 再生成功 3 水 湖 2.6 ボート 4 歌う 歌 3.2 5 死 S.T. 8.4 S.T.は義父と似ている人物の名前 事故被害者は父親に似た様子の人物だったことを思い出す 運転手は普段は父親に対する攻撃感情を自覚していない (結論)連想データは100年前から重要視されてきた
テストモードでは刺激ペアを呈示し,2肢強制選択させる 認知科学の成果 潜在認知の実証的研究 新奇刺激への接触効果はパトスから生じる ロゴス測定課題→記憶テスト「見たことある?」(正誤あり) パトス測定課題→好み質問「どちらが好き?」 ■実例2 ザイオンZajoncら(1980)の潜在認知研究 米国人や英国人に知らない漢字を一瞬だけ見せる 見せる時間は千分の1秒から千分の50秒ぐらい 漢字1文字あたり5回ずつ見せる ↓ テストモードでは刺激ペアを呈示し,2肢強制選択させる 【接触済み漢字】 vs 【未接触漢字】 ロゴス測定課題 「さっき,どちらを見ましたか?」 パトス測定課題 「どちらが好きですか?」
Elliot. R., & Dolan. R. (1998) Neural Response during Preference and Memory Judgments for Subliminally Presented Stimuli: A Functional Neuroimaging Study. The Journal of Neuroscience, 1998, 18, pp.4697-4704 接触モード 漢字20文字を呈示 隊 呈示時間は50ミリ秒 「見えない」との報告 接触効果を測定するための刺激ペア 隊 働 「働」は未接触漢字 ロゴス測定課題 さっき,どちらを見たか? 「隊」が正 「働」は誤 パトス測定課題 どちらが好きか? 正誤はない
「どちらを見た?」 接触済み刺激を 選択した割合は 偶然の範囲 ロゴス面には 接触効果なし 「どちらが好き?」 接触済み刺激を 選択した割合は 偶然以上 パトス面には 接触効果あり
なんとなく,なんとなぁ~く,かっぱえびせん まとめ PINS測定法の特徴と将来 ■ユング連想検査法の流れをくむ 心のコリを発見する手法→心のツボを探る手掛かりに ■認知科学の知見も活用している 潜在認知は購買行動には直接影響しないが,意識は変わる 接触効果はパトス面がうごめきはじめてロゴス面へと波及する 連想語のイメージを「良い,普通,悪い」で測定するのは,単純ではあるが,パトス面に関する重要な情報が得られる ネガティブ評価(警戒警報)を見落とすな ■将来への展開 テキストマイニングからオントロジー工学やセマンティックWebに これまでの意思決定理論から無意思決定メカニズムの研究へ なんとなく,なんとなぁ~く,かっぱえびせん