モジュール 4 エンド・オブ・ライフ・ケアに おける倫理的問題 End-of-Life Nursing Education Consortium Japan クリティカルケアカリキュラム モジュール 4 エンド・オブ・ライフ・ケアに おける倫理的問題
モジュールの概要 このモジュールでは、 ■エンド・オブ・ライフ・ケアにおける倫理的問題に焦点を当て、臨床においてこれらの問題に気づく力を養う ■看護倫理に基づくケアの実践について理解する 二つ目の文言変更必要 2 2
目標 1 倫理的問題とは何かを理解することがで きる クリティカルケア領域における倫理的 問題について理解することができる クリティカルケア領域における倫理的 問題について理解することができる アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の 目的を理解することができる 看護倫理に基づくケアの実践について 理解することができる 2 3 4 3 3
講義内容 倫理的問題とは何か クリティカルケア領域におけるエンド・オブ・ライフ・ ケアで看護師が直面する倫理的問題 アドバンス・ケア・プランニング:尊厳ある人生のた めに話し合うこと 看護倫理に基づくケアの実践 結論
人間が自発的に自らの振る舞いをコントロールする姿勢であって、自分だけではなく、皆がとるべきだと考えるようなものに関わること 倫理とは 倫 (人の輪、仲間) 理 (模様、ことわり) 倫理 (仲間の間での決まりごと、守るべき秩序) + = (日本看護協会HP: 看護倫理―倫理) 人間が自発的に自らの振る舞いをコントロールする姿勢であって、自分だけではなく、皆がとるべきだと考えるようなものに関わること (清水, 2011) 5 5
倫理と道徳 <道徳> <倫理> 個人や家族などの小集団のとるべき態度、 心の持ち方 個々人の関係から社会に至るまで より広範に用いられ、 普遍性を持つ (日本看護協会HP: 看護倫理―倫理と道徳) 6 6
日々の業務の中で このように感じたことはありませんか? あれ?おかしいな 私、正しいのかな なんかモヤモヤする どうすべきなのかな 例えば・・・ ●患者と家族の意向が食い違うとき ●患者の意向が十分確認されずに進められる治療 7 7
倫理的問題とは ■「おかしいな」、「モヤモヤする」などの感覚は、 目の前の出来事が自分の価値観に反している 場合に生じる ■「おかしいな」、「モヤモヤする」などの感覚は、 目の前の出来事が自分の価値観に反している 場合に生じる その出来事が倫理的問題をはらんでいる場合 が多い <医療における倫理的問題> 医療を受ける患者、患者の関係者、医療スタッフ 間において、それぞれの価値観や価値判断の 違いから生じる問題 8 8
価値観とは <価値観> いかなる物事に価値を認めるかという個人個人 の評価的判断 <価値観> いかなる物事に価値を認めるかという個人個人 の評価的判断 (大辞林 第3版) 人は「こうあるべきだ」「これが正しい」といった 自分の価値観の範囲内で考えや判断をしているが、多くはそれに気づいていない 行為や方法の背景には、必ずその人の価値観が 潜んでいる
看護師の果たすべき倫理的責任 <看護者の倫理綱領(2003年)> ■前文:看護師の使命・目的、社会的責務、倫理綱領の目的 ■条文:15条文は以下のように構成されている 看護提供に際して守るべき 倫理的な価値・義務 1~6条 責任を果たすために求められる努力 7~11条 土台としての個人的特性と組織的取り組み 12~15条 (日本看護協会HP: 看護者の倫理綱領) 10 10
生命倫理の4原則 ■自律の尊重(Respect for Autonomy) ■善行(Beneficence) ■無危害(Nonmalficence) ■正義 (Justice) ( Beauchamp TP & Childress JF, 2001 ) 11 11
臨床において倫理原則はどう役立つのか? 倫理原則は・・・ ■倫理的問題かどうかの識別を助ける ■医療スタッフの判断や行動の指針となる ■治療やケアの方向性を示す 倫理的問題に気づき、 それに対処していくうえでの指針となる (日本看護協会HP: 看護倫理―倫理原則) 12 12
自律の尊重 他人からの強制なしに自分の人生や身体に ついての決定を下す権利を尊重する (Pence GE, 2000) ■自己決定できる個人を尊重するものであり、 個人的な価値観や信念を基本に彼らの選択を 認めること ■インフォームド・コンセントの基本となる (Fry ST & Johnstone M‐J, 2008) 13 13
善行 他人に善をなす ■他者にとって利益が得られるように支援すること (Pence GE, 2000) ■他者にとって利益が得られるように支援すること ■患者にとっての善行を行うために、患者をより よく理解することが重要である ■医療においてこの原則に従うことは、患者の ために最善を尽くすことを要求している (Fry ST & Johnstone M‐J, 2008) (和泉, 2007) (日本看護協会HP: 看護倫理―倫理原則) 14 14
無危害 他者に危害を加えない ■患者に害が加わることのリスクを防いだり 減らしたりすること ■「危害」とは (Pence GE, 2000) ■患者に害が加わることのリスクを防いだり 減らしたりすること ■「危害」とは 身体的損傷や心理的ダメージだけでなく、 患者の人権や自律、自由、安寧を損なう こと全般を指す (Fry ST & Johnstone M‐J, 2008) 15 15
正義 利益と負担を公平に配分する ■どのような状況のもとで、誰がどのような医療 資源を受け取るべきか? について考えること (Pence GE, 2000) ■どのような状況のもとで、誰がどのような医療 資源を受け取るべきか? について考えること ■公平な分配を行うために公正な規制作りが 必要となる (Fry ST & Johnstone M‐J, 2008) 16 16
倫理原則の適用の限界 ■倫理原則は抽象的であり、個々の問題に即して考えるには限界がある ■個々の原則の解釈の違いや原則間の対立に対して、確実な解決の方針がない ■臨床での倫理的問題を原則論だけで解決することは困難である ただ単に倫理原則を適用するのではなく、 個々の事例を尊重した倫理的な判断が なされなくてはならない 17 17
講義内容 倫理的問題とは何か クリティカルケア領域におけるエンド・オブ・ライフ・ ケアで看護師が直面する倫理的問題 アドバンス・ケア・プランニング:尊厳ある人生のた めに話し合うこと 看護倫理に基づくケアの実践 結論
クリティカルケア領域におけるエンド・オブ・ライフ・ケアで 看護師が直面する倫理的問題 ■患者に意識障害が認められるため、医療に関す る意思決定が家族にゆだねられる ■患者は無駄な延命を拒否したが、急変時、家族 が「できる限りの事をしてほしい」と主張している ■治療当初に装着した人工呼吸器に依存しており、 救命不能だが、直ちに心停止には至らない状態 が続いている ■多臓器不全にて全身浮腫を呈する終末期患者の 家族が「早く楽にしてあげたい」と訴えている 19 19
クリティカルケア領域におけるエンド・オブ・ライフ・ケアで 看護師が直面する倫理的問題① ■患者に意識障害が認められるため、医療に関す る意思決定が家族にゆだねられる ■患者は無駄な延命を拒否したが、急変時、家族 が「できる限りの事をしてほしい」と主張している ■治療当初に装着した人工呼吸器に依存しており、 救命不能だが、直ちに心停止には至らない状態 が続いている ■多臓器不全にて全身浮腫を呈する終末期患者の 家族が「早く楽にしてあげたい」と訴えている 20 20
限られた時間の中でも適切な インフォームド・コンセントのプロセスを 意思決定に関する倫理的問題 ■意思決定能力の低下により、患者が望む治療 の選択や最期の迎え方を知ることができない ■代理意思決定をする家族の意向の不一致 ■家族は短期間で複雑な意思決定をしなければ ならない 限られた時間の中でも適切な インフォームド・コンセントのプロセスを 踏むことが重要 21 21
インフォームド・コンセントのプロセス 合意 患者 家族 医療チーム インフォームド・コンセント 生物学的データ 主観的情報 (医師・看護師・ ソーシャル ワーカーなど) 説明 説明 1. 最善についての一般的判断 2. 人生計画・価値観・選考の理由 3. 最善な治療についての 個別化した判断 4. 情報に基づく意思の形成 (インフォームド・ウィル) 合意 インフォームド・コンセント <情報共有-合意モデル> (清水哲郎HP: 臨床倫理の考え方)を一部改変 22 22
インフォームド・コンセントの構成要件 前提となる 要素 情報に 係わる要素 同意に 係わる要素 ●理解と決定のための患者の「能力」 ●意思決定を行う際の患者の「自発性」 ●医療スタッフの情報の「開示」 ●医療スタッフによる治療計画の「推薦」 ●上記2つに対する患者による「理解」 情報に 係わる要素 同意に 係わる要素 ●治療計画に同意するという患者による 「決定」 ●選択した治療計画に対する患者による 「権限の委譲」 (Beauchamp TP & Childress JF, 2001) 23 23
インフォームド・コンセントにおける看護師の役割 ■看護師は下記について常に目を向け、 患者を擁護する ●患者・家族に必要な情報が提示されているか ●患者・家族の意思が尊重されているか ●意思表示ができない患者や、意思決定 できない患者の権利が尊重されているか (石本, 2007) 24 24
鎮静(セデーション)とは ①患者の苦痛緩和を目的として患者の意識を低下させる薬物を投与すること、あるいは、 ②患者の苦痛緩和のために投与した薬剤によって生じた意識の低下を意図的に維持すること (日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン作成委員会, 2010) ■決して「眠らせる」ことではなく鎮痛とともに行われる (卯野木, 2008) ■鎮静によって、意識の低下がおこりコミュニケーショ ンをはじめとする本人の意思表示ができなくなる 25 25
代理意思決定とは 意思決定能力が消失した患者に代わって、 代理人(多くの場合は家族)が医療に関する 意思決定を行うこと (服部, 2012) ■代理決定者に関する課題 ●代理決定者の役割を知らない ●医学的決定をする準備ができていない ●意思決定の過程がストレスフル ●患者の意向とその理由が不明 ●代理決定者自身の希望・意向・ニーズと患者の意向を 区別することの困難さ (人生の最終段階における医療にかかる相談員の研修会資料より, 2014) 26 26
患者が何を望むかを基本とし、それが不明な場合、 患者の最善の利益が何であるか、家族と多種職医療チームが十分に話し合い、合意することが重要 クリティカルケア領域における代理意思決定 ■患者の意思が確認できない場合が多い ●患者は発症・受傷により危機状態に陥っている ●不測の事態の場合、事前に話し合っていない ■家族の役割がいっそう重要となる 患者が何を望むかを基本とし、それが不明な場合、 患者の最善の利益が何であるか、家族と多種職医療チームが十分に話し合い、合意することが重要 これまで述べてきたような鎮静を、クリティカル領域では人工呼吸器や侵襲的治療では苦痛軽減のために行い、患者の意識がはっきりしないことがよくみられます。 また、病態によっては、呼吸循環不全、臓器障害の影響で意識障害を引き起こしています。 さらに、患者は発症・受傷から短期間で生命の危機状態に陥ることがあり、家族はそれを受け入れられない中で患者の代わりに意思決定が求められることが多く見られます。 推定意思の説明アウトラインで加える (人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン解説編,2015) 27 27
人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン (厚生労働省, 2015) 人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン (厚生労働省, 2015) 人生の最終段階における方針決定の手続 患者の意思の確認ができない場合 家族が患者の意思を推定できる場合 その推定意思を尊重し、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする。 家族が患者の意思を推定できない場合 患者にとって何が最善であるかについて家族と十分に話し合い、患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする。 家族がいない場合及び家族が判断を医療チームに委ね る場合 患者にとっての最善の治療方針をとることを基本とする。 (厚生労働省 終末期医療の決定プロセスのあり方に関する検討会,2015)
クリティカルケア領域におけるエンド・オブ・ライフ・ケアで 看護師が直面する倫理的問題② ■患者に意識障害が認められるため、医療に関す る意思決定が家族にゆだねられる ■患者は無駄な延命を拒否したが、急変時、家族 が「できる限りの事をしてほしい」と主張している ■治療当初に装着した人工呼吸器に依存しており、 救命不能だが、直ちに心停止には至らない状態 が続いている ■多臓器不全にて全身浮腫を呈する終末期患者の 家族が「早く楽にしてあげたい」と訴えている 29 29
「誰のためにその医療を行っているのか?」 「患者は何を望んでいるのか?」などについて 医学的無益性の検討 ■医学的無益性:その医療行為が、患者の医学的な状態を改善させないことが科学的根拠をもってわかっている場合、「医学的に無益」と呼ぶ ■選択した治療の予後や利益・不利益に関するコミュ ニケーション不足や誤解によって生じることが多い (Bernat JL, 2005) (Emanuel LL et al, 2005) 「誰のためにその医療を行っているのか?」 「患者は何を望んでいるのか?」などについて 多職種チームで検討する必要がある 30 30
益(メリット)と害(デメリット)のバランスを 益と害の評価 益(メリット) 害(デメリット) 例) ● 症状緩和 ● 余命の延長 例) ●患者の苦痛、副作用 ●経済的負担 ●周囲の負担 益(メリット)と害(デメリット)のバランスを 評価することが重要である 31 31
クリティカルケア領域におけるエンド・オブ・ライフ・ケアで 看護師が直面する倫理的問題③ ■患者に意識障害が認められるため、医療に関す る意思決定が家族にゆだねられる ■患者は無駄な延命を拒否したが、急変時、家族 が「できる限りの事をしてほしい」と主張している ■治療当初に装着した人工呼吸器に依存しており、 救命不能だが、直ちに心停止には至らない状態 が続いている ■多臓器不全にて全身浮腫を呈する終末期患者の 家族が「早く楽にしてあげたい」と訴えている 32 32
家族は変わり果てた患者の容貌にショックを受け苦悩し、意思決定にも影響を及ぼす 容貌の変化 ■クリティカルケア領域では、患者の容貌が 大きく変化することが多い ●大量輸液による全身浮腫 ●多臓器不全による顔色不良 ●人工呼吸器や体外補助循環などの装着 ●目に見える皮膚損傷 家族は変わり果てた患者の容貌にショックを受け苦悩し、意思決定にも影響を及ぼす
患者の意向や価値観、患者の病態や予後予測を 踏まえて、多職種チームで検討することが重要 クリティカルケア領域での延命措置の選択肢 現在の治療を維持する 現在の治療を減量する 現在の治療を終了する 上記の何れかを条件付きで選択する (救急・集中治療における終末期ガイドライン~3学会からの提言~, 2014) 患者の意向や価値観、患者の病態や予後予測を 踏まえて、多職種チームで検討することが重要 治療の差し控えとは「新たな治療はしない、すなわち治療の継続」としてwithholdingとしており、 「治療の減量および終了を治療の中止」としてwithdrawとしています。 バイタルサインが安定しているからカテコラミンを減量するのでなく、血圧が下がることもあるかもしれないが、無益な薬剤投与は減量するという意味だと思います。終了は一気にカテコラミンを止めてしまうということだと解釈できると思います。きっと現場では②という選択もされているところがあると思いますが、③は勇気のいる選択といえるかもしれません。 私見ですが、治療の減量は広義で中止の1つだと考えます。 田山さんの解釈は狭義の中止で③のみの解釈ではないでしょうか。
安楽死・尊厳死の定義 <安楽死> <尊厳死> ■苦しい生、ないし意味のない生から患者を解放する という目的のもとに、意図的に達成された死、ないし その目的を達成するために意図的に行われる 「死なせる」行為 ■安楽死は日本では合法ではない <尊厳死> ■傷病により「不治かつ末期」になったときに、 自分の意思で、死にゆく過程を引き延ばすだけに 過ぎない延命措置をやめてもらい、人間としての 尊厳を保ちながら死を迎えること (清水哲郎HP: 尊厳ある死・安楽死の概念と区分) (日本尊厳死協会HP: 尊厳死とは) 35 35
死に至るまで、自らの存在を肯定する自尊感を持って 生きるあり方を指しており、それを達成することが 尊厳死=尊厳を持って最期まで生きること ■ 「尊厳死」 とは、人間としての尊厳を保って死に至る こと、つまり、単に「生きた物」としてではなく、 「人間として」遇され、「人間として」死に至ること、 ないしそのようにして達成された死を指す 「尊厳ある死」 Death with dignity ではなく 「尊厳をもって死に至るまで生きること」 Dying with dignity (清水哲郎HP:尊厳ある死・安楽死の概念と区分) 死に至るまで、自らの存在を肯定する自尊感を持って 生きるあり方を指しており、それを達成することが エンド・オブ・ライフ・ケアの目的である 36 36
講義内容 倫理的問題とは何か クリティカルケア領域におけるエンド・オブ・ライフ・ ケアで看護師が直面する倫理的問題 アドバンス・ケア・プランニング:尊厳ある人生のた めに話し合うこと 看護倫理に基づくケアの実践 結論
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは 患者・家族の価値観や目標を理解し、これからの人生の計画も含んだ治療・ケアに関する話し合いのプロセスのこと ●患者の気がかり、価値観を把握する ●個々の治療の選択だけではなく全体的な目標を立てる ●家族も含めて話し合う ●患者が将来、意思決定能力が低下した際も、患者の望む医療を提供できるように準備する アドバンス・ディレクティブ(事前指示) アメリカ版に入っているので、いれる (白浜, 2004) 38 38
アドバンス・ディレクティブ(事前指示)とは 患者あるいは健常人が、将来判断能力を失った際に、自らに行われる医療行為に対する意向を前もって示すこと ■意向を示す方法として、以下の2つの形態がある ●医療行為に関して医療スタッフ側に指示を与える (文書で表したもの リビング・ウィル) ●自らが判断できなくなった際の代理決定者を委任 する (赤林 他, 2001) 39 39
■急変時または末期状態で心停止・呼吸停止の場合に、蘇生処置をしないという取り決めのこと DNARとは ■Do Not Attempt Resuscitationの略 ■急変時または末期状態で心停止・呼吸停止の場合に、蘇生処置をしないという取り決めのこと <蘇生処置> ●胸骨圧迫 ●気管挿管 ●人工呼吸器 ●薬物投与(エピネフリン など) 40 40
アドバンス・ケア・プランニングの位置づけ (ACP) アドバンス・ケア・プランニング アドバンス・ディレクティブ 生命維持治療 のさし控え(DNARなど) (NHS HP: Advance Care Planning: A Guide for Health and Social Care Staff)を一部改変 41 41
講義内容 倫理的問題とは何か クリティカルケア領域におけるエンド・オブ・ライフ・ ケアで看護師が直面する倫理的問題 アドバンス・ケア・プランニング:尊厳ある人生のた めに話し合うこと 看護倫理に基づくケアの実践 結論
看護倫理に基づくケアとは ■看護倫理 <看護倫理に基づくケア> ●看護師の患者・家族に対するケアやコミュニ ケーション、判断について、どのように対応 するのが適切かを考えること <看護倫理に基づくケア> 患者へのケアが、その時、その人にとって最善なものになるように支援すること 43 43
看護倫理に基づくケアの実践 ■看護師は患者の尊厳を守り、患者の擁護者となる ■倫理的問題を医療スタッフ間で共有する ●患者の権利を守る ●患者の価値観を守る ●患者を人として尊敬する人としてみる ■倫理的問題を医療スタッフ間で共有する ■患者にとって何が最善なのか、患者・家族・多職種チームで事例検討などで話し合い、合意を得た上でケアを進める ■倫理的感受性を高める (小西 他, 2007) 44 44
倫理的問題を未然に防ぐ努力をする ■看護師は倫理的問題が起こることを、未然に 防ぐ努力をする必要がある ■そのためには・・・ 予防倫理の考え方 ■そのためには・・・ ●疾患の自然経過に関する知識を身につける ●患者・家族のその時々の気持ちや意向を理解する ●文化やスピリチュアル面についてアセスメントする ●コミュニケーションスキルを高める (Reigle J & Boyle RJ, 2000) 45 45
倫理的問題への組織的な対応 ■現場で倫理的問題を考える仕組み ■臨床倫理委員会 ●日々のカンファレンスや多職種チームカンファレンス ■臨床倫理委員会 ●事例検討、臨床倫理問題に関するスタッフのコンサル テーション活動 ●臨床倫理に関するスタッフ・患者・家族への教育・啓発 ●施設における指針の作成・レビュー ■研究審査委員会(Institutional Review Board: IRB) ●治験をはじめとする臨床研究に関する倫理について 審査する役割 46 46
講義内容 倫理的問題とは何か クリティカルケア領域におけるエンド・オブ・ライフ・ ケアで看護師が直面する倫理的問題 アドバンス・ケア・プランニング:尊厳ある人生のた めに話し合うこと 看護倫理に基づくケアの実践 結論 47 47
結論 ■倫理的問題にまず気づくことが重要である ■倫理に関する洞察力、言葉による伝達能力、意思決 定の過程を理解することが必要である ■患者の価値観やニーズを把握し、患者・家族の権利 を擁護する ■エンド・オブ・ライフにおける倫理的問題に取り組む 際は倫理原則などに基づいて、多職種で患者の最 善を考える 48 48
補足スライド これ以降のスライドは、必要に 応じて使用してください 49 49
看護倫理の位置づけ 臨床倫理 医療倫理 看護倫理 50 50
それぞれの価値や価値判断とは <価値> 善きもの、望ましいものとして認め、その実現を期待するもの。 <価値判断> <価値> 善きもの、望ましいものとして認め、その実現を期待するもの。 <価値判断> ある事柄について、主観の評価による是認あるいは否認を言明する判断。 例)この鳥は青い:事実判断、この鳥は美しい:価値判断 ■ 「家族」に対する価値や価値判断の例 ●こんなに具合が悪いのだから、面会に来るべきだ(価値) ●こんなに具合が悪いのだから、面会にこないなんて変な 家族だ(価値判断) (大辞林 第3版)
クリティカルケア領域における価値観の例 ■「天命を全うしたい」(価値) ■患者の意識があり自律性が保てているなら、 「延命はしない」(価値判断)と決められる。 ■意識障害があり、代理意思決定の場合は 本人の価値観を検討する。 「患者は『延命したくない』(価値観)はず。 よって延命治療はしない」
代理意思決定者の選定 ■代理意思決定者をたてる必要性 ■代理意思決定者としては誰が適任であるか? ■代理意思決定者の「義務と責任を遂行する 能力」の確認 ■代理意思決定者に開示すべき情報の範囲の 確認 (浅井ら:脆弱高齢者・終末期患者への診療に関する判断、および診療行為の質の評価と改善に関する研究、厚生科研報告書、2007 一部改) 代理で意思決定を行う人の選定は、以下の4点に注意しなければならいと示されています。 代行者をたてる妥当性、代行判断者としては誰が適任であるか、代行判断者の「義務と責任を遂行する能力」、 そして代行判断者に開示すべき情報の範囲の確認の4つになります。
代理意思決定者の選定−1 ■代理意思決定者をたてる妥当性 ●患者が独力では自己決定が困難であるか? ●患者が独力では自己決定が困難であるか? (例:新生児、乳幼児、意識障害、重度の知的障害など) ●患者が代理意思決定者をたてることを強く望んでいるか? 1つめの代行判断者をたてる妥当性とは 患者さん自身が自ら判断し決定できる力があるかということです。 例えば、新生児や乳幼児、特にクリティカルであれば意識障害を起こしている 患者などです。 あとは、患者自身が代理意思決定者を立てることを強く望んでいるかどうか という視点が妥当性の査定をしなければなりません。
代理決定者の選定−2 ■代理意思決定者としては誰が適任か? ●法的保護者はいるか? (例:新生児・乳幼児では両親、児童虐待では児童相談所 ●法的保護者はいるか? (例:新生児・乳幼児では両親、児童虐待では児童相談所 所長など) ●代理意思決定の中心者は誰か? ●患者と家族の間に意見の対立はないか? ●家族は患者の最善の利益以外の事項を優先して いないか?(例:遺産、年金) ●患者が、血縁のない知人・友人を代理意思決定者に 指名する希望を持っていないか? ●家族間に対立はないか? ●患者が情報開示、意思決定参加を望まない家族員は いるか? 2つめは誰が適任者であるかとうことになります。 □新生児・乳幼児では両親、児童虐待では児童相談所所長などの法的保護者はいないか? □患者家族の中のキーパーソン(代理意思決定の中心者)は誰か? □患者さんと患者家族の間に意見の対立はないか? □患者家族は患者さんの最善の利益以外の事項(例えば遺産や年金)を優先していないか? □患者さんが、血縁のない知人・友人を代理意思決定者に指名する希望を持っていないか? □家族間に対立はないか? □患者さんが情報開示、意思決定参加を望まない家族員はいるか? ということを鑑みて誰が適任者であるかということを査定します。
代理意思決定者の選定−3 ■代理意思決定者の「義務と責任を遂行する 能力」のチェック ■代理意思決定者に開示すべき情報の範囲の 確認 能力」のチェック ●患者家族の医療情報に関する理解度は十分か? ●家族構成員間の情報と意思の疎通は十分か? ■代理意思決定者に開示すべき情報の範囲の 確認 ●患者はどの範囲までであれば自分の個人情報を開示 してよいと考えているか? 3つめは、 □患者家族の医療情報に関する理解度は十分か? □家族構成員間の情報と意思の疎通は十分か?といった 代理意思決定者の義務と責任能力を査定します。 そして、 □患者さんはどの範囲までであれば自分の個人情報を開示してよいと考えているか? 代理意思決定者に開示すべき情報の範囲を確認します。
代理意思決定のプロセス 1.患者の意思が推定できる場合 2 3 4 5 患者の推定意思を確認する 患者の推定意思を尊重する 治療などの選択肢を家族に説明 家族と医療従事者が十分に話し合う 医療行為の開始・不開始、変更、中止 1 2 3 4 5 (看護のためのクリティカルケア場面の問題解決ガイド意思決定プロセスの模式図をもとに改編) M4に送る
代理意思決定のプロセス 2.患者の意思が推定できない場合 1 2 3 4 患者にとって最善の治療を 医療チームで話し合う 治療などの選択肢を家族に説明 家族と医療従事者が十分に話し合う 医療行為の開始・不開始、変更、中止 1 2 3 4 (看護のためのクリティカルケア場面の問題解決ガイド意思決定プロセスの模式図をもとに改編) M4に送る
代理意思決定のプロセス 3.患者の意思が確認できず代理意思決定者不在の場合 代理意思決定のプロセス 3.患者の意思が確認できず代理意思決定者不在の場合 患者にとって最善の治療を 医療チームで話し合う 医療行為の開始・不開始、変更、中止 1 2 1 2 (看護のためのクリティカルケア場面の問題解決ガイド意思決定プロセスの模式図をもとに改編) M4に送る
ジョンセンの4分割法 倫理的問題を明らかにし分析する体系的な 方法として以下の4つの項目に関して情報を 整理することを提案している ●医学的適応 ●患者の意向 ●周囲の状況 ●QOL ■事例を全体的に捉えられる ■倫理的問題が明確化する ■対処の方策を検討でき、共有できる ■患者本人の意思を尊重することができる
医学的適応 ■善行と無危害の原則 ●患者の医学的問題について;診断、予後 ●急性、慢性、可逆的/不可逆的 ●治療の目標 ●治療の成功する確率 ●治療の効果がない場合の計画 患者が医学的・看護的ケアによって どのくらい利益があるか、害を避けられるか
患者の意向 ■自律性尊重の原則(患者自身の自己決定) 患者の選択権は倫理的/法的に 最大限に尊重されているか ●患者の判断能力、法的対応能力 ●患者の治療についての意向 ●インフォームド・コンセント ●治療に対して非協力的か、拒否があるか ●代理意思決定 (患者の最善の考慮) ●アドバンス・ディレクティブ、推定意思 患者の選択権は倫理的/法的に 最大限に尊重されているか
QOL ■善行と無危害と自律性尊重の原則 ●日常生活に復帰できる見込み ●患者の身体・精神・社会的損失について ●延命が望ましくないと判断される将来像の予測 ●治療中止の理論的根拠 ●緩和ケアの計画 治療の遂行や中断によって患者の幸福に どのように影響があるか
周囲の状況 ■忠実義務と公正の原則 ●家族側の要因(利害関係) ●医療者側の要因(施設方針、臨床研究) ●経済的要因、医療資源配分 ●宗教・文化的要因 ●守秘義務 ●法的要因 ●その他(診療情報開示、医療事故) 家族や施設、医療制度の状況が 患者のケアにどのように影響があるか
事例検討の進め方 ■ステップ1 問題点の整理 ■ステップ2 問題に対する捉え方の整理 ●問題の本質はどこにあるのか洞察することが重要。 ●直感的に判断しない。 ●複数の問題は存在しないか問題を明らかにする。 ■ステップ2 問題に対する捉え方の整理 ●その問題に対する登場人物の考え方を整理する。 ●考えが明らかになっていない人はいないか。 ●対立している部分どこか、合意を得ている部分はどこか。(渕本雅昭、神田直樹:カンファレンスで根付かせる看護倫理、日総研、2012)
事例検討の進め方(つづき) ■ステップ3 問題の捉え方の背景を考える ■ステップ4 倫理原則で問題を考える ● 「なぜそのように考えるか」考え方の背景を明らかにする。 ●個別的な事情を考慮した問題の検討をする。 ●それぞれの人々の考え方の理解を深める。 ■ステップ4 倫理原則で問題を考える ●本人の意思を尊重する決定とは。 ●医療者が考える最前の方法は。 ●患者に不利益になる決定は何か。 ●同様の事例での対応は。 ●この事例で最善な倫理的対応は。 (渕本雅昭、神田直樹:カンファレンスで根付かせる看護倫理、日総研、2012) 引用:渕本雅昭、神田直樹:カンファレンスで根付かせる看護倫理、日総研、2012
事例検討の進め方(つづき) ■ステップ5 プロセスを結合して今後の方向性 を導く ●患者にとって最善の決定とは何か。 ●まず、どのような行動をとるべきか。 ●関係する人々が納得できる結論か。 (渕本雅昭、神田直樹:カンファレンスで根付かせる看護倫理、日総研、2012) 引用:渕本雅昭、神田直樹:カンファレンスで根付かせる看護倫理、日総研、2012
成年後見制度 ■平成11年12月に成年後見制度成立 ■法定後見:裁判所の審判による ■任意後見:本人が判断能力が十分なうちに候補者と契約をする ■後見人の内訳: ●家族・親族 (77.4%) ●第三者後見人 (司法書士8.2%、弁護士7.7%、社会福祉士3.3%) (法務省HP: 成年後見制度) 68 68
倫理委員会と倫理コンサルテーション 多くの病院で、倫理的問題に対する サポート体制の整備の必要性が高い 倫理コンサルテーションの 有無 対象:全国の臨床研修指定病院267施設 倫理コンサルテーションの 有無 倫理コンサルテーションが 行われる必要があるか 必要が ない 3.0% ある 24.7% わから ない 6.0% ない 75.3% 必要が ある 89.0% (n=267) (長尾 他, 2005) 多くの病院で、倫理的問題に対する サポート体制の整備の必要性が高い 69 69