専門職(弁護士)後見人の経験を中心に 弁護士 宋 インキュ 韓国における成年後見人の後見活動事例 専門職(弁護士)後見人の経験を中心に 弁護士 宋 インキュ
Ⅰ. はじめに 報告者は現在韓国のソウル家庭法院(家庭裁判所)に所属する専門職後見人として活動している。 本日は臨時後見人及び成年後見人として担当した事例の中で、財産調査、財産管理行為、身上保護活動等の経験を中心に報告したい。
II. 専門職後見人に選任される代表例 専門職後見人に選任される事例は、成年後見開始や被後見人の財産管理及び身上保護をめぐって、家族間の利害関係が対立したり、家族間の意見が激しく対立する場合が多い。 一方で、本人(事例の当事者)が財産を比較的多く持っている状態で家族間の法的な争いが生じた場合は、成年後見開始審判請求と臨時後見人選任の事前処分を申立てる事例が多い。その場合、裁判官は成年後見開始の審判が下るまで、本人の臨時後見人として専門職後見人を選任することがある。 万一、家族間の争いがなく、あったとしても本人の財産が後見人の後見費用に充当できない額であれば、専門職後見人を選任することはまれである。その際は家族構成員の中で適合と判断される者が後見人になる傾向がみられる。
III. 財産調査及び財産目録の作成 財産目録調査報告書の提出期限は2か月を原則とする。財産目録を作成するためには被後見人の財産に対して詳細に調べる必要がある。 財産調査の具体的な方法は、金融監督院を通じた金融資産照会、行政機関や銀行、保険会社等の金融機関訪問調査がある。他に、被後見人の子どもや法律上または事実上の配偶者に対する面談、かつ彼らから収集した諸資料から調査する方法。そして進行中の訴訟がある場合は高等裁判所に情報公開請求等を通じて関連資料を収集する方法を用いる。 不動産の場合は、時価算定を可能な限り公信力のある機関の資料(国民銀行の不動産時価資料)を参酌する。また類似する取引がなかったり算定が難しい場合は公示時価を用いる方法を併用する。 上記のような財産目録調査行為はすべて事実行為としてなされる。
IV. 被後見人の財産管理行為 1. 概要 成年後見人は被後見人が所有する不動産及び金融資産等の財産について管理しなければならない。財産の類型ごとに財産管理の方法が定められる。また保存行為を原則とするが、処分行為が必要な場合は裁判所の許可が受けなければならない。 成年後見開始の決定時に後見人の財産管理行為の中、裁判所の許可が必要な事項が予め定めているため、裁判所の許可を受けてから財産管理行為を遂行する。 報告者が担当している後見事例の例を挙げると、被後見人に療養病院の医療費の支給行為、事実婚の配偶者に月々の生活費の支給行為、共益費の納付行為等を含め、被後見人が所有する財産を管理する行為を行っている。財産管理行為は主に事実行為として遂行するが、場合によっては各種契約行為、訴訟行為等の法律行為を並行こともある。 後見人の財産管理行為は現在破産管財人の役割とも類似する側面があり、善良な管理者として財産管理を遂行することになる。
IV. 被後見人の財産管理行為 2. 財産管理行為の具体例 1) 不動産の財産管理 1) 不動産の財産管理 成年後見人は被後見人の不動産管理において不動産の維持保存や改良のための事実行為及び法律行為を遂行する。 成年後見人は管理対象の不動産を原則的に対象不動産の用法に従って使用し収益する等の管理行為をするべきであり、保存状態が悪化しないよう維持存即のために必要に応じて修繕計画を立てて実行することが求められる。 (1) 被後見人の所有不動産が収用された例 被後見人が所有する不動産の中で、ある敷地が共用収用の手続きにより補償と関連して現在の関係機関と協議を進めたが、両者間の協議に不具合が生じたため収用裁決がなされた。 しかし、補償金の金額が期待したレベルより低く評価されたため、それに対して不服申し立てについて被後見人の親族と協議し行政訴訟を起こしたところである。
IV. 被後見人の財産管理行為 (2) 新築工事中に工事が中断された建物に対する工事再開の可否 被後見人の財産の中で、建築工事中の建物(工程率40%)が後見開始の決定前に工事が中止されたが、工事を再開するか否かを決めなければならなかった件である。 報告者は、被後見人の家族の意見をすべて聴き取ってから工事再開の可否を決める予定である。しかし、万一工事再開を決定する場合でも裁判所の許可が必要であるため、手順を踏みながら進めなければならない。 今後家族会議を開き、この間の意見が反映されているか確認する予定であるが、家族間の工事再開の可否と資金調達に関する利害関係が対立して合意がなされなければ現在の状態を維持する予定である。 (3) 賃貸建物に対する管理行為等 被後見人が賃貸している建物が水漏れしたため、賃借人側から緊急に補修するよう要請があった。報告者はすぐ現場にかけつけて業者を決め、補修してもらったことがある。 また、建物のエレベーターを定期点検する必要がある。その際、当該建物に管理人が配置されていない場合は報告者が直接訪問するか事務職員に行ってもらう。 被後見人が所有する不動産の中に賃料が未納の場合は、これに対して賃借人に催告し賃料を受領する事例が多い。
IV. 被後見人の財産管理行為 (4) 休業中の宿泊施設の事業再開問題 被後見人の財産目録に宿泊施設がある。被後見人の子どもの一人が管理しているが現在は休業中である。 最近報告者が家族会議を開き、休業中の宿泊施設について建物を補修して事業を再開するか他人に賃貸するかを協議した。 結局家族間の合意がなされず、現在の休業状態を継続し、今後解決策を探っていくこととした。
IV. 被後見人の財産管理行為 2) 金融資産等の管理行為 2) 金融資産等の管理行為 金融資産は他の財産より流動性が高いため、被後見人の生活費用の準備等に必ず必要である。 金融商品の中には収益率が低いが、安全性が高い商品がある。その一方で、ハイリスク・ハイリターンの高収益性の投資型商品もある。 しかし、成年後見人は被後見人のために、財産管理の目的からして安定・安全性を重視する金融資産の管理を行う必要があると考える。 報告者は金融資産を管理する場合、現存状態の維持を原則としている。また安定・安全性の観点から適切な金融商品を選び管理している。
IV. 被後見人の財産管理行為 (1) 既存の預貯金の管理 報告者は被後見人の預貯金通帳と印鑑等を引き渡され管理している。 原則的に安定したものと判断される場合は、現存の状態を維持する。 今後安定性の要件が同一である場合は、比較的に収益性の高い商品を探してそれに変更することも考慮していきたい。 (2) 有価証券 被後見人が過去に購入した株式や債券等の有価証券と各種投資型金融商品に関する本来の契約について、それを維持することを原則とする。 ただし、金融専門家の意見を参酌して投資の目的上必ず必要とされる場合は、これを解約し比較的に安定した金融商品に変更し管理することも可能だが、それを決める際には担当裁判所と協議し家族会議を開く予定である。 (3) 貴重品管理 各種貴金属等、貴重品についてはこれを引き受け、銀行の貸金庫等に保管している。
IV. 被後見人の財産管理行為 3) 訴訟行為を通じた財産管理行為 (1) 応訴行為事例 3) 訴訟行為を通じた財産管理行為 (1) 応訴行為事例 報告者の場合、第3者が被後見人を対象に訴訟を起こされ応訴した事例がある。 (たとえば、工事業者が新築工事中だった建物の工事費用請求訴訟など。) (2) 被後見人の家族等に対する訴訟の提起が必要な事例 報告者が担当した後見事例の中には成年後見開始の決定前に被後見人とその家族間で不動産及び金融資産に対する処分行為が無効または取り消しの事由に該当すると判断した事例が多い。 これに対して、具体的な事実関係についての確認し、かつ訴訟が必要だと判断され、裁判所に訴訟の許可を申し立て、許可を得てから訴訟を提起した。 家族間の財産処分行為が無効または取消しの原因がある事案は主に被後見人と家族の間の贈与契約の無効を原因とする訴訟提起の事例がある。 家族の中、一人の子どもが無断で被後見人の金融資産を持ち去った場合、不法行為を理由として返還請求が求めれる事例もある。 (3) 第3者に対して訴訟提起が必要な事例 報告者の場合、被後見人が所有する不動産の一部を賃貸している物件について今後明度訴訟を起こすべき事例もあったが、これに対して催告した後、賃借人に対して明度訴訟を提起した。
V. 被後見人に対する身上保護行為 1. 概要 2. 身上保護活動の具体例 1) 居所決定及び病院や療養施設等への入院可否決定 成年後見開始事件の事件本人は医療機関に入院中の場合がほとんどである。また本人の住居で家族のだれか一人と同居しながら家族や看病人等のケアを受けることもあった。 後見人は被後見人の身上に関する重要な問題、たとえば療養病院等への施設入所の可否、精神保健医療機関への入院の可否、医療行為を受けるか否かの判断等のプロセスにおいて実質的に権限を行使する。 報告者の場合も被後見人の健康状態及び経済的能力、家族との状況や住居形態とを参酌して病院またはその他施設入所の可否を決定した。 2) 医療行為に対する同意 成年後見人が身上保護の権限が付与された場合、普通医療行為に対する同意ができるが、医療行為の直接的な結果により死亡または相当な障害が生じる恐れがある場合には家庭裁判所の許可を受けるべきである。 後見人は延命治療に対して同意する権限がある場合、必要性があれば同意すべきである。報告者の場合も担当医から延命治療について意見を求められたことがあり、その際に家族と協議して同意した。
V. 被後見人に対する身上保護行為 3) 扶養義務者と後見人との間に身上保護の方法について 見解が異なる場合 3) 扶養義務者と後見人との間に身上保護の方法について 見解が異なる場合 後見人と家族等の扶養義務者間の権限が衝突することと関連して、扶養義務者と後見人間で身上保護に関する方法に見解が異なる場合がある。 扶養義務者が事実上被後見人の身上に関して、被後見人の福利に反する行為や処分を行う場合、深刻な問題が発生することもあり得る。 特に被後見人と家族との利害関係が対立し、被後見人が家族に対して刑事告訴や民事訴訟を提起する場合には、事件当事者同士の同居は被後見人の立場からみて決して望ましいことではない。 報告者の場合も類似する事例を担当したことがある。被後見人と訴訟等で利害関係が対立する親族と同居していたが、被後見人の身上保護に悪影響を及ぼす可能性があったため、被後見人を病院やその他の場所に分離させた。 また病院の主治医に一定期間面会禁止の申し立てが必要な事例もあった。