第Ⅱ部 協力ゲームの理論 第7章 交渉問題 2008/07/01(火) ゲーム理論合宿 M1 北川直樹
内容 交渉問題の定式化 均等解と功利主義的解 ナッシュ解 交渉の公準 ナッシュ解の一意性 カライ/スモロデンスキー解 公平な交渉 交渉問題の基準点 共同混合戦略と実現可能集合 均等解と功利主義的解 均等解 功利主義的解(和の最大化による解) ナッシュ解 交渉の公準 ナッシュ解の一意性 カライ/スモロデンスキー解 公平な交渉
交渉の基準点 例1 非協力2人ゲーム 各プレイヤーが最悪の場合でも期待される利得は 1 2 3 マックスミニ値(2, 3)←交渉の基準点 例1 非協力2人ゲーム 各プレイヤーが最悪の場合でも期待される利得は マックスミニ値(2, 3)←交渉の基準点 プレイヤー2 1 2 3 6, 7 4, 8 0, 9 8, 5 5, 6 1, 7 9, 0 7, 1 2, 3 プレイヤー1
交渉の基準点 交渉の基準点(2, 3)を念頭において話し合いを行い、 ともに戦略1をとることに合意した場合、利得は(6, 7)に改善 1 2 4, 8 0, 9 8, 5 5, 6 1, 7 9, 0 7, 1 2, 3 交渉の基準点(2, 3)を念頭において話し合いを行い、 ともに戦略1をとることに合意した場合、利得は(6, 7)に改善
共同混合戦略と実現可能集合 例2 逢引のジレンマ 野球 芝居 3, 1 0, 0 1, 3 彼女 彼 例2 逢引のジレンマ 彼女 野球 芝居 3, 1 0, 0 1, 3 彼 非協力ゲームの場合、利得が(0,0)となる可能性がある。 そこで、話し合いをしてジャンケンでどちらに行くか決定する(協力ゲーム) 協力ゲームの利得 (3,1) or (1,3) 期待値 1/2×3+1/2×1=2
共同混合戦略と実現可能集合 非協力ゲームの実現可能集合S(ACBD) 協力ゲームの実現可能集合S(ABC) 混合戦略 利得の期待値 プレイヤー1の混合戦略:p(p1,p2) プレイヤー2の混合戦略:q(q1,q2) 利得の期待値 協力ゲームの実現可能集合S(ABC) 共同混合戦略 P = (p11, p12, p21, p22) = ((野球,野球), (野球,芝居), (芝居,野球), (芝居,芝居)) ジャンケンで野球か芝居を決定 P=(1/2, 0, 0, 1/2) S=(2, 2)
交渉問題の定式化 プレイヤーの集合 交渉の基準点 実現可能集合 交渉問題 交渉の妥結点 交渉解 条件1 Sはn次元ユークリッド空間Rnの有界閉な凸集合 条件2 基準点cをSに想定可能 条件3 Sは、すべてのi∈Nについて、xi>ciなる点xを少なくとも1つ 含む 交渉問題 交渉の妥結点 交渉解
交渉問題の定式化 交渉の妥結点のみたすべき公準 交渉領域 公準1 個人合理性 公準2 強個人合理性 公準1 個人合理性 公準2 強個人合理性 公準3 パレート最適性(共同合理性、効率性) 公準4 弱パレート最適性 交渉領域
均等解 ルール 利得を均等に配分した点を解とする デメリット 均等解がパレート最適とは限らない
功利主義的解(和の最大化) ルール デメリット 各プレイヤーの利得の和を最大とする点を解とする 利得の和が常に一定の場合、妥結点を決定不能 交渉領域の多少の変動で、妥結点が大きく変動 各プレイヤーが自己の利益を主張している場合は困難
ナッシュ解 ルール 各プレイヤーの利得の積を最大とする点を解とする ナッシュ積 ナッシュ解 Arg 複素数の偏角 利得ベクトル
ナッシュ解 利得測定法からの独立性 プレイヤーの利得を1人ずつ独立に正1次変換をしても、本質的な変化はない 例)2人の場合に、利得の尺度がxからyに と変換したとき、基準点dは となり、尺度xのときの妥結点が、r=(r1,r2)=(2,2)ならば、 尺度yのときには、s=(s1,s2)=(5,9)となる。
2人交渉問題のナッシュ解 例3 基準点c=(c1, c2) 1 2 3 8, 4 2, 3 4, 1 6, 2 4, 6 4, 2 プレイヤー2 1 2 3 8, 4 2, 3 4, 1 6, 2 4, 6 4, 2 共同合理性 プレイヤー1
2人交渉問題のナッシュ解 1 2 3 8, 4 2, 3 4, 1 6, 2 4, 6 4, 2 1 2 3 4, 4 1, 3 2, 1 3, 2 2, 6 2, 2 AB : y1+x2=8 AB : x1+2x2=16 d=(2, 3) c=(4, 3)
2人交渉問題のナッシュ解 変換された利得によるナッシュ解 z1z2=K(一定)である点z=(z1, z2)は、z1軸、z2軸を漸近線 t=(1.5, 1.5) d=(2, 3) d=(0, 0) 変換された利得によるナッシュ解 z1z2=K(一定)である点z=(z1, z2)は、z1軸、z2軸を漸近線 とする双曲線 ⇒ 妥結点 t = (1.5, 1.5) ⇒ 妥結点 s = (2×(1.5+2)=7, 1.5+3=4.5)
交渉の公準 公準1 個人合理性 公準2 強個人合理性 公準3 パレート最適性 公準4 弱パレート最適性 公準5 利得の測定法からの独立性 公準1 個人合理性 公準2 強個人合理性 公準3 パレート最適性 公準4 弱パレート最適性 公準5 利得の測定法からの独立性 この公準をみたすとき基準点をc=0に変換可能なため、SをRnの正の領域の集合とした交渉問題(S,0)として記述できる。
交渉の公準 公準6 対称性 2人交渉問題において、交渉領域Sが原点を通る45度線に関して対称で、かつ、ルールFによる妥結点における2人の利得が等しいとき n人交渉問題(N,S,0)の実現可能集合Sは、以下のように定義する。 π:1からNまでの任意の置換(プレイヤー番号の付け替え) 条件1. プレイヤーの番号を付け替えても交渉領域に不変 条件2. 全プレイヤーの受け取る利得が同じ このとき、交渉解Fは対称性をもつ
交渉の公準 公準7 無名性(匿名性) プレイヤーの番号を付け替えたとき、交渉領域が前と同じではないが、妥結点でプレイヤーの受け取る利得が番号の付け方とは独立で、匿名にしても変わらない n人交渉問題(N, S, 0)において任意の置換 πに対して、交渉解をF(S)とすると のとき、ルールFは無名性 2人交渉問題の場合
交渉の公準 公準8 無関係な代替案からの独立性 公準8 無関係な代替案からの独立性 交渉問題(S, c)が与えられ、妥結点sが存在するとき、cとsを含むSの部分集合Tを考えて、交渉の場を(T, c)に変えても、以前sが妥結点で存在する 2つの交渉問題(S, c)と(T, c)が
交渉の公準 公準8 全体と部分との整合性、または縮小ゲーム性 N={1, 2, 3}の3人交渉問題(N, T, 0) 公準8 全体と部分との整合性、または縮小ゲーム性 N={1, 2, 3}の3人交渉問題(N, T, 0) 妥結点 t=(t1, t2, t3) N´={1, 3}の2人交渉問題(N´, T, 0) 妥結点 s=(s1, s3) もし、t1<s1ならば、プレイヤー1は3とだけ交渉する ルールの妥当性 プレイヤー2の利得をt2に固定 交渉が部分集合に別れて不安定となる
ナッシュ解の一意性 定理1 ナッシュの定理(1950) 定理2 ロスの定理(1977) 定理3 レンズベルクの定理(1985) 定理1 ナッシュの定理(1950) 2人交渉問題で次の5つの公準をみたす解は、ナッシュ解に限る 個人合理性、パレート最適性、利得測定法からの独立性、対称性、 無関連な代替案からの独立性 定理2 ロスの定理(1977) n人交渉問題で次の4つの公準をみたす解は、ナッシュ解に限る 強個人合理性、利得測定法からの独立性、対称性、無関連な代替案からの独立性 n人交渉問題で次の3つの公準をみたす解は、ナッシュ解か 非合意解 (F(S) = c = 0) 利得測定法からの独立性、対称性、無関連な代替案からの独立性 定理3 レンズベルクの定理(1985) n人交渉問題で次の5つの公準をみたす解は、ナッシュ解に限る 個人合理性、パレート最適性、利得測定法からの独立性、匿名性、 全体と部分との整合性
カライ/スモロデンスキー解 単調性をみたさないナッシュ解 交渉問題がS→T(S⊂T)に変化(交渉領域の拡大) このとき、ナッシュ解は 交渉領域が拡大したことで、プレイヤー2の利得が減少 交渉領域が拡大しても、各プレイヤー の利得は減少しないという公準が必要 カライ/スモロデンスキー解
カライ/スモロデンスキー解 最大限度額 公準10 個人単調性 2人交渉問題において、交渉領域(S)内でのプレイヤーiの利得の上限をプレイヤーiの最大限度額M(S)iと呼び、最大限度額の組を交渉問題と理想点と呼ぶ 公準10 個人単調性 2つの2人交渉問題(S)と(T)において 解Fは個人単調という
カライ/スモロデンスキー解 ルール 基準点と理想点を結ぶ直線と交渉領域のパレート最適な点の集合との交点を解とする Pa(S):交渉領域Sのパレート最適な点の集合 L(c, M):基準点cと理想点Mとを結ぶ直線 利得は各プレーヤーの最大限度額の比で分配
カライ/スモロデンスキー解 定理4 カライ/スモロデンスキーの定理(1950) 定理4 カライ/スモロデンスキーの定理(1950) 2人交渉問題で次の5つの公準をみたす解は、カライ/スモロデンスキー解に限る 個人合理性 パレート最適性 利得測定法からの独立性 対称性 個人単調性 カライ/スモロデンスキー解は、ナッシュ解の5つの公準 の中で無関係な代替案からの独立性の公準を個人単調 性に置き換えたもの
公平な交渉(まとめ) 4つの交渉解 10の公準 均等解 功利主義的解 ナッシュ解 カライ/スモロデンスキー解 個人合理性 強個人合理性 パレート最適性 弱パレート最適性 利得の測定法からの独立性 対称性 無名性 無関連な代替案からの独立性 全体と部分との整合 個人単調性
公平な交渉(まとめ) 新たな交渉解の定義 状況判断と適切な交渉解の適用 人々の公平観と自身の人間性 ナッシュ解やカライ/スモロデンスキー解とは異なる公準の組から交渉解を定義し、違う交渉のあり方に関する理論を得ることができる 状況判断と適切な交渉解の適用 ナッシュ解は、妥結点の近傍での交渉が重要な問題 カライ/スモロデンスキー解は最大貢献度が重要な問題 人々の公平観と自身の人間性 多数の人が熱心に交渉に臨むほど、妥結点は共通の公平観のもとで成立する。そこには、技術や論理を越えた哲学的、道徳的な感性も大変重要である
おまけ 練習問題 身近な交渉問題に対して、いかなる公準を考慮し、解を提示すれば公平なのか議論せよ 例題 エキカマチコンペの賞金3万円の分配方法 スタバジャンケンのコーヒーサイズの選択方法 焼肉北京で同じテーブルに座るメンバーの決定方法