2006年7月23日 埼玉大学 木下信行 All Rights Reserved Personally.

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2004/11/18hiroyuki moriya1 早稲田大学教育学部社会科学専修 現代社会研究4 ( マネー) 伝統的資産運用とオルタナティブ投 資 森谷博之 住商キャピタルマネジメント チーフストラテジスト オックスフォードファイナンシャルエデュケーション.
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1 (第 14 週) 第5章 間接金融の仕組 み § 1 銀行の金融仲介機能 ( p.91 ~ 98 ) ① 仲介機能 ② 情報生産機能 ③ 資産転換(変換)機能 ④ 銀行貸付けにおける担保の役割 § 2 貸付債権の証券化とサブプライム問題 ( p.99 ~ 104 ) § 3 銀行以外の金融仲介機関.
金利、金融政策及び資金循環 金利の概念 金利体系 日本銀行の政策手段 資金循環. 金利の概念 金利とは:資金の貸借取引における資 金の価格である。 金利の機能:資金の配分や景気の調整。
1 第 6 週 § 2(決済システムの安定化政策)続 き 前回の講義で学んだこと: ◆ だれが通貨をどのように供給するか ◆ 振り込み、振り替えのしくみ ◆ 日銀当座預金の役割とは ◆ 銀行の行う信用創造とは ◆ 銀行取り付けの可能性とその実例 (テキスト対応範囲: p.23 ~ 31 )
QE 出口戦略 利上げ先行型. 前提 主張 1 超過準備対策として利上げは有効である 主張 主張 1 超過準備対策として利上げは有効である 主張 2 保有資産の売却は経済に悪影響を与える 主張 3 利上げは経済の安定に寄与する 以上三点により、 QE 出口戦略利上げ先行 型を主張します.
08BC172K 村杉 なつみ. 銀行への公的資本注入額 預金保険機構が主たる担い手と なって公的資金が注入された。 公的資金の使用途 ①破綻した金融機関 18兆6162億円 ②金融機関からの資産の 買取 9兆6483億円 ③破綻前金融機関への 資本注入 12兆3869億円 ④その他 6兆1539億円.
1 この章で学ぶこと: ①なぜディスクロージャー? ②変化する日本企業! ③会計が変わり経営が変わる! 第 10 章 ディスクロージャー ケース/ TDK.
第 6 章 金融政策と金融規制・ 金融監視政策の関係 07 BA 035 W 板津昌宏. 多くの中央銀行の金融政策の目的は 中央銀行はどの様な金融政策を行うべきか? 物価の安定を通じた経済の安定物価と雇用の安定 資産価格の安定を目的に掲げる国はな い.
◇業界研究レポート 金融業界 SIGNAL.
世界ソブリンバブル衝撃のシナリオ 第8章国債バブル崩壊のシナリオ
不動産証券化とまちづくり 中前太佑.
《Ⅴ 解説》 35.監査調書様式体系の全体像 【監査の基本的な方針】 【詳細な監査計画】 【リスク評価手続】 【リスク対応手続の立案】
平成21年11月26日 於:福井商工会議所 松岡会計事務所 坪田幸裕
現代の金融入門 第6章 3.証券化の光と影 2010年5月21日 08BC101 Z 高橋幸弓.
ー Convergence on Stakeholder Governance― 菊澤研宗 Kenshu Kikuzawa
コーポレート・ガバナンスの比較制度分析.
金融危機後の規制について ~時価会計、ディスクロージャー~
市場経済 金融市場メリット 需要と供給 2つの金融 経済循環 証券取引所・証券会社 資本主義経済 銀行
(第7週)第2章(3) 前回のおさらいとキーワード: ■ システミック・リスク ■ セーフティー・ネット ・ 競争制限的規制
空売り規制について 09BD135D  柿沼健太郎.
金融法人分析 九州大学ビジネススクール 村藤 功 2014年10月22日.
藤女子大学人間生活学部 内田博 現代資本主義分析
マネーサプライを増やせ! 岩田・伊藤・浜田・若田部・勝間
第3章 実態経済に大きな影響を及ぼす金融面の動向
グローバル・インバランスと世界金融危機の中の国際通貨問題
通貨統合 第5回 国際金融論.
金融市場ミクロ班.
現代の金融入門   -第1章 金融取引- 08BA210Y  一二三 春菜.
現代の金融入門 第5章 3節 企業統治の変質と再生
マネーサプライを増やせ! 岩田・伊藤・浜田・若田部・勝間
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『非製造業を中心とした生産性向上促進施策』 ~労働力不足の時代を迎えて~
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(第12週)第4章 直接金融の仕組み(2) §1 直接金融と間接金融(p.69~74):確認 ◆ 短期証券(約束手形、CPなど)
消費者金融は日本で成立するか? ――肯定派――
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第7章 どのように為替レートを 安定化させるのか
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EU統一金融監督機関設立の是非 肯定派 神野 光祐 工藤 祐之介 長谷川 雄紀 山下 真弘.
経済学(第10週) 第3章 貨幣と金融取引[2-1] 前回の確認とキーワード ■ 貨幣需要と債券需要 ・ 証券の利益を構成する2つの要素
金融の基本Q&A50 Q41~Q43 11ba113x 藤山 遥香.
ギリシャはユーロを離脱するべきか ~肯定派~
4 国際通貨 1 国際通貨の基礎理論 2 国際通貨の機能と選択 3 管理通貨制度下の国際通貨 国際金融2002(毛利良一)
開発金融論 第3章 銀行型システムか市場型システムか
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岩本 康志 2013年5月25日 日本金融学会 中央銀行パネル
Sumitoku.Y Kurose.Y Ono.S Onodera.A Yamasaki.Y
2009年10月7日 企業ファイナンス(2) 株式と債券の評価 佐々木 隆文.
「投資」の新たな展開 -株式会社以外に…-
企業ファイナンス 2009年9月30日 ガイダンス: 企業ファイナンスとは? 名古屋市立大学 佐々木 隆文.
IV 長期における貨幣と価格.
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2006年7月23日 埼玉大学 木下信行 All Rights Reserved Personally. 法と経済学からみた 銀行の自己資本比率 2006年7月23日 埼玉大学 木下信行 All Rights Reserved Personally.

目 次 Ⅰ 銀行規制における自己資本比率 (1) 銀行監督の客観基準 (2) 預金保険財政の保護 (3) 監督当局に対する規律付け              目  次 Ⅰ  銀行規制における自己資本比率  (1) 銀行監督の客観基準  (2) 預金保険財政の保護  (3) 監督当局に対する規律付け Ⅱ  金融市場における自己資本比率  (1) 銀行の流動性リスク  (2) 銀行の情報生産機能と企業価値  (3) セーフティネットとモラルハザード Ⅲ  銀行経営と自己資本比率  (1) 銀行経営に対する規律付け  (2) 銀行経営の決定権の移動  (3) 銀行の倒産と自己資本比率 Ⅳ  自己資本比率規制の設計  (1) 自己資本比率の基準値  (2) リスクアセットの構成  (3) 資本政策に対する規制 参考文献

銀行規制における自己資本比率 銀行監督の客観基準                                  銀行規制における自己資本比率       銀行監督の客観基準      [ 監督上の自己資本比率の意義 ]   預金の安全性確保                      監督上の措置を検討するにあたっての指標    銀行経営の自主性       [ 監督における自己資本比率の相対性 ]     ○ 規制上の基準とモニタリング      <日本> 最低資本金(銀行法導入時)、財務諸比率指導(金利自由化時)             早期警戒制度、検査評定制度(現在)      <米国> 銀行券発行準備(国法銀行制度導入時)             Canary System、 CAMEL(現在)        ○ バーゼル委員会における「3本の柱」            最低自己資本比率  監督上の対応 ディスクロージャー        銀行経営の健全性に対する自己資本比率の機能 

銀行規制における自己資本比率 預金保険財政の保護                                    銀行規制における自己資本比率                          預金保険財政の保護    [ 潜在的な無担保債権者としての預金保険 ]      銀行の自己資本による保全    [ 低い保全割合 ]      破綻金融機関は高率の債務超過       <日本>25%(預金保険の金銭贈与実施先178先の平均)        <米国>13%(1986年~2003年におけるFDICの処理先1351先の平均)    [ 他の保全手段 ]         銀行経営のインセンティブ形成        (可変保険料率、経営責任の追及)       財政資金の投入 保険制度の運営からみた自己資本比率の機能

銀行規制における自己資本比率 監督当局に対する規律付け                              銀行規制における自己資本比率                        監督当局に対する規律付け   [ 監督当局のエージェンシー問題  ]    早期是正措置:自己資本比率により監督上の措置を義務付け       (注)欧州諸国においては、早期是正措置は存在せず [ 低い実効性 ]  ○ 早期是正措置の対象金融機関の相当数が破綻    <日本>早期是正措置時点における準備状況により明暗     <米国>FDICに対する監査対象11先中8先が破綻   ○ 監督上の措置の実効性    <日本>業務改善命令     <米国>業務停止命令、行政契約、etc        銀行経営と金融市場に対する自己資本比率の機能

金融市場における自己資本比率 銀行の流動性リスク                                  金融市場における自己資本比率                  銀行の流動性リスク               [ 決済手段としての預金 ]    要求払い    無担保    銀行の共通商品                       流動性の不安定均衡                             (安定と取り付け) [ 情報の非対称性 ]                   資産評価の主観性    (私的情報、賦存効果)   多数の小口預金者 自己資本によるシグナリング

金融市場における自己資本比率 銀行の情報生産機能と企業価値                            金融市場における自己資本比率         銀行の情報生産機能と企業価値 [ 銀行の情報生産機能 ]  私的情報に基づく金融仲介  期間転換による流動性の供給 [ 流動性危機に伴う企業価値の下落 ]  レモン費用 (米国における貸出の減価 30%)  取引費用  (米国における貸出の売却費用 10%) [ 流動性危機の防止 ]  自己資本によるバッファー   銀行間市場及び中央銀行   銀行経営のセーフティネット(銀行監督、預金保険)

金融市場における自己資本比率 セーフティネットとモラルハザード                                 金融市場における自己資本比率           セーフティネットとモラルハザード [ 金融市場のモラルハザード ]   債権者  :セーフティネットへの依存   株主    :過少資本時における過大なリスクテイク [ 銀行経営のモラルハザード ]   株主のインセンティブの反映   決算操作と先送りのインセンティブ [ 銀行間市場と株式市場の相互作用 ]  自己資本比率と市場利回り  資金調達の取引費用

銀行経営と自己資本比率 銀行経営に対する規律付け                                     銀行経営と自己資本比率      銀行経営に対する規律付け [ 銀行経営の歪み ]   ○ モラルハザード    ○ エージェンシー問題     経営者のインセンティブと情報の非対称性 [ 株主による規律付けの限界 ]    ○  監督当局と株主のインセンティブの抵触    ○  株主に関する規制(大口株主規制、業務範囲) [ 債権者による規律付けの限界 ]    ○  倒産制度の適用の限界     レモン費用と取引費用      ブランドバリュー      支払い停止と融資先の連鎖倒産    ○  早期の流動性リスク

銀行経営と自己資本比率 銀行経営の決定権の移動                                         銀行経営と自己資本比率              銀行経営の決定権の移動 [ 銀行経営の決定権の序列 ]   ○ 議決権と市場による決定       株主と投資家 ⇒ 経常時の経営規律   ○ 残余請求権による決定       スポンサー・預金保険・監督当局  ⇒ 企業再建 ○ 流動性による決定       預金者と銀行間市場 ⇒ 企業清算 [ 監督当局と経営者のチキンゲーム ]     損失の自己実現     連鎖倒産の懸念  

銀行経営と自己資本比率 銀行の倒産と自己資本比率                                    銀行経営と自己資本比率     銀行の倒産と自己資本比率    [ 銀行の倒産の特性 ]   ○ 再建型倒産手続の困難    処理期間中の資金繰り    レモン費用  ○ 特別の倒産制度    監督当局による申立て    預金保険機関による管理 [ 自己資本比率の機能 ]    ○ 企業再建開始のスターティングガン      ○ 私的整理     事業の再構築    資本政策の実施    監督当局による経営介入 

自己資本比率規制の設計 自己資本比率の基準値                                          自己資本比率規制の設計                自己資本比率の基準値 [ 市場から求められる自己資本比率 ]   企業の倒産制度   レモン費用と債権の譲渡性   ブランドイメージと情報開示の信頼性   銀行間市場及び中央銀行の機能 [ 規制上の自己資本比率の基準 ]   ○ 監督当局からみた自己資本比率    監督当局の私的情報    監督上の措置の実効性   ○ 預金保険からみた自己資本比率    預金保険の保護範囲    預金保険財政に対する政府保証    [ 自己資本比率規制の拘束力 ]   市場から求められる比率より高い基準値→銀行のリスクテイクの拡大                        低い基準値→企業再建の困難     ⇒ 実効的な基準値は中長期的に収束  

自己資本比率規制の設計 リスクアセットの構成                                           自己資本比率規制の設計 リスクアセットの構成   [ バーゼルⅡ ]  ○ 最低自己資本比率    市場に対する情報開示の方法の変更      リスクウェイトの計算方法の緻密化      自己資本の構成と基準については変化なし  ○ 監督当局による検証   ○ 自己資本に関するディスクロージャー        経常時の経営規律への働きかけ

自己資本比率規制の設計 資本政策に対する規制                                        自己資本比率規制の設計              資本政策に対する規制 [ 私的整理による銀行の再建 ]   問題点の解明と情報開示   経営責任の明確化   事業再構築計画 [ 資本政策 ]           [ 資本と負債の相対化 ]   シグナリング                  ハイブリッド商品   再建に要する資本の確保          募集方法   再建過程の経営規律             株主構成     [ 資本政策に対する規制 ]        ○ 自己資本の構成         情報開示における比較可能性          残余請求権とオプションプレミアム         ○ 資本政策の実施方法         募集方法と対象         情報開示のタイムスケジュール

参考文献 木下信行「銀行の機能と法制度の研究」(東洋経済新報社、2005年12月) 木下信行「改正銀行法」(日本経済新聞社、1999年7月) 金融監督庁「リスク管理モデルに関する研究会報告書」(1999年6月) 預金保険機構「平成金融危機の研究」(預金保険研究、2005年9月) 川村義則「負債と資本の区分問題の諸相」(日本銀行金融研究所、DiscussionPaper No.2004ーj11) R&I「ハイブリッド証券などで複雑さ増す自己資本評価」(レーティング情報特別レポート、2005年12月) Macey,Jonathan R.& Miller, Geoffery R.& Carnell, Richard S. ‘Banking Law and Regulation ’( Aspen Publishers,2001)  FDIC ‘Failed Bank Cost Analysis 1986-2003’(Federal Deposit Insurance Corporation, Division of Finance, 2004) FDIC, Office of Inspector General ‘The Role of Prompt Corrective Action as Part of Enforcement Process’(Federal Deposit Insurance Corporation, Audit Report,2203, No.03-038) Berger,Allen N. & Herring Richard J. & Szegoe Giorgiob P. ‘The Role of Capital in Financial Institutions’(Journal of Banking and Finance, June1995) Bernauer, Thomas & Koubi Valley ‘Regulating Bank Capiital: Can Market Discipline Facilitate or Replace Capital Adequacy Rules?( Eidgenoessische Technische Hochshule Zuerich, Working Paper 3-2002) Calomiris, Charles W. & Kahn Charles M. ’ The Role of Demandable Debt in Structuring Optimal Banking Arrangements (NBER Working Paper, Vol. 6892) Calomiris, Charles W. ‘Blue Print for a New Global Financial Architecyure7 (American Enterprise Institute Short Publication, 1998) Macey, Jonathan R. & Miller, Geoffrey R. ‘ The Corporate Governance of Banks ‘ (Economic Policy Review , April 2000)