第6課: 平衡 2005年11月28日 授業の内容は下のHPに掲載されます。

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今後の予定 7日目 11月12日 レポート押印 1回目口頭報告についての説明 講義(4章~5章),班で討論
K: 恒星スペクトル 2007年1月22日 単位名 学部 :天体輻射論I 大学院:恒星物理学特論IV 教官名 中田 好一
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相の安定性と相転移 ◎ 相図の特徴を熱力学的考察から説明 ◎ 以下の考察
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第6課: 平衡 2005年11月28日 授業の内容は下のHPに掲載されます。 第6課: 平衡         2005年11月28日                    授業の内容は下のHPに掲載されます。 http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html 今回のキーワード サハの式 (Saha Equation) Negative Hydrogen 前回5.2.に間違いがありました。 誤:合成軌道角運動量L=∑lの名前は、  L= 1  2  3  4     S    P    D    F    主量子数nと一緒にして 2S 軌道などと言う。 正:合成軌道角運動量L=∑lの名前は、  L= 0  1  2  3   名前  S    P    D    F    主量子数nと一緒にして 2S 軌道などと言う。

6.1.化学平衡 a1A1+a2A2+ a3A3+ ….= ΣajAj=0 例 H2-2H=0 水素の解離 HーH+-e=0 水素の電離 例   H2-2H=0             水素の解離      HーH+-e=0           水素の電離      CO-C-O=0          一酸化炭素の形成 最初の例では、a1=1, A1=H2, a2=-2, A2=H である。 nj=n(Aj)=Ajの数密度 を求める問題を考えよう。 孤立系(エネルギーU、体積V、粒子数Nが一定)では、エントロピー極大が平衡に対応するが、温度T,圧力Pが一定の環境では、ギブスの自由エネルギー  G=U-TS+PV =ΣμjNj が 極値をとる。(μjは j-種粒子の化学ポテンシャル) 上の反応では、1回の反応でΔNj=ajの変化が起きるから、dR回では、 dNj=ajdR。そこで、T,P一定下での化学反応(Niが変化)を考えると、      dG=-SdT+VdP+ΣμjdNj= ΣμjdNj= (Σμjaj)dR=0  したがって化学平衡の条件は、 Σajμj=0 

  一般に、気体の化学ポテンシャルμjは、      nj=Nj/V= Ajの数密度(個/cm3)、      nQ、j=(2πmjkT/h2)3/2=Ajの量子密度(個/cm3)、      Zin,j=Σexp (-Ein,j/kT)=Ajの内部状態分配関数   である。  前節の平衡条件、 に上のμjの式を代入すると、  (質量作用の法則)   粒子の内部自由エネルギー Fin は、内部分配関数 Zin  と   Fin=-kT ln Zin =-kT ln[Σexp (-Ein/kT)] で結ばれているから、   Πnjaj=Π[nQjνj exp(-aj Finj/kT)]  と書く場合もある。

例1: 励起準位 Ai-Aj=0 下図のような、j 準位と i 準位の間の遷移を反応の一つと見なす。 例1: 励起準位  Ai-Aj=0 下図のような、j 準位と i 準位の間の遷移を反応の一つと見なす。  a i =1, Zi=gi exp(-Ei/kT),  aj =-1,  Zj=gj exp(-Ej/kT) この場合、 Zi ,、 Zj の表式に∑記号がないことに注意。 さらに、 nQ=(2πmkT/h2)3/2=共通なので、質量作用の法則を書き下すと、  Πnjaj= ni1nj-1 Π[nQjaj Zinjaj ]= [nQi1 Zini1 ] [nQj-1 Zinj-1 ] = Zini1 Zinj-1 ] 統計重み 数密度 gi      ni E i gj nj 特にj=0(基底状態)の時、 E j go n0     =励起原子の数密度

例2: 水素の(第1励起/基底)比 n1 n0 g1=8 g0=2 log(n1/no) 例2: 水素の(第1励起/基底)比 n1 g1=8 E1=10.15eV n0 g0=2 log(n1/no) 0 T=10000 A0型 T<10000K(A0より晩期型星)では、(n1/no)<-5で大変小さいことが分かる。 T=85000Kで n1=no となり、 T∞では n1/no=4 に接近する。 -2 T=42000 O5型 T=30000 B0型 -4 -6 0 1 2 3 4 5 (51156/T)

例3:ボルツマンの式 (Boltzmann’s formula) ある原子の総数密度を n とし、うち基底状態にno、第1励起状態にn1、第2励起状態にn2,...あるとする。 n=no+n1 +n2 +...である。 前節の例1で示したように なので とすると、 したがって、 g2 E2 g1 E1 go E=0

例4: 水素原子の電離 H++e-H=0 (I=inization energy) 内部エネルギーの相対的な値の決め方には注意がいる。    自由電子と陽子の内部エネルギーをそれぞれ0とする。 すると、中性水素   原子の内部エネルギーは ‐Ⅰ となる(基底状態のみ考えている)。Ⅰは電離   エネルギーで水素では13.6eVである。   電子のスピン上向き、下向きの2状態を考えるので、(原子核の方は無視)   電子とH原子のZinには2が入ってくる。        H +    + e ー    H  = 0   E : 0 0 -I g : 1          2  2 Zin :  1 2         2 exp(I/kT) nQ : (2πmHkT/h2)3/2  (2πmekT/h2)3/2   (2πmHkT/h2)3/2  

 (質量作用の法則)を前頁の電離に適用する。 H(中性水素原子)を I 、 H+(水素イオン)を II と表す。   aII=1, a(e)=1, aI=‐1 だから、質量作用の法則は、  : サハの電離式  (Saha equation)

nQ : (2πmHkT/h2)3/2 (2π2mHkT/h2)3/2 例5: 水素分子の解離 2H-H2=0 電離の時とは違って、今度は水素原子の内部エネルギーを0とする。すると、水素分子基底状態の内部エネルギーは-Dである。Dは解離エネルギー    (Disociation Energy)で、水素ではD=4.47eVである。       2 H     ー    H  = 0   E : 0 -D(-4.476eV) g :       2  4(S=0 ortho,1 para) Zin :  2          4 exp(D/kT) nQ : (2πmHkT/h2)3/2      (2π2mHkT/h2)3/2   a(H)=2、  a(H2)=-1 であるから、質量作用の法則は、   n(H)2/n(H2)= [(2πmHkT/h2)3 /(2π2mHkT/h2)3/2][ 22 / 4exp(D/kT)] = (πmHkT/h2)3/2 exp(‐D/kT)

6.2.サハの式 (Saha equation) 6.2.サハの式  (Saha equation) 原子の電離度はサハの式によって決まる。  ni,0= i 回電離イオン基底状態の数密度  ni+1,0= (i+1) 回電離イオン基底状態の数密度  ne= 電子の数密度    Ii,0  = i 回電離イオン基底状態からの電離エネルギー とすると、  ni= i 回電離イオンの数密度(基底状態+励起状態)  ni+1= (i+1) 回電離イオンの数密度(基底状態+励起状態)  に対しては、上式を少し変えた以下の式が成立する。 Zi=Σgi・exp(-E/kT)(=i回電離イオンの分配関数) は前出のZinと同じ

水素原子の電離に関しては、  n(e)が全てHから供給されている必要はない。  実際、低温環境では電子はアルカリ金属(Na,K)の電離が主な  供給源である。  しかし、高温になると水素の電離で作られる電子が圧倒的となる。 すべての電子が水素から供給されている場合、n( H+)=n(e)なので、  exp(‐I/2kT)の因子がボルツマン型のexp(‐I/kT)と異なることに注意。

例1: 水素のみから成る星の大気 早期型星大気でのガス圧として、 log Pg(erg/cm3)=3.5 と仮定する。  Saha eq. をガス圧 P=nkT で表して、 PII Pe / PI = [(2πme)3/2 (kT)5/2 / h3] [2 ZII(T) / ZI(T)] exp (-E / kT ) (励起状態を無視) Pe=PII、Pg=PI+PII+Pe を代入すると、  log10(PII2 / PI) = -13.6(5040/T) + 2.5 logT-0.48 + log [2 ×1 /2]

B0       B0 A0 F0 G0 K0 T  30500 9500 7500 6300 5350 PII2 / (Pg – 2×PII) 3.0E8  177.5 1.17  0.0137  1.07E-4 PII (erg/cm3) 1600 590 60 6.6 0.58 PI 0.0083 1980 3040 3150 3160 NII/NI 1.9×105 0.30 0.020 0.0021 1.8×10-4 NII/(NI+NII)   1 0.23 0.02 0.0021 1.8×10-4 B0 -1 A0 A0 -2 K0 -3 -4 4.5 4.0 3.5 log T

例2 バルマー線 (Balmer lines) 強度と星のスペクトル型    バルマー線は水素原子主量子数 n=2 i への吸収線である。 したがって、星のバルマー線強度はn1が大きくなるほど強くなる。混乱しやすい慣用法なので注意しておくが、n1の1は第1励起状態の1で、主量子数はn=2である。基底状態の数密度は no 主量子数n=1である。 例1の結果は、最大の数密度を占める基底状態noに対して、第1励起状態の数n1が高温の星ほど高くなることを示している。例えば、B0型のn1/noはA0型の1000倍も高い。 Hα線 Hβ線 n0 n1 n2 n3 では、バルマー線は高温度星ほど強いであろうか? 次ページに示すスペクトルの例から、B0型のバルマー線強度が本当にA0型の1000倍になるか調べてみよう。

バルマー線強度変化を考えてみることにしよう。  水素のみからなる大気を仮定する。       NI0=基底状態(n=1)水素原子の数密度       NI1=第1励起状態(n=2)水素原子の数密度         NI = NI0 + NI1 + NI2 + ...= 水素原子の数密度   NII= 水素イオンの数密度     Ne=電子の数密度      NH= NI + NII = 水素(原子+イオン)の数密度   Pg=PI+PII+Pe= NI kT+ NII kT+ Ne kT=総ガス圧(erg/cm3)   バルマー線は n=2 から n= 3, 4,… へのジャンプで生じる吸収線である。し  たがって、( NI1/ NH ) が バルマー線強度の指標として適当である。 (1)主系列星大気の総ガス圧を、log10Pg(erg/cm3)=3.5 と仮定し、星の有効温度を log10T(K) =3.5、3.6、...、4.5と変化させる。この時に、log10(NI1/NI )、  log10(NI/NH)、 log10( NI1/NH) がどう変わるか表とグラフに示せ。 (2) 8.3例2に見るように、バルマー線の強度がA型星で最強となる理由を     定性的に説明せよ。

PI=水素原子の分圧、PII=水素イオン(陽子)の分圧とおくと、 Pe=PIIであり、サハの式は以下のようになる。 まず、 Pg=103.5 に対し、 上の式を解いてPIIを求め、 次に、 PI =PII 2・10-A  から PI を決める。 次に、      NI1/NI =g1exp(-E1/kT) / [g0+ g1exp(-E1/kT) +…]          ≒ 4・exp(-E1/kT) / [1+ 4・exp(-E1/kT)]      NI/NH= PI/PH =PI/(Pg- PII )      NI1/NH =( NI1/NI )・( NI/NH ) を計算して次ページの表を得る。

logT 3.5  3.6  3.7  3.8  3.9  4.0  4.1  4.2  4.3  4.4  4.5  A -13.405 -8.697 -4.906 -1.843 +0.640 2.665 4.325 5.695 6.834 7.791 8.602 PII 1.11E-5 2.52E-3 0.198 6.72 113 832 1526 1578 1581 1581 1581 PI   3162  3162 3162 3149 2936 1498 110 5.02 0.366 0.0404 6.25E-3 Log(NI1/NI )     -15.685 –12.380 –9.779 –7.737 -6.133 -4.871 -3.877 -3.092 -2.472 -1.981 -1.592 Log(NI/NH) 0.0 0.0 0.0 0.0 -0.016 -0.192 -1.172 -2.500 -3.635 -4.592 -5.403 Log(NI1/NH) -15.685 -12.380 -9.779 -7.737 -6.149 -5.063 -5.049 -5.592 -6.107 -6.573 -6.995         

水素(原子+イオン)中の第1励起原子の割合 0 Log(NI/NH) Log(NI1/NI ) -5 Log(NI1/NH) -10          スペクトル型 M  K  G  F   A     B             -15  3.5  3.6  3.7  3.8  3.9  4.0  4.1  4.2  4.3  4.4  4.5                       logT   

Hβ Hα Hβ Hα

6.3.電子の供給源 恒星大気の温度が高い時には、大量に存在する水素の電離が自由電子の供給源となる。しかし、低温になると水素の電離度が下がり、電子を供給できなくなる。そうすると、存在比は水素より小さいが電離エネルギーが小さくて電離しやすいアルカリ金属が電子供給の役割を担うようになる。 種族IIの星のように低金属量の星では低温でも依然として水素の役割が大きい。 高温大気 低温大気 水素イオン 水素原子 水素 電子 アルカリ金属 アルカリ金属イオン

アルカリ金属、Li, Na, K, Sc,..、電離エネルギーが低い。 存在比は小さいが、電離しやすいので、Te < 5000 K (K型より晩期 ) ではKとNa が電子の主な供給源である。 He Ne Ar H B Li Al Na K

そこで、簡単なモデルで大気中の電子がどのくらい存在するかを調べてみよう。下図の実線は主系列星大気の典型的な(τ≒0.6)ガス圧である。 電子供給源として、水素HとナトリウムNaのみを考え、それぞれが独立に電子を出した時どこで役割が入れ替わるかを計算してみる。元素組成は、NH:NHe:NNa=1:0.1:2×10-6 とする。 5 主系列星大気のガス圧 Pg の表面温度 Te による変化 log10Pg (erg/cm3) 4 3 3.6 3.8 4.0 4.2 4.4 log10Te(K)

水素が電子供給源の場合   PH=PHII+PHI とおくと、  PHe=0.1PH   Pe=PHII     なので、  Pg=Pe+1.1PH   したがって、 PHI=PH-Pe=(Pg-Pe)/1.1-Pe=(Pg-2.1Pe)/1.1   圧力で書いたサハの式は、Pg=Pe+PHII+PHI+PHe を用いると、 前ページのグラフとPg=Pe+PHII+PHI+PHe から上の式を解くと、  温度    Pg(erg/cm3)  A Pe (erg/cm3)   NHI   4000    100000 2.450×10-9 0.015 5000     85000 1.144×10-5  0.94  6000 62000     3.478×10-3  14.0  7500 17000 1.170 134.4 10000 1300 462.4 419.6 25000 1900 5.929×107 904.7

電子がNaから供給されるとき Naの電離エネルギーは5.14 eV と低い。Na存在比が低いので、PgへのPeの影響は考えなくてよい。したがって、PNa=PNaI+PNaIIとし、 PNa=Pg×2×10-6/1.1    PNaII=Pe       PNaI=PNa-Pe に注意して、サハの電離平衡の式をNaに対して書くと、 T    Pg(erg/cm3)  B PNa (erg/cm3) Pe (erg/cm3)  4000    100000 111.9 0.182 0.182 5000     85000 3858  0.155 0.155  6000 62000    44450 0.113 0.113  7500 17000 567100 0.031 0.031 10000 1300 8.501×106 0.0023 0.0023 25000 1900 3.011×109 0.0034 0.0034   どの場合もNaが完全電離としての解、Pe=PNa=Pg×2×10-6/1.1   

T>4500KではH が電子の供給源となっていることが分かった。 結局、T<4500KではNa T>4500KではH が電子の供給源となっていることが分かった。 2 1 log10Pe (erg/cm3) 0 -1 H起源の電子圧 -2 Na起源の電子圧 -3 3.6 3.8 4.0 4.2 4.4 log10Te(K)

n(A+)n(e)/n(A)=[nQ(A+)nQ(e)/nQ(A)][Z(A+)Z(e)/Z(A)] 6.4.一般の原子の電離 A++e-A=0  (I=inization energy) 質量作用の法則まで戻ると、 a1=1   a2=1   a3=-1 n(A+)n(e)/n(A)=[nQ(A+)nQ(e)/nQ(A)][Z(A+)Z(e)/Z(A)]   イオンと原子の質量はほぼ等しいので、nQ(A+)=nQ(A)  電子のスピン上向き、下向きの2状態を考えるので、Z(e)=2。   自由電子とイオンの内部エネルギーをそれぞれ0とする。 すると、中性原子   の内部エネルギーは ‐Ⅰ となる(基底状態のみ考えている)。Ⅰは電離   エネルギー。 Z(A+)=u(A+)、Z(A)=u(A)exp(I/kT)      u(A+)=g0+g1 exp(-E1/kT)+g2 exp(-E2/kT)+…. 

結局、 n( A+)n(e)/n(A) =[u(A+)2/u(A)](2πmekT/h2)3/2 exp(‐I/kT)  天文ではPe(電子圧)を与えて計算する例が多い。 Pe=n(e)kTを使い、数値を入れて log[n( A+)/n(A) ] =log[ u(A+)/u(A) ]+log 2 +(5/2) log T -log Pe-Ⅰ(eV)(5040/T)-0.48                                (Peの単位は erg/cm3)

Negative Hydrogen H‐(水素負イオン)   H+e - H-=0  Wildt 1939. ApJ, 89, 295.”Electron affinity in Astrophysics”   水素負イオンはⅠ=0.754eVという非常に浅い準位を持つ。したがって、   高温の星の大気には存在しない。G型より晩期の星では非常に重要な   光の吸収源である。   水素負イオンの束縛状態は、二つの電子がスピン上向き、下向きの両方を   占めるので、総スピン=0であり、統計重みg=1である。   自由電子と中性水素の内部エネルギーをそれぞれ0とする。 すると、Negative   Hydrogen H- (陰性水素とは言わない)イオンの内部エネルギーは ‐Ⅰ となる   (基底状態のみ考えている)。

6.5.解離平衡 分子雲や晩期型星大気では分子の形成を考慮する必要がある。 A + B ⇔ C という分子形成を考えよう。 注意すべきは、この反応式は実際には起きていなくても構わないことである。 水素分子形成を例にとると、H+H=H2 という反応は直接には起こらず、水素分子は実際には星間ダストの上で形成されると考えられている。それでも、平衡を考える際には A, B, C の持つエネルギーの高さだけが問題となる。 化学平衡での A, B, C の数密度 nA, nB, nC は質量作用の法則で決まる。 数密度 n から圧力 P =nkTの表示に変えると、

宇宙標準組成比では原子数の比は、H:C:O=1:0.36 ×10-3 :0.85×10-3 したがって通常のM型星の大気中には、OがCの約2倍存在する。M型星大気の 温度は4000K以下であり、このように低い温度ではCOが安定な分子種である。 COの乖離エネルギーはDCO=11.1eVと大きいことが原因である。 このため、CはCOとして消費されつくす。後に残るOがOHやH2OのOが入った分 子を作る。 炭素星ではC:O比が逆転している。炭素星ではCOとして消費されつくすのはOで 残ったCがC2やCHを作る。 このように、M型星とC型星では大気中に形成される分子の種類が異なり、それは スペクトルの形に大きく影響している。

H,C,Oが全て原子であったと仮定した時の仮想圧力をPHO、PCO、POO、 とする。PCO、POO << PHOである。 与えられた、PHO、PCO、POO と T に対し、 PH、PC、PO、PH2、……PH2O を 決める問題を考えてみよう。 解くべき方程式は、 PH2=PH2/KH2 PO2=PO2/KO2 PC2=PC2/KC2 POH=POPH/KOH PCH=PCPH/KCH PCO=PCPO/KCO PH2O=POHPH/KH2O POH=PH +2PH2 +POH+PCH+ 2PH2O POC=PC+2PC2 +PCH+PCO POO=PO+2PO2 +POH+PCO+PH2O 求める未知数はPH、PO、PC、PH2 、PO2 、PC2 、POH、PCO、PCH、PH2Oの10個 である。高温では原子優勢、低温ではH2とCO、H2Oが大量にできる。

log10Kp(T) を下の表に示す。Kp(T)の単位はdyn/cm2である。 COに対するKp(T)が小さいことに注意せよ。     T C 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 4,000 5,000 6,000 H2 -11.09 -3.56 0.42 2.82 4.40 6.36 7.70 8.48 O2 -13.32 -4.79 -0.13 2.35 4.11 6.27 7.71 8.59 C2 -18.54 -8.48 -2.87 -0.04 2.04 4.61 6.31 7.29 OH -11.05 -3.65 0.21 2.61 3.95 5.94 6.44 8.16 CH -6.53 -0.67 2.26 4.31 5.55 7.06 8.14 8.76 CO -42.98 -24.74 -14.33 -9.43 -5.67 -0.89 2.12 3.92 H2O -13.61 -5.05 -0.53 2.17 6.13 7.62 8.46

問題6 2005年11月28日        提出 6Aまたは6B 12月5日         6A.ビッグバン宇宙の初期には水素は完全電離の状態にあった。その時期、輻射         と物質とは自由電子の散乱を介して強い結合状態にあった。しかし、その後    温度が低下するにつれて、自由電子と陽子が水素原子になる反応が優勢と    なり、電離ガスの中性化が急速に進行した。これを水素の再結合と呼ぶ。      NI = NI0 + NI1 + NI2 + ...= 水素原子の数密度   NII= 水素イオンの数密度     Ne=電子の数密度      NH= NI + NII = 水素(原子+イオン)の数密度 とする。     NHと温度Tは、現在の宇宙背景輻射の温度To, 水素原子数密度Noを、      To=2.7K,     No=5×10-7cm-3    として、T=To/a、 NH = No /a3 と表される。    宇宙の物質が水素のみで電子は全て水素原子の電離から供給されると仮定    する。サハの式を解いて電離度X= NII /( NI + NII )がX=0.99、0.9、0.5、    0.1、 0.001となる赤方偏移Zを求めよ。a=1/(1+Z)である。

6B. 巨星大気の典型的な値として、     POH=103dyn/cm2、POO=1dyn/cm2、POC=0.5dyn/cm2 を考える。     PH、PO、PC、PH2、PO2、PC2、POH、PCH、PCO、PH2O     をT=6000,5000,4000,3000、2500,2000、1500 1000K     に対し計算し、表とグラフで示せ。     グラフの縦軸は log P(dyn/cm3), 横軸はT(K) とする。     解法もレポートに書き込むこと。

6Bのヒント F1=PH2ーPH2/KH2、F2=PO2ーPO2/KO2、…、 ある温度Tで与えられたKH2、KO2、…、POOに対して、 F1=0, F2=0, … F9=0, F10=0となるPH、PO、PC、...PCH、PCO、PH2O を求める問題である。 10変数の連立式なので、一般には、   (1)適当な初期値からスタートして、   (2)ヤコビ行列の逆行列を作り、   (3)F1=0, F2=0, … F9=0, F10=0が満たされるまで、PH、PO、...PH2Oを 変えていくのだが、逆行列がうまく求まらない場合があるので注意が必要。 例えば、PH、PO、PC のみを独立変数と考え、残りの分圧は平衡式から厳密 に求め、F8=0, F9=0, F10=0 を満たすPH、PO、PC を探す方法などもある。