多様性の生物学 第2回 多様な生物2 和田 勝 東京医科歯科大学教養部.

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多様性の生物学 第2回 多様な生物2 和田 勝 東京医科歯科大学教養部

一番上位の分類階級

動物界 この講義では時間の関係から動物界について眺めてい こう

動物界 界の下の分類階級は門(phylum)であるが、動物界を構成するすべての門について触れることはできないので、主な門について概観していこう。 海綿動物、刺胞動物、有櫛動物、扁形動物、紐形動物、輪形動物、線形動物、軟体動物、環形動物、節足動物、腕足動物、毛顎動物、棘皮動物、半索動物、脊索動物

海綿動物門(Porifera) 最も目に触れる機会の多い海綿は、上に示したイソカイメンであろう。 ダイダイイソカイメン http://www.kahaku.go.jp/vm/ex/sea/thums_main.html 最も目に触れる機会の多い海綿は、上に示したイソカイメンであろう。

海綿動物門(Porifera) 海綿動物は、胚葉の分化もなく、明瞭な組織や器官の分化もないので、側生動物(Parazoa)と呼び、それ以外の動物、すなわち後生動物(Metazoa)と大きく分ける。 側生動物 後生動物

腔腸動物(Coelenterata) 体は外胚葉と内胚葉からなる二胚葉性で、中胚葉はない。かわりに間充ゲル(中膠)があり、その中に遊走細胞が散在する。 現在では、クラゲとイソギンチャクの仲間を含む刺胞動物門(Cnidaria)と、クシクラゲを含む有櫛動物門(Ctenophora)に分ける。

刺胞動物門(Cnidaria) 刺胞動物門は、刺胞を有している。

刺胞動物門(Cnidaria) 刺胞動物門は生活史の中に、ポリプ型で無性生殖を行なう世代と、クラゲ型で有性生殖を行なう世代を交代する。 ただし、ポリプ世代の短い種や、クラゲ世代を欠く場合もある。

刺胞動物の生活史(オベリア)

ポリプ型とクラゲ型

刺胞動物門の綱 ヒドロ虫綱(Hydrozoa) 箱虫綱(Cubozoa) 鉢虫綱(Scyphozoa) 花虫綱(Anthozoa)   八放サンゴ亜綱(Octocorallia)   六放サンゴ亜綱(Hexacorallia)

刺胞動物門 綱 例 特徴 ヒドロ虫綱 箱虫綱 鉢虫綱 花虫綱 ヒドラ、マミズクラゲ、シロガヤ、ヒトツクラゲ、ヨウラククラゲ、カツオノエボシ、カツオノカンムリ ほとんど海産、わずかに淡水産。ほとんどの種でポリプ世代とクラゲ世代の交代が見られる。クラゲ世代のとき群体を作る場合も。 箱虫綱 アンドンクラゲ、ヒクラゲ すべて海産。ポリプ世代は短縮されている。 鉢虫綱 ミズクラゲ、タコクラゲ、エチゼンクラゲ 花虫綱 アカサンゴ、アオサンゴ、イソバナ、ウミトサカ、イソギンチャク、イシサンゴ、ムラサキハナギンチャク すべて海産。クラゲ世代はない。

刺胞動物の生活史(ミズクラゲ) ポリプ世代は短い。

刺胞動物の例 ヒドロ虫綱(Hydrozoa) ヨウラククラゲ(群体)

刺胞動物の例 ヒドロ虫綱(Hydrozoa) カツオノエボシ(群体)

刺胞動物の例 箱虫綱(Cubozoa) ハコクラゲ

刺胞動物の例 鉢虫綱( Scyphozoa ) ミズクラゲ

刺胞動物の例 花虫綱(Anthozoa) 八放サンゴ亜綱(Octocorallia) 六放サンゴ亜綱(Hexacorallia) これらはみな、いわゆるイソギンチャクの仲間で、クラゲ世代はなくずっとポリプ世代で生活する。

刺胞動物の例 花虫綱(Anthozoa)  六放サンゴ亜綱(Hexacorallia) ミドリイソギンチャク

刺胞動物の例 花虫綱(Anthozoa)  八放サンゴ亜綱(Octocorallia) イソバナ

この他 ウミサボテン http://homepage3.nifty.com/dolphins_dc/logbook3.html http://www.izu.co.jp/maro/photo3/no27.htm

ウミエラ http://www.seapoint.co.jp/tour/2002/12/1231a.html

有櫛動物門(Ctenophora) 有櫛動物門は世代交代を行なわず、刺胞も持たない。 繊毛が並んだ8列の櫛板を持ち、これで移動する。

有櫛動物門の綱 触手の有無によって、次の2綱に分ける。  有触手綱(Tentaculata)  無触手綱(Atentaculata)

有櫛動物の例 有触手綱(Tentaculata) カブトクラゲ

有櫛動物の例 有触手綱(Tentaculata) オビクラゲ

有櫛動物の例 無触手綱(Atentaculata) ウリクラゲ

扁形動物門(Platyhelminthes) 扁形動物門になって、三胚葉性になり中胚葉が見られるようになる。 ただし中胚葉があっても体腔は形成されない。そのため無体腔動物と呼ぶ。

ナミウズムシ

扁形動物門の綱 次の4綱に分ける。 渦虫綱(Turbellaria) 単生綱(Monogenea) 吸虫綱(Trematoda)  条虫綱(Cestoidea)

渦虫綱(Turbellaria) すでに述べたナミウズムシ以外にも、多くのウズムシがいる。

渦虫綱(Turbellaria) コウガイビルを見かけることがあるだろう。これはヒルではなくウズムシの仲間である。

吸虫綱(Trematoda) ジュウケツキュウチュウの生活史

条虫綱(Cestoidea) 条虫類の生活史 http://www.petjanitor.com/health_concerns.htm

条虫綱(Cestoidea) http://www.microbe.org/microbes/biggest.asp http://www.personal.psu.edu/users/t/r/trp2/flatworms.html

切っても切ってもプラナリア プラナリアの再生能力はすばらしく、1cmの体を4から5つに切り離しても、すべての断片からもとのプラナリアが再生してくる。これに注目して再生の研究が盛んに行なわれている。 http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/news/2003/dec/frol_01

これまでのまとめ

これからは、体腔が現われ始めた動物群を見ていこう。

紐形動物門(Nemertea) 紐形動物の特徴は、大きな吻(proboscis)を持つことである。

吻は体の先端にある口の背側の嚢状構造(吻腔、rhynchocoel)中に収められているが、必要に応じて反転して飛び出す。

紐形動物門の綱 吻の先に刺針が有るか無いかで、次の2綱に分ける。  無針綱(Anopla)  有針綱(Enopla)

紐形動物の例 無針綱(Anopla) ミドリヒモムシ

紐形動物門の位置 紐形動物の体は柔らかく体節も無く、無体腔であると考えられていたので、分類学上、扁形動物の近くに置かれてきた。 口と肛門のある腸管および閉鎖血管系を持っていることが扁形動物と異なる点である。

この閉鎖血管系が、実際には他の無脊椎動物に見られる体腔と相同な構造だとする考え方もある。また、吻腔を体腔とする考え方もある。 そうすると、紐形動物はもっと後の位置に来ることになる。最近の分子系統学の研究は、紐形動物を環形動物と軟体動物に近くに置く考え方を支持している。

輪形動物門(Rotifera) ワムシと呼ぶ、1mm前後の小さな動物を含む動物群である。小さいけれどもゾウリムシのような原生動物と異なり、腸管などを備えた後生動物である。擬体腔(pseudocoelum)をもつ。

擬体腔 擬体腔と言うのは、空所の周囲すべてが、中胚葉由来の組織によって覆われていないような形式の体腔を言う。

ワムシ ワムシは、頭部、頸部、体部、足部の4つの部分からなる。頭部には、車輪のような繊毛冠があり、これを動かして微小な食物を口から体内に取り込む。 取り込まれた食物は、口に続く咽頭にある咀嚼器ですりつぶされる。クチクラでできた咀嚼器は輪形動物の特徴となっていて、分類の手掛かりになる。

ワムシ

ワムシ 体節構造はとらない 上皮のさらに外側を透明なクチクラ層 (クチクラ層の存在は、線形動物や 節足動物と類縁関係を示唆)  (クチクラ層の存在は、線形動物や   節足動物と類縁関係を示唆) 体部には、腸管と生殖腺 足部先端には足腺(セメント腺)の開口   (これで他のものに付着できる)

ワムシ

線形動物門(Nematoda) 数十万の種からなり、多くは自由生活者で、寄生生活者いる。擬体腔を有し、この中に含まれる水分が骨格のような働きをして体の形の維持、栄養物の移動などに役立つ。

線形動物門(Nematoda) 体は細長い円筒あるいは糸状 (体長、数百μmから8cm) 体節構造はない 表面はクチクラで覆われ極めて滑らか 体の前端に口、後端近くに肛門   (消化器官系はよく発達) 循環系はない

線形動物門(Nematoda) 通常は雌雄異体だが、土壌中に生息するものには雌雄同体も。無性生殖はしない。卵巣は腸管と平行してよく発達し、体のほぼ中央に生殖口をもつ。

回虫(Ascaris lumbricoides) 寄生性の線形動物 After infective eggs are swallowed (4), the larvae hatch (5), invade the intestinal mucosa, and are carried via the portal, then systemic circulation to the lungs (6). Upon reaching the small intestine, they develop into adult worms (1). Between 2 and 3 months are required from ingestion of the infective eggs to oviposition by the adult female. Adult worms can live 1 to 2 years. Adult worms (1) live in the lumen of the small intestine. A female may produce approximately 200,000 eggs per day, which are passed with the feces (2) . Unfertilized eggs may be ingested but are not infective. The larvae mature further in the lungs (10 to 14 days), penetrate the alveolar walls, ascend the bronchial tree to the throat, and are swallowed (7). Fertile eggs embryonate and become infective after 18 days to several weeks (3), depending on the environmental conditions (optimum: moist, warm, shaded soil).

旋毛虫(Trichinella) 旋毛虫症の原因となる旋毛虫も線形動物 ブタの生肉を食べることによっておこる。成虫は小腸内に寄生して腹痛や下痢などの原因となるが、幼虫が血中に出て、骨格筋に入り被嚢を作ると、浮腫や筋肉痛、心筋炎などさまざまな症状が現われる。

象皮病(elephantiasis) 象皮病は、バンクロフト糸状虫やマレー糸状虫などのフィラリア虫によっておこる

線形動物門(Nematoda) この他、マツノザイセンチュウも聞いたことがある線形動物ではないだろうか もっとも有名な線虫は、Caenorhabditis elegans(C. elegans、シーエレガンスと 発音)ではないだろうか。

C. elegans C. elegansは、正確に959個の細胞からなり、また遺伝子の数も1000個ほど