建築環境工学・建築設備工学入門 <給排水・衛生設備編> <給水設備> 給水設備の計算手順 - 高置水槽方式を例として - [Last Update 2015/04/30] 建築環境工学・建築設備工学入門 <給排水・衛生設備編> <給水設備> 給水設備の計算手順 - 高置水槽方式を例として - 給水方式の一つである高置水槽方式(重力式)の計算手順を説明するための資料をまとめました。 テキストデータや描画データは、適宜編集可能ですので、課題の内容に合わせて変更できます。
給水設備機器容量の求め方 サンプル建物の概要 P INDEX 建物用途:オフィス 延べ面積:5,000㎡ 各階面積:600㎡ 階 数:地下1階、地上8階 建物高さ:32m 階 高:4.0m 給水方式:重力式 INDEX 高置水槽 揚水管(Qm) 給水管(Qp) 図は、サンプル建物の概要と給水設備の外竜区系統を示しています。 高置水槽方式は、図右下の配水管(水道本管)から水を建物に引き込み、 受水槽に貯水後、ポンプで高置水槽に揚水します。 高置水槽の水位と器具の取り付け高さの落差により、器具給水圧が、 給水管(高置水槽と器具を結ぶ管)のサイズ(太さ)によって器具からの給水量が決定されます。 ※「サンプル建物の概要」に記載されている赤文字部分に該当する次頁以降の数値を変更することで独自の教材(演習問題)作成が出来ます。 揚水ポンプ 受水槽 P M 水道引込み管(Qh)
予想給水量の算出 (1) 建物使用人員数[N]を想定する。 (2) 建物の水使用特性に類似する給水原単位から使用水量を算定する。 (1) 建物使用人員数[N]を想定する。 ■ 建物使用人員数(N) =単位面積当りの人員密度[人/㎡]×床面積[㎡] =0.2人/㎡×5,000㎡ = 1 000 [人] (2) 建物の水使用特性に類似する給水原単位から使用水量を算定する。 ■ 1日使用水量(Qd) =1人当たり使用量(Qn)×建物使用人員数(N) =120リットル/(人・d)×1 000人 = 120,000 [リットル/d] = 120 [m3/d] ■時間平均予想給水量(Qh) =1日使用水量(Qd)/建物使用時間(T) =120m3/(人・d)÷10hr = 12 [m3/hr] ■時間最大予想給水量(Qm) =時間最大予想給水量のピーク率(Km)×時間最大予想給水量(Qh) =2.0(-)×12(m3/hr) =24[m3/hr] ■ピーク時最大予想給水量(Qp) =ピーク時最大予想給水量のピーク率(Km)×時間最大予想給水量(Qh)÷60 =4.0(-)×12(m3/hr)÷60(min/hr) =800[リットル/min] 予想給水量の算出 (1)建物使用人員数を想定する。 ・まず最初に、建物使用人員数を想定します。 ・計算対象の建物用途がオフィス(事務所)であるため、人員数から建物の予想給水量を算出しています。 ・人員数の算定方法は建物用途ごとに様々なので、実際の水使用実態を適切に予測して、適度な想定を行うことが重要となります。 (2)給水原単位から使用水量を算定する。
建物予想給水量の算定 用途別時刻変動 集合住宅 ホテル 病院 事務所 小学校 高等学校 店舗・飲食店 小規模小売店舗 劇場 日曜 土曜 日曜 建物予想給水量の算定 用途別時刻変動 集合住宅 ホテル 病院 土曜 日曜 平日 4 12 8 20 24 16 時刻 [時] 12.0 8.0 4.0 水使用量 [%] 4 12 8 20 24 16 時刻 [時] 12.0 8.0 4.0 水使用量 [%] 平日 4 12 8 20 24 16 時刻 [時] 12.0 8.0 4.0 水使用量 [%] 土曜 日曜 平日 事務所 小学校 高等学校 平日 4 12 8 20 24 16 時刻 [時] 12.0 8.0 4.0 水使用量 [%] 平日 4 12 8 20 24 16 時刻 [時] 12.0 8.0 4.0 水使用量 [%] 平日 4 12 8 20 24 16 時刻 [時] 12.0 8.0 4.0 水使用量 [%] 店舗・飲食店 小規模小売店舗 劇場 平日 4 12 8 20 24 16 時刻 [時] 12.0 8.0 4.0 水使用量 [%] 土曜 日曜 平日 4 12 8 20 24 16 時刻 [時] 12.0 8.0 4.0 水使用量 [%] 平日 日曜 4 12 8 20 24 16 時刻 [時] 12.0 8.0 4.0 水使用量 [%]
時刻別予想給水量の推移 オフィスビルを例として 時刻別予想給水量の推移 オフィスビルを例として C A B C ピーク時最大 B A このグラフは、中小規模のオフィスビルを例とした時刻別給水量の特性を表わしたものです。 対象となった中小規模のモデルビルにおける特徴として、 ①始業時間帯に1日のピークが発生している。 ②継続時間は少ない。 ③昼休み前後で時間最大給水量が発生している。 ④ピーク最大は時間平均の3倍、時間最大は1.5倍程度の関係にある。 ということが読み取れます。 近年ではフレックスタイムの導入により、ピーク最大の発生時間帯が、昼休みや終業時刻に発生するケースもあります。また、ピーク率は大規模ビルに比べて、中小規模が大きくなる傾向があります。 各種水槽やポンプの容量は、1日給水量が基となり算定される場合が一般的ですが、建物の時刻別や曜日別等の給水特性を知ることは、適切な機器容量決定にも繋がります。 Qd :1日当たりの使用水量[ℓ/d] T :1日平均使用時間[h] Qh :時間平均予想給水量[ℓ/h] Km :時間最大給水量のピーク率 Qm :時間最大予想給水量[ℓ/h] Kp :ピーク時最大予想給水量のピーク率 Qp :ピーク最大予想給水量[ℓ/min]
引込み管サイズと受水槽容量の関係 給水引き込み管径サイズの算定 受水槽容量の算定 水道本管と吐水口の落差を考慮する。 継ぎ手や量水器等の局部抵抗を考慮する。 水道本管と吐水口の落差を考慮する。 150kPa≧h-20kPa+30kPa ⇓ h≦140kPaとなり、引込み配管長が極端に長い場合を除き、十分に余裕がある 流速により、配管径を決定する 給水本管の圧力は 一般的に150~400kPa程度 上水本管 量水器 定水位弁 h1 受水槽 M Vs :受水槽の有効容量[ℓ] Qd :1日当たりの使用水量[ℓ/d] 受水槽の容量は、揚水ポンプの揚水量および連続運転時間,上水引き込み管の給水能力及び連続給水時間の関係式で決定される。 実務上は、水道事業者の規定などから1日使用水量の1/2程度とすることが一般的である。 建物側で使用される水の量について触れてきましたが、ここでは、建物に対する水源となる配水管(水道本管)や受水槽容量について触れていきます。 配水管(水道本管)から分岐する給水引き込み管のサイズと受水槽の容量は、相互に関係しています。 配水管の水圧は、水道事業者・エリアにもよりますが、一般的には150~400kPa程度です。 引き込み管径や受水槽容量を検討するに際しては、先ず配水管の水圧や引き込み可能口径を水道事業者と事前に協議する必要があります。 受水槽の容量に対して必要な給水引き込みができるかを確認し、給水不足が懸念されるようでしたら受水槽の容量や設置場所を再検討する必要があります。 建築計画において、受水槽の配置は、全体計画に影響する場合があるため、計画の初期段階で給水の引き込み先やサイズ、水槽容量などの方針を決めておくことが大切です。 Hj :上水本管の水圧[kPa] H :配管などの圧力損失[kPa] H1 :上水本管と定水位弁の静水頭差に相当する水圧差[kPa] H2 :定水位弁の必要最低圧力[kPa]
受水槽容量の算出 受水槽の容量は、配水管(インフラ)の状況に左右される ①水使用時間帯で渇水しないこと。 受水槽容量の算出 受水槽の容量は、配水管(インフラ)の状況に左右される ①水使用時間帯で渇水しないこと。 ②水の使用時間帯以外の時間帯に受水槽が満水に復元されていること。 これらの条件は、下式で表すことができる ①の条件 Vs≧Vd-Qs×T ②の条件 Qs×(24-T)≧Vs Vs : 受水槽の有効容量[m3] Vd : 1日の使用水量[m3/d] Qs : 配水管などの水源からの給水能力[m3/d] T : 1日の平均水使用時間[h/d] 水源が水道の場合では、配水管の圧力変動により給水能力が変化するので、 一般的に受水槽の有効容量は1日使用水量の半分程度とする。 Vs=Qd÷2 =120(m3/d)÷2 =60m3(有効) ※水道事業者の規定がある場合が多いので、その規定を確認する必要がある。 受水槽容量は、 ・揚水ポンプの揚水量及び連続運転時間 ・上水引き込み管の給水能力、連続給水時間 の関係式で決定されます。 上水引き込み管の給水能力が変動することや水道事業者の規定などから、 1日使用量の1/2程度が受水槽容量の目安となります。 しかしながら、受水槽の容量を過大にすると、水槽内の水の残留塩素濃度が減少し、一般細菌などが繁殖しやすくなるので、適切な容量決定が求められます。 また、近年、節水型衛生器具の普及により、給水原単位も減少傾向にあることも留意すべき事項と言えます。
高置水槽・揚水ポンプ容量の算定(1/2) Qp Qpu・T2 Qpu (QpーQpu)・T1 Ve :高置水槽の有効容量[ℓ] Qp Qpu 揚水ポンプの停止水位 揚水ポンプの起動水位 揚水管 給水管 (QpーQpu)・T1 Qpu・T2 Ve :高置水槽の有効容量[ℓ] QP :ピーク最大予想給水量[ℓ/min] Qpu :揚水ポンプの揚水量[ℓ/min] T1 :ピーク時最大予想給水量の 継続時間[min] T2 :揚水ポンプの最短運転時間[min] 高置水槽と揚水ポンプ容量の算定例を以降で説明します。 高置水槽の容量は、図中に示す関係式で検討します。 Ve≧(Qp-Qpu)×T1+Qpu×T2 ・右辺第一項は、建物側で生じる給水ピーク量とその継続時間を表しています。 ・右辺第二項は、揚水ポンプから汲み揚げられる水量を表しています。 つまり、高置水槽は、建物側の給水特性(ピーク量とその継続時間)と揚水ポンプから汲み揚げられる水量との関係により容量が決定されます。
高置水槽・揚水ポンプ容量の算定(2/2) 高置水槽の容量(Ve)は、ピーク時最大予想給水量(Qp)と揚水量(Qpu)の関係により求められる。 Ve≧(Qp-Qpu)×T1+Qpu×T2 Ve : 高置水槽の有効容量[m3] Qp : ピーク時最大予想給水量[リットル/min] Qpu: 揚水ポンプの揚水量[リットル/min] T1 : ピーク時最大予想給水量の継続時間[min] T2 : 揚水ポンプの最短運転時間[min] T1を10min、T2を20min、Qpuを暫定的に400リットル/minとすると、 Ve≧(Qp-Qpu)×T1+Qpu×T2=(800-400)×10+400×20 =4 000 +8 000 =12 000[リットル] =12m3(有効) 揚水ポンプは時間最大予想給水量を満足しており、かつ算定された高置水槽容量は建物の1日水使用量の1/10となる。 具体的な例で補足します。 このケースでは、計算演習向けに、ピーク継続時間が始業時間帯で短く、時間最大が午後に長く継続するという予想のもと、 T1を10min、T2を20min、Qpuを時間最大予想給水量で想定しています。 特別な条件が無い場合では、 T1を30min、T2を15min、揚水ポンプは時間最大予想給水量程度とすることが一般的です。 なお、実務的な目安として、高置水槽容量を1日給水量の1/10程度と概算される事が一般的です。
揚水ポンプ揚程の算出 揚水ポンプの揚程は、下式により求める。 H≧H1+H2+V2/2g H :揚水ポンプの全揚程 H1 : H :揚水ポンプの全揚程 H1 : 揚水ポンプの吸水面から揚水管長部までの実高さ(実揚程) H2 : 揚水管路における直管、継ぎ手、弁類などによる摩擦損失水頭 V2/2g:吐水口の速度水頭 ※一般に揚水管の吐水口における速度水頭は僅かなので省略してもよい。 吐出し速度水頭(m) 吐出し側配管類の摩擦損失(m) 水槽内に押し流す圧力V2/2g(m) 全揚程 (m) 吐出し揚程 (m) 吐出し配管 吐出し実揚程 (m) 実揚程 (m) バルブ チャッキ 次に揚水ポンプの揚程の算出について説明します。 揚水ポンプに必要な揚程は、 ・揚水ポンプの吸水面から揚水管頂部までの実高さ(H1) ・揚水管路における直管や継ぎ手、弁類などによる摩擦抵抗(H2) ・揚水管末端部での吐出圧(v2/2g) の合計で決定されます。 ポンプにおけるキャビテーション(流れの場で液体の圧力がその液体の温度に相当する飽和蒸気圧よりも低くなり、その部分で液体が蒸発して気泡が発生する現象)は、図のようにポンプの下に水槽が配置されるような場合に生じます。 ポンプが吸い揚げることができる液の高さ(目安)は、常温の清水で6m程度です(有効吸い込みヘッド;NPSH)。 バルブ 吸込み揚程(m) ポンプ 吸込み実揚程(m) 吸込み配管 フート弁 吸込み側 配管類の 摩擦損失(m)
管サイズの求め方(流量線図の使い方) ⊿p=λ・ 𝑙 𝑑 ・ ρ𝑣2 2 Q ;流量 👉 ①・・・流量線図の縦軸 ⑤流速v ④管径d 給水管直管の流量公式は、ダルシー・ワイズバッハの式で示される。 ⊿p=λ・ 𝑙 𝑑 ・ ρ𝑣2 2 ⊿p;摩擦による圧力損失 λ ;管内摩擦係数 d ;管内径 ρ ;水の密度 v ;管内平均流速 管内摩擦係数λは、レイノルズ数Reと管壁の粗さを用いてムディー線図から求めることができるが、Reに対して非線形性を有する。しかし、建築の給排水設備分野における実用上の流れは、層流との遷移域から乱流域にあるため、実際にはより簡便なヘーゼン・ウィリアムスの実験式が使用されている。 Q=4.87・C・d2.63・i0.54×103 Q ;流量 👉 ①・・・流量線図の縦軸 C ;流量係数👉 ②・・・Cの値毎に線図化 i ;単位長当りの圧力損失 👉 ③・・・流量線図の横軸 管径d(👉④)は、流量線図中の右上がりの直線で、流量Qと管径dの関係から流速v(👉⑤)は図中の右下がりの直線で示されている。 ②流量係数 C=000 ①管内流量 [ ℓ /min] ⑤流速v ④管径d 給排水設備分野において、管サイズを求める際は、一般にヘーゼン・ウィリアムスの実験式に基づいています。 実験式に示されているように、配管材ごとに②流量係数が定められています。 よって、配管の管材から該当する流量係数に基づいた流量線図を用いでサイズ選定を行います。 流量線図は、横軸が③単位摩擦抵抗、縦軸が①管内流量となっており、線図内右上がりの直線が④管径を、右下がりの直線が⑤流速を表しています。 ※右半分を映写用、左半分を説明文としての使用(編集)も可能です。 ③単位摩擦抵抗 [kPa/m]
管サイズの求め方( 例 ) 管 径 39×170 0.2×1.0 0.2 0.6 60A [解説(例)] ①管内流量170ℓ/minと、 ③単位圧力損失0.6kPa/m 又は⑤流速1.5m/s の交点をとると、管径 50Aと60A間になり、管径60Aとすると流速は1.0m/s以内、単位圧力損失は 約0.2kPa/mとなる。 (配管には、一般配管用ステンレス鋼管を使用し、流速は1.5m/s以下、許容圧力損失0.6kPa/mとする) 器具名称 ②流量係数 C=140 給水負荷単位 使用水量 掃除流し 4 20 4×20 0.29×0.82 30A 流速:1.0m/s 管径:60A 大便器FV 10 105 14×125 0.48×1.4 50A 大便器FV 10 105 24×140 0.48×1.4 50A 170 小便器 5 30 29×150 0.18×0.96 60A 配管サイズの求め方の例を説明します。 ※編集可能な状態であるため、説明者の慣例(やり方)に沿い、適宜編集願います。 配管の受け持ち流量が170リットル/min、 単位摩擦抵抗を0.6kPa/mの交点を線図上で求めると管径50A付近に交点をとる。 □交点上の流速は、1.5m/sを超えているため、配管サイズは60Aとした。 □流速1.5m/sとの交点における単位摩擦損失が0.5kPa程度であったため、配管サイズを50とした。 基準値の考え方と実運用における管内流の特性から適切な管サイズを選定すると良い。 ①管内流量 [ ℓ /min] 小便器 5 30 給水負荷単位×流量 34×160 0.18×0.96 60A 単位摩擦損失×流速 小便器 5 30 管 径 39×170 0.2×1.0 60A v<1.5m/s 0.2 0.6 ③単位摩擦抵抗 [kPa/m]
発 行 公益社団法人 空気調和・衛生工学会 西川 豊宏 発 行 公益社団法人 空気調和・衛生工学会 (SHASE: The Society of Heating, Air Conditioning and Sanitary Engineers of Japan) 西川 豊宏