公共経済学(11月8日) Laffont and Tirole(2000); Competition in Telecommunication Ch2-1 インセンティブ規制の理論 担当;渡邊励
規制産業の特徴(2-1-1-1) Poor cost performance→コストに対する責任の付与・・perfmance-based regulation,incentive regulationの必要性 政府、企業間のコストに関する情報の非対称性 コストの二つの決定因子 Exogenous variables・・契約以前に決定されている生産技術、効率性、「特性パラメータ」・・不完全情報による逆選択の可能性 Endogenous variables・・契約以後の企業の努力、「行動パラメーター」・・不完全情報によるモラルハザードの可能性
インセンティブとレントのトレードオフ(2-1-1-2) 政府は実現したコストに対してcost reimbursement ruleを企業に提示する Power of Incentive Scheme High-powered;コスト削減の利益は企業に帰属する。グロスの政府の支払いは企業のコストによって変化しない。固定価格契約 Low-Powered;コストを削減しても企業の利益は不変。グロスの政府の支払いは企業のコストに応じて変化する。コストプラス契約 完全情報の場合 High-powered、固定価格契約がベスト→企業にコスト削減の利益を与えることでインセンティブを与え、企業にレントを与えない価格を設定 不完全情報の場合 High-powered;インセンティブは与えられがコスト削減がExogenous、Endogenousどちらの要素かわからないのでExogenousな要因によるコスト低下のレントを得る。 Low-Powered;レントは防げるがコスト削減のインセンティブがない →インセンティブ付与とレント防止の間のトレードオフ
企業のレントはなぜコストを生むか(2-1-1-4) 消費者余剰と企業の利潤の社会厚生に対するウェイトが異なる可能性(後者が小さければ企業の利潤は社会的なコストを生む) 同じウェイトだったとしても、政府から企業に対するreimbursementの際に直接費用(徴税コストなど)+間接的な経済的なゆがみ・・公的資金の機会費用の存在 企業のレントは消費者サービスへの不当なマークアップとして現れる
企業の性質によって契約の種類をどう変えるか? (2-1-1-3) 高コストを装った低コスト企業のレントを防ぐ 例)低、高コストの2種類の企業 Fixed-price, Cost-plus二つの契約を提示し選ばせる・・低コスト企業はFixed-price、高コスト企業はCost-plusを選ぶ 利点;低コスト企業のレントを防ぎ、高コスト企業にも市場へ参加させられる 欠点;高コスト企業にインセンティブを与えられない box2.1で最適な契約は効率的な企業がhigh-poweredを選び、非効率な企業がlow-poweredを選ぶような契約メニューであることを示す
Laffont and Tirole(1986) ;逆選択・モラルハザード統合モデル (box2-1) 企業;社会的な価値がSの財を供給するrisk neutralな企業 費用関数 β;効率性のパラメーター,契約以前にわかっている企業の特性。exogenous variable e;契約後の企業のコスト削減努力。endogenous variable、努力することの不効用を 政府;費用は観察できるがβ、eともにわからない。企業にはコストと貨幣移転t、すなわちC+tを支払う。 企業の効用関数; 企業が契約する条件; Social welfare function;消費者の受け取る価値と企業のレント(=効用)のウェイトは等しく、政府移転に関しては社会的な費用を(単位政府移転あたりλ)必要とする 下の式では企業の効用(レント)が社会的コストを生むことがわかる
政府はfixed-price contractを結ぶのが最適 政府移転t 社会的に最適な配分 つまり が必要 企業の最適な努力水準; 限界効用(コスト削減)=限界不効用、つまり 完全情報の場合 政府はfixed-price contractを結ぶのが最適 政府移転t (ネットの移転はα) 一方企業の効用 これは最適努力水準 で最大となる αはレントが0となるように決めればよい。 このとき
不完全情報の場合 企業はβを知っているが政府はβの分布しか知らない 分布関数、密度関数、分布の範囲それぞれ 政府は社会的な厚生関数の期待値を最大化 満たすべき条件 1,participation constraint ;企業が政府と契約する条件 2,incentive compatiblity condition;企業がインセンティブ規制t(C)をうけて、レントを最大にするように努力水準eを決める(ここではCを決めるとしてよい) (7)より式よりUはβに関して単調減少。ゆえに(5)は と同値 レントは社会的に費用を生むからsocial optimumでは *また、(7)式はインセンティブとレントのトレードオフを示している。 図2−1;ある特性βの企業に対しよりインセンティブを与えると努力水準e(β)もあがる。すなわちレントの傾きも大きくなり、βより非効率な企業のレントは上昇してしまう。
*最適なcost reimbursement rule(CRR) 政府の社会的厚生関数最大化問題は 一階条件 *最適なcost reimbursement rule(CRR) を用いて →βをCで置き換えると単調減少で凸な社会的な最適なcost reimbursement ruleが得られる →さらに凸関数が包絡線の集合で近似できることをを用いると政府は次のような線形のcost reimbursement ruleを提供することと(9)は無差別 ここでbはあるCにおける接線の傾き、αはbに関して単調増加な関数 社会的に最適なインセンティブ契約はコストに対して線形な契約 その形は効率パラメーターβの数だけ存在する→企業はどれを選ぶか
効率性がβの企業は7式より傾きbが以下のようになる契約を結ぶ より効率的な(よりβが小さい)企業は(8),(9)より高いbを求める。もっとも効率的な企業 はb=1をとり、このときfixed-price contractとなる。 それ以外の企業ではb<1となりcost sharingがうまれ、これはコストをコントロールしようとするインセンティブを減ずるのでレントの発生要因となる。 より非効率な企業ほどコストプラスに近い契約になっていく →2−2をみても説明できる。より効率的な企業は移転がコスト(自分たちは少ないとわかっている)によって大きく左右されてもよいと思っているので、コストが少ないときに傾きの大きい(よりpowerfulな)インセンティブ契約を結ぶ。 *結果がβの分布に依存することに対しての批判があるが情報の非対称性の度合いをより厳密に分布に入れ込む試みも行われている。(Gasmi et.al.(1994) Gasmi et.al.(1997)など)
情報の非対称性の軽減(2-1-1-5) 情報の非対称性、適切なレント→low-powered schemeの必要性 情報の非対称性の軽減→インセンティブを与えるpowerfulな契約を可能に 1,Competition 次のような費用関数をもつm個の企業が競争する場合 m企業の中から一つの企業を選ぶオークションを考えると、Laffont and Tirole(1987a)などでは以下のようなオークションが最適であるという結果を導いた 1,もっとも効率的なつまりもっとも小さなβを持つ企業を選ぶ 2,勝者は線形計画を提示されるが、その傾きは独占企業であったときと同様である。 競争によりより(小さなβ)つまりpowerfulな契約が実行される 2,Yardstick competition それぞれ一つの企業が公共財を供給している二つの地域を考える 企業iの費用関数を とする。二つの地域でβは共通 i地域の企業に対して次のようなfixed-price contractを考える ただし 企業は(完全情報の一企業の場合と同様に)最適な努力水準e*を選ぶ jに対しても同様にfixed-price contractにたいして企業は最適な努力水準を選ぶがこのときiもjもレントを得ることができない。 不完全情報の下でも完全情報のように契約をすることができる
企業の生産物が複数の場合(2-1-1-6) 生産物が複数の企業→incentive schemeを製品毎に分けるか? 分けることで企業は内部相互補助をおこなう 1,会計上の内部相互補助・・会計の分割、共通費用配分のルールづくり 2,経営上の内部相互補助・・よりhigh poweredな規制の分野に経営資源を つぎ込みレントを得ようとする。 Laffont and Tirole(1990a)・・複数の生産物がある企業に対してそれぞれのコストを観察するのは意味がなく総費用をベースに規制を行うことが最適になる条件を導いた。 n個のプロジェクトがある企業でそれぞれの費用関数を βは政府にはわからないものとし、企業は努力の総量eを決め割り振る 企業のレントは 包絡線定理より つまりレントは全体のβと総費用Cのみによって決まりあるCが与えられたときその配分を を満たすように行う→政府は全体のβと総費用Cのみを観察すればよい ・・同一政府が規制する場合で異なる政府機関の規制のcoordination問題は残る
Powerful schemesを制限する三つの要因(2-1-2) 1,Quality Concerns High-powered・・質を上げるためのコスト上昇を企業が負うため質のモニタリング、質に関しての契約の明記が必要 例)BT分割後price-cap(hogh-powered)の導入→質の低下を惹起 2,Regulatory Commitment 規制契約は通常短期→見直し時期に効率的な企業にはさらにpowerfulな契約を提示・・H.P.schemeでも引き出せるインセンティブには限界がある(ratchet effect) 再交渉 政府側から提案・・ ratchet effectの助長。 企業から提案・・当初の契約をゆるめるように主張 いずれにしても理論的なH.P.schemeのインセンティブ誘導機能を弱めてしまう 3,Regulatory Capture Public-regulator-firm二つのprincipal-agent relation・規制者も企業の情報を集めようとするインセンティブはない、集めた情報を公共の利益のために使わない可能性 委託を受けたregulator・・企業に取り込まれてしまう可能性 CaptureのリスクはH.P.>L.P.(前者は規制者により企業の利潤が大きく変化、後者はより機械的な規制) H.P.を使う以上Captureに対する対策が必要
Capture問題の解決法 規制の中の自由裁量部分を減らす・・L.Pの導入 規制者にもインセンティブを与える・・規制者に価格低下、質の上昇に応じた報酬を与える→基準の欠如 共謀をより困難に・・企業から規制者への報酬(賄賂、選挙協力、天下り・・)の機会費用を高めるための監視の強化→それ自体にコストがかかる 規制者と人々の間の情報の非対称性を軽減・・規制プロセス公開、ヒアリングの実施、情報公開の徹底など