五十嵐研 雑誌会 No. 1112 逆回転β酸化経路による物質生産 平成24年5月23日  石井 正治.

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1)解糖系はほとんどすべての生物に共通に存在する糖の代謝経路である。 2)反応は細胞質で行われる。
好気呼吸 解糖系 クエン酸回路 水素伝達系.
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緩衝作用.
福井工業大学 工学部 環境生命化学科 原 道寛 名列____ 氏名________
解糖系 グルコース グルコキナーゼ(肝) ヘキソキナーゼ(肝以外) *キナーゼ=リン酸化酵素 グルコース6-P グルコースリン酸イソメラーゼ
大部分の細胞はグルコースを燃料として使用する。グルコースは解糖系によって多段階からなる一連の反応で代謝され、結果的にピルビン酸を生成する。典型的な細胞では、このピルビン酸の多くはミトコンドリアに入り、そこでクレブス回路によって酸化されてATPを産生し、細胞のエネルギー需要に応えている。しかし、癌細胞や他の高度に分裂している細胞においては、解糖系から供給されるこのピルビン酸の多くは、ミトコンドリアとは離れて、乳酸脱水素酵素.
サフラニンとメチレンブルーの 酸化還元反応を利用
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五十嵐研 雑誌会 No. 1112 逆回転β酸化経路による物質生産 平成24年5月23日  石井 正治

微生物による物質生産のためのDriving Force ガス状分子の放出 不可逆的反応あるいはポリマー化反応の 存在 Futile cycleによるATPの消費あるいはATPシンターゼの破壊(ATP生成が関与している場合) 外部sinkへの電子授受 相分離による生産物除去 Appl. Environ. Microbiol., 77(9) 2905-2915 (2011)

β酸化経路 Acetyl-CoA (Cn-2)Acyl-CoA 3-Ketoacyl-CoA (Cn)-Acyl-CoA CoA-SH 3-Ketoacyl-CoA (Cn)-Acyl-CoA FAD β酸化経路 NADH FADH2 NAD+ 3-Hydroxyacyl-CoA Enoyl-CoA H2O

β酸化経路 Acetyl-CoA (Cn-2)Acyl-CoA 3-Ketoacyl-CoA (Cn)-Acyl-CoA CoA-SH Acetyl-CoA acyltransferase fadA 3-Ketoacyl-CoA (Cn)-Acyl-CoA FAD 3-Hydroxyacyl-CoA dehydrogenase NADH Acyl-CoA dehydrogenase fadB FADH2 NAD+ fadE 3-Hydroxyacyl-CoA Enoyl-CoA Enoyl-CoA hydratase H2O fadB

逆回転 β酸化経路による 物質生産 Nature 476: 355-361 (2011)

Hydroxyacyl-CoA dehydrogenase 逆回転 β酸化経路による 物質生産 Thiolase yqeF, fadA, atoB Hydroxyacyl-CoA dehydrogenase Enoyl-CoA reductase fadB ydiO Enoyl-CoA hydratase fadB Nature 476: 355-361 (2011)

脂肪酸生合成経路と逆回転 β-酸化経路の比較 n/4 C6H12O6 + ATP → CnH2n+2O + n/2 CO2 + (n/2 -1) H2O n/4 C6H12O6 → CnH2n+2O + n/2 CO2 + (n/2-1) H2O + n/2 ATP

使用菌株の特徴 1.大腸菌のβ酸化系が含まれている、fadとatoレギュロンのconstitutiveな発現    fadRとatoC(c) への変異 2.CRP-cAMP複合体によるカタボライト抑制の回避    CrpのcAMP-independent mutant(crp*)の使用 3.β酸化系酵素遺伝子のArcAによる抑制回避    arcA遺伝子除去 RB01: MG1655 fadR atoC(c) crp* ΔarcA RB02: MG1655 fadR atoC(c) crp* ΔarcA ΔadhE Δpta ΔfrdA

ブタノール生産性 AtoB: acyltransferase specific to short chain acyl-CoA molecules YqeF: predicted acyltransferase YqhD: aldehyde/alcohol dehydrogenase FucO: 1,2-propanediol oxidoreductase EutE: Aldehyde dehydrogenase with high sequence similarlity to AdhE and YqhD

リアクターを用いてのブタノール生産 14 g/L, 0.33 g/g-Glucose consumed, 2 g Butanol/g-cell dry weight/h 消費グルコース当たりの モル収率:84.5% 73.4 mmol Acetyl-CoA/g-cell dry weight/h (12-18h)

既往研究との比較

一寸、待った!!

この反応は不可逆!! β酸化経路 Acetyl-CoA (Cn-2)Acyl-CoA 3-Ketoacyl-CoA CoA-SH Acetyl-CoA acyltransferase fadA 3-Ketoacyl-CoA (Cn)-Acyl-CoA この反応は不可逆!! FAD 3-Hydroxyacyl-CoA dehydrogenase NADH Acyl-CoA dehydrogenase fadB FADH2 NAD+ fadE 3-Hydroxyacyl-CoA Enoyl-CoA Enoyl-CoA hydratase H2O fadB

個々の反応に関わる酵素タンパク (此処に至る詳細は不明ではあるが・・) Reaction (1): Acetyltransferase YqeF Reaction (2) and (3): 3-Hydroxyacyl-CoA dehydrogenase and Enoyl-CoA hydratase FadB Reaction (4): Acyl-CoA dehydrogenase/ Enoyl-CoA reductase YdiO Reaction (5): Aldehyde-forming acyl-CoA reductase MhpF Reaction (6): Butanol dehydrogenase FucO

FadA + YqeF由来の活性 YqeF増幅効果 FadAの寄与 FadA + YqeFの寄与

個々の反応に関わる酵素タンパク (此処に至る詳細は不明ではあるが・・) Reaction (1): Acetyltransferase YqeF Reaction (2) and (3): 3-Hydroxyacyl-CoA dehydrogenase and Enoyl-CoA hydratase FadB Reaction (4): Acyl-CoA dehydrogenase/ Enoyl-CoA reductase YdiO Reaction (5): Aldehyde-forming acyl-CoA reductase MhpF Reaction (6): Butanol dehydrogenase FucO

YdiOの周辺を見てみると・・ ydiO: predicted acyl-CoA dehydrogenase ydiF: fused predicted acetyl-CoA:acetoacetyl-CoA transferase: alpha subunit/beta subunit ydiP: predicted DNA-binding transcriptional regulator ydiQ: predicted electron transfer flavoprotein subunit ydiR: predicted electron transfer flavoprotein, FAD-binding subunit ydiS: predicted oxidoreductase with FAD/NAD(P)-binding domain ydiT: predicted 3Fe-4S ferredoxin-type protein fadK: short chain acyl-CoA synthetase, anaerobic http://mbgd.genome.ad.jp/htbin/MBGD_gene_info_frame.pl?name=eco:B1695

        熱力学的解析

疑問点 ○著者らは、Acyl-CoA dehydrogenaseが不可逆であることは認識している筈だ。 ○Enoyl-CoA reductaseを発現させないと、逆回転しないことも承知していた筈だ。 ○しかし、当初、YdiOの発現は特に狙ってはいないようだ。 ○YdiOのことを理解した上で、過剰発現は特に狙わなかったのだろうか? ○何故、fadE (逆方向の酵素をコードする遺伝子) を破壊しないのだろうか? ○Enoyl-CoAは大腸菌に悪影響を及ぼすのだろうか?

Thioesterase-driven reaction 逆回転 β酸化経路による 物質生産 Thioesterase-driven reaction Nature 476: 355-361 (2011)

1回転で生成され得る他の物質の生産性 生産性の低さ ⇔ Driving Forceの欠如 TesA: Thioesterase I TesB: Thioesterase II エノイル-CoAの毒性を示唆? 生産性の低さ ⇔ Driving Forceの欠如 

複数回の回転では? fadD: Acyl-CoA synthetase (欠損させることで脂肪酸の再吸収を防ぐ) 使用菌株:RB03 (RB02 [fadBA+] ΔyqhD ΔfucO ΔfadD) fadD: Acyl-CoA synthetase (欠損させることで脂肪酸の再吸収を防ぐ)

総括 ○サイクルの利用:還元的TCAサイクルやカルビンベンソンサイクルも、ものつくりのプラットフォームになり得るだろう ○Driving Forceを巧く入れ込むことも重要 ○フラックスが大きい部分を利用することが根本的に重要 ○ものつくりの基盤情報として、フラックス解析を行うことが重要 ○紹介した論文には、多分に幸運が関わっていた? ○そうでないならば、著者らは、文書化していないデータに基づいた実験デザインを行っている筈だ・・。