極端紫外光による撮像から明らかにする地球プラズマ圏の子午面分布

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極端紫外光による撮像から明らかにする地球プラズマ圏の子午面分布 2011/06/08 @STP seminar Meridional distribution of the Earth’s plasmasphere derived from extreme ultraviolet images 極端紫外光による撮像から明らかにする地球プラズマ圏の子午面分布 早川研PD 村上 豪

自己紹介 出身:東京大学 吉川研(2011年3月卒) 研究テーマ:人工衛星による惑星大気光観測 (基本的には実験屋) 出身:東京大学 吉川研(2011年3月卒) 研究テーマ:人工衛星による惑星大気光観測  (基本的には実験屋)  KAGUYA/極端紫外光望遠鏡(UPI-TEX)  ISS/極端紫外光撮像装置(IMAP-EUVI)  SPRINT-A/極端紫外光分光撮像装置(EXCEED)  BepiColombo/紫外光分光撮像装置(PHEBUS)  BepiColombo/水星ナトリウム大気カメラ(MSASI)

博士論文 目次 1. General introduction 博士論文 目次 1. General introduction 2. In-orbit calibration of the Telescope of Extreme Ultraviolet onboard KAGUYA 3. First sequential images of the plasmasphere from the meridian perspective observed by KAGUYA 4. The plasmapause formation seen from meridian perspective observed by KAGUYA 5. Development of a multilayer mirror for Extreme Ultraviolet Imager onboard ISS-JEM 6. Concluding remarks

本博士論文の成果 世界初となるプラズマ圏の子午面撮像 ①Finger現象の正体が高密度プラズマで満たされた磁力管(=Filament)であることを明らかにした(第3章) →Filament現象がRefilling問題を解明する鍵となることを示唆 ②擾乱時における夜側プラズマポーズの形成(Erosion)が赤道面付近から引き起こされている観測事実を得た(第4章) →TEXによる観測結果はInterchangeによるプラズマポーズ形成論を支持 ③次期プラズマ圏撮像計画に向け、従来(Mo/Si)よりもHe I(58.4 nm)の混入を1/9にまで抑えられる新たな多層膜反射鏡(Y2O3/Al)を開発した(第5章) →Y2O3/Al多層膜が新たな標準EUV反射鏡として実用的であることを示唆

1. General introduction

なぜプラズマ圏に注目するか? プラズマ圏:最も低エネルギー(~1 eV)のプラズマが高密度に満たされている領域 磁気圏 プラズマ圏 電離圏 太陽風 太陽風-磁気圏-電離圏の相互作用により変化に富み多様なプラズマが存在する環境が形成 プラズマ圏:最も低エネルギー(~1 eV)のプラズマが高密度に満たされている領域 [Chappell et al., 1971] プラズマ圏 プラズマポーズ ・背景電場の指標(ほとんどE×Bドリフトが支配) ・太陽風の変化に敏感に応答 ・内部磁気圏における背景場として重要な役割(Hiss, Chorusなど) プラズマ圏における現象の解明は磁気圏内で最も根本的な背景となる物理過程の理解につながる

プラズマ圏の変動 + 地球の自転に引きずられることによる、磁力管の流れ=共回転 (定常) ① [Chappell et al., 1970] 対流電場 弱 強 太陽風に引き起こされる、磁気圏内の大規模な流れ = 対流 (変動) 地球の自転に引きずられることによる、磁力管の流れ=共回転 (定常) + ① ② 地球 太陽 ① 赤道面 ①+② コンベクション ② 太陽風の変動に伴ってプラズマ圏は時々刻々と変動している [Nishida, 1966] リモートセンシングが必要 赤道面における磁力管の流れ

プラズマ圏内のイオン成分分布[Horwitz et al., 1984] プラズマ圏の撮像 H(Lyman-α) He+ 波長 白色光 30.4 nm 地球 太陽 等方散乱 プラズマ圏を構成するイオンのうち、He+は太陽光束中に含まれる極端紫外領域の波長30.4nmの光を選択的に散乱する(共鳴散乱) 比が一定(通常) プラズマ圏内のイオン成分分布[Horwitz et al., 1984] 共鳴散乱の概念図 光学系製作に関する技術の進歩から1990年代後半にようやく確立

IMAGE/EUVによる撮像 磁気圏やオーロラの探査を目的として、2000年にNASAが打ち上げた極軌道周回衛星 EUV撮像器 波長30.4 nmにおけるHe+の共鳴散乱光をプラズマ圏全体が視野に入るように遠地点付近から撮像 時間分解能  10分 空間分解能  0.1 Re プラズマ圏の空間構造とその時間変動を捉えることが可能

IMAGE/EUVの成果 様々な局所構造の発見

IMAGE/EUVの成果 南向きIMFに伴うErosionとプラズマポーズの形成 [Goldstein, 2005] Erosion プラズマポーズ形成 対流が強まると10-30分という早いタイムスケールでプラズマ圏が小さくなる過程(= Erosion)に伴い夜側に明確なプラズマポーズが形成 →新たな知見

未解決問題 別の視点からの撮像が必要 IMAGE/EUVの問題点:限定的な視点 極上空付近からの撮像(=赤道面投影)に限られる →密度の緯度分布など子午面2次元構造を得ることができない この点が原因で多くの未解決問題が残されている ●Finger問題(→Chapter 3)  Finger構造の要因は高密度プラズマで満たされた孤立した磁力管か?磁気圏内における定在波が引き起こした動径方向の粗密構造か? ●プラズマポーズ形成過程問題(→Chapter 4)  近年の観測結果と古典的プラズマポーズ形成過程の間に矛盾 別の視点からの撮像が必要

「かぐや」によるプラズマ圏撮像

観測機器概要 月周回衛星「かぐや」搭載 超高層大気プラズマイメージャ(UPI) 極端紫外光望遠鏡(TEX) 直焦点望遠鏡 F値:1.4 重量:1740g サイズ:120×120×235mm 観測波長:30.4nm(He+), 83.4nm(O+) ・可視光および極端紫外光望遠鏡の2台 ・2軸ジンバルを用いて地球を追尾

世界初となる赤道面付近からの地球プラズマ圏の撮像 観測手法 世界初となる赤道面付近からの地球プラズマ圏の撮像 プラズマ圏の子午面分布を取得可能 2008年3月~6月の270周回分のデータを得られた

初期観測結果1: Erosion ・2008年5月1日~2日 ・擾乱時(Kp = 5) (a) (b) (c) ・2008年5月1日~2日 ・擾乱時(Kp = 5) 南向きIMFに伴い夜側プラズマポーズが内側へ移動する様子を捉えた 16

初期観測結果2: Corotation ・2008年6月1日~2日 ・静穏時(Kp < 3) プラズマ圏の局所構造が共回転する様子を捉えた 17

・子午面局所構造の観測に成功 ・局所構造が約26時間で一周(共回転遅延) 18 [Murakami et al., EPS, 2010]

本博士論文の意義・目的 世界初となるプラズマ圏の子午面撮像を行い、プラズマ圏の運動を支配する物理過程を理解する ・磁気圏プラズマに働く物理素過程を理解するにはまず背景場となるプラズマ圏の振る舞いを把握することが最も重要 ・プラズマ圏のダイナミックな変動を捉えるには極端紫外光による撮像が有効 ・IMAGE/EUVによる赤道面撮像によりプラズマ圏の理解は飛躍的に向上したが、観測の限界から多くの未解決問題が残されている ●TEXによるプラズマ圏子午面撮像の有効性を検証(第2, 3章) ●TEXデータを用いてFinger問題、プラズマポーズ形成過程問題について議論(第3, 4章) ●TEXにおける開発・観測の経験を活かし、次期プラズマ圏子午面撮像計画に向け新型多層膜反射鏡を開発(第5章)

3. First sequential images of the plasmasphere from the meridian perspective observed by KAGUYA

IMAGE/EUVが捉えた“Finger”問題 [Sandel et al., 2001] 解釈 I. 高密度プラズマで満たされた磁力管 筋状の高密度構造(Finger) ・動径方向に1-2 Re伸びた筋状の局所構造 ・主に静穏時に観測される ・12時間以上共回転 極から撮像すると動径方向に伸びた筋状構造に見える [Sandel et al., 2001] Refilling問題に寄与

極方向からの撮像だけでは解決できずFingerの研究は停滞 解釈 II. 定在波によるプラズマの疎密構造 密 疎 ・太陽風により内部磁気圏に定在波が引き起こされる ・定在波が作る電場とのExBドリフトによりプラズマの疎密が動径方向に生じる [Adrian et al., 2004] [Adrian et al., 2004] 極方向からの撮像だけでは解決できずFingerの研究は停滞

本研究の目的 or ・KAGUYA/TEXによる世界初のプラズマ圏子午面撮像データを解析    全データのうち解釈I or IIで提唱されるような構造の有無を調べる ・TEXが捉えたループ状の局所的な像光現象(Plasmaspheric filament)とIMAGE/EUVが捉えたFinger構造を比較    Finger構造の要因を解明 I. 高密度プラズマで満たされた孤立した磁力管 [Sandel et al., 2001] II. 特定のLTにおける動径方向の高密度構造 [Adrian et al., 2004] or

“Plasmaspheric filament” ループ状の局所的な像光現象(= “Plasmaspheric filament”)が静穏時(Kp<2)に4例 子午面撮像を行うTEXにより初めて観測された現象 L = 3.5, MLT = 7.3 密度:5倍 形状が磁力管とよく一致

磁力管の同定 ・Filament が Flux tube に沿った構造か確かめる ・ MLT = 5-9, L = 2.5-4.5 の全磁力線に沿ってカウント数を積分(-20<MLAT<+20 deg) MLT = 7.3, L = 3.7 でエラーバーを超える明らかなピーク Filamentは孤立した磁力管に満たされた高密度プラズマが引き起こす像光現象

Filament 内の密度 感度:1.2 count/min/Rayleigh/bin 0.25 count/min/bin 感度:1.2 count/min/Rayleigh/bin 背景プラズマ圏(L=3.7)の視線距離~1.7 Re、Filamentの視線距離~0.3 Re と仮定すると 背景プラズマ圏: 15 He+ ions/cm3 Filament内と背景の差: 42 He+ ions/cm3 ~4倍高密度

Intensity enhancement Finger 現象との比較 TEXは2008年3月~6月の間に4例のFilament現象を観測   Fingers (IMAGE/EUV) Filaments (KAGUYA/TEX) Occurrence rate ~1 event / 10 days ~1 event / 8 days Geomagnetic activity Average Kp = 1.8 Kp < 2 Local time No dependence L-value L = 2-4 L = 3.4-3.7 Azimuthal extent < 20 deg < 11 deg Intensity enhancement ~25% ~35% ・両者の特徴が一致→Finger = Filament ・一方Adrian et al. [2004]が主張する動径方向の高密度構造は断定できず(せいぜい1例) →Fingerの発生頻度を考えても本結果はAdrian説に否定的 <結論> 本研究はFinger現象が孤立した特定の磁力管が高密度プラズマで満たされる現象であったことを示唆している

Filamentの成因 Filament = Fingerは特定の磁力管が高密度プラズマで満たされる現象 何が周囲の磁力管と異なるのか? 電離圏における局所的な密度上昇or加熱が成因? 解明にはプラズマ圏・電離圏の同時観測が必要 Refilling問題への貢献 Filamentの成因 Refillingを引き起こす物理過程 Filament(or Finger)現象は長らく停滞してきたRefilling問題を観測から解決する新たな鍵

TEXは世界初のプラズマ圏子午面撮像に成功 第3章のまとめ TEXは世界初のプラズマ圏子午面撮像に成功 ●静穏時に特定の磁力管が周囲よりも高密度プラズマで満たされる現象(Plasmaspheric filament)を発見 →IMAGE/EUVで観測されたFinger構造の正体が高密度プラズマで満たされた磁力管であることを明らかにした ●Filament現象の成因解明には電離圏との同時観測が必要 →次期プラズマ圏撮像計画(ISS/IMAP)に期待(第5章) ●Filament(=Finger)現象はRefilling問題解明に向けた新たな鍵

4. The plasmapause formation seen from meridian perspective observed by KAGUYA

「古典的」プラズマポーズ形成論 + 太陽風に引き起こされる、磁気圏内の大規模な流れ = 対流 (変動) [Chappell et al., 1971] プラズマ圏 プラズマポーズ 太陽風に引き起こされる、磁気圏内の大規模な流れ = 対流 (変動) 地球の自転に引きずられることによる、磁力管の流れ=共回転 (定常) + ① ② 地球 太陽 ① 赤道面 ①+② ①+② コンベクション ② 閉じた領域 : 開いた領域 : 電離圏から粒子が供給 され続ける→高密度 磁気圏外部に流されてしまう→低密度 平衡状態の磁力管を仮定 →共回転・対流電場による赤道面上でのドリフト運動のみを考える [Nishida, 1966] 赤道面における磁力管の流れ

観測結果との比較1 観測結果と形状が一致 Model Observation [Nishida, 1966] その場観測による平均的描像 [Nishida, 1966] [Chappell et al., 1971] 観測結果と形状が一致

対流電場の変化に対する応答が観測結果と一致 観測結果との比較2 [Chappell et al., 1970] 対流電場 弱 強 対流電場が発達 プラズマ圏が小さくなる 人工衛星によるその場観測の統計結果 対流電場の変化に対する応答が観測結果と一致 プラズマポーズ形成論として確立

矛盾1:静穏時のプラズマ圏 古典的形成論:静穏時にこそより明確なプラズマポーズが形成するはず IMAGE/RPIの観測結果 静穏時にプラズマポーズをもたないプラズマ圏が多く観測されている [e.g., Tu et al., 2007]

矛盾2:撮像観測が捉えたプラズマポーズの形成 [Murakami et al., 2007] 静穏時から急激に対流が強まると10-30分のタイムスケールでErosionに伴い夜側(post midnight)にプラズマポーズが形成

「古典的」プラズマポーズ形成論と観測結果との矛盾 近年の観測結果 形成論 ・プラズマポーズは擾乱時(対流が強まった時)に夜側で形成する ・プラズマポーズ形成のタイムスケールは数十分 ・静穏時にプラズマポーズを伴わないプラズマ圏が形成される ・定常状態が長時間続くとき(=静穏時)にプラズマポーズが形成 ・対流が強まってからプラズマポーズ形成まで時間がかかる(~24時間) 古典的プラズマポーズ形成論だけでは近年の観測結果を説明できない [e.g. Darrouzet et al., 2009] 対流および共回転による効果に加えて別の物理過程を考慮する必要がある

Zero Parallel Force Surface (ZPFS) 重力 遠心力 5.78 L > Lc →赤道面にPotential well Zero Parallel Force Surface (ZPFS) = 「重力」と「遠心力」の沿磁力線方向成分がつり合う境界面 対流電場が強まると夜側(真夜中~朝方)では遠心力が増しLcは内側へ

ZPFSにおけるプラズマポーズ形成 Lemaire [2001]がInterchangeによるプラズマポーズの形成論を提案 Polar-wind-like flow [Lemaire, 2001] 詳細なシミュレーションはまだなされていない 対流:強 → ZPFS:内 → L > Lcで赤道面にpotential well → polar-wind-like flow → dynamic pressure:減 → 圧力勾配:増 → プラズマの剥離 (interchange) ①ZPFSが通るL = Lc上に新たなプラズマポーズが形成 ②赤道面付近からErosionが進行

IMAGE/EUVとInterchange modelの比較 しかし限られた視点からの観測だけでは決定的な証拠にはならなかった

本研究の目的 ・平衡状態にある磁力管の赤道面におけるドリフト運動のみを考えた古典論では近年の観測結果を説明できない ・プラズマポーズの形成において Interchange を考慮に入れたモデルが提案されている ・IMAGE/EUVによる限られた視点からの観測だけでは解決できなかった ・TEXが捉えたErosion時におけるプラズマ圏の子午面撮像結果を解析し、  ① Interchange model およびTEX観測によるプラズマポーズの位置  ② Erosion 前後におけるプラズマポーズ子午面分布の変化  を調べ、プラズマポーズの形成を引き起こす物理過程を解明する

Result 1:プラズマポーズの位置 Event selection ・2008年5月1-2日の擾乱イベント(Kp ~5) 1 May 2008 Event selection ・2008年5月1-2日の擾乱イベント(Kp ~5) ・夜側プラズマポーズの内側への移動を確認(第3章) ZPF面モデルによるプラズマポーズの位置の計算 ・ZPF面が最も内側にくる~2 MLT付近でプラズマポーズが形成すると仮定 ・Kp依存電場モデルを使用 [Available at http://www.spaceweather.eu/plasmapause]

夜側(~03 MLT)におけるプラズマポーズの位置を比較 Result 1:プラズマポーズの位置 夜側(~03 MLT)におけるプラズマポーズの位置を比較

夜側(~03 MLT)においてプラズマポーズの位置が一致 Result 1:プラズマポーズの位置 夜側(~03 MLT)においてプラズマポーズの位置が一致

Result 2:プラズマポーズ形成時の子午面分布 (a) (b) (c) ・Erosion前(a)と比べ、(b)(c)で赤道面近辺での光量が30%程度減少 ・プラズマ圏はHe II (30.4 nm)に関して光学的に薄い →Erosion時に赤道付近(MLAT<20 deg)のHe+コラム密度が減少 TEXでしか得られない世界初の観測事実

Discussion:赤道面におけるHe+コラム密度の減少 コラム密度の減少を引き起こす可能性:  A. プラズマ圏内における数密度 [ions/cc]の減少  B. 視線方向の積分距離の減少 A: プラズマ圏内(L = 2-3)における低密度領域(“Inner-trough”)の存在 Inner-trough IMAGE/RPIの観測結果[Fu et al., 2010] TEXによる観測結果だけでは確認できない

Discussion:THEMIS衛星によるプラズマ圏電子密度推定 赤道面における電子密度を衛星ポテンシャルから推定 Inner-troughの典型的経度方向拡がり>20 deg [Carpenter et al., 2000] →この期間にInner-trough が発生していた可能性は低い

Discussion:赤道面付近からのプラズマポーズ形成 B: 赤道面付近からプラズマポーズが内側へ移動 Carpenter and Anderson [1992]の経験的電子密度分布モデルをもとにコラム密度を計算 (a) (b) (c) 観測 (一時的に)赤道面からErosionが起きている 20% KAGUYA/UPI-TEXが捉えたプラズマポーズ形成時の子午面分布はInterchangeによるプラズマポーズ形成論と矛盾しない 計算

第4章のまとめ ・従来の共回転および対流電場によるドリフト運動のみによるプラズマポーズ形成論では近年の観測結果を説明できない ・現在提案されているInterchangeモデルについてTEXの観測結果を用いて検証した ・ 2008年5月1-2日にTEXが観測したプラズマポーズの位置はInterchangeモデルによる計算結果と一致した(結果①) ・Erosion時に赤道面付近(MLT < 20 deg)だけのコラム密度が減少した(結果②) →赤道面付近からErosionが起きていることを示唆 ・TEXによる観測結果はInterchangeによるプラズマポーズ形成過程と矛盾しない ・根本的な解明には高感度撮像や夜側プラズマポーズ付近でのout-flowの同時観測などが必要

6. Concluding remarks ●標準星(EUV star)を用いてTEXの較正を行い、空間分解能 0.25 Re、視野 8.8×8.8 Re であることを確認した。またミッション期間中における検出器の暗電流および波高分布の経時変化がないことを確認した。(第2章) ●TEXが捉えたErosionおよびCorotationの特徴は過去のIMAGE衛星による観測結果と一致することを確認した。このことはTEXによるプラズマ圏子午面撮像の妥当性を示唆している。 (第3章) ●IMAGE/EUVにより観測されたFinger構造の正体が高密度プラズマで満たされた磁力管(=Filament現象)であることを明らかにした。この現象は電離圏起源である可能性が高く、電離圏からのプラズマ充填過程を解明する手がかりとなる。(第3章) ●TEXが観測したプラズマポーズの位置がInterchangeモデルによる予測と一致することを示した。また擾乱時における夜側プラズマポーズの形成(Erosion)が赤道面付近から引き起こされている観測事実を得た。これらの結果はInterchangeによるプラズマポーズ形成論を支持している。(第4章) ●TEXの開発で得た知見を活かし、ISSからの次期プラズマ圏子午面撮像計画に向けた新型多層膜反射鏡の開発を行った。Y2O3/Al多層膜反射鏡ならば従来よりもHe I(58.4 nm)の混入を1/9に抑えられることを確認した。また大気中での保管時にも反射率が変化しないことを確認した。(第5章)

ありがとうございました