系外惑星大気の研究最前線 最新の研究会より

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太陽系外地球型惑星の 発見に向けたロードマップ 成田 憲保. 目次: 地球型惑星の発見に向けて 1. これまでに何がわかったか? 2. 今何をやろうとしているのか? 3. 将来何がどこまでわかるのか?
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系外惑星大気の研究最前線 最新の研究会より 国立天文台 光赤外研究部 太陽系外惑星探査プロジェクト室 成田憲保

報告内容 研究会の概要など 発表された内容 今後の研究会情報 レビュー講演 / これまでの研究 新発見 / 最新の研究 将来計画 / これからの研究 今後の研究会情報

参加者層 参加者:約110名 講演数:口頭 56 + ポスター 約20 研究分野: 約60名がフランス 約20名がアメリカ 約10名がイギリス、 その他ヨーロッパが約15名 日本からは3名(+2名)が参加 講演数:口頭 56 + ポスター 約20 研究分野: 系外惑星、太陽系惑星の理論・観測研究者 装置開発者や吸収線リストの作成者など

主なセッションテーマ トランジット惑星に対する分光・測光観測 木星型系外惑星の大気循環モデル 太陽系惑星の背景的レビュー 分子線リストの理論と実験 褐色矮星の大気 地球型系外惑星の様々なモデル 将来計画 特別セッション (系外惑星の直接撮像)

発表された内容1 レビュー講演 / これまでの研究 HST & Spitzer 等によるこれまでの観測結果 Charbonneau, Harrington, Swain, Knutson … 大気循環モデルによる観測事実の説明と予言 Showman, Cho, Aylward, Iro, Lewis … 太陽系惑星の研究から系外惑星への示唆 Lellouch, Yung, Chassefiere, Maillard, Miller …

どうやって系外惑星の大気を調べるか どんな方法で? 分光 測光 偏光 何を見る? transmission spectroscopy (TS) reflected light secondary eclipse (SE) phase/time variation

トランジット中の惑星大気を透かして観測する 何を観測するか SE 惑星が主星の裏側に隠れる位相を観測する phase/time variation 位相や時間と共に変動する成分を観測する TS トランジット中の惑星大気を透かして観測する

何がわかるか トランジット測光観測 TS SE 惑星の大きさ、質量、密度 惑星大気成分による吸収 吸収の大きさから雲や霞などの存在を示唆 昼側の有効温度と反射能 (albedo)の手がかり thermal inversionの有無で惑星の分類 軌道離心率の制限

何がわかるか time/phase variation (トランジットしていなくてもOK) 昼側と夜側の温度差 惑星の大気循環モデルへの示唆 より高次の効果 rings, moons などの存在 惑星の形状、天気、自転などの影響

Transmission Spectroscopy 主星 惑星および 外層大気 主星元素の 吸収線 主星の光 惑星由来の 追加吸収

これまでに報告された大気成分 ナトリウム HD209458b: Charbonneau et al. (2002) Snellen et al. (2008) HD189733b: Redfield et al. (2008) Redfield et al. (2008)

これまでに報告された大気成分 水蒸気 メタン HD209458b: Barman (2007) HD189733b: Tinetti et al. (2007) メタン HD189733b: Swain et al. (2008) ▲:観測点 赤:メタン+水蒸気 青:水蒸気のみ 理論モデル by Tinetti Swain et al. (2008)

これまでに報告された大気構造 cloud haze HD209458, HD189733 HD189733 実線:理論モデルとbinningした点 ■:観測点 cloud HD209458, HD189733 ナトリウムの吸収量が雲がない理論モデルに比べて約1桁小さい haze HD189733 HSTの観測で 500-1000nm にのっぺりした吸収→大気上層にsubmicronの粒子? Pont et al. (2008) 理論モデル by Tinetti

Secondary Eclipseの観測 惑星の昼側のthermal emissionを測定できる 惑星の温度の手がかり thermal inversionの発見 惑星が裏側に来る時刻から軌道離心率を制限できる 離心率の最も強い制限 場合によってはトランジットしない系もありうる

thermal inversion in HD209458b ■:理論モデルをbinningした点 ●:観測点 Knutson et al. (2008) (理論モデル by Burrows) HD209458bはhot stratosphereを持つ?

thermal inversionの有無 inversionがある inversionがない HD209458b TrES-2b XO-1b Fortney et al. (2008)で統一モデルの提案 pM class (TiO/VOがガス状態) と pL class (TiO/VOが凝集状態) このモデルを検証するためにSpitzerがフル稼働していた (WASP-1,2,3,8,12, HAT-1,2,7, GJ436, CoRoT-2が解析中)

HD189733bのトランジット前からSE後までを連続測光観測した結果 phase variationの観測例 HD189733bのトランジット前からSE後までを連続測光観測した結果 IRAC 8μm Knutson et al. (2007)

大気循環モデルの検証 惑星ごとにいろんな大気の特性があるはず SEなどの観測結果を説明できることが大きな目標 (thermal inversionはまだ完全に説明できていない) 現在のシミュレーションは近似的にしか解けていない (例えばgravity waveなどの効果は考慮されていない)

大気循環モデルの予言 逆に大気循環モデルが予言すること 大気の状態は惑星の公転、自転などで時間変化する TSやSEの深さは大小の差はあれ、時間変動するはず (時間を置いたmulti-bandのデータは使えない?) 離心率を持つ惑星などでは変動が大きいはず

太陽系の惑星から系外惑星への示唆 太陽系の惑星で発見されていて、系外惑星でまだ発見されていない重要な分子 → の役割 → 大気のheatingとcooling 惑星の極地方にできる 太陽風と大気の相互作用 木星などのオーロラ中にある TSで検出できないか? 吸収は赤外領域 (IRCSとか?)

発表された内容2 新発見 / 最新の研究 Secondary Eclipse Depthの変動を検出 (too) inflated planet WASP-17b の発見 月食を用いた地球のTransmission Spectroscopy

SE depthの変動の検出 HD189733b (公転周期2.2日) 4日離れた2回のSEをSpitzerで観測 それぞれのSEの深さ Swain et al. HD189733b (公転周期2.2日) 4日離れた2回のSEをSpitzerで観測 それぞれのSEの深さ 0.00447 ± 0.00011 0.00497 ± 0.00013 惑星大気の変動性の検出? 大気循環モデルの予言とも一致する 他の惑星でも起こっているか?

地上からのSEの検出 今回の研究会で2つのチームが地上検出を報告 Sing & Lopez-Morales OGLE-TR-56, K-band 8.2m VLT & 6.5m Magellan SysRem を用いてred noiseを低減 VLT: 0.037 ± 0.016 %, Magellan: 0.031 ± 0.011 % 合わせて 0.0363 ± 0.091 % (~4σ detection) de Mooij & Snellen TrES-3, K-band 3.6m ESO New Technology Telescope (NTT) / SOFI red noise は考慮せず ~8σ detection

地上検出の意味 観測技術と解析技術の向上 Spitzerの結果の独立な追試が可能に 離心率の制限や変動性の探索など研究の幅が広がる

inflated planet WASP-17bの発見 Anderson et al. inflated planetとは? 現在の理論で説明できないほどふくらんだ惑星 ~1.2 Rjup くらいが熱源なしで大きくなる限界 しかし10個近く発見されてきている 今回の発見 WASPによるトランジットサーベイ 約4%の大きな減光率、R ~ 2.0 RJup 精度が低いもののケプラー運動が受かっている

しかし同様の大きさで報告されたXO-3の大きさは後に訂正された 現在のところ最大級の大きさ しかし同様の大きさで報告されたXO-3の大きさは後に訂正された → 高精度な追試が必要

月食を用いた地球のTS Palle et al.

月食中の月に映るもの この赤い光は何か? (2000年7月 ぐんま天文台)

赤い光 = 地球の透過光 地球大気を透過してきた光が月に映ることで赤く見える 月食中の赤い光を分光することで地球の模擬TSが可能! 太陽 月

地球照を分光することで地球の反射光の観測が可能 cf. 地球照 (Earthshine) 地球に反射した光が新月に映った光 太陽 月 地球 地球照を分光することで地球の反射光の観測が可能

光・赤外同時分光観測 2008年8月16日 部分月食 カナリア諸島 La Palma Observatory 2.5m Nordic Optical Telescope (optical) 4.2m William Herschel Telescope (IR/ZJ,HK band) 合わせて0.3 – 2.5μm 同じセットアップで地球照をreferenceとして観測 HITRAN などのline-listで分子線の同定

検出された分子 Vis: IR: 地球照との比較 Ca II, O3, O2, H2O, O4, + NO2(未同定) O2, H2O, CO2, O2 -O2, O2 -N2, (ZJ band) H2O, CO2, CH4 (HK band) 地球照との比較 地球照でも同じ分子を検出できた Ca II, O2 -O2, O2 -N2 などは月食でのみ顕著な吸収 どのくらいの高度の吸収を見ているのかによる 雲の有無でこれらの吸収量は変動するはず

発表された内容3 将来計画 / これからの研究 MEarth JWST SPICA See-COAST New World Observer

MEarth M型星の(HZにある)トランジット惑星探索 8台 × 40cm の経度方向に分布した望遠鏡群 M型星+参照星をモニタリング Charbonneau et al. M型星の(HZにある)トランジット惑星探索 恒星のスペクトル型を絞った地上サーベイ 特にSuper Earthsをターゲットにしている 8台 × 40cm の経度方向に分布した望遠鏡群 25’ x 25’ FoV, 2k x 2k CCD NIR (i + z band) I ~ 10 の M型星に対して、現在0.6% の測光精度 M型星+参照星をモニタリング

サーベイの特徴 トランジットアラートによる即時追観測 フォローアップ リアルタイム解析(マイクロレンズと同様のシステム) 精度は1桁敏感 Keck, HARPS-NEF などでの視線速度観測