健診におけるLDLコレステロールと HDLコレステロールの測定意義について~高感度CRP値との関係からの再考察~ 角谷 美佳*1 小宮山 伸之*2 齋藤 智*1 堀内 純*1 大前 利道*1 沼本 美由紀*1 大前 由美*1 *1 新虎の門会 新浦安虎の門クリニック *2 埼玉医科大学 国際医療センター 心臓内科 今回、私たちは健診におけるLDLコレステロールとHDLコレステロールの測定意義についてを、高感度CRPとの関係を検討しながら考察いたしましたので、報告させていただきます。
●背景 高感度CRP (hsCRP)は、心血管イベント発生のリスクを表す指標として認められている(Ross, 1999)。特にhsCRP ≧ 0.1 mg/dlの場合には中等度リスク群であると考えられている。 一方、動脈硬化の危険因子として血清LDLコレステロール(LDL)、HDLコレステロール(HDL)の値の重要性も周知されている。 今回の検討を行った背景として、次のようなことが挙げられます。 まず、CRPは近年、従来の炎症マーカーとしての役割だけではなく、心血管イベント発生のリスクを表す指標としても認められており、特に、通常のCRPでは正常範囲にあたる、0.1 以上0.3 未満でも、中等度のリスク群に該当すると考えられています。 また、LDLとHDLに関しては、周知のとおりです。
●目的 一般健診においてLDLとHDLを測定する意義について、hsCRPとの関係に着目し検討した。
●対象 2007年4月1日~8月31日までに当院にて健診を受け、hsCRPが測定された1,900名の受診者のうち、CRP値<0.3 mg/ dl であった受診者は1,806名(95.1%)であった。 さらに・・・ <除外> 喫煙習慣を有する者 白血球増多などの他の炎症状態を呈する者 男性:494名(26.0 %、25~83歳、平均49.5歳) 女性:605名(31.8 %、25~72歳、平均47.0歳) 対象です。2007年4月1日から8月31日までに当院にて健診を受け、契約に高感度CRPが含まれていた1900名の受検者のうち、 CRP値が0.3を超える者は、他の炎症反応を有していると考え、まず除外しました。結果、CRP値が0.3未満であったのは1806名で、これは全体の95.1%でした。 さらにここから、喫煙習慣のある受検者や、白血球増多などその他炎症反応が示唆される受検者を除外した結果、最終的な対象は、男性494名、女性605名で、年齢はスライドの通りです。
●方法 健診の際に得られた患者データから、LDL、HDL、およびhsCRPの検査値を抽出し、男女別にデータ解析を行った。 統計ソフトにはJMP 5.0.1を使用した。 検討は、健診の際に得られた患者データから、3項目の検査値を抽出し、男女別にデータの解析を行いました。 統計ソフトには、JMP 5.0.1を使用しました。
●結果1 相関係数の比較(男性) <LDL – hsCRP> <LDL/HDL – hsCRP> ρ =0.2946(p <0.001) ●結果1 相関係数の比較(男性) <LDL – hsCRP> <LDL/HDL – hsCRP> Spearmanの順位相関係数 ρ =0.2946(p <0.001) Spearmanの順位相関係数 ρ =0.1574(p =0.0004) 具体的な検討内容に移ります。 まず、LDLとLDL/ HDL比について、男女別にそれぞれhsCRPとの相関関係を調べました。この際、hsCRPは正規分布から逸脱していたため、相関係数にはノンパラメトリック検定のスピアマンの順位相関係数を用いました。 画面向かって左側がLDLと高感度CRPの相関、右側がLDL/HDL比と高感度CRPの相関を示し、上から順に、相関係数とp値、その下に散布図を示しました。 ではまず、男性についてですが、LDLとhsCRP の相関係数0.1574に対し、LDL/HDL比では0.2946となり、hsCRPとの相関はLDLに比べLDL/ HDL比の方が比較的強い傾向にあることがわかりました。 また、高感度CRPが0.1のときのLDL/HDL比は約2.4でした。 回帰直線の式 Y = 121.16 + 52.41 X 回帰直線の式 Y = 2.13 + 2.84X
●結果1 相関係数の比較(女性) <LDL – hsCRP> <LDL/HDL – hsCRP> ρ =0.3890(p <0.001) ●結果1 相関係数の比較(女性) <LDL – hsCRP> <LDL/HDL – hsCRP> Spearmanの順位相関係数 ρ =0.3890(p <0.001) Spearmanの順位相関係数 ρ =0.3035(p <0.001) 同様に女性の場合も比較してみると、LDLとhsCRP の相関係数は0.3035であったのに対し、LDL/HDL比との相関係数は0.3890となり、hsCRPとの相関はLDL/ HDL比の方が若干ながら強い傾向にあることがわかりました。 また、高感度CRPが0.1のときのLDL/HDL比は約2.0でした。 回帰直線の式 Y = 110.19 + 125.99X 回帰直線の式 Y = 1.60 + 3.96 X
●結果2-1 LDLの平均値(男性) hsCRPリスク群別の平均値の比較 ●結果2-1 hsCRPリスク群別の平均値の比較 LDLの平均値(男性) 以上の傾向をふまえ、さらに男女をそれぞれ、高感度CRPが0.1未満のグループと0.1以上の2グループに分け、このグループの間でLDLとLDL/ HDL比の平均値にどのような違い認められるかを検討しました。 この際、LDLやHDLは年齢による変動を受けるため50歳で区切って検討いたしました。また、サンプルが等分散を示さなかったものについてはt検定のウェルチの方法を用いました。 ではまず、男性のLDLの平均値から比較していきます。 このグラフは、縦軸がLDL値を示し、横軸向かって左側が高感度CRPが0.1未満のグループ、右側が0.1以上のグループとなっています。 比較してみると、オレンジ色、つまり50歳以上の男性では高感度CRPのリスクが上がるとLDLの平均値も上昇し、また両グループの間に有意差が認められました。一方で、水色、つまり50歳未満の男性では、高感度CRPのリスクが上昇してもLDLの平均値の上昇は認められませんでした。 また、年齢区分間での有意差は認められませんでした。
●結果2-1 LDLの平均値(女性) hsCRPリスク群別の平均値の比較 女性についても同様に比較してみます。 ●結果2-1 hsCRPリスク群別の平均値の比較 LDLの平均値(女性) 女性についても同様に比較してみます。 どちらの年齢区分でも、高感度CRPのリスク上昇に伴うLDL平均値の上昇は認められたものの、有意差は認められませんでした。 一方、年齢区分間では、有意な差が認められました。
●結果2-2 LDL/ HDL比の平均値(男性) hsCRPリスク群別の平均値の比較 ●結果2-2 hsCRPリスク群別の平均値の比較 LDL/ HDL比の平均値(男性) 次に、LDL/HDL比の平均値について、まずは男性から比較します。 50歳未満、50歳以上のどちらの年齢区分でも、高感度CRPのリスクが上昇するとLDL/HDL比の平均値は上昇し、両グループの間で有意差が認められました。 一方、年齢区分間の有意差は認められませんでした。
●結果2-2 hsCRPリスク群別の平均値の比較 LDL/ HDL比の平均値(女性) 次に、女性の比較です。 ●結果2-2 hsCRPリスク群別の平均値の比較 LDL/ HDL比の平均値(女性) 次に、女性の比較です。 女性についても、男性と同様に、どちらの年齢区分でも、高感度CRPのリスクが上昇するとLDL/HDL比の平均値は上昇し、両グループの間で有意差が認められました。 一方、年齢区分間の有意差は、CRP0.1未満のグループでは認められ、0.1以上のグループでは認められませんでした。
●まとめ hsCRPが0.1 mg/dl以上と未満の群に分けた場合、 LDLの平均値は、50歳以上の男性群以外で有意差 が認められなかった。 hsCRPとの相関は、LDL値よりもLDL/ HDL比の 方が比較的強い傾向にあった。 hsCRPが0.1 mg/dl以上と未満の群に分けた場合、 LDLの平均値は、50歳以上の男性群以外で有意差 が認められなかった。 hsCRPが0.1 mg/dl以上と未満の群に分けた場合、 LDL/HDL比の平均値は、男女ともに各年齢区分で 有意な差が認められた。 まとめです。 まず、高感度CRPとの相関関係については、LDL値よりもLDL/HDL比の方が比較的強い傾向にあることがわかりました。 次に、高感度CRPのリスクが異なる2つのグループ間での平均値を比較した検討では、LDLの平均値は50歳以上の男性区分以外では、有意な差が認められませんでした。 一方で、LDL/HDL比の平均値は、男女ともに各年齢区分において有意な差が認められました。
●考察 LDL/ HDL比 LDL値 心血管イベントの発生リスクの評価 考察です。 心血管イベントの発生リスクを評価する材料として、今後、LDL値だけでなくLDL/HDL比も加えることで、より適した評価ができる可能性があることが示唆されました。
健診にて、LDL値のみならずLDL/HDL比も 参考にしながら、受検者へのフォローアップを ●結語 健診にて、LDL値のみならずLDL/HDL比も 参考にしながら、受検者へのフォローアップを 行う必要があると考えられる。 さいごに、今回の検討から、健診において、これまで動脈硬化の危険性を評価する材料として使っていた、TG、LDL、HDLに、今後はLDL/HDL比も加えて、受検者へのフォローアップを行っていく必要がある、ということが考えられました。 以上です。ありがとうございました。
各疾患患者の割合および高感度CRPの平均値 ○●付録資料●○ 各疾患患者の割合および高感度CRPの平均値
●糖尿病
●高血圧
●BMI異常