カルコゲナイド系層状物質および 黒リン単結晶応用研究の最近の進捗

Slides:



Advertisements
Similar presentations
Superconductor corps. Sou Machikawa Hiroki Iwasaki Shooter Yufune 2003/11/22.
Advertisements

セラミックス 第10回 6月25日(水)  セラミックスの物性②.
シリカガラスとは 福井大学工学部 葛生 伸.
市販Hα太陽望遠鏡を 飛騨DSTで測定した結果の報告
導波路放出光解析による量子細線の光吸収測定
電子ビーム描画装置の機能および操作方法 大阪府立産業技術総合研究所 佐藤和郎.
単一分子接合の電子輸送特性の実験的検証 東京工業大学 理工学研究科  化学専攻 木口学.
内部導体装置Mini-RT 真空容器内に超伝導コイルを有する。 ポロイダル方向の磁場でプラズマ閉じ込め。 ECHでプラズマを加熱。
iPP分子の分子内ポテンシャルエネルギーの最も低い分子構造(コンフォメーション)
無機化合物の構造と特性 との関係を理解する
機器利用講習会 「超微細光学素子を作る」 大阪府立産業技術総合研究所 フォトニクス開発支援センター (1日目)
シリカガラスの熱的性質 II ガラス転移,仮想温度 福井大学工学部 葛生 伸.
AOによる 重力レンズクェーサー吸収線系の観測 濱野 哲史(東京大学) 共同研究者 小林尚人(東大)、近藤荘平(京産大)、他
有機りん系化合物とカーボンナノチューブとの特異的相互作用に関する研究(課題番号:S-13-NR-0025)
固体電解コンデンサの耐電圧と漏れ電流 -アノード酸化皮膜の表面欠陥とカソード材料の接触界面-
電子物性第1 第6回 ー原子の結合と結晶ー 電子物性第1スライド6-1 目次 2 はじめに 3 原子の結合と分子 4 イオン結合
2008 3/24-27 春季年会 高速分光システムの開発 II 1300秒 0.1等
顕微鏡用ものさし ミクロメーターの使い方 顕微鏡下で試料の大きさを測定する.
2次元蛍光放射線測定器の開発 宇宙粒子研究室 氏名 美野 翔太.
前回の内容 結晶工学特論 第5回目 Braggの式とLaue関数 実格子と逆格子 回折(結晶による波の散乱) Ewald球
目次 多重薄板型X線望遠鏡 レプリカ法とは 反射鏡の評価 現状と課題
MBE成長GaAs表面の平坦化とそのAFM観察
1.特 徴 自動キャリブレーション あらゆるカメラ向きに対応 様々な軸テーブルに対応 軸テーブルと直接接続して制御する
Niシリサイド電極形成にともなう 欠陥導入過程の考察
結晶工学特論 第2回目 前回の内容 半導体デバイス LED, LD, HEMT 半導体デバイスと化合物半導体 種類の豊富さ、直接遷移型、
佐藤勝昭研究室 OB会2003年11月22日  磁性MOD班.
「プラズマエッチングによるレジストパターン転写実習」
核断熱消磁冷凍機 世界有数の最低温度と保持時間をもち、サイズもコンパクト。主に2次元3Heの比熱およびNMR測定に使用中。 核断熱消磁冷凍機
トリガー用プラスチックシンチレータ、観測用シンチレータ、光学系、IITとCCDカメラからなる装置である。(図1) プラスチックシンチレータ
Fig. Crystal structure of Nd2Fe14B
位相カメラ 京都大学大学院修士1年 上野忠美.
図 純粋な乾燥N2と5 ppm NO2/乾燥N2を繰り返し供給した際のドレイン電流応答
放射光実験施設での散乱X線測定と EGS5シミュレーションとの比較
シリカガラス表面および表面付近の構造変化
情報化社会を支える量子ビームと化学 大阪大学産業科学研究所 古澤孝弘 ナノサイエンス・ナノテクノロジー高度学際教育研究訓練プログラム
研究課題名 研究背景・目的 有機エレクトロニクス材料物質の基礎電子物性の理解 2. 理論 3. 計算方法、プログラムの現状
室温・大気中グラフェンナノリボン合成と トランジスタ応用
自己集積的手法による 原子膜複合体の形成と評価 法政大学 生命科学部 マイクロ・ナノテクノロジー研究センター 高井 和之
ベル研出張報告 木下 基 稲田 智志.
超格子原子層材料の展開 東北大WPI 藤田 武志 Tokyo Univ..
G Knebel et al J. Phys,: Condens. Matter 16 (2004)
課題研究Q2            2017年度用 「光物性」の研究紹介  京都大学大学院理学研究科  物理学第一教室 光物性研究室 1.
CCDカメラST-9Eの      測光精密評価  和歌山大学 教育学部           自然環境教育課程 地球環境プログラム 天文学専攻 07543031   山口卓也  
GW space-timeコードの大規模な有機-金属界面への適用に向けた高効率化
極高真空カソード試験装置の開発 広大院先端 久保大輔 栗木雅夫 飯島北斗 第8回 高輝度・高周波電子銃研究会.
A4-2 高強度レーザー テーマ:高強度レーザーと物質との相互作用 井上峻介 橋田昌樹 阪部周二 レーザー物質科学分科
Pb添加された[Ca2CoO3]0.62CoO2の結晶構造と熱電特性 横国大工 ○中津川 博、五味 奈津子、田中 紀壮
ライフサイエンス支援センター・バイオ実験機器部門 高木 均
原子膜積層化により形成した超伝導システム の物性探索
CRL 医療用点滴セット(1ml/min) 滴下法によるKNbO3結晶の成長 1ml/min、6時間滴下したSEM、EDSデータ
化学量論組成フルホイスラー合金Fe2TiSn焼結体のp型熱電特性
ディラック電子系分子性導体への静電キャリア注入を目的とした電界効果トランジスタの作製および物性評価
Pr1-xSrxFeO3 (0.1≦x≦0.9) の p 及び n 型熱電特性と磁性
13族-遷移金属間化合物の熱電材料としての応用
La及びY添加した層状熱電変換酸化物Ca349の結晶構造と熱電特性 H.Nakatsugawa and G.Kametani
アルカリ金属をインターカレートしたh-BNの構造と物性
Bi置換したCaMnO3の結晶構造と熱電特性
3.ワイドギャップ半導体の オーム性電極材料開発
Pb添加された[Ca2CoO3]0.62CoO2の結晶構造と熱電特性
核発生サイトの解明 ⇒ 1 mm 以上の単一ドメイン成長法の確立
微細加工班 佐藤研OB会プレゼン資料 03.11.22 佐藤研OB 手塚 智之 (森下研所属;M1) 山本 尚弘(4年)
CPU冷却用素子の開発 理工学研究科環境制御工学専攻 長谷川 靖洋
内容 簡単な観察を行い,光学顕微鏡の基本操作を身につける。
電気的特性からみた基板結晶の課題(主に他人の褌で)
ガスセンサーの製作 [応用物理研究室] [藤井新太郎]
Au蒸着による酸化物熱電変換素子の内部抵抗低減化効果
熱電変換酸化物Ca3Co4O9のY及びLa置換効果
ASTRO-E2搭載CCDカメラ(XIS)校正システムの改良及び性能評価
身のまわりの生物を観察しよう 顕微鏡の使い方.
? リー・ヤンの零点 これまでの格子QCD計算の結果 今年度の計画 リー・ヤンの零点分布から探る有限密度QCDにおける相構造の研究
Presentation transcript:

カルコゲナイド系層状物質および 黒リン単結晶応用研究の最近の進捗 「原子層科学」第5回領域全体会議 2015年8月3日 15分 カルコゲナイド系層状物質および 黒リン単結晶応用研究の最近の進捗 埼玉大学大学院理工学研究科 上野 啓司 (A03応用班) 先日購入したMoS2鉱石(幅20 cm)

応用班:上野 最近の成果概要 ①MoTe2における構造相転移の検証 MoTe2のα(2H) ⇄ β(1T’)相間「可逆構造相転移」は誤報 (Nature Phys.)XRDデータ解釈に明らかな誤り ②黒リン単結晶合成とFET評価 高温高圧を要しない黒リン単結晶合成法の追試成功 領域内に試料提供可能 ③マスクレスフォトリソグラフィー装置 フォトマスク不要な投影型フォトリソグラフィー装置を開発 原子層FET作製に有用

2H α-MoTe2と1T’ β-MoTe2 歪んだ正八面体型の単位層構造 α相:半導体,「2H」 バルク:Eg~1.1 eV,間接遷移 6族ダイカルコゲナイドでは β-MoTe2,WTe2だけが 歪んだ正八面体型の単位層構造 α相:半導体,「2H」   バルク:Eg~1.1 eV,間接遷移  単層:Egは同程度,直接遷移  近赤外領域の光電子素子応用  FET応用:塚越さんと共同研究  ラマン分光:塚越さん,齋藤先生,MITと共同研究 β相:半金属,「1T’」  熱電変換材料  量子スピンホール(QSH)効果  素子への応用に期待 (歪ませてバンドギャップ開) 2H 1T’?? α-MoTe2, β-MoTe2の結晶構造

α ⇄ β reversible phase transition?? Fig. 1 “Bandgap opening in few-layered monoclinic MoTe2” Nature Phys. 11 (2015) 482 (SKKU) 「2H-MoTe2単結晶を徐々に加熱 →500℃で1T’-MoTe2に相転移,X線回折(XRD)測定で確認」 「徐冷により2H相に可逆相転移」 相変化の証拠はXRD変化(左下図)のみ,しかし疑問点多数 ① 加熱すると002ピークが消失 ② 高温で現れるピークの出現角度(2θ)が,“1T’の004”としては大きい ③ 高温XRD測定用「ドーム型容器」では真空度不足,酸化するのでは? 1T’ 2H Fig. S1 002 004

相転移ではなく酸化・分解 1T’とは違う 2H 1T’ 低真空 1T’ 高真空 ・ドーム型より高真空な容器でXRD測定 650℃ 加熱後 低真空 低真空 加熱前 650℃ 加熱後 1T’ 高真空 002 004 加熱前 高真空 ・ドーム型より高真空な容器でXRD測定 ・高真空,低真空中で高温XRD測定 ・β(1T’)単結晶も高温XRD測定 ↓ ・高真空中では分解,蒸発 ・低真空中では酸化してから蒸発 ・ピーク出現は1T’への相転移ではなく,MoO2形成による(XPSでも確認) (Appl. Phys. Express, in press) (Nature Phys.へコメント検討中) 低真空 2H 高真空

黒リンとは ・リンの同素体の一つ ・層状構造 ・バルク単結晶のバンドギャップ 直接遷移,~0.3 eV ・単層の黒リン:フォスフォレン ・バンドギャップ  直接遷移,~2 eV ・FET移動度: ~1000 cm2/Vs  ON/OFF比: 104~105 Black P

黒リン単結晶の製法 ↓ 煩雑,特殊な装置が必要,高コスト Bridgman (1914) 高温高圧法 (J. Am. Chem. Soc. 36 (1914) 1344) 室温, ケロシン雰囲気下で白リンに0.6 GPa静水圧 1.2 GPa静水圧下で白リンを200 ℃まで昇温 上記状態を5~30 min維持 Brown & Rundqvist (1965) フラックス法 (Acta Crystallogr. 19 (1965) 684) 白リンを15 % HNO3で精製 溶融Biに白リンを溶解 400 ℃で20 h維持 ゆっくり室温まで降温 ↓ 煩雑,特殊な装置が必要,高コスト

黒リン単結晶の新規製法 新規合成法: 赤リン, Sn, SnI4からの合成,比較的簡便・低コスト 成長手順 M. Köpf et al., J. Cryst. Growth. 405 (2014) 6-10. 成長手順 赤リン 0.50 g, Sn 0.017 g, SnI4 0.026 g を 長さ 10 cm, 内径 1.0 cm, 壁厚 2.5 mm, 正味体積 8 mL の 石英アンプルに真空封止(1.4 × 10-3 Pa) 管状電気炉にて下図レートで昇温・降温 ラマン分光,XRDにより黒リン成長を確認

黒リン薄片FETの出力特性 SiO2(285 nm)/Si基板上に 粘着テープ剥離転写 層数:10層以上 S・D電極:金蒸着 移動度:8.7×10-2 cm2/Vs 気相成長と高温高圧成長で黒リンの結晶性は異なるか? 劈開表面の欠陥密度は? 欠陥が表面安定性に与える影響は? Phosphoreneは大気中で本当に不安定なのか? 不安定なら,簡便・確実な封止法は?

マスクレスフォトリソグラフィー開発の背景 剥離転写した層状物質薄片によるFET形成において,  S/D電極形成をどのようにするか? ①金属ペースト塗布 使える金属に制限(金,銀,カーボン) →仕事関数の変化に制限 チャネル長20 μmが限界 ②電子線リソグラフィー  最も微細なパターン描写が可能  装置が非常に高価,維持管理の費用も膨大,熟練が必要, パターンは「一筆書き」 ②フォトマスクによる光リソグラフィー 転写した薄片の形状,位置が試料ごとに異なるため,フォト マスクの位置合わせが困難,微細フォトマスクは高価 高機能かつ安価・簡便なリソグラフィー法は?

マスクレスフォトリソグラフィー 概念 PC PC カメラの代わりにプロジェクタを設置し,接眼レンズの下に縮小画像を投影 マスクレスフォトリソグラフィー 概念 PC PC カメラ  プロジェクタ  カメラ  試料 試料 カメラの代わりにプロジェクタを設置し,接眼レンズの下に縮小画像を投影 試料表面,投影画像は接眼レンズ取付カメラで観察 無限補正系金属顕微鏡 通常は三眼ポートにカメラを接続して画像撮影

マスクレスフォトリソグラフィー 全体像 レジストを塗布した試料表面画像を撮影し,目的の薄片を視野内に導入 ↓ 赤色で配線パターン描画投影 マスクレスフォトリソグラフィー 全体像 LED光源DLPプロジェクタ(投射レンズ外す) レジストを塗布した試料表面画像を撮影し,目的の薄片を視野内に導入 ↓ 赤色で配線パターン描画投影 (PowerPoint使用) 画像色を青色に切り替えて,レジストを露光 RGB3原色LEDにより色フィルター無しで色切替可能! 三眼鏡筒 (凸レンズ内蔵) CMOS カメラ 対物 レンズ 試料XY ステージ 層状物質薄片 試料照明系(黄色フィルター付) 顕微鏡視野

マスクレスフォトリソグラフィー 実例 WS2薄片 リフトオフ形成金電極 10 μm 200 μm マスクレスフォトリソグラフィー 実例 WS2薄片 リフトオフ形成金電極 10 μm 200 μm レジスト:AZ5214E(紫外光用だが,450 nm青色LEDでも感光) 対物レンズ倍率を切り替えて描画パターンの大きさを変更 露光時間:対物レンズ倍率による(100倍:数秒~5倍:数十秒) 1 μm線幅のパターン描画可能 紫外LEDなら更に微細に? 顕微鏡:50万円,CMOSカメラ:10万円,LEDプロジェクタ:5万円, PC一式:10万円,レンズ,架台等:5万円 総計およそ80万円

今年度の予定 走査型ケルビンプローブ顕微鏡導入 原子層FETチャネル/S・D電極の仕事関数測定 仕事関数と動作特性の関係 Atomic Layer Deposition (ALD) 装置作製 ゲート絶縁膜(Al2O3, HfO2等) 素子封止膜 InSe(n型),黒リン(p型)高移動度FETの実現 S・D電極金属の最適化(どちらも両極動作?) 両FET複合化による論理素子形成