宇宙ひもを重力レンズで探る 物理学第二教室 天体核研究室 D3 須山 輝明.

Slides:



Advertisements
Similar presentations
1 宇宙は何からできてくるか ? 理学部 物理 森川雅博 宇宙を満たす未知のエネルギー:暗黒エネル ギー 局在する見えない未知の物質:暗黒物質 銀河・星・ガス 何からできているか … 2006/7/25.
Advertisements

エリスワームホール時空における ダスト流解とそのシャドウ Yamaguchi University Takayuki Ohgami, Nobuyuki Sakai ブラックホール地平面勉強会 10 月 4,5 日 湯田温泉.
1 設計基礎コース もう一度学ぶ材料力学の基礎 座屈 ( Buckling ) 長軸に軸方向圧縮力を作用させると、ある荷 重で急に軸が曲がる。 この急に曲がる荷重条件を探る。 X の位置での曲げモーメントは たわみの微分方程式は.
相対論的場の理論における 散逸モードの微視的同定 斎藤陽平( KEK ) 共同研究者:藤井宏次、板倉数記、森松治.
硬 X 線で探るブラックホールと銀河の進化 深沢泰司(広大理) 最近の観測により、ブラックホールの形成と 銀河の進化(星生成)が密接に関係することが わかってきた。 ブラックホール観測の最も効率の良い硬 X 線で 銀河の進化を探ることを考える。 宇宙を構成する基本要素である銀河が、いつ どのように形成され、進化してきたか、は、宇宙の.
宇宙ジェット形成シミュレー ションの 可視化 宇宙物理学研究室 木村佳史 03S2015Z. 発表の流れ 1. 本研究の概要・目的・動機 2. モデルの仮定・設定と基礎方程式 3. シンクロトロン放射 1. 放射係数 2. 吸収係数 4. 輻射輸送方程式 5. 結果 6. まとめと今後の発展.
1 運動方程式の例2:重力. 2 x 軸、 y 軸、 z 軸方向の単位ベクトル(長さ1)。 x y z O 基本ベクトルの復習 もし軸が動かない場合は、座標で書くと、 参考:動く電車の中で基本ベクトルを考える場合は、 基本ベクトルは時間の関数になるので、 時間で微分して0にならない場合がある。
ブラックホール宇宙の構成方法と その構造 阿部君, 中尾さん, 孝森君 ( 大阪市立大学 ) 柳 哲文( YITP)
東京大学大学院理学系研究科 ビッグバン宇宙国際センター 川崎雅裕 インフレーション理論の 進展と観測 「大学と科学」公開シンポジウム ビッグバン 宇宙の誕生と未来.
重力波で探る暗黒物質の起源 齊藤 遼 重力波研究交流会
電子物性第1 第4回 ーシュレーディンガーの波動方程式ー 電子物性第1スライド4-1 目次 2 はじめに 3 Ψがあると電子がある。
ニュートン重力理論における ブラックホール形成のシミュレーション
宇宙大規模構造の最近の話題 計60分 松原隆彦 (名古屋大学) 東北大学 21COE研究会
電磁気学C Electromagnetics C 7/27講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
自己重力多体系の 1次元シミュレーション 物理学科4年 宇宙物理学研究室  丸山典宏.
・力のモーメント ・角運動量 ・力のモーメントと角運動量の関係
スペクトル法による数値計算の原理 -一次元線形・非線形移流問題の場合-
大阪工業大学 情報科学部 情報システム学科 宇宙物理研究室 B 木村悠哉
木村 匡志 極限ブラックホール近傍の 高速粒子衝突における “バックリアクション“の影響について (YITP 元OCU)
原始惑星系円盤の形成と進化の理論 1. 導入:円盤の形成と進化とは? 2. 自己重力円盤の進化 3. 円盤内での固体物質の輸送
AOによる 重力レンズクェーサー吸収線系の観測 濱野 哲史(東京大学) 共同研究者 小林尚人(東大)、近藤荘平(京産大)、他
周期境界条件下に配置されたブラックホールの変形
表紙.
電磁気学C Electromagnetics C 7/13講義分 電磁波の電気双極子放射 山田 博仁.
重力レンズ効果を想定した回転する ブラックホールの周りの粒子の軌道
アインシュタインと宇宙 重力レンズ 重い天体は「レンズ」になる!? 重力レンズは「天然巨大望遠鏡」 いろいろな重力レンズの例
(ラプラス変換の復習) 教科書には相当する章はない
前回の内容 結晶工学特論 第5回目 Braggの式とLaue関数 実格子と逆格子 回折(結晶による波の散乱) Ewald球
数値相対論の展望        柴田 大 (東大総合文化:1月から京大基研).
原子核物理学 第4講 原子核の液滴模型.
準光速ロケットでのブラックホール旅行における時間の遅れ
物理学セミナー 2004 May20 林田 清 ・ 常深 博.
星間物理学 講義3資料: 星間ガスの力学的安定性 星間ガスの力学的な安定性・不安定性についてまとめる。星形成や銀河形成を考える上での基礎。
ブラックホール周辺の 磁場構造について 大阪市立大学 孝森 洋介 共同研究者 石原秀樹,木村匡志,中尾憲一(阪市大),柳哲文(京大基研)
Cosmic strings and early structure formation
連星BH半周定理 東工大 椎野克 @市大.
COSMOSプロジェクト: z ~ 1.2 における星生成の環境依存性 急激な変化が起こっていると考えられる z ~1 に着目し、
重力・重力波物理学 安東 正樹 (京都大学 理学系研究科) GCOE特別講義 (2011年11月15-17日, 京都大学) イラスト
黒体輻射 1. 黒体輻射 2. StefanのT4法則、 Wienの変位測 3. Rayleigh-Jeansの式
6. ラプラス変換.
前回の講義で水素原子からのスペクトルは飛び飛びの「線スペクトル」
電磁気学C Electromagnetics C 7/17講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
量子力学の復習(水素原子の波動関数) 光の吸収と放出(ラビ振動)
COSMOS天域における ライマンブレーク銀河の形態
重力レンズ効果による画像の変形と明るさの変化
グループ発表 天体核研究室 「低光度ガンマ線バーストの起源」 D2 当真賢二 「宇宙ひもを重力レンズで探る」 D3 須山輝明
東邦大学理学部物理学科 宇宙・素粒子教室 上村 洸太
重力波の重力レンズでの 波動効果 高橋 龍一 (国立天文台PD).
最小 6.1.The [SiO4] tetrahedron
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 8/4講義分 電気双極子による電磁波の放射 山田 博仁.
 DPF サイエンス検討会 宇宙論的な重力波源 東大ビッグバンセンター (RESCEU) 齊藤 遼.
pp-wave上の共変的超弦の場 における低エネルギー作用
瀬戸直樹(京大理) DECIGO WS 名古屋大学
電磁気学Ⅱ Electromagnetics Ⅱ 8/11講義分 点電荷による電磁波の放射 山田 博仁.
Primordial Non-Gaussianity in Multi-Scalar Slow-Roll Inflation
滝脇知也(東大理)、固武慶(国立天文台)、佐藤勝彦(東大理、RESCEU)
Perturbative Vacua from IIB Matrix Model
大阪市立大学 宇宙物理(重力)研究室 D2 孝森 洋介
インフレーション宇宙における 大域的磁場の生成
1:Weak lensing 2:shear 3:高次展開 4:利点 5:問題点
宇 宙 その進化.
格子ゲージ理論によるダークマターの研究 ダークマター(DM)とは ダークマターの正体を探れ!
定常剛体回転する宇宙ひもからの 重力波放射
Massive Gravityの基礎と宇宙論
P5 田中貴浩(教授)、細川隆史(准教授)、瀬戸直樹(助教) 担当:天体核研究室の教員
MOAデータベースを使った セファイド変光星の周期光度関係と 距離測定
電磁気学C Electromagnetics C 7/10講義分 電気双極子による電磁波の放射 山田 博仁.
Massive Gravityの基礎と宇宙論
ブレーンガスを用いた ダークマターの可能性
瀬戸直樹 (UC Irvine) 第5回DECIGOワークショップ
Presentation transcript:

宇宙ひもを重力レンズで探る 物理学第二教室 天体核研究室 D3 須山 輝明

天体核研究室の大雑把な研究グループ 天体物理学 宇宙論 中村、犬塚、井岡、山田 PD:町田、石津、三浦 D3:道越 D2:井上(剛)、当真 D3:道越  D2:井上(剛)、当真  D1:廣瀬 M2:武藤 中村、田中、早田 D3:須山 D2:横山 D1:泉 M2:棚橋、村田 重力 中村、田中、早田、井岡 D2:吉川 D1:雁津 M2:井上(博) M1 佐藤、筒井、冨康、野口、村主

宇宙の熱史~宇宙はビッグバンから始まった 時間 140億年 現在 宇宙の晴れ上がり 40万年 一秒 ビッグバン元素合成 宇宙誕生後、一秒以前の状態はよく分かっていない 初期宇宙のシナリオ これを観測的に確かめることができるか? 対称性の破れ インフレーション etc.

宇宙ひも(対称性の破れの化石) 対称性の破れに伴って生成される、ひも状の位相欠陥 例 ポテンシャルの最小値(V=0)を与える の形 :複素スカラー場 ポテンシャルの最小値(V=0)を与える   の形 :  から    までの任意の実数

温度高い 温度低い で、最小値 で、最小値 実空間 宇宙ひも 相関長より大きいスケールで見ると、各点での   はバラバラのはず

対称性が破れた後は、ひものネットワークが作られる 実際、数値シミュレーションによっても対称性の破れに伴って、宇宙ひもが形成されることが確認されている。 宇宙ひもの形成(数値シミュレーション) 初期条件: のまわりに揺らぎを与える (Donaire&Rajantie, 2006) 対称性が破れた後は、ひものネットワークが作られる

以下のようにして宇宙ひもの線密度の大きさが見積もれる ひもの断面 (質量二乗) コンプトン波長 :重力定数     を測ると、対称性の破れのスケールが直接分かる

宇宙ひもは、現在の宇宙にもほどほどに存在してくれる 宇宙ひもネットワークの時間進化 スケーリング則 (数値計算により発見された) :ホライズン長 :ホライズン体積内にある長い宇宙ひもの長さ 定数 :宇宙ひものエネルギー密度 :宇宙の全エネルギー密度 宇宙ひもは、現在の宇宙にもほどほどに存在してくれる (Allen&Shellard, 1990)

ひもの線密度に対する観測からの制限 1.宇宙背景放射の温度揺らぎ 大 小 スケール 2.パルサータイミング 両方とも (e.g. Wyman et al. 2005) 黒線が宇宙ひもからの寄与 温度揺らぎのパワー 大 小 スケール 2.パルサータイミング (e.g. Lomen 2002) 宇宙ひもが振動すると重力波が放射される 両方とも

宇宙ひものまわりの時空構造 z Cosmic stringがあると、全く同じ形の二重像が見える (Vilenkin, 1981) cosmic string z=一定面 局所的には時空は平坦 光 欠損角 Cosmic stringがあると、全く同じ形の二重像が見える

CSL-1 宇宙ひもによる重力レンズ?? 欠損角 宇宙ひも :Stringの張力 二つの銀河とも 億光年の距離 二つの銀河とも            億光年の距離 宇宙ひも (sahzin et al., 2005)

世の中の情勢は、宇宙ひもではないという結論に収まりつつある ハッブル宇宙望遠鏡で詳しくみると (agol et al., 2006) 二重像は全く同じ形ではなかった 世の中の情勢は、宇宙ひもではないという結論に収まりつつある

宇宙ひもが曲がっていると説明できるかもしれない 現実には、ひもは曲がっているはず 一般のひもの運動状態 光源の増光率、ゆがみ(重力レンズ効果) ここの繋がりを押さえておくことは重要だ

そもそも 曲がった宇宙ひもによる重力レンズの研究はあまりない 宇宙ひもの運動状態と増光率との関係がよく分からない (Laix 97, Uzan&Bernardeau 2000, Polchinski&Rocha 2006) そもそも 宇宙ひもの運動状態と増光率との関係がよく分からない どの程度の範囲のひもの状態が増光に効くか? ひもの遠方の運動は、増光に影響するか? ※レンズが星の場合 光源がアインシュタイン半径    の中に入れば重力レンズが起こる レンズ :レンズの質量 :観測者・レンズ間距離 :光源・レンズ間距離 :光源・観測者間距離 そこで無限に長い宇宙ひもによる重力レンズについて解析した

増光行列≒時空のゆがみ(計量)を光の軌道にそって積分 光源の増光やゆがみを表す量 天球面 天球面 光源 光源 レンズなし レンズあり 重力場によって光束がねじられる=重力レンズ 光源 観測者 レンズ天体(宇宙ひも) 増光行列≒時空のゆがみ(計量)を光の軌道にそって積分

宇宙ひものまわりの重力場(計量) 増光行列 宇宙ひもの運動 :時間 ひもの運動は、二つの変数で記述できる :ひもに沿った空間座標 宇宙ひも ひもの運動方程式 自由な波動方程式 ひもの運動は、光速で伝播する右向きの波と左向きの波の和 左向き 右向き

分かったこと1 解は遅延グリーン関数で表わせる 片方(右向きor左向き)の波だけ存在 計量(とその微分)は発散 以下その説明 レンズがあると時空がすこしゆがむ (アインシュタイン方程式) :ひものエネルギー運動量テンソル 解は遅延グリーン関数で表わせる

発散は、遠方のひもの運動が増光に効くことを意味する    は赤線に沿って     を積分したもの キョリ 宇宙ひも 積分 片方の波だけが存在するとき、赤線に沿って    の値は定数となる 発散 発散は、遠方のひもの運動が増光に効くことを意味する

分かったこと2 右向き・左向き両方の波がひも上の至る所に存在するならば 赤線に沿ってひもがパタパタと振動するので、積分は収束しそう 素朴には 赤線に沿ってひもがパタパタと振動するので、積分は収束しそう ひもが真っ直ぐな状態から少しだけ揺らいでいる場合 計量(の微分)は収束 (解析的に示せる)

ひもの曲がりのスケールより離れた点からの影響は無視できる ひもの配位がランダムな場合 数値的に      を与え、    を求める :数値計算では無限遠までひもを用意で きないので、カットオフを入れる ある時刻でのひもの配位 のカットオフ依存性 ひもが曲がるスケール程度で収束 カットオフ ひもの曲がりのスケールより離れた点からの影響は無視できる

まとめ (曲がった)長い宇宙ひもによる重力レンズの研究はほぼ皆無 そこで長い宇宙ひもによる重力レンズを調べた これから 右向きor左向きの波が片方のみ存在するときは、遠方のひもの運動が増光に効く 右向き・左向きの波が両方存在すれば、遠方のひもの運動は増光に影響しない 現実には、ひものネットワークには、右向き・左向きの両方の波が存在するので、増光はひものローカルな情報で決まるだろう これから CSL-1が宇宙ひもで説明可能かどうか調べる

予備

Cosmic string Cosmic stringに関係した論文数

重力レンズ(一般論) :レンズ天体が作る計量揺らぎ とする を導入 アインシュタイン方程式 :レンズ天体のエネルギー運動量テンソル

増光行列 :天球面上で定義される2×2行列 (重力レンズの性質を決める) 例えば 増光率 観測者 レンズ天体 光源 光線 :二つの測地線の差

増光行列=リーマンテンソルを測地線に沿って積分 hの一次 ここで の順に計算すればよい

宇宙ひもの運動 ( を与える) ひもの作用:南部・後藤作用 運動方程式 ひもの世界面 世界面上のinduced metric :ひもの位置 (    を与える) ひもの作用:南部・後藤作用 ひもの世界面 世界面上のinduced metric :ひもの位置 運動方程式 ゲージ条件

運動方程式の解 左向き 右向き ただし Metric perturbation :retarded time

ひもが少しだけ真っ直ぐから揺らいでいる場合 真っ直ぐな宇宙ひも (揺らぎの0次) 宇宙ひも Metric perturbation

揺らぎの1次 x方向の揺らぎは二次の量 の量とする 発散しそうな成分 ここで を考える σ→大で積分は 対数発散

どういう発散か? の波だけがあったとする c y 宇宙ひも x t 積分 発散 x 発散は、遠方のひもの運動が増光に効くことを意味する

揺らぎの2次 発散しそうな成分 ここで を考える σ→大で積分は ここで

で、    を導入 と書けるなら、                は発散

一つの例外 ひもの揺らぎに特別な点がない場合 宇宙ひも どの場所も同じように揺れている Fは を満たす滑らかな関数 積分の中の指数は 収束

c Traveling waveの場合 y f x ひもの運動方程式の解 f,gが十分小さい場合 世界面上の座標を に選ぶ 宇宙ひも f,gが十分小さい場合 この解は に帰着する

線型の場合と同じ原因で発散が生じる まとめると Traveling wave stringのまわりのmetric perturbation ここで 線型の場合と同じ原因で発散が生じる まとめると 揺らぎの大きさに関係なく 片方(右向きor左向き)のモードだけ存在 発散 少なくとも摂動論の範囲では 両方のモードがひも上の至る所に存在 収束

数値的にmetric perturbationを評価する 宇宙ひもの運動 ただし 計算の流れ 数値的に       を決める を求める

具体的な計算手順 は、次の微分方程式を解いて決めることにする を与える パワースペクトル

計算結果その1 ある時刻でのひもの配位

(Sazhin et al., 05)