個体と多様性の 生物学 第14回 生物多様性を守る 和田 勝 東京医科歯科大学教養部
この鳥を知っていますか?
カカポ この鳥は、ニュージーランドにしかいない、カカポというオウムの一種。 飛ぶことを止めてしまった、珍しい大型のオウムである。絶滅の縁からかろうじて舞い戻った、貴重な鳥。 カカポのたどった運命について、お話ししよう。
大陸の移動 南アメリカ、アフリカ、インド、オーストラリア、南極大陸 ゴンドワナ +ローラシア パンゲア
移動の証拠 南アメリカ、アフリカ、インド、オーストラリア、南極大陸に共通する化石が見つかる。
プレートテクトニクス理論
動物地理区 こうして動物の種類に特徴が生まれた。
オーストラリア区 オーストラリア区を載せたプレートは、早くから移動を始めたために、特異な生物を有する地理区となっている。 オーストラリアには真獣類がいなかったので、単孔類と有袋類が生き残った。ニュージーランドには哺乳類がいなかったので、鳥類が一番進化した動物種となった。
ニュージーランド ニュージーランドのは哺乳類が居なかったので、鳥が最上位のニッチを占めた。 飛ぶことを止めてしまった鳥や、大型の鳥が進化した。
飛ばない大型の鳥 大型化し、飛ぶことを止めてしまった 体長およそ63cm
飛ばない大型の鳥 ヒクイドリ エミュー 体長およそ1.5-2.0m 体長およそ2.0m
飛ばない大型の鳥 ニュージーランドのモアは絶滅してしまった。 大型種の体長はおよそ3-4mあった。
キウィも有名
カカポの絶滅の縁への道 ポリネシアから移住したマオリは、カカポを捕獲して食料に、美しい緑色の羽は礼装用のケープに使った。 数は減少したが、それでも絶滅したわけではなかった。 1840年代にヨーロッパからの移住者が持ち込んだ動物によってカカポは駆逐されてしまった。
カカポの絶滅の縁への道 1950年代になってNew Zealand Wildlife Serviceが設立され、1949年から1973年までに60回ものカカポ探索の調査旅行が行われた。 1974年の時点では状況は絶望的だった。1977年までに18頭がフィヨルドランド(南島南西部)で発見されたが、すべて雄だった。
ニュージーランド
ミルフォードサウンドへの道 ホーマートンネル
ミルフォードサウンド
カカポ救出作戦 同じ年の暮れに雌を含む200頭の個体群が南島最南端の沖にあるスチュワート島で見つかった。 この個体群もネコのために急速に減少していったので、ついに1995年に50頭を全頭捕獲して天敵の居ない島に移した。 2004年現在、86頭に増えた。
絶滅の記録 カカポは個体数が回復するかもしれないが、絶滅してしまった数は多数に上る。 ヒトが移住した後に、49種が滅んでいる。 絶滅は、何もニュージーランドに限ったことではない。
リョコウバトの悲しい旅行 鉄道敷設の労働者の食料となって絶滅してしまった。
ドードーとしていても ヨーロッパからきた船員の食料となって絶滅してしまった。
トキすでに遅し 農薬によるドジョウなどの餌の激減が絶滅につながった。
絶滅種 ●絶滅 Extinct (EX) 過去、日本で生息していたが、すでに野生、飼育ともに絶滅したと考えられる種 過去、日本で生息していたが、すでに野生、飼育ともに絶滅したと考えられる種 ●野生絶滅 Extinct in the Wild (EW) 過去、日本で生息していたが、現在では飼育のみで存続している種
絶滅危惧種 ●絶滅危惧種Ⅰ類 ・絶滅危惧ⅠA 類 Critically Endangered (CR) ・絶滅危惧ⅠB 類 Endangered (EN) ●絶滅危惧Ⅱ類 Vulnerable (VU) 絶滅の危険性が増大している種) ●準絶滅危惧 Near Threatened (NT) 生息条件の変化によっては「絶滅 危惧種」に移行する可能性がある種
日本の絶滅種(鳥類) ハシブトゴイ、カンムリツクシガモ、マミジロクイナ、リュウキュウカラスバト、オガサワラカラスバト、ミヤコショウビン、キタタキ、ダイトウミソサザイ、オガサワラガビチョウ、ダイトウウグイス、ダイトウヤマガラ、ムコジマメグロ、オガサワラマシコ(以上EX13種) トキ(以上EW1種)
日本の絶滅危惧種(鳥類) チシマウガラス 、コウノトリ、クロツラヘラサギ、シジュウカラガン、ダイトウノスリ、カンムリワシ、カラフトアオアシシギ、コシャクシギ、ウミガラス、ウミスズメ、エトピリカ、ワシミミズク、 シマフクロウ、ノグチゲラ、ミユビゲラ、 ウスアカヒゲ、オオトラツグミ(以上CR17種)
日本の絶滅危惧種(鳥類) コアホウドリ、アカオネッタイチョウ、 アカアシカツオドリ、サンカノゴイ、 オオヨシゴイ、ツクシガモ、オジロワシ、オガサワラノスリ、クマタカ、イヌワシ、 シマハヤブサ、ヤンバルクイナ、チシマシギ、ヘラシギ、アマミヤマシギ、セイタカシギ、アカガシラカラスバト、ヨナクニカラスバト、キンバト、キンメフクロウ、オーストンオオアカゲラ、ヤイロチョウ、モスケミソサザイ、オオセッカ、オガサワラカワラヒワ(以上EN25種)
日本の絶滅危惧種(鳥類) アホウドリ、シロハラミズナギドリ 、ヒメクロウミツバメ 、クロコシジロウミツバメ、オーストンウミツバメ、クロウミツバメ、アオツラカツオドリ、 コクガン、ヒシクイ 、トモエガモ 、オオワシ、オオタカ、リュウキュウツミ 、チュウヒ、ハヤブサ、ライチョウ、タンチョウ、ナベヅル、マナヅル、オオクイナ、シマクイナ、アカアシシギ、ホウロクシギ、ツバメチドリ、ズグロカモメ 、オオアジサシ、コアジサシ、ケイマフリ、カンムリウミスズメ、シラコバト、リュウキュウオオコノハズク、ブッポウソウ、クマゲラ、アマミコゲラ、サンショウクイ、チゴモズ、タネコマドリ、アカヒゲ、ホントウアカヒゲ、アカコッコ 、ウチヤマセンニュウ、イイジマムシクイ、ナミエヤマガラ、オーストンヤマガラ 、オリイヤマガラ、ハハジマメグロ、コジュリン、ルリカケス(以上VU 48種)
現在は新たな絶滅期? 全生物の95%以上が絶滅したと考えられているペルム紀大絶滅や、KT境界における恐竜の大絶滅のように、地球上ではこれまでに何回かの大絶滅が起こった。 今、起きている多数の種の絶滅は生物の進化の歴史の中で必然的?
過去の絶滅との違い 絶滅のスピードが速すぎる。 人口の増加と、ヒトの活動による生息環境破壊(habitat destruction)がもっとも大きな要因である。 たった一つの生物種(Homo sapience)によって、絶滅が起こっている。
生物多様性とは 1)遺伝子レベルの多様性 2)種レベルの多様性 3)群集と生態系レベルの多様性
生物多様性とは 遺伝子レベルの多様性 種レベルの多様性 群集と生態系レベルの 多様性
生物多様性消失の要因 1)生息環境の破壊(habitat destruction) 2)外来種の移入(introduced species) 3)乱獲(overexploitation) 4)食物連鎖の攪乱 (food chain disruption)
何故生物多様性か 「生態学上、遺伝上、社会上、経済上、科学上、教育上、文化上、レクリエーション上及び芸術上の価値を意識し」 と多様性条約の前文に書かれている。 これって生物のことを考えているわけではないことが明白。ヒトの都合。
何故生物多様性か 「地球上に生息するすべての生物はそれ自身で固有の価値を持ち、生存する権利を有する。それらが多様であればあるほど、お互いの結びつきは多様になり、地球上での生命の歴史をともに歩むためにより豊かになることを意識し」 ぐらいのことを書いてほしかった。
生物多様性を守るために 「生物多様性を守る第一歩は、自然に目を向け自然や生きものと親しむことです。昔と比べ、私たちの生活はとても便利で快適なものになりましたが、日々の暮らしの中で、生きものたちとふれあう機会は大変少なくなってしまいました。
生物多様性を守るために 林、池、水路、河原など身近にあるちょっとした自然に目を向けてみましょう。どんな小さな自然にも多彩な生きものたちが息づいています。気づかなかった生きものたちの世界がいきいきと姿を現してきます。生物の世界を知ることは、暮らしと生きものたちとの関わりについて考えることにつながります。
生物多様性を守るために 今住んでいる町の自然を、少し昔と比べてみましょう。野鳥や昆虫たちが豊かに暮らしていた森や林、水辺は、今も健在でしょうか。エネルギー、紙、食べ物、ゴミや生活排水……。私たちの日常生活のすべては、世界のどこかで生きものたちの生活に影響を及ぼしています。
生物多様性を守るために 人と生物との共生の実現は、社会や経済の仕組みにも関わる大きな問題です。けれども、私たち一人ひとりでも生物多様性を守るために行動することができます。野外に出かけたらゴミは必ず持ち帰る、山野草は自然の中で楽しむ、ペットや外国の生きものは野外に捨てたり放したりしない、みんなが協力して取り組むことが、大きな力となるのです。」
生物多様性条約 1992年、ブラジルのリオデジャネイルで世界環境会議が開かれ、生物多様性条約に参加した各国は署名、その後国内で加盟手続き。日本は翌年加盟。 多様性の保護に関して各国の行動を規定。多様性の消失に一定の歯止めのために有効であると思われる。
生物多様性条約 アメリカはいまだに加盟していない。この後、1996年暮れに、京都において開催された地球温暖化防止京都会議で採択された京都議定書も同様に参加していない。 このようなアメリカ一国主義は糾弾されるべきであろう。
多様なわれわれ 最近になってSNP(single nucleotide polymorphism、スニップ、一塩基多型)と呼ぶ、遺伝子DNA塩基配列の1ヶ所だけが個人によって違う個所が、日本人では19万個あると発表。 見かけは同じでも、遺伝子のレベルで見れば我々はこのような多様性を内包しているのである。
多様なわれわれ そのことを自覚し、ヒトとは違う生物の多様性を理解し、生態系の多様性を考えて、我々ヒトはどのような行動をとったらいいのか、真剣に考えていこうではないか。
これでおしまい、でも、、、 生物学基礎 生物学特論B 生物学実験 個体と多様性の生物学 専門基礎系科目群 細胞のついてさらに学ぶ 生物学実験 実際の生き物を使って解剖、組織、実験など 個体と多様性の生物学 細胞より上のレベルでどのように組織化されているか学ぶ 専門基礎系科目群
これでこの講義はおしまい ご清聴、ありがとうございました。