理学部 地球科学科 惑星物理学研究室 4年 岡田 英誉 ガス惑星の衛星起源 最新の理解 理学部 地球科学科 惑星物理学研究室 4年 岡田 英誉
衛星とは 惑星の周りを公転する天体。衛星は規則衛星と不規則衛星に分類される 規則衛星 惑星の赤道面上を惑星の公転の向きと同じ向きで周る衛星 規則衛星以外の衛星 規則衛星の形成の起源は惑星形成の起源にとても重要であると考えられている。今回は規則衛星をとりあげる。 木星の衛星系 http://www.subarutelescope.org/j_index.html
ガス惑星の衛星の起源 規則衛星 不規則衛星 周惑星円盤で形成されたと考えられている 惑星の重力により捕らえられたと考えられている 図 周惑星円盤の形成 実線 : ヒル領域 破線 : ガスの流れ ガス惑星が地球質量の10倍ほどの 大きさになると、ガスとダストを集める。
衛星の多様性 起源が同じではあるが、規則衛星同士異なる性質を持つ エウロパ イオ タイタン 表面の氷の下に 液体の海が存在 濃い大気と雲が 存在 イオ 地球以外で火山活動が 確認される唯一の天体 写真 : NASA http://www.nasa.gov 写真 : NASA http://www.nasa.gov 起源が同じではあるが、規則衛星同士異なる性質を持つ
衛星系同士の比較 ガス惑星の衛星系は MT/MP~10-4という似た質量比をもつ 代表的な衛星の質量[kg] 衛星の総質量 MT [kg] 惑星の質量 MP [kg] MT/MP 地球 7.3 ×1022 (月) 7.3×1022 5.9×1024 0.012 火星 1.2 ×1016 (フォボス) 1.4×1016 6.4 ×1023 2.2×10-8 木星 8.9×1022 (イオ) 4.0×1023 1.8×1027 2.1×10⁻⁴ 土星 1.3×1023 (タイタン) 1.4×1023 5.6×1026 2.5×10⁻⁴ 天王星 3.5×1021 (チタニア) 9.6×1021 8.6×1025 1.1×10⁻⁴ それぞれ~10-4という共通の質量スケールをもつ ガス惑星の衛星系は MT/MP~10-4という似た質量比をもつ
野望と今回の目的 野望 今回の目的 規則衛星同士の多様性が生じる原因を調べる 厚い大気と雲をもつタイタン 液体の水が存在すると考えられているエウロパ 今回の目的 衛星形成の最新の理解を Canup and Ward 2006 を読むことにより学ぶ 衛星系がMT/MP~10-4という似た質量比もつ理由を調べる
モデル 歴史的に使われてきたモデル Canup and Ward model 初期条件 問題点 現在の衛星系の総質量と同じ質量のダストを惑星の周りに 配置 問題点 大部分の固体物質が惑星に落下 周惑星円盤形成の説明ができない Canup and Ward model 原始惑星系円盤からのガスとダストの流入物により円盤を形成 周惑星円盤で衛星は成長と消失を繰り返す
Canup and Ward model 流入量が一定の場合と減少する場合を考える 円盤の総質量は流入とガスの除去とのバランスによって決まる ガスと固体がrin ~ rcの間に流入 流入物はτνのタイムスケールで 円盤に広がる ν : 粘性係数 α : 粘性パラメータ c : 音速 H : スケールハイト rd :円盤の外側から惑星表面までの距離 Fin : 流入フラックス RP : 惑星の半径 τν≪Fin/(dFin/dt) ≡τinのとき σGは準定常で、σG∝Fin/αとなる 流入量が一定の場合と減少する場合を考える 円盤の総質量は流入とガスの除去とのバランスによって決まる 周惑星円盤で衛星は成長と消失を繰り返す。
衛星の成長 ダストや微衛星の集積により原始衛星が成長 msが大きくなると成長に時間がかかる (Canup and Ward 2002) f : 流入物のガス/固体比 ms : 衛星質量 r : 惑星中心から衛星までの距離 Fin : 流入フラックス H : 円盤のスケールハイト σG : ガス円盤の面密度 ダストや微衛星の集積により原始衛星が成長 msが大きくなると成長に時間がかかる (Canup and Ward 2002)
衛星の消失 衛星が形成する密度波のトルクにより 中心星に落下(Type Ⅰ migration) 衛星が成長するほど短時間で落下 (Canup and Ward 2002) Ca : 定数(O(1)) MP : 惑星質量 Ω : ケプラー角速度 密度波 衛星が形成する密度波のトルクにより 中心星に落下(Type Ⅰ migration) 正味のトルクは衛星を中心星に落下させる向きに働く トルクは(ms/MP)2に比例 衛星が成長するほど短時間で落下 密度波
衛星の臨界質量 成長の限界 τ1~τaccとなるとき、衛星はそれ以上成長できず落下 成長できる最大の衛星の質量を臨界質量とする (H/r) : (H/r)~0.1 (r/rC) : 周惑星円盤でもっとも大きな衛星に対して (r/rC)~0.1 Fin : Fin一定のとき、Fin~MP/(πr2CτG) Finは広範囲の値をとれる α : αが大きくなるとσGが小さくなり、衛星が落下しづらくなる mc : 臨界質量 MP : 惑星質量 Ca : 定数(O(1)) α: 粘性パラメータ
全衛星の総質量 Canup and Ward (2006)は理論の妥当性を (α/f)の値を変化させたシュミレーションで確認 MT:全衛星の総質量 MP:惑星の質量 Ca:1の位の定数 H: ガス円盤の垂直な距離 r : 惑星からの距離 rc : 惑星から流入領域の外側までの距離 α: 粘性パラメータ f : 流入のガス-固体比 Ω:ケプラー角速度 Canup and Ward (2006)は理論の妥当性を (α/f)の値を変化させたシュミレーションで確認
流入率一定のシミュレーションの結果 手法 : N体集積シミュレーション (Duncan et al., 1998) 衛星の成長 衛星の消失 Red : (α/f) = 5×10⁻⁴ Blue : (α/f) = 5×10⁻⁵ Green : (α/f) = 10 ⁻⁶ 導出した(MT/MP)と シミュレーションした(MT/MP) が おおよそ一致。 τG= 5×10⁶ yr,rC= 30RP 理論的な値とシミュレーションした値がおおよそ一致。 図 流入率が一定の時のMT/MPの値の変化
流入率が減少するときの シミュレーション結果 (1) 流入率が減少するときの シミュレーション結果 (1) (α/f)の値 c39 : 5×10⁻⁴ c41 : 10⁻⁶ c20 : 6.5×10⁻⁵ c64 : 1.3×10⁻⁵ c17 :6×10⁻⁵ c60 : 1.2×10 ⁻⁴ rc=30RP 図 観測された衛星系 a とシミュレーションした衛星系 (b)比較 a : 中心の惑星から衛星までの距離 rc=30RP 2×105≦τin≦1.5×106 yr 10-6 ≦ α≦10-4のとき、シミュレーションでできた衛星系は、 観測される衛星系と似た質量比になる
流入率が減少するときの シミュレーション結果 (2) 流入率が減少するときの シミュレーション結果 (2) 流入がおさまると、(MT/MP)比はそれ以上変化しなくなる 10-6≦(α/f)≦10-4まで変化させても、最終的な(MT/MP)比は1桁程度しか変化しない τin : 流入が減衰する時間 図 流入率が時間と共に減少する時の MT/MP の値変化 τin : 流入が減衰するタイムスケール 2×105≦τin≦1.5×106 yr
流入率が減少するときの シミュレーション結果 (3) 流入率が減少するときの シミュレーション結果 (3) (rC/RP) Grey : 25 Black : 30 Green : 44 実線 : (r/rC) = 0.5 (H/r) = 0.1 τin = 106 における (mc/MP)、(MT/MP) 点線 : a : 現在の衛星系の中の一番大きな衛星における (ms/MP) b : 現在の衛星系における (MT/MP) Red : 木星 Orange : 土星 Blue : 天王星 ダッシュ記号 : 流入率一定でシミュレーションしたときのピークの(MT/MP) 点線 流入率一定のときの 流入率一定の場合も流入率が減少する場合も、 理論的に導出した (mc/MT)、(MT/MP)におおよそ一致する
まとめ (MT/MP)が似た質量比になるのは(α/f)が3桁変化しても、(MT/MP)は1桁程度しか変化しないからである Canup and Ward model が、現在のガス惑星の衛星形成の最も有力なモデル ガス惑星形成シナリオのガス降着と合致 観測されている衛星系質量を再現するα/fの値がもっとも らしい。
参考文献 Canup, Robin M.; Ward, William R., A common mass scaling for satellite systems of gaseous planets, Nature, Volume 441, Issue 7095, pp. 834-839, 2006. Tanaka H.; Ward, William R., The Astrophysical Journal, Volume 602, pp.388-395, 2004. Canup, Robin M.; Ward, William R., Formation of the Galilean Satellites: Conditions of Accretion, The Astronomical Journal, Volume 124, Issue 6, pp. 3404-3423, 2002.