X-ray Study of Gravitational Lensing Clusters of Galaxies Kiyoshi Hashimotodani Contents 1. 銀河団の質量決定 ・X線観測による方法 ・重力レンズによる方法 2. サンプルと解析 3. 結果 4. 考察 5. まとめ
銀河団の質量決定 X線観測による方法 高温ガスの圧力が銀河団のポテンシャル (i.e. 銀河+ガス+DM)と静水圧平衡に あると仮定する 高温ガスの圧力が銀河団のポテンシャル (i.e. 銀河+ガス+DM)と静水圧平衡に あると仮定する ‐ 球対称なガス分布を仮定 (多くはβモデルを適用する) ‐ 温度分布を仮定(多くは等温)
銀河団の質量決定 重力レンズによる方法 (Strong Lensing) 軸対称な質量分布を仮定 - アークは Einstein半径上に現れると 仮定。それより内側の射影質量が計算 できる ‐ ガス・銀河分布に平衡を仮定する必要 はない - 背景銀河の赤方偏移は不明なことが 多い
X線と重力レンズでの質量の食い違いの問題 ☆ 重力レンズアークから求めた質量は、 X線観測から求められる質量よりも 系統的に2~3倍大きい。 cf. Wu & Fang (1997) 30個の重力レンズ銀河団について、 レンズ質量(球対称)とX線質量を比較 MX /MLens = (0.43±0.09)β の関係を得た。 銀河団の中心部で静水圧平衡が なりたっていない?
X線サンプルと解析 ☆ サンプル(「あすか」とROSAT/HRI) 重力レンズ効果による arc, arclet が観測 されている銀河団27個 ・ 赤方偏移: 0.1~0.8 ○ 「あすか」データ ・ 半径1Mpcの円領域でスペクトルを作成 ・ Raymond-Smithモデルでフィッティング してガスの温度を求めた ○ ROSAT/HRIデータ ・ X線表面輝度分布を球対称βモデルで フィッティングしてコア半径、βを求めた
X線質量分布 A. 等温分布モデル B. Polytropic分布モデル ここでTgas(r)は に従う。
・ポリトロピック指数γは 0.9 … 温度が、外側に向かって上昇 1.3 … 中心に向かって上昇 1.0 … 等温 の場合について、それぞれ質量プロファイル を求めた。 (cf. Markevitch et al. 1998; 近傍の明るい銀河団の温度プロファイル は一様にγ=1.2-1.3に従う) ・銀河団のサイズを半径3Mpcと仮定し、レンズ 質量と比較するため視線方向に積分した質量 プロファイルを計算し、アーク半径より内側の 質量を求めて比較した。
重力レンズ質量 ☆ 球対称レンズモデル ここで、 は臨界表面質量密度 ・背景銀河の赤方偏移は、観測的に決定され ☆ 球対称レンズモデル ここで、 は臨界表面質量密度 ・背景銀河の赤方偏移は、観測的に決定され ていない場合はz=1.0を仮定した。 例外;MS1137(z=0.76)に対しては2.0を仮定 ・複数のアークが観測されている銀河団では、 それぞれのアークについて質量を求めた。
X線質量と重力レンズ質量との比較 ☆重力レンズ質量の方が系統的に factor 2程度大きい ☆ポリトロピック分布を導入しても、食い 半径より内側の質量を求めて重力レンズ 質量と比較した ☆重力レンズ質量の方が系統的に factor 2程度大きい ☆ポリトロピック分布を導入しても、食い 違いは解消しない
考察~質量の食い違いの原因は? ○ 背景銀河の赤方偏移 レンズ質量が20-30%小さくなりうる ○ 背景銀河の赤方偏移 レンズ質量が20-30%小さくなりうる ○ 宇宙論パラメータ(H0、Ω0、λ)の影響は 無視しうる (e.g. Loeb & Mao 1994) ・ 銀河団の「中心」 ・ X線観測量と質量の食い違いの関係 について調べた。
銀河団中心の検討 ☆銀河団中心の三つの定義 ・Brightest Cluster Galaxy(BCG)の中心 ‐ Digitized Sky Survey イメージから決定 ・ROSATのX線イメージのintensity peak ・X線イメージの「重心」 ‐ イメージをR.A.、Dec方向に射影して、 Gauss関数でフィッティングして決定 “regular”銀河団… 三つの定義による中心が 誤差の範囲内で一致する 銀河団 “irregular”銀河団… 三つの中心の内、少なく とも一つが有意に一致し ない銀河団
Irregular Regular
結果 ☆質量の食い違いの大きさは、 “regular”、“irregular”で有意に異なる。 “regular”銀河団 MX /MLens = 0.56±0.04 “irregular”銀河団 MX /MLens = 0.30±0.06 ☆X線コア半径 “regular”銀河団… ~50h50-1kpcか、それより 小さい → 重力レンズモデルから予想される dark matter halo のスケールと一致 (e.g. Mellier et al. 1993; Kneib et al. 1995) “irregular”銀河団… 100h50-1kpc以上で大きく ばらつく
結果 ☆質量の食い違いの大きさは、 “regular”、“irregular”で有意に異なる。 “regular”銀河団 MX /MLens = 0.56±0.04 “irregular”銀河団 MX /MLens = 0.30±0.06 ☆X線コア半径 “regular”銀河団… ~50h50-1kpcか、それより 小さい → 重力レンズモデルから予想される dark matter halo のスケールと一致 (e.g. Mellier et al. 1993; Kneib et al. 1995) “irregular”銀河団… 100h50-1kpc以上で大きく ばらつく
“irregular”銀河団 ○三つの定義による中心が一致しない → ・ ガスがポテンシャルと平衡になっていない → ・ ガスがポテンシャルと平衡になっていない ・ ポテンシャルが不規則な形 ・ ポテンシャルの底にBCGがいない ○X線のコア半径が大きい ⇒ ガスが擾乱を受けた結果か? ↓ 銀河団は relax していない ○質量の食い違いが有意に大きい ⇒ “irregular”銀河団では、質量測定の際の 基本仮定(球対称、静水圧平衡、etc.)が 崩れている。
“regular”銀河団の食い違いの原因 ○三つの定義による中心は誤差の範囲で一致 ○X線コア半径は小さい (~50h50-1kpcか、それ以下) ○ほとんどがcD銀河団 ⇒ well-relaxed system i.e. 質量を求める際の仮定は正しいはず “regular” 銀河団にみられる MX/MLens=0.56±0.04 の食い違いの原因は? ・β ・ kT ・質量、アーク半径 ・X線イメージのellipticity
r=-0.299 r=-0.455
r=-0.630
Cooling flow? ○ cooling flowによる低温成分を考慮すれば 等温成分の温度はより高いことになり、X線 等温成分の温度はより高いことになり、X線 質量を引き上げることができる (Allen 1998) → “regular”銀河団はcooling time < 宇宙年齢 ・ 例外的な高温の銀河団(e.g. RXJ1347)を 除き、温度上昇は小さい(~20%)
結果 ○β、kT と質量の食い違いの大きさには 相関なし ○X線イメージのellipticityが大きいもの程、質量 の食い違いが大きい 相関なし ○X線イメージのellipticityが大きいもの程、質量 の食い違いが大きい ○X線/重力レンズ質量(アーク半径)と、質量の 食い違いの大きさには相関が見られる MX /MLens ~ rArc-0.5 ⇒ 球対称からのズレが質量の 食い違いの主な原因か? (cf. Bartelmann 1995; simulation から球対称レンズモデルは 質量を1.6-2倍程度過大評価しうる Schindler 1996; Evrard et al. 1996; X線質量の誤差は~20%程度)
重力レンズ効果のモデリング ・楕円形二次元ポテンシャルを導入 ・アークの近傍の明るい銀河団銀河、及び 中心のBCGのポテンシャルを Faber-Jackson 関係から評価して導入 ・銀河団のポテンシャルの中心、ellipticity、P.A. と深さはX線観測から決める 重力レンズ方程式を逆に解き、X線観測と矛盾しない範囲でアークを再現できる解を探す。 ・MS2137.3‐2353… “regular”銀河団。対称性 が高い。 ・MS0302.7+1758… “regular”銀河団。二つの 明るい楕円銀河の間に “straight arc” ・MS1621.5+2640… “irregular”銀河団
結果 ☆「あすか」とROSAT/HRIの解析結果と矛盾 しない範囲で、観測されているアーク配置 を説明可能 しない範囲で、観測されているアーク配置 を説明可能 ・ MS2137 … X線イメージとコンシステントな 楕円ポテンシャル ・ MS0302 … 二つの明るい楕円銀河の ポテンシャル ・ MS1621 … アーク近傍の楕円銀河の ○ 質量の食い違いの原因はellipticityや アーク近傍の明るい銀河の影響など、 球対称からの小さなズレが原因であること を支持 ○ cooling flow は考慮する必要なし → 影響は無視しうる
まとめ ☆ 27個の重力レンズ銀河団に関して「あすか」 とROSAT/HRIのデータを解析し、 ・ 球対称な物質分布を仮定した場合、重力レンズ質量 は系統的にX線質量より大きくなることを確認した MX /MLens = 0.43±0.05 ・ 銀河団中心に三つの定義を導入 (BCG、X-ray peak、X-ray centroid) - 三種の中心が一致しない銀河団は、一致する 銀河団に比べて食い違いが有意に大きい MX /MLens = 0.56±0.04 (“regular”) 0.30±0.06 (“irregular”) - X線のコア半径の分布も有意に異なる “regular” …~50h50-1kpcか、それより小 “irregular”…100h50-1kpc以上でばらつき大 → “irregular” 銀河団では merger による擾乱で質量 を求める際の仮定が崩れている? “regular” と “irregular” は分けて考えるべき
・ “regular” 銀河団の質量の食い違い - X線イメージのellipticityが大きい銀河団ほど、 食い違いが大きい傾向 - アーク半径が大きいものほど、質量の食い違い が大きい傾向 が示唆された。 → 球対称の仮定からのズレが食い違いの主原因である ・球対称レンズモデルが質量を過大評価? *楕円ポテンシャル、アーク近傍の銀河を導入した レンズモデルの結果からも支持 ・半径が大きくなるほど影響が顕著になる? ☆ 今後の課題 “regular” な銀河団を集中的に研究すべきである。 ・ 高精度のX線観測 温度(分布)の精密な決定、ガス分布の詳細な モデリング、 cooling flow の影響の評価 ・ 可視でのより深い観測 背景銀河の赤方偏移の決定、より暗いレンズ像の 探査による詳細なモデリング、weak lensingとの cross calibration。