経営情報論A (2年生) 経営情報論B (3年生以上) 第2回 組織における構造変化 前期 火曜日5限 樋口徹 参考URL:http://www.thiguch.net/
2-1-2 組織の成長に伴う変化(p.23) 組織の成長と進化(細分化と階層化) 組織規模の拡大に伴って、組織は内部の 構造 を変化させる必要に迫られるように なる。例えば、数人で創業を始めた企業においても、構成員の数が数十あるいは百人 程度まで増えた場合には、役割などに基づいて組織を縦割りし、 機能別組織 や 事業部制組織 に移行することが一般的に行われる。
組織の成長と進化(横断的な動きの強化) さらに、規模が拡大すると、外部環境の変化に迅速に対応する ために、 権限 の委譲を含む組織の再編が行われるように なる。事業範囲の多角化が進んだ状態では、組織としての一 体感が損なわれ易くなるので、組織 横断的 なコミュニケー ションが必要となる。 外部環境の変化は、組織に対して変化や進化を強いることが ある。Aldrich(1999)では、外部環境に大きな変化が発生した 際には、目的、 境界 維持活動、活動システムの組織の3次 元を組織的に転換させる必要があるとしている。 活動システムは、人的資源、情報、原材料などから構成されて いるもので、実際に活動する作業や 組織ルーチン なども 含まれている。 組織転換は「組織内の大きな変化であり、既存の日常的な組 織ルーチンの変化と組織の既存の 知識 を変える新しい組 織能力への移行である。
2-1-3 組織の境界(p.24) ミドル(中間管理職)の役割 組織の規模が大きくなると、当該組織をいくつかのグループに細分化し て管理した方が効率的である。 細分化および階層化が進んだ組織では、グループのリーダーとして 「 ミドル(中間管理職) 」の役割が重要となる。フラットな組織構造 ではトップが忙しすぎて、詳細な指示を全員に正確に伝達がすることが 難しくなる。その結果、 簡単 な作業あるいは 定型的 な作業しか 指示することができなくなる。 それに対して、日常的な管理業務に関しての権限をミドル(中間管理 職)に移譲する階層的な組織に変換することによって、トップは日常的な 管理業務から解放され、 戦略立案 やビジョン作成に専念できる。 ミドル(中間管理職)が現場に指示を伝達し、進捗状況の管理も同時に 行う体系が整備することによって、現場に 複雑 な作業を割当てるこ とが可能となり、さらに問題発生時に 迅速 に対応が行えるようにな る。
組織の階層化 企業のトップが66人の部下をフラットな組織構造で直接管理した場合、トップは日常的な管理業務に追われるようになる。
2-2-1 中央集権的組織(p.29) テイラーの科学的管理法(生産現場に関する管理) (テイラーは機械技師出身のコンサルタント) ①課業管理、②差別的出来高制度、③ファンクショナル組織 ※著書『工場管理』(1903)、『科学的管理の原則』(1911) ①課業(タスク)管理:各作業者に公正な 仕事量 の割り当て 「動作研究」(細分化された作業の所要時間を測り、最も能 率的に作業を行える方法を明らかにした)に基づき、その 作業の所要時間を標準時間とし、一日に達成すべき仕事 量を割り当てた。 ②差別的出来高制度:金銭的報酬によって、作業者の 動機づけ を行う制度 課業を達成した人には高い賃率に基づく報酬、達成できな かった人には低い賃率に基づく報酬を支払う。
③ファンクショナル組織:職長の機能を 職能 ごとに分割 課業管理と出来高制度を実施すると、 職長 の仕事が仕事の割り 当て、作業手順の設定、作業の指示・監督、作業者の訓練と多岐に渡 り、管理の仕組みを変更する必要が生じた。 職長の機能を、現場の監督を行う「 執行 職能」と「 計画 職能」 に分割し、作業者はそれぞれの職長から支持を受けるようになった。 末端の作業者(構成員)は複数の職長の指示を受けている。
2-2-2 中央集権的組織の問題点(p.31) 規模拡大にともなう中央集権的な組織への移行
中央集権的組織の問題点 構造から生み出されるコミュニケーションに起因する問題 トップに状況を報告し、判断を仰がねばならない事態が発生 した場合、トップがその状況を把握し、意思決定を行い、現場 に指示・命令が伝達されるまでには、相当の 時間 や手間 を要する。 それによって、情報の鮮度が落ち、さらに、情報の 歪み が 発生・助長されることになる。情報に遅れや歪みがあれば、 トップが適切な意思決定を行うことは困難になる。 トップに権限が集中している状態では、現場の構成員やミドル (中間管理職)は、指示・命令通りに、業務を遂行することが 主に求められるようになり、現場での 創意工夫 が減り、 現場からの優れたアイデアが組織内に広まらなくなる。
中央集権的組織の問題点 トップに関する問題 どんなに優秀なトップでも管理能力と時間の制約が有り、多様か つ大量の業務を適切かつ迅速に処理し続けることには 限界 がある。 中央集権的組織における権限のトップへの集中は、トップの時間 や労力の 配分 を歪め、組織全体に悪い影響を与えることにな る。例えば、トップが日常的な活動の管理や調整に多くの時間が 奪われ、トップの最大の仕事である組織のビジョン作成・提示お よび 戦略 の構築・実施などに十分な時間や労力を割くことが できなくなる。 一握りのトップが責任を伴う重大な意思決定をすべて行っている ので、 後継者 育成の場が限られてしまう。組織が長期的に 存続するためには、 後継者 の育成も不可欠であるからであ る。
中央集権的組織の問題点 事業の多角化から発生する問題 組織は事業を 多角化 することによっても、成長することは可 能である。中央集権的な 機能別 組織は単一あるいは少数の 事業を抱える組織には有効に機能するかも知れない。しかし、多 様な事業を抱える組織には不向きな構造となる。 沢山の種類の事業を行う場合、事業分野によっては、特異な技術 や活動内容を行っているものも含まれるようになり、 画一的 に全事業を管理することに無理が生じるようになる。 さらに、多角化が進んだ場合、 トップ がすべての事業に精通 し、適切な意思決定を適宜行うことは、困難になる。 ※管理可能な人数と同様に事業の幅にも管理の限界がある。
2-2-3 分権的組織(p.33) 組織構造と戦略に関するチャンドラーの命題 米国の経営学者であるチャンドラー(Alfred D. Chandler, Jr.)は著書 『Strategy and Structure』(1962)の中で、20世紀前半に出現した米 国の 巨大 企業の比較研究を行った 。 それらの研究を通じて、経営戦略と組織構造について考察し、 「 組織は戦略に従う 」という命題を提唱した 。 19世紀の後半に完成した大陸横断鉄道によって、企業の商圏が 飛躍的に拡大し、巨大企業が多数出現した。 企業の中には、 シナジー (相乗)効果を活用するために、複数 事業を展開する 多角化 戦略を採用する企業が増えた 。 ※シナジー(相乗)効果とは、単一企業が複数の事業活動を行うことによって、複 数の企業が個別に行うよりも大きな成果が得られる効果(結合効果とも呼ぶ) 多角化した組織を適切に運営するには、中央集権的組織から分権 的組織である「 事業部制 組織」への移行が不可欠となった。 多角化戦略を遂行するために、組織構造の変更が必要となった。
チャンドラーが考察した4つのビッグビジネス ➀デュポン; フランス革命後に米国に移り住んだエ ルテール・イレネー・デュポン(左写真: 1872年生まれ)が1902年にデラウェア 州に設立した化学会社。 1920年頃には、子会社のRepauno Chemical Company(1880年設立)が世 界最大の ダイナマイト 製造業者と なる。 1935年にデュポン社のウォーレス博士 (Dr. Wallace Carothers)が世界で初め ての合成繊維( ナイロン )を発明し た。ストッキングを商品化し大ヒット。
チャンドラーが考察した4つのビッグビジネス ②GM(ゼネラルモーターズ); 1908年にWilliam Billy Durantがミシガン 州Flintに設立。多数の自動車メーカー (Buick、 Chevrolet、Cadillac)を 買収 しながら成長を遂げる。写真(GMのホー ムページより抜粋)は1920年頃のレース の様子。現在でも米国自動車メーカの ビッグ3の一角で、本社はミシガン州デト ロイトにある)
チャンドラーが考察した4つのビッグビジネス ③スタンダード・オイル(石油); 1880年に ロックフェラー がオハイオ 州に設立した石油会社。 スタンダード・オイル設立以前から石油 精製所の買収を繰り返し、全米で消費さ れる石油の90%を精製した時期(1860 年代~1900年代の初めまで)もあった。 1890年に連邦議会が シャーマン 法 (不法な制限および独占に対して取引を 保護する法律)を制定したので、本社を ニュージャージに移転するなどによって 一旦回避した。しかし、1911年に連邦最 高裁から解体命令が出され、34の会社 に分割させられた。 クリーブランドにあった 第1製油所(1899年) Wikipediaより抜粋
チャンドラーが考察した4つのビッグビジネス ④シアーズ・ローバック (Sears, Roebuck and Company ); 1893年シカゴにおいてRichard Warren Sears (左写真:1863年生まれ)がシアーズ・ローバッ ク社(Sears, Roebuck and Company)を設立(リ チャードは元ミネソタ州の駅員で、駅員時代か ら売れ残った時計を買い取って、 通信販売 をしていた)。 1896年 カタログ 販売を開始。 1925年 百貨店 展開開始。 1980年頃までは全米最大の小売業者(百貨店 やカタログ通信販売)本社はシカゴ
チャンドラーの分析結果 多角化戦略採用による事業部制の出現 チャンドラーの分析結果 多角化戦略採用による事業部制の出現 経済発展(ビジネスチャンスの拡大)とともに、 企業の中には、シナジー(相乗)効果やコンプリメント(補 完)効果を活用した 多角化 戦略を採用する企業が増え た(複数事業を展開するようになった)。 そして、多角化戦略を適正に実行できる組織形態への変 更が必要となり、命題「 組織は戦略に従う 」を導出 した。 デュポン社の事例から、集権的組織(職能部門組織)から 分権的組織( 事業部制組織 )への移行が起こること を論じた。
事業部制の利点 (1)問題が発生した場合に、当該事業部内で 迅速 に対応できるようになる。 (1)問題が発生した場合に、当該事業部内で 迅速 に対応できるようになる。 (2) 独立採算 制採用によって、各事業部が採算を改善する行動を積極的に行うようになる。 (3)事業部ごとの業績を把握できるようになり、 事業構成を適宜見直せるようになる。 (4)トップの負担を軽減し、トップが全社的な ビジョン や戦略作成に専念できるようになる。 (5)事業部長は様々な意思決定を行う権限が与えられるので、各事業部が 後継者 を養成する場所となる。