マネジメントと20世紀前半の経営学の基本的思考 第4回 分権権的組織 『組織マネジメント入門』の第2章3節 2015年秋学期 経営学3 マネジメントと20世紀前半の経営学の基本的思考 技術進歩、企業規模の拡大、環境変化など マネジメントの基本的思考(論点)変化(発展) 19世紀末 熟練作業者や経営者の経験と勘に依存 1930 1960 1970 テイラー:作業者の最大効率を引き出す チャンドラーの命題(分権的な事業部制組織の出現) メイヨー:人間関係によって生産性向上 従業員の想像性を重視し、組織能力拡充 マズロー:欲求には段階がある ファヨール:企業全般管理必要 外部環境に合わせるのが重要。 バーナード:組織の定義と存続条件 中央集権的組織
補足①中央集権的(機能別)組織における部門の分化と統合 環境 今日でも中央集権的組織は多数存 在している。 事業の幅が狭く、それらが類似して いれば、中央集権的組織を維持し てきたままの方が効率的である。 それでも 環境変化 に合わせて、 内部を変化させていかなければ、生 き残っていくことは難しい。 中央集権的組織の高度化は、環境 や部門の特性に応じて 部門 単 位での分化を進め、さらにそれらを 統合 することによって可能となる。 異なる役割に合わせて、 分化 異なる部門を、 統合
補足①中央集権的(機能別)組織における部門の分化と統合 産業間で組織構造が異なることをローレンス&ローシュ(1967)『組織の条件適応理論』で分化、統合、環境の概念を用いて説明した。 ※ 分化 とは、 単純なもの・等質なものが、複雑なもの・異質なものに分かれてゆくこと(『大辞林』)。例えば、学問が分化するとか、細胞が内蔵に分化するなど。 ※統合が分化したものが集まり、全体として機能すること。 部門ごとに対応すべき環境要素を定義した。 ・研究開発部門→ 科学 的環境 (不確実性大) ・販売部門 → 市場 的環境 (不確実性中) ・製造部門 → 技術・経済 環境(不確実性小) ※部門ごとに対応しなければならない環境の不確実性が異なるので、部門ごとに環境に合った構造に分化(進化・変化)することが必要となるとした。
部門の分化と統合(ローレンス&ローシュ) さらに、部門の分化の方向性や程度について ① 目標 に対する考え方(目標志向)、 ② 時間 に対する考え方(時間志向)、 ③ 交渉の仕方(対人志向)、 ④ 公式規則の重要性や階層の数(構造の公式性)、 等で測定している。 良い業績を挙げている企業は、それぞれの部門が環境(変化) に上手に対応している。 しかし、部門間で全く異なる考え方を持っている場合には問題 が発生することがある(例えば、新製品開発に関して、見解が 積極派と懐疑派など部門間で異なる場合など)。
分化した部門の統合 好業績を挙げている企業は、高度に分化された部門を適切な形 で 統合 していた。その特徴は以下の6点であった。 好業績を挙げている企業は、高度に分化された部門を適切な形 で 統合 していた。その特徴は以下の6点であった。 統合担当者が各部門に対する バランス感覚 が良かった。 統合担当者の 権限 や立場でなく、能力や知識の影響力が あった。 統合担当者は企業 全体 の業績に関心があった。 全ての部門管理者が決定に影響力があると感じていた。 必要な知識を持っている階層の影響力があった。 部門間の問題発生時に、 対面 で話し合っていた。
産業間の比較結果(ローレンス&ローシュ) 彼らは、プラスチック、食品、容器産業を比較分析対象とし た。当時の産業の置かれている環境はプラスチック産業変 化の激しく、食品産業が続き、容器産業が安定的であった。 部門の 分化 は、変化の激しい産業ほど高度化していた。 部門間の統合は、全ての産業が必要であった。 各産業の企業の中で、業績の高い企業ほど統合が上手に 出来ていた。
2-2-3 分権的組織(p.33) 組織構造と戦略に関するチャンドラーの命題 米国の経営学者であるチャンドラー(Alfred D. Chandler, Jr.)は著書 『Strategy and Structure』(1962)の中で、20世紀前半に出現した米 国の 巨大 企業の比較研究を行った 。 それらの研究を通じて、経営戦略と組織構造について考察し、 「 組織は戦略に従う 」という命題を提唱した 。 19世紀の後半に完成した大陸横断鉄道によって、企業の商圏が 飛躍的に拡大し、巨大企業が多数出現した。 企業の中には、 シナジー (相乗)効果を活用するために、複数 事業を展開する 多角化 戦略を採用する企業が増えた 。 ※シナジー(相乗)効果とは、単一企業が複数の事業活動を行うことによって、複 数の企業が個別に行うよりも大きな成果が得られる効果(結合効果とも呼ぶ) 多角化した組織を適切に運営するには、中央集権的組織から分権 的組織である「 事業部制 組織」への移行が不可欠となった。 多角化戦略を遂行するために、組織構造の変更が必要となった。
チャンドラーが考察した4つのビッグビジネス ➀デュポン; フランス革命後に米国に移り住んだエ ルテール・イレネー・デュポン(左写真: 1872年生まれ)が1902年にデラウェア 州に設立した化学会社。 1920年頃には、子会社のRepauno Chemical Company(1880年設立)が世 界最大の ダイナマイト 製造業者と なる。 1935年にデュポン社のウォーレス博士 (Dr. Wallace Carothers)が世界で初め ての合成繊維( ナイロン )を発明し た。ストッキングを商品化し大ヒット。
チャンドラーが考察した4つのビッグビジネス ②GM(ゼネラルモーターズ); 1908年にWilliam Billy Durantがミシガン 州Flintに設立。多数の自動車メーカー (Buick、 Chevrolet、Cadillac)を 買収 しながら成長を遂げる。写真(GMのホー ムページより抜粋)は1920年頃のレース の様子。現在でも米国自動車メーカの ビッグ3の一角で、本社はミシガン州デト ロイトにある)
チャンドラーが考察した4つのビッグビジネス ③スタンダード・オイル(石油); 1880年に ロックフェラー がオハイオ 州に設立した石油会社。 スタンダード・オイル設立以前から石油 精製所の買収を繰り返し、全米で消費さ れる石油の90%を精製した時期(1860 年代~1900年代の初めまで)もあった。 1890年に連邦議会が シャーマン 法 (不法な制限および独占に対して取引を 保護する法律)を制定したので、本社を ニュージャージに移転するなどによって 一旦回避した。しかし、1911年に連邦最 高裁から解体命令が出され、34の会社 に分割させられた。 クリーブランドにあった 第1製油所(1899年) Wikipediaより抜粋
補足① ロック・フェラー(John D. Rockefeller) 別名「追いはぎ貴族」「全米1の金持ち」「偉大なる慈善家」 1939年 ニューヨーク生まれ 1853年(14歳)クリーブランドに引っ越し(東海岸から西へ次第に経済発展) 1855年(16歳)Hewitt & Tuttle社(石炭、穀物、生地などの卸売)に就職し、 簿記・経理 を担当。 1859年(20歳)会社を設立(小麦、豚肉、塩の売買など) 1863年(24歳)石油製油所に投資(ペンシルバニアから 鉄道 輸送し、精製) 1870年(31歳)スタンダード・オイル・オブ・オハイオ( SOHIO )を設立 ※強引な手法でライバルを買収(「クリーブランドの制服あるいは虐殺」) ※ 上流 部門への進出(石油探鉱や開発業者も買収) 1911年 エクソンモービルとシェブロンなど30数社に分割。 1937年 フロリダにて死去(97歳)
補足② スタンダードオイル誕生とその背景 産業革命(18世紀の英国)後、 石炭 を動力とした水蒸気が、使用されていた が、 19世紀後半に米国各地で油田開発(1859年米国ペンシルバニア州で世界 初の貯留層からRock Oilの採掘に成功)が進んだ( ランプ 用の灯油)。 ※鯨油が品薄となり、安価で豊富な石油へ ロックフェラーは同業者買収し、さらに上流部門も買収した。 油田開発のリスクが減少した( 規模 により倒産リスク縮小)。 精製技術が向上し、 良質 の灯油が 安価 に提供できるようになった。 副産物の ガソリン を廃棄せずに、自動車の 内燃機関 用に活用した。 上流から下流(市場での利用)まで 統合的 に管理した。 (採掘→精製→輸送→取引・販売) ※スタンダード・オイルのスタンダードは「市場における 最高水準 を保証し ている」ことを意味する。 ※規模により鉄道会社との価格交渉力が強かった。
チャンドラーが考察した4つのビッグビジネス ④シアーズ・ローバック (Sears, Roebuck and Company ); 1893年シカゴにおいてRichard Warren Sears (左写真:1863年生まれ)がシアーズ・ローバッ ク社(Sears, Roebuck and Company)を設立(リ チャードは元ミネソタ州の駅員で、駅員時代か ら売れ残った時計を買い取って、 通信販売 をしていた)。 1896年 カタログ 販売を開始。 1925年 百貨店 展開開始。 1980年頃までは全米最大の小売業者(百貨店 やカタログ通信販売)本社はシカゴ
チャンドラーの分析結果 多角化戦略採用による事業部制の出現 チャンドラーの分析結果 多角化戦略採用による事業部制の出現 経済発展(ビジネスチャンスの拡大)とともに、 企業の中には、シナジー(相乗)効果やコンプリメント(補 完)効果を活用した 多角化 戦略を採用する企業が増え た(複数事業を展開するようになった)。 そして、多角化戦略を適正に実行できる組織形態への変 更が必要となり、命題「 組織は戦略に従う 」を導出 した。 デュポン社の事例から、集権的組織(職能部門組織)から 分権的組織( 事業部制組織 )への移行が起こること を論じた。
事業部制組織の一例 組織を製品別あるいは地域別に事業部を区分けし、 市場 に 近い所で意思決定が行えるような仕組みが整えられている。 組織を製品別あるいは地域別に事業部を区分けし、 市場 に 近い所で意思決定が行えるような仕組みが整えられている。 それぞれの事業部の事業部長は、その運営に際して、幅広い権 限が与えられる一方で、自事業部の成果に対して責任を負うよう になる。各事業部が利益責任単位( プロフィット ・センター)と して位置づけられている.
各事業部の業績の適切な評価 社内(事業部間)取引の算定 各事業部の業績を適切に評価するには、社内(事業部間)の 取引 も売上やコストとして算定することが必要となる。 主な算定方式はコスト・プラス方式と完全な市場価格に基づく 方法である。 コスト・プラス方式では、実際の 原価 に事業部の一定の 利益率 をプラスして価格を計算することによって、社内取引 の費用や売上を算定する。 市場価格に基づく方式では、市場価格を基準に 振替 価格 を算定する。
職能部門組織から事業部制組織への移行 職能部門組織(中央集権的) → 事業部制組織(分権的) 本社 本社 生 産 営 業 購 買 技 術 財 → 事業部制組織(分権的) 本社 本社 本社 スタッフ 生 産 営 業 購 買 技 術 財 務 事業A 事業A 事業B 生 産 営 業 購 買 技 術 財 務 生 産 営 業 購 買 技 術 財 務 事業B ※事業部単位で意思決定や対応ができるようになる。
事業部制の利点 (1)問題が発生した場合に、当該事業部内で 迅速 に対応できるようになる。 (1)問題が発生した場合に、当該事業部内で 迅速 に対応できるようになる。 (2) 独立採算 制採用によって、各事業部が採算を改善する行動を積極的に行うようになる。 (3)事業部ごとの業績を把握できるようになり、 事業構成を適宜見直せるようになる。 (4)トップの負担を軽減し、トップが全社的な ビジョン や戦略作成に専念できるようになる。 (5)事業部長は様々な意思決定を行う権限が与えられるので、各事業部が 後継者 を養成する場所となる。
2-2-4 分権的組織の問題点(p.36) 事業部制(分権的組織)の縦割り構造に起因する問題点 分権的な事業部制組織の最大の問題は、縦割りの弊害等 セクショナリズム に陥り易くなることである。 各事業部に責任と権限を委譲しているので、各事業部は自事業部の業績を最優先に考え、 行動 するようになる。 事業部間の競争意識が悪い方向に働いた場合、予算、人、情報などの経営資源の 囲い込み が組織内で横行する。 事業部の枠組みが事業部間のコミュニケーションを阻害し、組織全体としての協力関係を崩壊させる原因となりうる。そのような状況下では、内部資源を十分に活用できない状況が発生し、 重複 した投資が行われる危険もある。 各事業部が独自に利益の最大化( 部分最適 )を図っても、その結果が全体利益の最大化(全体最適)につながるとは限らない。それどころか、同じ社内に複数の事業を抱えることの意義自体を失うことになる 。
事業部制(分権的組織)のその他の問題点 それは独立採算制であるが故に 短期 志向に陥り易くなることである。 それは独立採算制であるが故に 短期 志向に陥り易くなることである。 ※研究開発、人材育成、設備投資などは長期的な視点で行われるべきものであるが、投資の効果は短期間では現れないことが多い。各事業部が短期的な業績を向上させるために、長期的な投資を抑制し、短期的に効果を得やすい経費削減や 値引き 販売などが選択され易くなる。 ※研究開発、人財育成、設備投資などが長期的な視点で行われなければ、将来の事業の運営に支障をきたす恐れがある。さらに、企業が長期的に安定して存続するためには、現時点で稼ぎ頭として活躍している事業だけでなく、 将来有望 な事業を育てていくことも必要である。 中央集権的な機能別組織による対応では無理が生じるようになり、分権的な事業部制組織への移行が行われるようになったが、このような事業部制組織においても更なる組織 規模 の拡大によって、事業部制組織の弊害が無視できないものとなる(事業の多角化)。その際に、組織の再編によって、事業部組織の弊害を打破しようとする動きが活発に試みられるようになる。