9 応用:国際貿易
一国がある財を輸出するのか輸入するのかを決めるのは何か?
国々の間の自由貿易によって誰が利益を得て、誰が損失を被るのかだろうか?
人々が貿易規制を主張するときに利用する議論とはどんなものだろうか?
1. 貿易の決定要因 貿易がないときの均衡(Equilibrium) 以下のことを仮定しましょう: 1. 貿易の決定要因 貿易がないときの均衡(Equilibrium) 以下のことを仮定しましょう: この国はそれ以外の世界(the rest of the world: ROW)から隔離されていて、鉄鋼を生産している。 鉄鋼市場は国内の買い手と売り手から構成されている。 国のなかの誰も鉄鋼を輸出したり輸入したりすることを禁じられている。
図9-1 貿易がないときの均衡 鉄鋼 の価格 国内需要 消費者余剰 国内供給 均衡価格 均衡取引量 生産者余剰 鉄鋼の量 図9-1 貿易がないときの均衡 鉄鋼 の価格 国内需要 消費者余剰 国内供給 均衡価格 均衡取引量 生産者余剰 鉄鋼の量 Copyright © 2004 South-Western
国際貿易がないときの均衡 貿易がないときの均衡 結果: 国内価格が、需要と均衡をバランスさせるように調整する。 消費者余剰と生産者余剰の合計が、売り手と買い手の双方が受ける利得の総計を示す。
世界価格と比較優位 この国が国際貿易を始めることを決心すると、この国は鉄鋼の輸入国になるでしょうか、それとも輸出国になるでしょうか?
世界価格と比較優位 自由貿易の影響は、この財について、貿易が無いときの国内価格と世界価格( world price )を比べることによって示される。世界価格とは、この財の世界市場で実現されている価格のことである。
世界価格と比較優位 もしこの国が比較優位をもっているならば、国内価格は世界価格より低くなり、この国はこの財の輸出国(exporter)になるであろう。
世界価格と比較優位 もしこの国が比較優位を持っていなかったら、国内価格は世界価格よりも高くなり、この国はこの財の輸入国(importer)となるであろう。
図9-2 輸出国における国際貿易 鉄鋼 の価格 国内需要 国内供給 貿易 後の 価格 世界 国内 需要量 国内 供給量 貿易 前の 価格 図9-2 輸出国における国際貿易 鉄鋼 の価格 国内需要 国内供給 貿易 後の 価格 世界 国内 需要量 国内 供給量 貿易 前の 価格 輸出 鉄鋼の量 Copyright © 2004 South-Western
図9-3 輸出国における自由貿易の厚生への影響 図9-3 輸出国における自由貿易の厚生への影響 鉄鋼 の価格 国内需要 国内供給 貿易 後の 価格 世界 輸出 D C B A 貿易 前の 価格 鉄鋼の量 Copyright © 2004 South-Western
図9-3 輸出国における自由貿易の厚生への影響 図9-3 輸出国における自由貿易の厚生への影響 鉄鋼 の価格 国内需要 貿易前の消費者余剰 国内供給 貿易 後の 価格 世界 輸出 D C B A 貿易 前の 価格 貿易前の 生産者余剰 鉄鋼の量 Copyright © 2004 South-Western
輸出国における自由貿易の厚生への影響 貿易前 貿易後 変化 消費者余剰 A+B A -B 生産者余剰 C B+C+D +(B+D) 総余剰 A+B+C A+B+C+D +D
貿易からの勝ち組と負け組 輸出国の分析から次の二つの結論が導かれる: その財の国内生産者の厚生は改善し、国内の消費者の厚生は悪化する。 貿易はその国全体の経済的福祉を向上させる。
輸入国の利益と損失 輸入国における国際貿易 もし鉄鋼の世界価格が国内価格よりも低ければ、その国は、貿易が認められたときに、輸入国となるであろう。 国内消費者は、鉄鋼をより低い世界価格で買いたいと思うだろう。 鉄鋼の国内生産者は、国内価格が世界価格と同じになるので、その生産量を減少させるであろう。
図9-4 輸入国における自由貿易の厚生への影響 図9-4 輸入国における自由貿易の厚生への影響 鉄鋼 の価格 国内需要 国内供給 貿易 前の 価格 貿易 後の 価格 世界 国内の 供給量 国内の 需要量 輸入 鉄鋼の量 Copyright © 2004 South-Western
図9-5 輸入国における自由貿易の厚生 鉄鋼 国内需要 の価格 国内供給 C B D A 貿易 前の価格 貿易 後の価格 世界 価格 輸入 図9-5 輸入国における自由貿易の厚生 鉄鋼 国内需要 の価格 国内供給 C B D A 貿易 前の価格 貿易 後の価格 世界 価格 輸入 鉄鋼の量 Copyright © 2004 South-Western
図9-5 輸入国における自由貿易の厚生への影響 図9-5 輸入国における自由貿易の厚生への影響 鉄鋼 A 国内需要 の価格 貿易前の消費者余剰 国内供給 貿易 前の価格 C B 貿易前の 生産者余剰 貿易 後の価格 世界 価格 鉄鋼の量 Copyright © 2004 South-Western
図9-5 輸入国における自由貿易の厚生への影響 図9-5 輸入国における自由貿易の厚生への影響 鉄鋼 国内需要 の価格 貿易後の消費者余剰 国内供給 C B D A 貿易 前の価格 貿易 後の価格 世界 価格 輸入 貿易後の生産者余剰 鉄鋼の量 Copyright © 2004 South-Western
輸入国における自由貿易の厚生への影響 貿易前 貿易後 変化 消費者余剰 A A+B+D +(B+D) 生産者余剰 B+C C -B 総余剰 A+B+C A+B+C+D +D
貿易による勝ち組と負け組 輸入国における自由貿易の厚生への影響 輸入国についての分析は次のような二つの結論を導き出す: この財の国内生産者の厚生は低下し、国内消費者の厚生は増加する。 自由貿易による消費者の利益が生産者の損失を上回るので、貿易はその国全体の経済的福祉を向上させる。
貿易による勝ち組と負け組 勝ち組の利益は、負け組の損失を上回る。 総余剰の純変化はプラス である。
関税の効果 関税( tariff )とは、海外で生産され国内で販売される財に対してかけられる税金のことである。 関税は輸入財の価格を関税の分だけ、世界価格より上昇させる。
図9-6 関税の効果 鉄鋼 の価格 国内需要 国内供給 貿易なしの均衡 関税 時の価格 Q Q 関税 関税 なしの価格 世界価格 Q Q 図9-6 関税の効果 鉄鋼 の価格 国内需要 国内供給 貿易なしの均衡 関税 時の価格 Q S Q D 関税 関税 なしの価格 世界価格 Q S Q D 関税がある ときの輸入 鉄鋼の量 関税がない ときの輸入 Copyright © 2004 South-Western
図9-6 関税の効果 関税前の消費者余剰 関税前の 生産者余剰 鉄鋼 の価格 国内需要 国内供給 貿易がない ときの均衡 関税 なしの価格 図9-6 関税の効果 鉄鋼 の価格 国内需要 関税前の消費者余剰 国内供給 関税前の 生産者余剰 貿易がない ときの均衡 関税 なしの価格 世界価格 Q S Q D 鉄鋼の量 関税がない ときの輸入量 Copyright © 2004 South-Western
図9-6 関税の効果 関税があるときの 消費者余剰 鉄鋼 の価格 A B 国内需要 国内供給 貿易がない ときの均衡 関税 時の価格 Q Q 図9-6 関税の効果 鉄鋼 の価格 A B 国内需要 関税があるときの 消費者余剰 国内供給 貿易がない ときの均衡 関税 時の価格 Q S Q D 関税 関税 無しの価格 世界価格 Q S Q D 関税がある ときの輸入量 鉄鋼の量 関税がない ときの輸入量 Copyright © 2004 South-Western
図9-6 関税の効果 関税後の 生産者余剰 鉄鋼 の価格 国内需要 国内供給 貿易がない ときの均衡 関税 時の価格 C G 関税がある 図9-6 関税の効果 鉄鋼 の価格 国内需要 国内供給 関税後の 生産者余剰 貿易がない ときの均衡 関税 時の価格 C G 関税がある ときの輸入量 Q S D 関税 関税 なしの価格 世界価格 Q S Q D 鉄鋼の量 関税がない ときの輸入量 Copyright © 2004 South-Western
図9-6 関税の効果 関税収入 鉄鋼 の価格 国内需要 国内供給 関税 時の価格 関税がある ときの輸入量 Q E 関税 関税 無しの価格 図9-6 関税の効果 鉄鋼 の価格 国内需要 国内供給 関税収入 関税 時の価格 関税がある ときの輸入量 Q S D E 関税 関税 無しの価格 世界価格 Q S Q D 鉄鋼の量 関税がない ときの輸入量 Copyright © 2004 South-Western
図9-6 関税の効果 死荷重 鉄鋼 の価格 A 国内需要 国内供給 B 関税 時の価格 C G D F Q E Q 関税 関税 なしの価格 図9-6 関税の効果 鉄鋼 の価格 A 国内需要 国内供給 死荷重 B 関税 時の価格 C G D F Q S E Q D 関税 関税 なしの価格 世界価格 Q S Q D 関税がある ときの輸入量 鉄鋼の量 関税がない ときの輸入量 Copyright © 2004 South-Western
関税の効果 関税前 関税後 変化 消費者余剰 A+B+C+D+E+F A+B -(C+D+E+F) 生産者余剰 G C+G +C 政府収入 なし E +E 総余剰 A+B+C+D+E+F+G A+B+C+E+G -(D+F)
関税の効果 関税は輸入量を減少させ、国内市場を「貿易無しの均衡」により近づけさせる。 関税があると、市場における総余剰は死荷重の分だけ減少する。
輸入割当の効果 輸入割当て( import quota )とは、海外で生産され、国内で販売される財の量に対する制限である。
図9-7 輸入割当ての効果 鉄鋼 の価格 国内需要 国内供給 貿易がない ときの均衡 国内 供給 + 輸入供給 割当て 割当てが あるときの 図9-7 輸入割当ての効果 鉄鋼 の価格 国内需要 国内供給 貿易がない ときの均衡 国内 供給 + 輸入供給 割当て 割当てが あるときの 価格 割当て時の 均衡 Q S Q D 世界価格 世界 価格 割当て なしの = Q S Q D 割当て 時の輸入量 鉄鋼の量 割当てが 無いときの輸入量 Copyright © 2004 South-Western
輸入割当ての効果 輸入割当ては国内価格を世界価格よりも上昇させるので、この財の国内の買い手の厚生は低下し、国内の売り手の厚生は上昇する。 割当ての許可証の保有者は、世界価格で買った財をそれよりも高い国内価格で売ることができるので、利益が得ることができ、厚生が改善する。
図9-7 輸入割当ての効果 鉄鋼 の価格 A 国内 国内供給 貿易がない ときの均衡 国内 供給 + 輸入供給 割当て B 割当てが 図9-7 輸入割当ての効果 鉄鋼 の価格 A 国内 国内供給 貿易がない ときの均衡 国内 供給 + 輸入供給 割当て B 割当てが あるときの 価格 割当て時の 均衡 Q S C D E' Q D F 世界価格 世界 価格 割当て なしの = E" Q S Q D G 割当て時の 輸入量 鉄鋼の量 割当てがない ときの輸入量 Copyright © 2004 South-Western
輸入割当ての効果 割当て前 割当て後 変化 消費者余剰 A+B+C+D+E’+E’’+F A+B -(C+D+E’+E’’+F) 生産者余剰 G C+G +C 許可証保有者の余剰 なし E’+E’’ +(E’+E’’) 総余剰 A+B+C+D+E’+E’’+F+G A+B+C+E’+E’’+G -(D+F)
輸入割当ての効果 割当てがあると、市場における総余剰は、死荷重の分だけ減少する。 割当てはさらに潜在的にはより大きな死荷重を生み出しうる。それは、ロビー活動のようなメカニズムによって輸入許可証が配分される場合である。
貿易政策についての結論 もし政府が輸入許可証をその価値分一杯まで販売することにすれば、その収入は同等の関税にまで達し、関税と輸入割当ての結果は同じになる。
貿易政策についての結論 関税も輸入割当ても、、、 国内価格を上昇させる。 国内の消費者の厚生を低下させる。 国内の生産者の厚生を増大させる。 死荷重を生み出す。
貿易政策の結論 国際貿易には他の利益もある。例えば、 財の種類を増やす。 規模の経済を使って、費用を下げる。 競争を増やす。 アイデアの流通を促進する。
貿易制限を支持する議論 雇用 安全保障 幼稚産業論 不公正競争 交渉力としての保護の議論
ケース・スタディ: 貿易協定と世界貿易機関(World Trade Organization) 一方的(Unilateral): 貿易制限を自ら廃止するもの 多角的(Multilateral): 外国が貿易制限を緩和するのと同時に自国も緩和するもの
ケース・スタディ: 貿易協定と世界貿易機関 GATT 関税と貿易に関する一般協定(The General Agreement on Tariffs and Trade:GATT)とは、自由貿易の促進を目指した世界の多くの国々の間での一連の交渉のことである。 GATTにより、加盟国の平均関税率を第二次世界大戦後の約40%から現在の約5%まで引き下げることに成功した。 1995年にGATTは世界貿易機関(World Trade Organization: WTO)に生まれ変わった。
要約 自由貿易の効果は、貿易がないときの国内価格と世界価格を比べることで確定できる。 国内価格のほうが低い場合には、その国がその財の生産に比較優位を持つので輸出国となる。 国内価格のほうが高い場合には、外国がその財の生産に比較優位をもつので輸入国となる。
要約 貿易を開始して財の輸出国になると、財の生産者の厚生は改善し、財の消費者の厚生は悪化する。 貿易を開始して、財の輸入国となると、財の消費者の厚生は改善し、財の生産者の厚生は悪化する。 どちらのケースにおいても貿易による利益は損失を上回る。
要約 輸入への税である関税は、市場を貿易がないときの均衡に近づけ、したがって貿易による利益を減少させる。 国内生産者の厚生は改善し、政府は税収を得るが、消費者の損失はこれらの利益を上回る。
要約 貿易制限を支持するさまざまな議論がある。それらは、雇用の確保、国内安全保障、幼稚産業保護、不公正競争の防止、外国の貿易制限への対応を根拠としたものである。 経済学者は通常、自由貿易のほうがよい政策であると考えている。