Dome Flat vs. Twilight Flat そしてアノマリパターン 2005-03-15 Ichi Tanaka
ドームフラットとトワイライトフラットを比較 1日目データ。ドームフラットを1日目にまとめて取得している関係上、1日目の明け方に取ったKバンドのTwilightデータしか比較できるものがない。 ドームフラットはオン点、オフ点を単純にそれぞれメジアン合成後引き算して作成。 オフ点のカウント 6620 ADU (ch1:MCSA04045.fits), 8070 ADU (ch2:MCSA04046.fits) オン点のカウント 7300 ADU (ch1:MCSA04063.fits), 8900 ADU (ch2:MCSA04064.fits) Twilightフラットは、空が暗い時のデータをOFF点としてメジアン合成。明るくなってきた段階データをOn点とするが、明るさに応じてアノマリパターンが明瞭に生じるため、オフ点、オン点ともアノマリ処理をしてから合成する。 オフ点データ処理。オフ点画像リストの一枚目の画像を基準として、2枚目以降の画像を1枚目カウントにスケールし、1枚目データを引き算する。すると2枚目データに入っているアノマリパターンが見えてくる。それをimsurfitでモデル化し、規格化済み2枚目データから引く。同様に全部のデータを処理してからメジアン合成。→OFF点データとする。 オン点処理:オン点リストの各々の画像からOFF点合成データを引く。オン点リストの一枚目のデータについて、0)と同じ行程を行ってアノマリパターンを除き、合成。規格化してフラットとする。 オフ点の基準画像カウント 2191 ADU (ch1: MCSA03751.fits) 2097 ADU(ch2:MCSA03752.fits) オン点の基準画像カウント 5912 ADU (ch1: MCSA03793.fits) 6887 ADU(ch2:MCSA03792.fits)
ドームフラットをトワイライトフラットで割った結果 どちらもきれいなアノマリパターンが支配的。これに伴う誤差は今の最大20%程度。これを抑えないと、ドームフラット自身の特性は見えにくい。 よく見ると、若干迷光の兆候が、アノマリパターンのX方向の傾きとして見える(矢印)。起源は不明。 0.9 1.0 1.1 1.2 0.9 1.0 1.1 1.2 ch1 ch2
アノマリパターンを減らすには アノマリはフラットを作った際のカウントの違いを反映して現れるグローバルパターン。実験として、Twilightデータから、ドームのOn-Offのカウントに近いカウントのセットを選び、それで仮twilightフラットを作り、ドームフラットと比較する事を考える。 Domeのオンオフ点と完全に同じカウントセットのデータは残念ながらないため、それに近い値の2画像を使ってOn・OFF点とし、グローバルなパターンの振る舞いを見る。 Ch1: オフ点カウント 5912 ADU (MCSA03793)、オン点 7070ADU (MCSA03795) Ch2: オフ点カウント 6886 ADU (MCSA03794)、オン点 8304ADU (MCSA03796) 前頁のTwilitフラット作成時に比べて、On-OFFカウント差は CH1: 3721 ADU (前頁TW)→ 1149 ADU (今回:domeは680ADU) CH2: 4790 ADU (前頁TW)→ 1418 ADU (今回: domeは830ADU) となった。まだ一致とは程遠いものの、カウント差は3分の1以下まで減っている。
アノマリを除く:割り算の結果 3ページ目と同じ表示レベル。アノマリパターンは弱まった。まだ残っているのは、ドームのOnOff差とTwilightデータのOnOff差がまだ2倍近くズレていためかと思われる。 なおアノマリ以外の成分がよりはっきり見えてきたが、各象限で不連続に振る舞うため迷光あるいはフラット光の非一様性とは別起源。これによる誤差成分は最大で5%。 0.9 1.0 1.1 1.2 0.9 1.0 1.1 1.2 ch1 ch2
比較 x=1050—1150pixelsの範囲の列を平均しプロットしてみた。横軸はy座標。 ch1 ch2 通常のTwilightフラットで割った。 カウントを合わせた仮の Twilightフラットで割った。 On-Offカウント差をドームに近づけた方はアノマリが半分弱。通常のTwilightのカウント差より1/3以上カウント差を近づけたのだから、その程度には減って欲しいが、そうはならなかった。アノマリパターンはカウント差には比例していない。 もっと低照度のTwilightを使って、よりDomeフラット作成時に近いカウント差を再現した画像も試したが、却ってアノマリは増えてしまった。当たり前だが、アノマリパターンの再現には同じ照度かつ同じカウント差が要求される。
カウントを合わせたドームフラット/Twilightフラットの結果 チャンネル1断面 アノマリパターン 謎のへたりパターン アノマリパターン
カウントを合わせたドームフラット/Twilightフラットの結果 チャンネル2断面 第一、第三象限外側のへたりパターンは、強度が違 うがチャンネル1と共通で出ている。電気的なもの? アノマリパターン へたりパターン アノマリパターン
アノマリをもう少し調べる。 アノマリパターンを引く操作は、フラット作成の要となると思われる。しかし、アノマリパターンは2つのフレームを比較して初めて見えてくるため、あるカウントのフラットに入っているアノマリパターンの絶対強度を直接測定する方法はない。単位時間に来る入射光強度と、おそらく露出時間にも依存すると思われる。 その意味でアノマリパターンの相対強度と入射光との関係を見ておくのは、アノマリの絶対量を予測できるかどうか考える上で重要である。そこでKバンドTwilightフラットデータを使って、入射光とアノマリの関係を見た。 まず、Twilightの「オン点」データ全てからオフ点データ(スカイカウントが上がり始める前のデータ平均)を引く。次に、オン点データリストの最初の一枚をアノマリ基準フレームとし、オン点データリストの2枚目以降の各画面中央のカウント値にアノマリ基準フレームのカウントをスケールした上で、それぞれから引く(この行程で初めてアノマリパターンが見えてくる)。結果画像の第3象限[400:900,400:500]付近のカウントを計り、それをアノマリのカウント値とする。さらに、その画像の生画像(オフ点を引く前)の中央平均カウントを出し、アノマリカウント値との関係をプロットする。
アノマリと画像カウント値との関係 ch1 ch2 横軸は生画像の中央付近平均値。アノマリの基準画像(onデータ1枚目)のアノマリカウントは解析行程上0になる。この基準画像からどの位アノマリが増加したか、が示されている。 *指数関数でフィットできそう。f(x)=a*exp(b*x)+cで試しにフィットすると(gnuplot)、 ch1: a=70 b=1.70 c=-200 ch2: a=30 b=1.70 c=-80 カウントが0でアノマリが0になると仮定すると、ゲタが評価できるか??
ある照度レベルでのアノマリパターンをフィットし、別の低めの照度のアノマリパターンにスケールして引き算してみると、小さなレベルでパターンの違いが見えるが、基本的には引き算できた。ただしch2の額縁模様は違う振る舞いをするなど、それなりに残差は出た。 アノマリパターンを消したといっても、 アノマリ引きの基準にした画像(オン点リストの最初の画像)自体に入っているアノマリパターンは評価できないため、アノマリ基準画像にどの位アノマリパターンが隠れているかが、この方法でのアノマリ引きの精度を決める。最終的には、同じ星を画面のあちこちに置いて測光し、実際に測光結果がどうばらつくかを確認する必要がある。 今回の結果を他の観測フレームにも適用できるかについては、まずアノマリ引きの基準にする画像のカウントレベルが違えば、当然結果も違ってくる(次ページ図)。さらに、露出時間などの違いに対してアノマリの振舞いがどう違ってくるかも見極める必要があり、まだまだ基礎データの蓄積が必要である。
アノマリ評価の基準画像が変わると・・・ ch1 Jバンドでの評価(1) Jバンドでの評価(2) Kバンドで評価したもの 「Off点」として扱った画像のカウント(1500ADU) Kバンドで評価したもの アノマリ基準とした画像のカウント(2280ADU) Jバンドで同じ実験をした。ただし、(1)はアノマリ基準画像を2300ADU程度の照度で評価し、(2)ではKバンドでの基準画像カウントに近い5500ADUの画像で見ている。 評価(2)とKバンドの値がずれているが、Off点として扱った画像がKの2230ADUより低いカウントのため(同じカウントの画像をOFF画像に選ぶと、ほぼ一致することは確認してある)。
まとめ ドームフラットとトワイライトフラットの差は、アノマリパターンが支配的だった。両チップにほとんど性質の差は見られなかった。それゆえ、カウントを制御しやすいドームフラットが推奨フラットとなる。 ただし、チップ1は残像が盛大で、オン点を取った後のオフ点は5枚以上影響が消えないケースもあった。取得は注意を要する。 アノマリパターンをどうフラットフレームから除去するかが正確なフラットの作成の要となる、と考えているが、そのためのドームフラットの取得手順を次ページにまとめた。 アノマリパターン抽出の基準にする画像に内在するアノマリパターンは除去できず、これが不定性となる。オフ点とアノマリ基準画像とのカウント差を小さく(<数100ADU)保つ事で不定性を小さく抑える事が可能と考えている。 これらの作業の上で、アノマリパターンは割り算でなく引き算するものである、というのは仮定だが、エンジニアリング的には合理的との事。 最終的な確認は視野の多くの場所に星を置き測光をして確認する必要がある。
アノマリを考えたドームの取り方 ライトOFFでたくさん取る(K)。 ライトちょっとだけつけて、低照度で数枚取る。OFF点+数100ADU程度。安定するまで時間が要る。 ライトをしっかりつけて、適当な枚数だけ取る。サチるかなり手前の、ピーク値15000ADU以下に抑える方が安全。安定するまで時間が要る。 ライトOnを取ったら5枚程度ダークを撮って残像消し。 解析 オフ点を合成する。 低照度On,およびオン点画像からオフ点画像を引く。 合成した低照度On画像をスケールして、各オン点画像から引きアノマリだけを引き出す。 Jバンドはオフ点は不要か。低照度On画像をスケールして引くだけでよいかもしれない(枚数は要る)。迷光、バイアスパターンをキャンセルする上で、小さな影響かもしれないが、オフ点があると確実。ただカウントはほとんどない。あるいは、低照度を2種類のカウントレベルで撮るのが推奨される。 アノマリパターンをフィットした面を作り、オン点画像から引く。タスク。 全部加工したらOn合成。低照度On画像に含まれるレベルのアノマリは残ってしまうが、これは仕方ない。これに起因する誤差は、低照度オン画像の照度レベル依存。 様々な輝度レベルが取れたら(Twilight)それでゲタを推定できるかもしれない。 *ここまでの解析や考察は、今後データがたまって来たら修正されることもあると思う。
Twilight vs. Self flatsについて *3月8日に投げたレポート「Twilight flatとSelf flatによる標準星解析」において使用したKバンドTwilightフラット画像は、ここでのアノマリ除去フラット作りの行程に従って処理した画像です。図1にあるようにSelf Flat画像とTwilight flat画像とは感度比がだいぶ違います。ここで使用しているSelfFlatの画像は標準星データで一枚あたりのカウントが3000-4000ADU程度である事から、アノマリもそれほど深刻ではないかも知れません(12ページの図からの類推)。しかし、一般的な天体画像のカウントレベルである10000ADU超のデータの場合、アノマリも大きくなって10%近い値になっている事も想像されます。セルフフラットの誤差はこのように大変大きな(>0.1mag)ものになる可能性が大きいと、現在までの解析が間違えていなければいえると思います。