視覚障害リハビリテーション協会 吉野由美子 2018年11月24日 視覚障害者就労促進フォーラム講演 「視覚障害リハビリテーションとは? -視覚障害リハビリテーションと職業訓練-」 視覚障害リハビリテーション協会 吉野由美子
自己紹介 私の年齢は71歳 身長124cm 体重70kg ロービジョン(弱視) 左0.2 右0.02 (矯正視力) 身長124cm 体重70kg ロービジョン(弱視) 左0.2 右0.02 (矯正視力) 大腿骨の発育不全による肢体障害者・腰椎圧迫骨折により移動時電動車いす・杖を使い分ける
私の履歴 1955〈昭和30〉年 教育大学付属盲学校(現筑波大学付属)小学部入学 1968〈昭和43〉年 同高等部普通科卒業 2年浪人後 1955〈昭和30〉年 教育大学付属盲学校(現筑波大学付属)小学部入学 1968〈昭和43〉年 同高等部普通科卒業 2年浪人後 1970〈昭和45〉年 日本福祉大学社会福祉学部社会福祉学科に初めての点字受験生として入学、1974年卒業 1974年から2年間名古屋ライトハウス明の星声の図書館にて中途視覚障害者の相談教務などを行う
私の履歴続き 1977年~88年 東京都児童相談センターにて障害児の問題などに関わる。その後日本女子大大学院で社会福祉を専攻、東京都立大学の助手 1999年 高知女子大(現高知県立大)に赴任障害者福祉論などを教えると共に、視覚障害リハビリテーションの普及活動に携わる 2009年~現在 視覚障害リハビリテーション協会長
視覚リハの普及はライフワーク 1974年名古屋ライトハウス明けの星声の図書館に就職。中途視覚障害者の相談業務に携わる 「一人でトイレに行けない」「歯磨きもできない」など,私の知っている視覚障害者とは別の人たちに会ってショックを受ける この出会いが視覚リハの普及を私のライフワークに決定する
講演の狙い 分かっているようで明確ではない視覚障害者の現状と、視覚障害リハビリテーションのイメージを明確化すること 我が国の視覚障害者の状況と視覚障害リハビリテーションの必要性を理解する 視覚障害リハビリテーションとは何かを理解する。 視覚障害者に対する職業訓練の位置づけを理解する。
我が国の視覚障害者の状況と 視覚障害リハビリテーションシステムの必要性 我が国の視覚障害者の状況と 視覚障害リハビリテーションシステムの必要性
数字で見る視覚障害者像 2016年(平成28)生活のしずらさ等に関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査) では 2016年(平成28)生活のしずらさ等に関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査) では 視覚障害の身体障害者手帳取得者 31万2000人と推計(障害者全体の約7%) 内65歳以上の高齢視覚障害者が約69% 18歳未満5,000人 超少子化超高齢化
社団法人日本眼科医会の研究班が行った研究 報告2009(平成21年9月) URLhttp://www. gankaikai. or 社団法人日本眼科医会の研究班が行った研究 報告2009(平成21年9月) URLhttp://www.gankaikai.or.jp/info/20091115_socialcost.pdf 「視覚障害がもたらす社会損失額、8.8兆円!! ~視覚障害から生じる生産性や QOLの低下を、初めて試算~」
上記研究による 視覚障害者の数 アメリカの視覚障害の定義を使って分析 失明 188,000人 ロービジョン(弱視) 1,449,000人 アメリカの視覚障害の定義を使って分析 ロービジョンとは、良い方の眼の視力が0.5以下 0.1以上 失明 良い方の眼の視力が0.1以下 視覚障害 ロービジョン+失明 失明 188,000人 ロービジョン(弱視) 1,449,000人 合計 1,637,000人 年齢別に見ると70歳以上半数 60歳以上が72%
視覚障害者の推移・将来予想 (上記研究からの引用) 視覚障害者の推移・将来予想 (上記研究からの引用) 2030年には視覚障害者数は200万に達すると推計
視覚障害者の現状から見えてきたこと 視覚障害があることで日常生活に困っている方は、身体障害者手帳所持者の5倍程度いると推計。 視機能を活用できるようにすれば、視覚を使って読み書きができ、生活ができる人が多数である。 高齢視覚障害者が7割以上を占めている。 高齢の中途視覚障害者が急速に増加していくと予想できる。
視覚障害の原因の変化 1960年代ぐらいまで 栄養失調 トラホーム 細菌性の感染症によるもの(はしかや先天梅毒など) ↓ ↓ 比較的幼い頃から障害になった 現在のワースト5 緑内障 糖尿病網膜症 網膜色素変性症 加齢性黄斑変性症 脳血管障害によるもの ↓ 人生の半ばから高齢になってからの障害
幼いころからの視覚障害者 視覚以外の感覚からの情報を活用する能力が幼い頃からの学習と経験で身についている。 幼いころからの視覚障害者 視覚以外の感覚からの情報を活用する能力が幼い頃からの学習と経験で身についている。 盲学校での教育の中で先輩から後輩へハンディを乗り越えるための情報や技術が伝えられている。 見えない・見えにくいことによる情報入手のハンディを、少ない情報を整理し、記憶することによって補って行動している。 (例) 醤油の右隣には必ずソースの入れ物を置くなど 手がかりを持たない慣れないところでは、行動できなくなる。
中途視覚障害になると 視覚はあまりにも便利すぎる情報入手機関 中途視覚障害になると 視覚はあまりにも便利すぎる情報入手機関 そこで、人生の半ばで全盲やロービジョン状態になったら、とにかく一人ではなにもできないと感じ強いショックを受ける。 無気力状態となる。 中途視覚障害になってどこに相談したら良いのか等の情報がほとんどない。 こんな状態にいるのは自分一人だけだと言う強い孤立感
↓ 中途視覚障害者の持つ 視覚障害者像とは 中途視覚障害者は、視覚障害者になっても障害のない時に持っていたイメージをそのまま持ち続ける。 視覚障害者とは全然見えない人のこと 視覚障害者の使う文字は点字 視覚障害者の仕事はあんま、マッサージ、鍼、灸
リハビリテーションとは 視覚障害リハビリテーションの 内容 リハビリテーションとは 視覚障害リハビリテーションの 内容
リハビリテーション 言語の意味 「再びふさわしい状態にする」 語源 中世ヨーロッパにおいて、リハビリテーションとはキリスト教教会から破門された人が、破門をとかれて名誉を回復することをいう。 そこから、リハビリテーションは、「全人間的復権」を意味する リハビリテーションサービスの始まりは、第1次世界大戦以後とされている。戦争で負傷した負傷兵や炭鉱労働者等の障害者の増加に伴う対策
リハビリテーションの定義 -1982年国連「障害者に関する世界行動 計画における定義- リハビリテーションの定義 -1982年国連「障害者に関する世界行動 計画における定義- リハビリテーションとは、身体的、精神的、かつまた社会的にもっとも適した機能水準の達成を可能にすることによって、各個人が自らの人生を変革して行くための手段を提供していくことを目指し、かつ、時間を限定したプロセスである。
リハビリテーションの分野 医学的リハビリテーション 教育リハビリテーション 職業リハビリテーション 社会リハビリテーション(社会生活能力を高めることを目的としたプロセス) 機会均等化(社会環境が障害者にとって平等なものとして整備されるようにすること)
障害者の権利に関する条約 第一条 目的 この条約は、すべての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする。 障害者には、長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な障害を有する者であって、様々な障壁との相互作用により他の者と平等に社会に完全かつ効果的に参加することを妨げられることのあるものを含む。
障害者の権利に関する条約 第二十六条 リハビリテーション 障害者の権利に関する条約 第二十六条 リハビリテーション 締約国は、障害者が、最大限の自立並びに十分な身体的、精神的、社会的及び職業的な能力を達成し、及び維持し、並びに生活のあら ゆる側面に完全に受け入れられ、及び参加することを達成し、及び維持することを可能とするための効果的かつ適当な措置(障害者相互による支援を通じたもの を含む。)をとる。このため、締約国は、特に、保健、雇用、教育及び社会に係るサービスの分野において、包括的なリハビリテーションのサービス及びプログ ラムを企画し、強化し、及び拡張する。この場合において、これらのサービス及びプログラムは、次のようなものとする。 可能な限り初期の段階において開始し、並びに個人のニーズ及び長所に関する総合的な評価を基礎とすること。 地域社会及び社会のあらゆる側面への参加及び受入れを支援し、自発的なものとし、並びに障害者自身が属する地域社会(農村を含む。)の可能な限り近くにおいて利用可能なものとすること。
視覚障害リハビリテーションの 内容 ロービジョンケアについて 視覚障害リハビリテーションの 内容 ロービジョンケアについて
視覚障害リハビリテーションとは 視覚障害リハビリテーションとは、その人がそれまで培ってきた経験や保有視覚、視覚以外の感覚(触覚、聴覚など)、補助具を活用したり、社会サービスを利用したりする方法を知り、目が悪くなったために「できにくくなったこと」を「できる」ようにしていくこと。
視覚障害リハビリテーションの 目的(年齢別) 視覚を使わなくとも、あるいは見えにくくなっていても、生きていけると言う事を、簡単な事で、本人に自覚を持ってもらって、失った自信を取り戻してもらう事からはじめる 若年層では、学校への復学・復帰 中高年では、職業復帰・社会的な役割を果たせるようになること 高齢視覚障害者では、特にそのQOLの向上を図ること
ロービジョン〈弱視〉とは メガネ等で矯正しても視力、視機能が改善しないものをロービジョンという。 視野障害の例 視力障害の見え方
医療の中での視覚リハ (ロービジョンケア)とは 医療の中での視覚リハ (ロービジョンケア)とは 眼科での診察・検査(病名の特定) 医師の指示等によりロービジョンケアへ どんなことで困っているかの聞き取り 視機能の徹底した検査 補助具の選定と訓練 制度利用のための診断書作成 歩行等の訓練の受けられる施設への紹介 主に担当する人 視能訓練士が中心
視覚リハの内容 〇歩行 ガイド歩行(介助者とともに安全に効率的に歩く方法を学ぶ) 白杖歩行(白杖の基本的な使い方や機能を知るとともに、その方の視力・視野の状態に合わせて、どのような情報や手段を使って歩くかをご自分で考え力を身に着ける)・盲導犬歩行 〇 コミュニケーション(読み書きと情報収集・発信) 拡大読書器やルーペの活用 パソコン(音声読み上げソフトや画面拡大ソフトの活用) ハンドライティング・点字(触読) 〇 日常生活技術 身辺動作(着席、食事動作、トイレの利用、整容、金銭管理、電話の利用、時計等の利用 など) 家事動作(そうじ、洗濯、裁縫、調理 など) 〇職業訓練
視覚障害生活訓練指導員(歩行訓練士) の仕事内容 ①視覚障害児・者に関わる相談 ②視覚障害者の生活訓練 ③視覚障害向け機器紹介と訓練 ④施設職員やヘルパー研修などの講師 ⑤バリアフリーに関する相談 (点字ブロックの事や、新しい建物の相談) 訪問での訓練や地域に出向いての講座などを行い、広く社会啓発的な役割を果たせる。
職業訓練 視覚障害リハビリテーション 普及を妨げてきたもの
古い認識と実態のミスマッチ1 視覚障害者は31万人で、少数者 実際は、その5倍以上の数がいる 盲学校で職業教育まで受けて社会に出られる 幼い頃からの障害者約20%、中途視覚障害者約80%は社会に認識されていない 幼い頃からの視覚障害者と中途視覚障害者のニーズの違いに対する社会の認識のなさ 中途視覚障害者には、リハビリが必須
生活訓練軽視の傾向 我が国のリハビリテーションは「厚生」と訳されて、リハの目標=経済的自立であった 歴史的な背景に基づく、「あ・は・き」ができれば(経済的自立ができれば)良いという偏った意識→職業訓練重視の視覚リハ 職業訓練を受ける前の基本的なリハの欠如 職業を持ち、社会参加をすることは、リハの重要な目標だが、そこに到達するためのシステムがなければ、職業訓練は成り立たない
社会の認識と実態のミスマッチ2 視覚障害者=全盲者という認識のため、9割を占める視機能を使えるロービジョンのある方に適した発達支援、リハビリテーションサービスが発展しなかった。 ロービジョンのある当事者に取っては、「自分は盲(視覚障害)ではないという強い抵抗があり、視覚リハサービスになかなか繋がらなかった。
医療とリハビリのミスマッチ 約50年前に歩行訓練や生活訓練の方法、技術が我が国に導入された。 歩行訓練や生活訓練の方法は、眼科医療とは別の世界、福祉の世界で発達した。 眼科医は、ほとんど視覚リハについての情報を持たず、有用性を理解するチャンスもなかった。
視覚障害者支援には 4つの対象別メニューが必要 幼い頃からの視覚障害 Ⅰ全盲 Ⅱロービジョン(弱視) 必要な支援 発達支援 教育 就労支援など 中途視覚障害 Ⅲ全盲 Ⅳロービジョン(弱視) 必要な支援 視覚障害 リハビリテーション (ロービジョンケア)
必要な時に視覚リハの情報を得られる新しい動き 眼科から始まる視覚リハ (ロービジョンケア)
ロービジョンケアとスマートサイト 2004年頃 臨床眼科学会で眼科医療がロービジョンケアを重視することを宣言される 2004年頃 臨床眼科学会で眼科医療がロービジョンケアを重視することを宣言される 医療保険におけるロービジョン検査判断料の新設 ↓ 医療機関から、教育・福祉等で行う視覚リハサービスへの紹介と、視覚リハに対する成果への期待が高まってきた。
ロービジョンケアと地域連携 (スマートサイト) スマートサイトとは、アメリカ眼科医会で始まったシステム。日本では約20年前に導入 見えない・見えにくい状態になった患者さんに、眼科医が地域で視覚リハを受けられる教育・福祉の施設リストアップしたリーフレットを渡し、患者は必要に応じて、その施設に連絡する。 現時点でスマートサイトが導入している県は以下の28県になっています。 北海道、青森、秋田、宮城、山形、福島、山梨、新潟、東京、静岡、愛知、岐阜、福井、石川、富山、三重、京都、大阪、兵庫、岡山、広島、徳島、香川、愛媛、高知、福岡、熊本、鹿児島 計28県(2018年9月現在)
まとめに変えて 当事者として 視覚リハ専門家として 約40年間の経験から 思うこと
自分の経験や信念やこだわりからではなく 一人一人の状況に合った選択肢の提示をしてください。
大企業の多い地区と 農業や漁業などが中心の地区 ご本人の学歴や経験 それらを考慮したアドバイスを
見えない・見えにくくなってもやっていけるということを 中途視覚障害者に早急に伝える私たちの側からの努力を 今努めているところを辞めてしまわない前に相談できる窓口の設置、環境の整備を
ご静聴ありがとうございました
視覚障害リハビリテーション 協会について 視覚障害者を支援する専門家や当事者が互いの実践を交換し学び合う場所 協会ホームページ http://www.jarvi.org/ 2019年度第28回盛岡大会のページ http://www.sado-ec.com/z28m000_top.html
テーマ: 視覚リハの最先端と最前線 2019年7月26日(金)~28日(日)
乞うご期待! ● 特 別 講 演 ● シンポジウム 就労 スマートサイト 災害時の対応 など
私のブログ 吉野由美子の考えていること していること 興味のある方は見てください https://yoshino-yumiko.net/