陸域炭素循環モデルにおける 植生帯移動予測コンポネントの構築

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太陽光の分配1(直接光) 木本 葉群を垂直10センチ間隔のレイヤーに区切り、各葉群レイヤーの南中時における直接光を左図の要領で算出する。この南中時における光量を元に、1日の積算入射光量を推定する。 下の方の葉群レイヤーほど自己被陰の効果が強くなる。また仮想林分の境界を越えた光線は反対から方向に入射されるとした。
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陸域炭素循環モデルにおける 植生帯移動予測コンポネントの構築 地球フロンティア 佐藤永

地球環境研究において なぜ、植生分布変化の予測が重要なのか? 葉からの蒸散 太陽光反射 CO2 太陽光反射 雪 ・地域の水収支への影響 ・固定炭素量の増減 ・太陽光の反射率(高緯度地域において重要)

どのような気候区に、どのような植生が生じるのかについては、大きな地理的スケールでは、明瞭な対応関係がある 年降水量(mm) ケッペンの植生地図 年平均気温(℃) 原理的には、この対応関係を元として、気候変動後の平衡植生(Potential Vegetation)を求めることができるはず。

しかし、平衡に達するまでにはタイムラグがある 環境条件が変化しても植生の追従変化が直ぐに生じるわけではなく 実際には数千年オーダーのタイムラグがあるはずである。 このタイムラグを生じさせる主な理由は、以下の2つの作用の組合せである。 環境変化が現存する林冠木の生存可能範囲内であれば、その林冠木が寿命や台風による攪乱などによって除かれるまでは、新たな環境に適した樹種は侵入できない 種子の散布範囲は、特別な拡散機構が無い限り、母樹の周辺に局在する

森林タイプ間の境界は 数百年ではほとんど動かないと思われる 年降水量(mm) 内部の仕切りは動かない! 年平均気温(℃) 数百年オーダーにおける気象変動予測のためには、 森林植生とそれ以外の植生間の境界移動を予測する事が重要である。 特に、高緯度地域の植生変化予測は、最もプライオリティの高い課題である。

Potential vegetationの変化も極域において最も顕著である 高緯度地域の植生変化に着目する理由 植生の拡大において種子供給や既存植生による制限が少ない 寒帯林-ツンドラ境界には「移行帯」と呼ばれる木本がまばらに生えた地帯が幅100㎞程度にわたって存在する。このような地帯においては、気候条件が許せば一気に森林化するポテンシャルを有する。 Potential vegetationの変化も極域において最も顕著である 温暖化による温度の上昇幅は、高緯度地域で最も顕著であると予測されており、これに伴って、Potential vegetationの変化も最も大きい。 対象となる地域が広大である 北方林は地球の全森林面積の1/3を占めており、その変動予測は、地球の気候変動予測の精度に大きな影響を持ちうる。

既存の大域的植生動態モデル(DGVM)の基本構造 土壌 条件 気候と CO2 土壌物質循環 植物の生理過程と 生物物理過程 蒸発散 水収支 樹冠温度 空気の流れ 放射 光合成 気孔のコンダクタンス 樹冠のscaling 辺材の呼吸 根の呼吸 Disturbance generator 植生動態 定着 競走 死亡 リッター落下 リッターの分解 炭素分配 窒素の吸収 窒素の分配 生物季節 (落葉時期など)

しかし、既存のDGVMの植生動態コンポネントは、高緯度地域の植生変動予測に必須な2つの条件を満たしていない 種子拡散の明示的な扱い 既存のDGVMでは、全ての樹種の種子が、全球に分布していることを仮定している。したがって、種子供給速度が律速となるような、急激な気候変動下における植生分布変化を予測できない。 高緯度地域に特有な動態の表現 既存のDGVMに結合されている植生動態コンポネントでは、例えばパッチ動態モデルなど、光を巡る成長競争が樹種の構成を規定するという基準を用いている。しかし、高等植物にとっての極限環境である高緯度地域において、より強く遷移の方向と速度を強く規定しているのは、気候環境に対しての定着率とか、または山火事によって地表のコケが取り除かれるといった攪乱過程である。これは寒帯林に疎林が多いことからも明かである。

陸域統合モデルに組み込む植生分布モデルの条件 共生第2プロジェクトにて 構築を予定している陸域統合モデル 求められる条件 種子散布の明示的な扱い 北方林に特有な植生動態過程の組み込み

種子拡散の明示的な扱い 種子拡散の物理過程に着目した上記モデルに、長距離拡散項を加えて、種子拡散を明示的に扱う 母樹からxの位置における風邪散布種子密度 ミズメ(かばのき科) Q :母樹のつける種子数 H :母樹の高さ F :種子の平均落下速度 u :平均風速 d :ln(u)の標準偏差 Greene & Johnson (1989) イタヤカエデ(かえで科) 1haの林分に200個以上のSeed trapを設置し、得られたデータから種子散布パターンを推定した Tanaka et al (1998) 種子拡散の物理過程に着目した上記モデルに、長距離拡散項を加えて、種子拡散を明示的に扱う

高緯度地域に特化した植生動態コンポネントの適用 ALFRESCO(環境変化と攪乱をDriving forceとする高緯度植生帯推移モデル) ツンドラ 山火事+寒冷化 落葉広葉樹林 山火事 種子供給+温暖化 山火事+寒冷化 山火事+種子供給 寒冷化 山火事+乾燥 山火事+乾燥 遷移 針葉樹林 山火事+乾燥化 寒帯草原 Rupp et al (2000) を改変 但し、ALFRESCOは移行条件と時間遅れの設定を実測データから経験的に得ており、データの存在する環境変化の範囲内でのみ、植生変化の方向と速度が推定できる。ここに「物質循環モデル」と「植物生理モデル」を結合し、各植生タイプの生存力が直接計算できれば、さらに現実的な植生変化予測モデルが構築できる。

まとめ 未来の地球環境を予測する上で、植生帯分布変化の予測は必須である。 数百年オーダーで大きく変動しうるのは、森林帯とそれ以外のバイオームとの境界。このうち寒帯林-ツンドラ境界地域は、最も大規模な変化が生じると思われる。 そのような高緯度の植生帯分布変化を予測するには「種子拡散を明示的に扱う」「高緯度地域の植生動態における特殊事情を扱う」事が必要だが、そのいずれも既存のDGVMは満たしていない。 そこで、種子拡散モデルと寒帯域植生帯推移モデル(ALFRESCO)を改良し、組み合わせることで、高緯度地域に特化した植生帯変動モデルを構築する。