大学院理工学研究科 2004年度 物性物理学特論第2回 光と磁気の現象論(1): 誘電率テンソル

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大学院理工学研究科 2004年度 物性物理学特論第2回 光と磁気の現象論(1): 誘電率テンソル 大学院理工学研究科 2004年度 物性物理学特論第2回 光と磁気の現象論(1): 誘電率テンソル 非常勤講師:佐藤勝昭 (東京農工大学工学系大学院教授)

磁気光学効果とはなにか 光磁気効果 光の偏り 旋光性と円二色性 ガラスのファラデー効果 強磁性体のファラデー効果 磁気カー効果 復習コーナー 第1回に学んだこと: 磁気光学効果とはなにか 光の偏り 旋光性と円二色性 ガラスのファラデー効果 強磁性体のファラデー効果 磁気カー効果 磁気光学スペクトル 光磁気効果

第1回受講者からのコメント(1) 自分にとって磁気光学効果に関する話題は触れたことがなく、こんなこともあるのかと聴講していたが、旋光性に関する説明を聞いて身近に感じることができた。旋光性物質のL型、D型の定義が今回の講義ではっきりした。(安藤) ファラデー効果という名は知っていたが、わかりやすい説明を受けてよくわかった。今知りたいのは光と磁性体の微視的な相互作用のメカニズムです。面白かったのはMOの消去の際に光で熱して磁気秩序を壊しているということを知ったことです。(伊藤) →微視的な説明は第5回(第4章)から始まります。興味があれば、光と磁気の本を買うかpdfをダウンロードして先取りしてお読み下さい。 pdfはWebにupしてあります。

第1回受講者からのコメント(2) 大変わかりやすかった。(岩本) 円二色性が「直線偏光が楕円偏光になる性質」とどう結びついているのか知りたい。(小渕)→今回説明します。 私は、理学を専攻しているので、工学的な見解は少し苦手なので、「理学と工学の架け橋になる授業」を楽しみにしています。(神谷)→理学と工学の境目はほとんどなくなっています。理学専攻学生の70%以上が企業における研究開発に従事しています。これまでの理学教育は「学者になる」ことを目的としていましたが、これでは、社会のニーズに応えられないでしょう。 酒石酸(と思われる物)が析出したことがありますが、舐めたら非常に甘かった記憶があります。酒石酸は糖類ですか。(小島)→酒石酸は糖類ではありません。苦みがあります。甘かったとしたら、本当に糖類が析出していたのでしょう。

第1回受講者からのコメント(3) ファラデーの学問に対する情熱に感動した。(齋藤) アモルファスGdCo以外にもカーヒステリシスの符号が波長とともに変わる物はありますか。(島津)→磁気光学スペクトルが0軸を横切っている場合では、いつでもこの現象が見られます。例、磁性ガーネット

第1回受講者からのコメント(4) 偏光:数式で示されないとうまく飲み込めない。(杉森)→理学系の人は数式だけでイメージがつかめるのですね。一般に初心者はいきなり数式が出てくると物理的描像が描けなくなりがちなので、あえて図解しています。これから段々に数式が多くなります。 極カー効果と縦カー効果の違いがよくわかりません。(鈴木)→説明不足でしたね。極カー効果は反射面に垂直に磁化がある場合で、縦カー効果は、反射面内に平行かつ入射面に平行に磁化のある場合です。

第1回受講者からのコメント(5) 量子情報のゲートで、少しの角度しか光を回す物質がないので位相フリップのゲートができないと聞くが、CeSbを使えばできるのではないですか。(中村)→CeSbについては、追試した人が90度も回らないと言っています。また、この物質は極低温でしか使えません。 光磁気記録の原理が意外に簡単なのだと知って面白かった。もっと詳しい数式や、応用についても知りたいです。(堀江) ファラデー効果の非相反性がなぜ起こるか、自然活性との違いについてもう少し詳しく知りたい。(山本)→磁化が量子化軸を決めているところが重要でしょう。 光と磁気の最初の部分がとてもわかりやすかった。(渡邉) 各現象の発見に関する話が非常によかった。化学の分野での用語との対応など、化学科の人間にはわかりやすかった。(田口) 磁気カー効果は所属研究室の輪講などでよく出てくるので興味深かった。(河窪) 具体的な例をたくさん説明して頂きわかりやすかった。(西藤)

今回学ぶこと 光と磁気の現象論(1) 円偏光と磁気光学効果 光と物質の結びつき 誘電率テンソル Maxwellの方程式

光と磁気の現象論 この章では磁気光学効果が物質のどのような性質に基づいて生じるかを述べる。この章では物質のミクロな性質には目をつぶって、物質を連続体のように扱い、偏光が伝わる様子を電磁波の基本方程式であるマクスウェルの方程式によって記述する。物質の応答は誘電率によって表す。この章ではこのようなマクロな立場に立って磁気光学効果がどのように説明できるかについて述べる。

円偏光と磁気光学効果 ここでは旋光性や円二色性が左右円偏光に対する物質の応答の差に基づいて生じることを説明する 直線偏光の電界ベクトルの軌跡は(a)のように、振幅と回転速度が等しい右円偏光と左円偏光との合成で表される 透過後の光の左円偏光が(b)のように右円偏光よりも位相が進んでいたとするとこれらを合成した電界ベクトルの軌跡は、もとの直線偏光から傾いたものになる。 (c)のように右円偏光と左円偏光のベクトルの振幅に差が生じたとき,それらの合成ベクトルの軌跡は楕円になる。

円偏光と磁気光学効果 直線偏光は等振幅等速度の左右円偏光に分解できる 媒質を通ることにより左円偏光の位相 と右円偏光の位相が異なると旋光する 一般には、主軸の傾いた楕円になる 媒質を通ることにより左円偏光の振幅 と右円偏光の振幅が異なると楕円になる

連続媒体での光の伝搬とMaxwell方程式 連続媒体中の光の伝わり方はマクスウェルの方程式で記述される。マクスウェルの方程式については後に詳述するが、ここでは電磁波の電界と磁界との間の関係を与える2階の微分方程式であると理解しておいて欲しい。

媒体の応答を与える物理量:誘電率 電磁波の伝搬において、媒体の応答を与えるのが、誘電率εまたは伝導率σである。 磁性体中の伝搬であるから透磁率が効いてくるのではないかと考える人があるかも知れない。しかし、光の振動数くらいの高周波になると巨視的な磁化はほとんど磁界に追従できなくなるため、透磁率をμ・μ0としたときの比透磁率μは1として扱ってよい。μ0は真空の透磁率でありSI単位系特有のものである。ここに、μ0 =1.257×10-6 H/m)

誘電率とは 誘電率は電束密度Dと電界Eの関係を与える量である。 D=εε0 E SI単位系を用いているので誘電率はεε0(ε0は真空の誘電率であり、ε0=8.854×10-12 F/m である)で与えられる。ここにεは比誘電率と呼ばれる量でCGS系の誘電率に等しい。以下では,この比誘電率を用いて議論を進める。

誘電率テンソル D もE もベクトルなのでベクトルとベクトルの関係を与える量であるεは2階のテンソル量である。 2階のテンソルというのは、2つの添字をつかって表される量で、3×3の行列と考えてさしつかえない。 (テンソルを表すため記号~(チルダ)をつける)

光と物質のむすびつき-誘電率と伝導率- 対角成分xx 非対角成分xy 図をご覧いただきたい。これはビスマス添加YIG(イットリウム鉄ガーネット)の磁気光学効果に関する論文からとったものであるが、測定された反射スペクトル、ファラデー回転スペクトルなどではなく誘電テンソルの対角、非対角成分のスペクトルが示されているのに注意して欲しい。

なぜ誘電テンソルを用いるのか 屈折率、反射率やカー回転は入射角や磁化の向きに依存する量で、物質固有のレスポンスを表す量ではないが、誘電テンソルは物質に固有の量であるからである。 また、物質中の電子構造とか光学遷移のマトリックスとかに直接結びつけることができるのが誘電テンソルだからである

誘電率テンソル 等方性の媒質;M//z軸 Z軸のまわりの90° 回転C4に対し不変

質問 誘電率テンソルの対角とは何ですか 異方性がある場合の誘電率テンソルはどのように考えればよいのでしょう A:添え字がxx, yy, zzのように対角線上に来るものを対角成分、xy, yz, zxのように対角線上にないものを非対角成分といいます。 異方性がある場合の誘電率テンソルはどのように考えればよいのでしょう A: 1軸異方性があり、対称軸に平行な磁化がある場合は、等方性の場合と同じですが、任意の方向を向いているときは、全ての非対角成分が有限の値をとります。

質問 誘電率テンソルの量をどのように測定するのですか。 A: 対角成分は普通のオプティクスで、n、κを求め、εxx’=n2-κ2, εxx”=2nκによって求めます。 非対角成分については、回転角θ、楕円率ηと光学定数n,κとを用いて計算で求めます。

磁化の関数としての誘電率 さて、磁気光学効果においての各成分はMの関数であるから、は次式のように表せるはずである εij(M)を次式のようにMでべき級数展開する。

誘電率を磁化Mで展開 Onsagerの式 を適用 対角成分はMの偶数次のみ、非対角成分はMの奇数次のみで展開できる xy (M)がファラデー効果やカー効果をもたらし、xx (M)とzz (M)の差が磁気複屈折(コットン・ムートン効果)の原因となる。

磁気光学効果の式 マクスウェル方程式 固有方程式 固有値 固有関数:左右円偏光 非対角成分がないとき:左右円偏光の応答に差がない 磁気光学効果は生じない

誘電率と伝導率 電流密度と電界の関係 伝導率テンソルは と表される。

誘電率と導電率の関係 誘電率と伝導率には次の関係がある 成分で書くと 対角成分は 非対角成分は

誘電率と伝導率のどちらを使うか 比誘電率と伝導率のいずれを用いて記述してもよいのであるが、一般には金属を扱うときはの方を、絶縁体であればの方を用いるのが普通である。 金属の誘電率は、ω→0の極限すなわち直流においては自由電子の遮蔽効果のために発散してしまうが、伝導率は有限の値に収束するので都合がよいからである。

演習問題 一般に座標軸の回転をRという行列で表す。εは電界Eを基底として表されているが、この電界Eに回転Rを施すとE’になるとする。これをE’=REと書く。εがRに対して不変ということは、電束D=εEに回転Rを施したものR(εE)が新しい基底E’に対して同じεを使って表されることを意味する。すなわちR(εE)=εE’。従って,εE=R-1(εE’)=R-1εRE。これより R-1εR=εとなる。 C4というのはz軸の回りの90゚の回転であるから、 Ex’=C4Ex=Ey, Ey’=C4Ey=-Ex    のように変換する。C4を行列で表すと、 であるから、C4-1は (3.10)式に代入して、 両辺の各成分を比較することにより、(3.11)式が得られることをたしかめよ。